軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1359話 新たな手がかり

その後ライト達は、夜はテントの中で朝まで寝た。

といってもレオニスは深夜と明け方直前に起きて、退魔の聖水をテントの周囲にかけ直したりしていたのだが。

そしてノーヴェ砂漠の地平線の向こうから太陽が登り始める。

するとみるみるうちに気温が上がり、あっという間に灼熱地獄と化す。

しかし、テントの中が煮えることはない。何故ならテントの中に、ラウルからもらった氷の女王の氷槍を十個出して置いてあるからだ。

それはまるでエアコンが効いた室内のようで、とてもノーヴェ砂漠の真っ只中にいるとは思えない快適さである。

「氷の女王様の作る氷って、ホントにすごいねー」

「全くだ。日中のノーヴェ砂漠のド真ん中で、こんなに涼しい空気が得られるとは思ってもいなかったぜ」

「これさ、タオルとかに包んで首に巻けば、飛んでる間も涼しくなるかな?」

「お、それいいな。早速やってみるか」

テントの中でゆっくりと朝食を食べながら、のんびりと話すライトとレオニス。

地面の上にタオルを敷いて乗せておいた氷槍は、未だほとんど融けずに残っており冷気を放っている。

この氷槍を、タオルに巻いて再利用することにした。

氷槍は長さが50cmから1メートルくらいあるのだが、これをそのまま首に巻くのは少々厳しいので、レオニスが素手で三つか四つくらいに折り分けていく。

それを別のタオルに移し、くるくると巻いて包んで氷がある部分をうなじに当てて前で結べば、涼しいクーラータオルの完成だ。

「おおー、すっごく冷たい!」

「外での活動時の熱中症対策にバッチリだな。……さ、そしたらぼちぼちテントを片付けて探索に出るか」

「うん!」

レオニスの言葉にライトが頷きながら、自分の寝袋をアイテムリュックに仕舞い込んで出立の準備をする。

そしてテントの外に出ると、空はカラッと晴れ渡り外気のムワッとした熱気がライトの身体を瞬時に包む。

それと同時にライトの目に飛び込んできたのは、テントの周囲を取り囲む様々な魔物達だった。

まだテントの片付けをしているレオニスに、ライトがこのことを知らせる。

「レオ兄ちゃーん、何かたくさんの魔物に囲まれてるよー」

「おう、ちょっと待ってろー、もうすぐ片付け終えたらそっち行くから」

「はーい」

レオニスがテントを片付けている間に、ライトがアイテムリュックから何かを取り出した。

それは、ヴァレリアからもらった瞬間移動用の魔法陣が刻まれた魔石。

ワカチコナの畔であるここに、瞬間移動地点を作るのである。

ちなみにこの魔法陣が見えるのは、BCO関係者と埒外の魂を持つライトのみ。

ヴァレリア曰く『埒内の者にこの魔法陣は見えないから、安心して使ってくれていいよ』とのこと。なので、レオニスにも見える心配はない。

ライトは地面の砂を手早く素手で掘り、瞬間移動用の魔石をササッと埋めて砂を被せた。

これでライトは、いつでもこのワカチコナの畔に来れるようになった。

そしてテントの片付けを終えたレオニスが、ライトのもとに来た。

退魔の聖水を撒いた線の内側を越えられない魔物達が、如何にもイライラしながらキーキー叫んでいる。

それを見回しながら、レオニスがのんびりとした口調で呟く。

「おぉおぉ、ノーヴェ砂漠固有の魔物が随分とお出迎えしてくれたもんだ」

「朝から出待ちしてたのかな?」

「出待ちされる程俺達ゃ人気者ってか?」

「魔物にばかり人気が出ても困るなぁ」

「違いねぇ!」

ライトの言葉に、レオニスが高笑いする。

「レオ兄ちゃん、これ、どうするの? 全部倒してから出かける?」

「そうだなぁ、別にこのまま空に飛んで逃げても構わないんだが……アビスソルジャーが何体かいるな。こいつは放っておくと厄介だから、まとめて全部倒しとくか」

「あ、そしたら倒した魔物は全部ぼくがもらってもいい!?」

「そりゃもちろん構わんが…………ま、いっか」

「ありがとう!」

目をキラキラと輝かせながらおねだりするライトに、レオニスが一瞬口篭る。

今ここにいる魔物達は、ざっと見ただけでも軽く三十体はいると思われる。

怨霊の思念体であるアビスソルジャーは何も残らないが、それ以外のブルーヒュプノモスやエフェメロプター、デザートスイーパとか、そんなもん持って帰ってどうすんの?

