軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1365話 満天の星空のお茶会 in ノーヴェ砂漠

その後ライト達は、砂の女王と砂人形のガベリーナとともに真夜中のおやつタイムと洒落込んだ。

満月の月明かりがライト達のいる展望台を煌々と照らし、夜に灯すランプやランタンなど必要ないくらいに視界が良い。

しかも、夜は真冬のように冷え込むノーヴェ砂漠なのにジャッジ・ガベルの中はそこまで寒く感じない。

もともとライト達は氷の女王の加護を持っているので寒さには滅法強いが、それを差し引いても春か秋の夜くらいの気温にしか思えない。

心地良い夜風がライト達の頬を撫でる。

「砂の女王様達は、やっぱり昼間は砂の中に潜っているんですか?」

『ええ、日中はガベリーナといっしょにずっと砂の下に潜っていることが多いわぁ』

「それって何か理由があったりします?」

『ううん、とにかく暑いのが苦手なだけよぅー』

「そ、そうなんですね……でも、砂の女王様の言うことも分かるなぁ。だって昼間のノーヴェ砂漠って、暑いどころの話じゃないですもん」

『でしょでしょー? 砂ってただでさえ乾いてるのに、あーんな暑い中を出歩いたらカピカピに干涸らびちゃうわよぅ。だからねぇ、外に出たい時はこうして夜に出ることにしてるのー。特に綺麗な満月の夜はとっても大好き!』

ラウル特製絶品スイーツを食べながら、アクアの泉の水をゴクゴクと飲む砂の女王。

いつもならぬるぬるドリンク各種を出すところなのだが、砂の女王が『美味しいお水が一番大好き!』と言うので、アクアの泉の水やツェリザークの雪解け水などを出している。

もちろんそれらの水は砂の女王に大好評で、新しい水をカップに注がれる度に『何このお水、美味しい!』『おかわりー♪』等々存分に味わっている。

そしてレオニスの方は、砂の女王が作った砂人形を依代にしたガベリーナと話をしていた。

今のガベリーナはさるぼぼのような小さくて可愛らしい姿で、ライトがガベリーナのために用意した一口ドーナツを千切ったものを一生懸命にもくもくと食べている。

一心不乱に食べ続けているあたり、ガベリーナはこの一口ドーナツがかなりお気に召したようだ。

「どうだ、うちの執事が作る茶菓子は最高だろ?」

『うむ、確かに人族が運ぶ食糧の中ではかなり上等な品のようだな』

「ガベリーナは、これまでにどんなものを食ったことがあるんだ?」

『人族が荷物を運んでいる途中、魔物に襲われて荷車を放り出して逃げることがよくある。そうした場合、放置された馬車はあっという間に砂の下に沈み、それが砂の下にいる私の頭に当たったことが何度かあるのだ』

「あー、確かにノーヴェ砂漠を突っ切ろうとして失敗する商隊の話はよく聞くな。その商隊が積んでた荷物の中に飲み水やら食いもんがあって、それを食うことがあるのか」

『そういうことだな』

ガベリーナの話に、レオニスが頷きながら得心している。

ノーヴェ砂漠を迂回せずに突っ切る場合、大抵が夜に距離を稼ぎ昼は退魔の聖水などを用いてやり過ごすのが旅人や商隊のセオリーとなっている。

だが、何事にも例外はあるもので、昼夜を問わず無謀な突っ切り方をする者もいる。

特に後ろ暗いところがある者ほどそれは顕著で、先日ネツァクで起きたドラリシオの大量萌芽事件もそれに該当する。

あの事件は、改造したドラリシオの種を違法に売り捌こうとした悪徳商人が、人目の少ない昼間に無理矢理強行突破しようとして昼間に魔物に襲われて逃げ出したのが事の発端だった。

