軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1357話 思わぬところで見つけた手がかり

冒険者ギルドネツァク支部を後にしたライトとレオニス。

ノーヴェ砂漠探索に出かける前に、ルド兄弟のところで砂漠蟹の買い付けをすることにした。

ノーヴェ砂漠探索が何日かかるか決まっていない上に、帰還してから改めて砂漠蟹を買いに行く気力や体力が残っているどうか分からないからだ。

街外れにあるルド兄弟の家に辿り着いたライト達。

一見普通の民家の玄関の扉を開き、中に向かってライトが声をかける。

「ごめんくださーい。砂漠蟹を買いに来ましたー、どなたかいらっしゃいますかー?」

「……はーい」

ライトの呼びかけに、家の奥にいた誰かが応じる。

そうしてしばらくして家の中から出てきたのは、ルド兄弟の弟リカルドだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

奥から出てきたリカルドに、ライトが元気いっぱいに挨拶をする。

「リカルドさん、こんにちは。ご無沙汰してます!」

「……おお、ラウルさんとこのお屋敷の坊っちゃんか!久しぶりだなぁ!」

「はい!ルドさんもお元気そうで何よりです!」

「坊っちゃん、ちょっと見ない間に大きくなったなぁ」

「ぼくがラウルと初めてここに来たのは、もう一年も前のことですもん。ぼくだって背も伸びますよー」

「そりゃそっか!」

にこやかに受け答えするライトに、リカルドもガハハハハ!と豪快に笑う。

それからふと視線を横にやり、レオニスにも声をかけた。

「そっちの赤い兄ちゃんは……ラウルさんのご主人様、か?」

「ああ。俺の名はレオニス・フィア、冒険者をしている」

「冒険者で首都にお屋敷持ちとは、すげーお人なんだなぁ。ラウルさんから聞いてるぜ? ご主人様は世界一強い凄腕の冒険者なんだってな」

「ま、ぼちぼちな。うちのラウルがいつも世話になってるな」

「いやいや、こっちこそラウルさんには世話になってるさ。いっつも気前よく全額前払いでうちの蟹を買ってくれる上得意様だからな!」

初対面のレオニスに、リカルドが人懐っこい笑顔で話しかける。

ラウルは砂漠蟹の買い付けに何度もこの家を訪れているが、レオニスがここに来るのは初めてのことだ。

そしてルド兄弟は冒険者ではないので、高名な冒険者であるレオニスのこともすぐには分からないらしい。

「ところで今日は何の用だい? ラウルさんは来てないようだが、今度はお二人が砂漠蟹を買いたいのか?」

「ああ。俺達は今からノーヴェ砂漠の探索に出かけるんだが、ラウルにネツァク土産で砂漠蟹を買ってくると約束したんでな」

「おお、そうか、うちの砂漠蟹は土産や贈答品にもってこいだからな!…………って、二人でノーヴェ砂漠探索? 何か捜し物でもあるのか?」

「ノーヴェ砂漠のどこかにいる砂の女王に会いに行くんだ」

「砂の女王……そりゃまたとんでもない難題に挑むんだな。ネツァク生まれで砂漠蟹職人を長年やってる俺達ですら、砂の女王の居城なんて一度も見たことねぇってのに」

レオニス達の目的を聞いたリカルドが、心底感嘆したように呟く。

ルド兄弟自身もノーヴェ砂漠にいるサンドキャンサーを狩る故に、砂の女王に会いに行くというのが如何に難しいかをよく知っていた。

そしてレオニスはレオニスで、リカルドが砂の女王の居城を一度も見たことがない、という話にすぐに反応した。

「あんた達みたいに、ノーヴェ砂漠と密接に関わっていてもなかなかお目にかかれないもんなんだな」

「そりゃそうさ!砂の女王の住む城ってのは、一つところに長居しないらしいしな。それに、城の周りの一定範囲内に人や魔物が入り込むと、砂の中に潜って隠れちまう、とも言われているし。……ただし、俺の爺様の爺様は砂の女王の居城に招かれたことがある、と言い伝えられているがな」

「そうなのか!? その話、詳しく聞かせてもらってもいいか!?」

「おう、いいとも」

思わぬところで砂の女王の手がかりと遭遇したレオニス、食いつき気味にリカルドに話をせがむ。

その後リカルドが語った話によると、ルド兄弟より四代前の先祖、ハロルドが砂の女王のいる居城に入ったことがあるのだという。

もちろんハロルドも砂漠蟹職人で、サンドキャンサーをおびき寄せるのに失敗して大量の魔物に囲まれてしまい、あわや絶命しそうなところを助けられたのだとか。

場所はワカチコナからそう遠くない場所で、数多の魔物を蹴散らすかのように突如砂の中から巨大な城が現れたという話に、レオニスが興味深そうに聞き入っていた。

「爺様の爺様曰く『砂の女王様は本当にお美しい御方だった』『砂の城に滞在したのは三日ほどだったが、できるものなら一生お仕えしたかった』『結局地上に戻されて、お仕えすることは叶わなかったが……砂の女王様に助けられたこの生命ある限りネツァクで生きて、砂漠蟹職人を一生続けていく。それが砂の女王様への恩返しになるんだ』ってな、死ぬまで言ってたらしい」