サンドキャンサーだって、生け捕りにして砂抜きしてからでなきゃ食えんってのに……

レオニスは喉まで出かかっていたこれらの所感を、グッと飲み込みつつ承諾する。

ライトがいろんなもの、特に変なものを欲しがるのは今に限ったことではないし、これまでのそうした諸々のおかしな行動ももしかしたら例の件―――ライトが勇者候補生であることに関係しているのかもしれない、と考えたからだ。

レオニスは背中に背負った大剣を取り出し、腰を落として低く構える。

そして横一線に薙ぎ払い、衝撃波で目の前にいる魔物達を真っ二つに斬った。

その勇姿を見たライトが、思わず大きな声で歓声を上げる。

「レオ兄ちゃん、すごーい!こんなにたくさんの魔物をいっぺんに倒しちゃうなんて、やっぱレオ兄ちゃんはカッコいいや!」

「ン? そ、そうか? そんな褒められると照れるじゃねぇか」

「照れることなんてないよ!レオ兄ちゃんがすごくてカッコいいのは、本当のことなんだから!」

興奮気味に大絶賛するライトに、レオニスが照れ臭そうにしている。

普段のライトは、レオニスが魔物退治をするところをあまり見たことがない。

いや、今日初めて見るという訳ではないのだが。それでも滅多に見ない場面故に、ライトの目にはいつも以上にカッコ良さがマシマシに見えるようだ。

そして、そんなのほほんとした人外ブラザーズの会話を他所に、魔物達はドン引きしたように怯んでいる。

ひ弱な人族を蹂躙するつもりが、逆に悪魔の罠にでも引っかかったような気さえしてくる。

基本臆病なブルーヒュプノモスやエフェメロプターが蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、サンドキャンサーやデザートスイーパーは砂に潜って隠れてしまった。

残るは怨霊の思念体アビスソルジャー。

これらの行動原理は『他人に対する恨み』が根底にあり、常に破壊衝動を滾らせている。

故に人外ブラザーズの会話など一切関係なく、未だここに残りライト達を襲おうと見えない結界を破ろうと黒い剣を振り下ろし続けていた。

それらもレオニスが大剣で薙ぎ払い、アビスソルジャーの身体は黒い靄となって霧散していく。

周囲に魔物が一匹もいなくなったところで、ライトが嬉々として魔物の死骸をアイテムリュックに仕舞い込み始めた。

「うわー、このブルーヒュプノモス、すっごく大きい!」

「デザートスイーパーの表皮って、こんなに硬いんだねー……それでも真っ二つにしちゃうなんて、やっぱレオ兄ちゃんはすごいや!」

「このサンドキャンサーが、砂抜き処理されて美味しい砂漠蟹になるんだねー。……って、ここで狩っちゃったら食べられないんだけど……ぃゃ、一度は砂抜き前のサンドキャンサーも茹でて食べ比べてみるべき?」

真っ二つになったデザートスイーパーやエフェメロプター、そして今一番欲しいサンドキャンサーをいそいそと拾っては手早くアイテムリュックに仕舞うライト。

その笑顔はまるで、クリスマスや誕生日などで欲しいものをプレゼントされた子供のようにキラキラと輝いていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてノーヴェ砂漠で過ごすこと三日。

未だにライト達は砂の女王を見つけることができずにいた。

明るい日中だけでなく、日が落ちて夜になってからも上空飛行で探索してみたのだが、巨大な城などどこにも見当たらない。

四日目も何一つ新しい手がかりを得られないまま、ノーヴェ砂漠のド真ん中で晩御飯を摂っていた。

魔物達も寝静まる夜になり、満天の夜空の下で食事を摂るライト達。

もくもくとおにぎりやサンドイッチを食べながら、今後どうするかを話し合う。

「砂の女王様、なかなか見つからないねぇ」

「だなぁ……他の属性の女王達からもらった勲章も、一応ジャケットの内ポケットに入れてはいるんだが……これまでの女王のように、この勲章の気配だけで向こうから出てきてくれるってのは期待できなさそうだな」