こんな例は極稀ではあるが、それでもやはり人の業の深さ故か時折そうした事件が起きるのだろう。

そしてここで、レオニスがふと気になったことをガベリーナに問うた。

「なぁ、ガベリーナよ、あんたは砂の女王が住む神殿の神殿守護神なんだよな?」

『ああ。私は物心ついた時から既に砂の女王とともにこの砂漠で生きてきた』

「そしたらあんたも、卵から生まれたのか?」

『ン? 卵? どういうことだ? 質問の意図が全く分からぬのだが』

レオニスの問いかけに、砂人形のガベリーナは一口ドーナツを食べ続けながらも小首を傾げている。

レオニスが気になったのは『ガベリーナも他の神殿守護神同様、卵から孵化したのか?』ということ。

生まれた時期の差はあれど、これまでレオニスがライトとともに出会ってきた神殿守護神は皆卵から孵化していた。

そして、生まれてきたのが水神や四神だった。

しかし、ジャッジ・ガベルのガベリーナはこれまでの神殿守護神達と全く違う。

他の守護神は生き物であるのに対し、ジャッジ・ガベルは建物。

もともと生物ですらない無機物の建物だが、他の神殿守護神達と同じように卵から孵化したのだろうか?とレオニスは疑問に思ったのだ。

それをガベリーナに解説するレオニス。

レオニスの話を聞いたガベリーナは、未だに小首を傾げたままその問いに答えた。

『私自身、誕生した時の経緯などさっぱり覚えておらぬ。故に卵から生まれたかどうかも不明だ』

「そっか。まぁそうだよな……人間だって自分が生まれた時の記憶なんて、普通は持ってねぇもんだし」

ガベリーナの尤も至極な答えに、レオニスもはたとした顔で同意する。

神殿守護神の誕生は、卵に直接食べ物を与えるなど奇妙奇天烈な法則が存在している。その孵化に何度も立ち会っていたレオニスも、いつしか感覚が麻痺していたのだが。

言われてみれば確かにその通りで、普通は自分が生まれた瞬間の記憶など持っている方がおかしいのだ。

うーん、属性の女王やその神殿守護神ってのは、俺のような普通の人間には計り知れないもんなんだなぁ……

つーか、そもそもほぼ城に近いゴツい建物に自我があるってこと自体が奇跡としか思えんし。

そしてこいつ、ガベリーナも最初はとんでもねー自分勝手なヤツだと思ったが……こうして会話してみると、そこまで悪いやつじゃないっぽい。

ま、何にせよ完全敵対することにならんで良かった。

レオニスは内心でそんなことを考えながら、さるぼぼもどきのガベリーナが未だに懸命に一口ドーナツを頬張る姿を微笑みながら見つめていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして小一時間ほどおやつタイムを堪能したライト達。

第一目的である砂の女王とも無事会えたし、会って話をした証拠として砂の勲章も二人分もらうことができた。

目的を無事果たしたので、夜明けになる前に帰るか、という話になった。

テーブルや椅子などを片付けて、皆で一階まで移動する。

今ガベリーナがノーヴェ砂漠のどの辺りにいるのか全く分からないので、できれば一度ワカチコナの横に移動してもらいたい、とレオニスが頼むと快く承諾してくれた。

一旦ワカチコナに行けば、そこからネツァクのある方角に移動すれば戻ることができる、という訳だ。

最上階の展望台から一階に移動する途中、ライトが砂の女王に向けて話しかけた。

「あ、そういえば砂の女王様に一つ聞きたいことがあったんですが」

『ン? なぁに?』

「砂の女王様は、ハロルドという名前の人をご存知ですか? 多分、今から百年以上前の話なんですが……ぼく達の知り合いの人達のご先祖様が、ノーヴェ砂漠で砂の女王様に助けられたことがあるそうで」

ライトが思い出したのは、ネツァクに住む砂漠蟹職人ルド兄弟の話。

彼らのお爺さんのお爺さん、ハロルドがノーヴェ砂漠で魔物に襲われていたところを砂の女王が助けてくれたという。

その話をルド兄弟から聞いた時に、もし砂の女王に会えたらハロルドのことを覚えているかどうか聞いてみてくれ、と言われていたのだ。

ライトからの質問に、ライトの横を歩いていた砂の女王は口元に手を当てつつ思案する。ハロルドという人物に関する記憶を手繰り寄せているようだ。

そして何とか思い出したのか、パッと明るい顔になりながら答えた。

『……ああ、それは先代の女王のことねぇ。確かにそんな名前の人間を助けたという記憶が、私の中にも受け継がれているわぁ』

「そうなんですね。ノーヴェ砂漠に一番近い人里、ネツァクという街に今でもハロルドさんの子孫がいて、砂の女王様に助けてもらったことを代々語り継いでいるんですよー」

『まぁ、そうなのねぇ。私の代の出来事ではないけれど、そういう話を聞くと何だか嬉しくなっちゃうわねぇ』

ライトの話に、砂の女王がウフフ、と照れ臭そうに笑っている。

今から百年以上も昔のことだし、砂の女王も代替わりしていても不思議ではない。

そして砂の女王は、先代の女王が持っていた思いをぽつりぽつりと語り始めた。

『先代の女王はねぇ、怠け者の私と違って昼でも夜でもあちこち精力的に出歩く御方だったの。そして、弱者を見つけると後先考えずに手を差し伸べるような、とても心優しい女王だったわ』

