軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第139話 受付嬢としての嗜み

ライト達は、のんびりと歩きつつも目についた素材や雪、氷柱などをせっせと採取していく。

すると、フェネセンとクレアが同時に足を止め、上空を見上げた。

「……ん?二人とも、どうしたの?」

ライトが二人の仕草を不思議に思い、問うてみるも二人からの返事は来ない。

フェネセンとクレアの顔を改めて見ると、上空を睨んだまま険しい顔をしている。

「……クレアどん、そっちお願いできる?吾輩は念の為に、ライトきゅんの護衛に徹するから」

「お任せください。フェネセンさんはライト君を全力で守っていてくださいね」

「もちろん!ンじゃ、クレアどんにも必中と攻撃力倍増の補助魔法かけとくねぃ」

「ありがとうございます。ああ、クー太ちゃん。貴方もフェネセンさんとともに、ライト君をしっかり守ってくださいね」

「グルゥゥゥ」

クレアがその背に背負ったラベンダー色のハルバードをスッ、と持ち出し、静かに構える。フェネセンはライトの横にいながらも、クレアに向けて身体強化魔法を複数かける。

ライトはその様子を見て、近くに強大な魔物がいることを察した。

その察した瞬間と同時に、ライトの肌が粟立つ。

この感覚は、銀碧狼母のシーナがカタポレンの森の家に来訪した時と同じ感覚だ。

その強大な魔力を、ライトは本能的に肌で感じ取っているのだ。

先程まで白く染まっていた空が一転、仄暗くなったかと思うとどんどん暗くなっていく。

その暗くなった虚空から、七色の虹のような色とりどりの光が一筋輝いた、その瞬間―――巨大な竜の形をした何かが現れた。

その何かとは、強大な魔物『邪龍の残穢』である。文字通り、討伐された邪龍の残骸のような魔物だ。

残留思念、いわゆる幽霊のようなもので、実体がなく黒い靄のようなものが竜の形を浮かび上がらせている。

残穢というくらいだから邪龍本体よりは間違いなく弱いものの、それでもそこら辺にいる雑魚とは格が違う。

邪龍の残穢の出現とともに、周囲の樹々はおろか雪や氷、露出している岩肌までもがその瘴気に侵されどんどん黒ずんでいく。

その強さ、邪悪さは、まだ冒険者にもなっていないライトですら肌で感じ取れるほどのオーラを放っていた。

『えッ、ちょ、待、あれ、邪龍の残穢じゃん!』

『確かに中ボスクラスのレアモンスターだったけど、こんなに強い瘴気出すの!?』

『あいつ確かHP10万超えてたよね!?クレアさん、大丈夫なの!?』

ライトは突如現れた邪龍の残穢を見て、その記憶を手繰り寄せていた。

この邪龍の残穢というモンスター、ライトの知るブレイブクライムオンラインにも登場する。

【第一類特殊警戒指定種】という、警戒態勢を必要とする危険種に指定された中ボスクラスのモンスターで、冒険フィールド上にのみ出現するレアモンスターである。

その何が脅威かと言えば、単独でHP10万を超えるHPの多さと異常なまでの回避率の高さだ。

もし冒険フィールド上で出くわした場合、スキルや装備が万全に整っていれば倒すことも可能だが、そうでなければ尻尾を巻いて這う這うの体で逃げ出すより他なかった。

だが、今はゲームのような訳にはいかない。

上空に浮かんだ巨大な敵は、そう簡単にライト達を見逃してはくれないだろう。

死という概念のないゲームならば、たとえ逃走不可であっても戦闘不能になればHPを全回復させることで復活できるが、今のこの世界でそれはできない。

一度死ねば、全てはそこで終わるのだから。

ライトは先日レオニスを鑑定した時のように、邪龍の残穢のモンスターデータをこっそり見てみることにした。レオニスという他者のデータが見れるならば、魔物のデータも同様に見れるはずだからだ。

空を占めるその巨大な体躯を睨みつけ、頭の中で『アナザーステータス』と明確なイメージで唱えると頭のあたりに【邪龍の残穢】という名前がホログラムのように浮かび上がる。

その名前を指で触ると、大きなウィンドウがライトの眼前に広がった。

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【名前】邪龍の残穢

【レベル】150

【属性】闇

【状態】通常

【特記事項】第一類特殊警戒指定種

【HP】135550

【MP】3800

【力】0

【体力】250

【速度】2800

【知力】2700

【精神力】150

【運】2

【回避】9999

【命中】600

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やはりライトの記憶通り、HP10万超えの第一類特殊警戒指定種だった。