「やっぱアレかな、お城ごと地面の奥深くに潜ってるのかな?」

「かもなぁ。そうなると、俺達にはお手上げだよなぁ」

「「……ぬーーーん……」」

ライトとレオニス、二人してしかめっ面をしながら唸る。

するとそこに、遠くから何者かが来る気配がした。

レオニスだけでなくライトもその気配に気づき、二人いっしょに同じ方向を無言で見遣る。

しばらくしてライト達の目の前に現れたのは、荷馬車三台を率いた商隊だった。

荷馬車より先を馬に乗って歩いていた人物が、驚いたように声を上げた。

「うおッ!こんなとこに人がいる!?」

「ああ、驚かせてすまんな。あんた達は、今からネツァクに行く商隊か?」

「その通り。俺はフランツ、アーネスト商会の専属護衛だ。……アーネストの旦那、魔物じゃなくて人間でした!」

フランツと名乗った護衛が、レオニス達が魔物じゃないことが分かり後続の馬車にそのことを大声で伝える。

どうもフランツが前方に何かがいることを察知し、何者かを確認するために斥候として動いていたようだ。

そして、馬車から一人の男性が出てきた。

その男性はライト達の方に近づいてきて、改めて名乗りを上げた。

「こんばんは。私はアーネスト商会の主、アーネスト・デイビスと申します。失礼ですが、こんなノーヴェ砂漠の真っ只中で、何をしておられたのですかな? もしや、遭難なさっていたのですか?」

「丁寧な挨拶、痛み入る。俺の名はレオニス・フィア、砂の女王探しのために、ノーヴェ砂漠を探索中の身だ」

「おお、砂の女王探しをしておられるのですか!遭難でないなら良かった良かった」

レオニスの言葉に、ほっと胸を撫で下ろすアーネスト。

ライト達を遭難者かと思い手を差し伸べるつもりだったようだ。

「もし遭難中なら、私どもといっしょにネツァクにお送りしようかと考えていたのですが……そのご様子だと、要らぬ心配のようですな」

「ああ、気遣いいただき感謝する」

「では、私どもは先を急ぎますので、これにて失礼いたします」

「ネツァクまで気をつけてな」

先を急ぐというアーネストが、レオニスにペコリ、と一礼しつつ馬車に戻ろうとした、その時。

レオニスがアーネストに声をかけた。

「なあ、アーネストさん。あんた、砂の女王の話は聞いたことあるか? もしあったら何でもいい、どんな些細なことでもいいから教えてほしいんだが」

「砂の女王の話、ですか……これは私どものような、ノーヴェ砂漠を渡ってネツァクまで行く商人達の間で密かに言い伝えられることなのですが……満月の夜には、決してノーヴェ砂漠を渡ってはいけない、というものがございます」

「満月の夜に、か? 何故満月の夜に、ノーヴェ砂漠を歩いてはいけないんだ?」

「それはですね……砂の中から突如現れた城が、人を攫って地中深くに潜ってしまう、と言われているからです」

アーネストの話に、興味津々といったように食いつくレオニス。

普段からノーヴェ砂漠を行き来する商人なら、砂の女王にまつわる何かを知っているかも―――そう考えてアーネストに問うたレオニスの勘は、見事的中したようだ。

「ぃゃー、満月は明日なのに焦りましたよ。夜のノーヴェ砂漠に人がいるなんて、まさか満月の日を一日ズレた状態で覚えていたのか!?と冷や汗かきましたわ」

「おお、そりゃすまん。しかし、いい話を聞かせてもらった。ありがとう」

「お役に立てたなら幸いです。アーネスト商会はネツァクにも店を構えておりますので、お時間がある時にでも是非ともお立ち寄りください」

レオニスの礼の言葉に、アーネストがポケットから名刺を取り出しレオニスに渡した。

その名刺には『生活用品なら、アーネスト商会にお任せあれ!代表取締役アーネスト・デイビス』と書かれてある。

そしてアーネストが一礼した後馬車に戻り、フランツとともに再びネツァクを目指して出立していった。

アーネストとフランツもまた他の商隊と同じく、夜のうちに少しでも進行距離を稼いでおかなければならない。

本当ならこんなところで立ち話をする時間も惜しいだろうに、レオニスの問いかけに応じてくれてとても良い人間であることが分かる。

フランツやアーネストが去った後、ライト達は再び今後の行動について話し合った。

「満月の夜、か……明日の晩がその満月のようだし、それまで少し休んでおくか」

「うん!明日の夜が楽しみー!」

ここへ来てようやく得られた、砂の女王の新しい手がかり。

ライトとレオニスは英気を養うべく、早々にテントの中に入り休んだ。