『そのハロルドという人族のことも、助けた後もずっと気にしてたみたいで……彼が人族の生を終えてこのノーヴェ砂漠に埋骨された時に、彼の魂とともに天に帰ることを望んだのね』

『そうして先代の砂の女王は消えて、一介の砂の精霊に過ぎなかった私が次代の女王に突如選ばれちゃったって訳なのよねぇ』

先代の砂の女王のことを懐かしむように語る、今代の砂の女王。

話の内容的には悲恋めいた響きを多分に含んでいるが、果たしてそれは本当に悲恋だったのか、ライト達には知る由もないしおそらく今代の砂の女王にも真相は分からないだろう。

するとここで、砂の女王が手のひらの上で勲章を作り始めた。

ものの十数秒で出来上がった砂の勲章を、砂の女王がライトに渡した。

『ねぇ、今の話に出てきたハロルドの子孫に、この勲章を渡してくれる? 今でも砂の女王から受けた恩義を忘れない、とても律儀な子孫達に私から勲章を授けたいの』

「もちろん!ヘラルドさんとリカルドさんがこの勲章を見たら、すっごく喜ぶと思います!」

『ハロルドの子孫は、ヘラルドとリカルドというのねぇ。その子達も砂漠蟹と戦う仕事をしているの?』

「はい。ネツァクでは、優秀な砂漠蟹職人としてとても有名な兄弟なんですよ」

『まぁ、それは素晴らしいことねぇ』

出来たてほやほやの砂の勲章を受け取ったライト。

背中に背負っていたアイテムリュックに大事そうに仕舞い込んだ。

そうして一階のエントランスホールに到着したライト達。

外に出ると空はまだ真っ暗だが、ワカチコナからネツァクに戻る頃には空が白み始めるだろう。

砂の女王もライトとレオニスを見送るために外に出てきた。

ちなみに砂の女王の右肩には、さるぼぼもどきのガベリーナがちょこん、と乗っかっている。

お茶会が無事終了した時点で、依代に居続ける必要はないのだが。砂の女王だけでなくガベリーナ自身も、案外このさるぼぼもどきの砂人形が気に入ったのかもしれない。

「砂の女王様、ガベリーナさん、今日はありがとうございました!」

『いいえ、こちらこそありがとう。お菓子もお水もとっても美味しかったし、他の姉妹の話もたくさん聞けてすっごく楽しかったわぁ』

『うむ、私も近年稀に見る楽しいひと時を過ごせた。心より感謝する、ありがとう』

砂の女王達に礼を言うライトに、女王もガベリーナも感謝の意を示す。

そしてレオニスも砂の女王に話しかけた。

「またそのうち会うこともあるだろうが、今度は鷲掴みにしないでくれよ?」

『もちろんよぅ。ねぇ、ガベリーナ?』

『ああ。私達に会いたい時は、砂の勲章を手に持ちながら呼びかけるがよい。そうすれば、どこにいてもお前達の声は私達に届く』

「そりゃいいことを聞いた。今度からそうしよう」

砂の女王達に会う方法をガベリーナから伝授されたレオニス、ニカッ!と笑いながら頷いた。

「さて、では俺達はこれでお暇する。またな」

「砂の女王様、ガベリーナさん、さようなら!またお会いしましょうね!」

砂の女王達に別れの挨拶をしたライトとレオニス。

二人ほぼ同時にふわり、と宙に浮いたかと思うと、これまたほぼ同時に同じ方向に向かって飛んでいった。

それを見た砂の女王が『まぁ、今時の人族は自力飛行できるのねぇ』と呟き、ガベリーナも『少し見ない間に、人族はだいぶ進化したのだな』と言っているが、それは大いなる勘違いというものである。

こうしてライトとレオニスのノーヴェ砂漠探索はひとまず完了し、二人はネツァクの街に戻っていった。