回避も9999という、とんでもない数値もライトの記憶と一致する。

『これ、HPもだけど回避がヤバい……』

『普通の攻撃じゃ全く当たらずに、全部回避されるやつだ……』

『そういや俺だって、かつて邪龍の残穢を相手に戦闘する時は必中スキルで地道に削るか、バフかけて命中上げてから一撃必殺系スキルで倒してたもんな……』

『だが、決して倒せない相手ではない。さっきフェネぴょんがクレアさんに魔法をかけると言っていたが、バフで身体強化をかければ―――』

そんなことを考えながら、ライトはクレアの背を心配そうに見る。

そのクレアは、フェネセンからの身体強化魔法をかけられた効果か、ものすごく強い闘気が立ち上っていた。

「ライトきゅん、心配いらないよ。クレアどんも吾輩もライトきゅんも、麻痺毒防止の付与魔法かけてあるから瘴気には侵されないし。それに何より、クレアどんは強いから」

「そ、それはそうだけd」

フェネセンがライトの心配を解消しようと励ましの言葉をかけるが、直後にその言葉を掻き消すような強い咆哮が響き渡る。

「グアアアアアアアアアアッ!!」

邪龍の残穢が、その力の限りを尽くし己が力量を誇示するかのような咆哮を放つ。その恐ろしいまでの威嚇は、周囲の黒ずんだ樹氷の氷や雪を幹や枝から吹き飛ばすほどにビリビリと大気を揺らす。

だが、クレアは怯むどころか微動だにせず凛とした佇まいで邪龍の残穢と対峙している。

そして、邪龍の残穢が放つ咆哮が止んだその瞬間。クレアの姿が消えた。

「!?!?」

ライトは驚き周囲を見渡すと、邪龍の残穢の咆哮による振動で氷や雪が全て落ちた樹々の枝を足場にして、トン、トン、トン、と軽やかに空に駆け上がるクレアの姿が見えた。

まるで軽業師のような素早い動きで、あっという間に邪龍の残穢の眼前にまで近づき―――その手に持ったハルバードを目にも止まらぬ速さで数回振り回し、敵を斬り刻んだ。

黒い靄が霧散するように、サァァァァ……と邪龍の残穢が掻き消えていく。

邪龍の残穢には、己が斬り刻まれたことすら感じ取れなかっただろう。それ程にクレアの剣捌き、いや、斧捌きは見事という他ない華麗なものだった。

「……ふぅ。お待たせしました。さ、先に進みましょうか」

「さっすがクレアどん!いつ見ても華麗な斧捌きだねぇ、惚れ惚れしちゃうよ!」

「……クレアさん、お噂通りものすごく強いんですね……」

フェネセンはニコニコとしながらクレアの帰還を迎え、ライトはただただ半ば呆然としつつ呟く他ない。

「いえいえ、このくらいは冒険者ギルド受付嬢として出来て当然の淑女的嗜みですよ?」

「うんうん、クレアどんはホントに受付嬢の鑑だよね!」

「…………」

フェネセンはニッコニコ笑顔のまま、ライトは半目になりながらクレアを見つめる。

フェネセンはどう思ってるか分からないが、ライトの顔には『 嘘(ウッソ) だー』とドデカい大文字で書かれているかのような表情だ。

いや、ライトでなくとも普通、受付嬢という仕事にそこまでの身体的技量は求めないのではなかろうか?という疑問は持つだろう。

冒険者ギルドの受付嬢という仕事柄、日々窓口で数多の荒くれ者を相手にしなければならない厳しい環境だとしても、だ。

それでも、HP10万超えで普通の攻撃では命中すらままならないようなレアモンスターを瞬時に倒せる腕がなければ、冒険者ギルドの受付嬢にはなれません!などという無謀な法律や規約などないだろう。

「はぁー、邪龍の残穢って本当に厄介ですよねぇ。実体を持たない影のような存在だから、討伐証明部位どころか一片の素材にもならないし」

「でも、出たら出たで脅威には違いないから、見つけ次第即対応しなきゃいけないし」

「本当に腹の足しにもならない、骨折り損の草臥れ儲けというやつです」

フェネセンやライトの視線に気づくことなく、クレアがブチブチと愚痴っている。

確かに先程のように霧散してしまっては、素材として残るような物質的なアイテムが得られる可能性はゼロなのだろう。

しかし、淑女的嗜みを唱える者が同じ口で『腹の足しにもならん!』などとぶっちゃけながら愚痴るのは、果たして如何なものか。

「さ、早くツェリザークの街に戻って美味しいお昼ご飯にしましょう。食後に美味しいスイーツたくさん食べて、気分転換しなければ!」

「グルルゥゥゥ」

「「はーい」」

何事もなかったかのように、スタスタと歩き始めるクレアの後についていくクー太とフェネセンとライトであった。