「そうか……その爺様の爺様は、身を以って奇跡を体験したんだな」

「ああ。ちなみに爺様の爺様は、砂の女王から『砂の勲章』をもらったんだぜ!」

「おお、そりゃすげーな!」

遭難して助けてもらったハロルドは、地上に戻される直前に砂の女王から直々に砂の勲章をもらったという。

これは、砂の女王がハロルドを友と認めた証。

ライトもレオニスも、自分達以外に属性の女王から勲章をもらったという実例を初めて聞けたことに興奮気味だ。

「リカルドさん、その砂の勲章は今もこのおうちにあるんですか!?」

「いや、残念ながらここにはない。爺様の爺様が亡くなった時に、爺様といっしょに墓に入れてやったらしい。だから、後の代には伝わってないんだ」

「そうですか……でも、その勲章はハロルドさんのものですもんね。お墓に入れてあげて当然ですよね」

「そゆこと。爺様の爺様は、砂の勲章を一生肌身離さず持っていたってくらいに大事にしてたんだと。もともと爺様の爺様がもらった宝物なんだから、あの世にまで持っていきたいだろうさ」

砂の勲章の実物があれば見たい!と思ったライトだったが、残念なことにそれは叶わなかった。

しかし、故人のお墓にいっしょに埋葬してやったというのは妥当というか当然のことにも思える。

そんな話を聞いていると、突然ドドドド……という地響きとともに家が軽く揺れだした。

これは、サンドキャンサー狩りに出ていたルド兄弟の兄ヘラルドが帰ってきた合図だ。

「おっと、兄貴が帰ってきた。砂漠蟹の商談に戻るか」

「おお、そういやそうだな。とりあえず、大きめの砂漠蟹を丸ごと一尾、予約しておきたいんだが。取り置きはできるか?」

「そうだな……サンドキャンサーの砂抜きは三日かかるから、今日獲ったやつでよければ三日後には渡せるぜ」

「三日後か。俺達が三日後に帰ってこれるかどうかは分からんのだが、そういう場合はどうすればいい? 遅くとも一週間後には帰ってくるつもりなんだが」

「なら、この先一週間分の砂漠蟹のうち、必ず一尾は取り置きしておこう。そしてあんた達がここに来てくれたら、その場で捌いて渡す。それでどうだ?」

「それでよろしく頼む」

砂漠蟹の買い付け商談を始めたレオニスとリカルド。

話はとんとん拍子に進み、リカルドが書棚から出してきた契約書にレオニスがサインをする。

砂漠蟹の値段は一尾3万G。これは、レオニスが『大きめのものがいい』と言ったため、特大サイズの価格となっている。

レオニスは早速空間魔法陣を開き、財布を取り出して金貨三枚をリカルドに渡した。砂漠蟹のお値段3万Gの一括前払いである。

レオニスが空間魔法陣を開くところを見たリカルドが「おおお……空間魔法陣が使えるとは、さすがはラウルさんのご主人様だ」と呟いている。

レオニスのサイン後に、リカルドが契約書の一部を切り取りレオニスに渡した。それは『砂漠蟹お買い上げ証書兼引換券』である。

そうして買い付け商談がまとまったところで、ヘラルドが家の中に入ってきた。

「ただいまー」

「兄貴、おかえりー。今日はラウルさんのご主人様と坊っちゃんが来てるぜー」

「お、ラウルさんのお屋敷のご主人様か? 初めまして、俺は砂漠蟹職人のヘラルドだ。ラウルさんにはいつもご贔屓にしてもらっている」

「俺はレオニス・フィア、今からノーヴェ砂漠の探索に出るんだが、出かける前にラウルへの土産で砂漠蟹を買い付けに来たんだ。予約ももう契約したからよろしくな」

「毎度あり!」

ヘラルドが手を差し出し、レオニスもそれに応じて握手をする。

その後レオニスも裏庭に出て、生け簀にどっぷりと浸かり優雅に寛ぐサンドキャンサーや、砂をオロロロロ……と吐き出す様子を直接見たり、かなり有意義な時間を過ごした。

「はぁー……サンドキャンサーが砂漠蟹として食べられるようになるまで、かなり手間暇かかってんだな」

「そうなんだよ。街の人間でも案外知らん人も多いがな」

「つーか、ノーヴェ砂漠からサンドキャンサーを直接引っ張ってくるってのがまた信じられん……冒険者でも生半可な奴には絶対にできんことだ」

ヘラルドが語る『生き餌漁法』に、レオニスが心底感嘆する。

自らを囮にして巨大なサンドキャンサーに追いかけられ続けるなど、常人ならば恐怖で耐えられないところだ。

命知らずと称される冒険者だって、ここまで剛胆な者はそうそういない。

「他の魔物と違って、見つけたその場で仕留めていいもんじゃないからな。砂抜きしないサンドキャンサーなんて、口の中が砂だらけになって食えたもんじゃねぇ」

「だよな……これから砂漠蟹を食う時には、あんた達への感謝も忘れずに食べんとな」

「そこまで言ってもらえたら、砂漠蟹職人の冥利に尽きるってもんだぜ!」

レオニスからの称賛に、ルド兄弟が二人揃って破顔する。

自分の仕事が他者に認められて褒め称えられるというのは、何にも増して嬉しいことだ。

そしてそれがレオニス程の実力者からのものとなれば、ルド兄弟が喜ぶのも当然である。

これからノーヴェ砂漠探索に出るライト達を、ルド兄弟が二人して見送りに出る。

「じゃ、とりあえず三日後から一週間以内にまたここに来るからよろしくな」

「ああ、とびきり美味しい砂漠蟹に仕上げておくぜ!」

「レオニスさんも坊っちゃんも、ノーヴェ砂漠探索頑張ってくれよな!そして、もし砂の女王に会えたら……爺様の爺様、ハロルドのことを覚えているか、聞いてみてくれ」

「承知した」

「ありがとうございます!ヘラルドさんもリカルドさんも、お仕事頑張ってくださいね!」

ヘラルドとリカルドに見送られながら、ライト達はノーヴェ砂漠に向かって歩いていった。