軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1356話 ノーヴェ砂漠遠征初日

ライトが無限スキルを手に入れた翌日。

ライトとレオニスは、前の日の晩に話し合った通り、砂の女王探しにノーヴェ砂漠に出かけた。

日程は最長で一週間。今日の探索は午後三時頃から始める予定のため、ラグナロッツァの屋敷で昼食を摂ってから出る予定だ。

ラウルとともにラグナロッツァの屋敷で昼食を食べたライト達。

ラウルからは、もぎたての巨大林檎やサンドイッチやおにぎりが入ったバスケットをたくさん持たせてもらった。

そして、氷の女王から譲ってもらった融けにくい氷の槍も二人にそれぞれ分けてくれた。灼熱地獄と呼ばれるノーヴェ砂漠で、氷の女王の作り出した氷槍がどれだけ冷たさを保てるか、今から楽しみだ。

出かけるライト達を、ラウルが玄関まで見送りに出る。

「ま、ご主人様達ならノーヴェ砂漠でも問題なく過ごせるとは思うがな。それでも気をつけてな」

「ああ。ラウルも俺達が留守の間、この屋敷をよろしく頼む」

「うん!いろいろたくさん持たせてくれてありがとう!ラウルへのお土産に、ネツァクで砂漠蟹をたくさん買ってくるからね!」

「おお、そりゃ楽しみだ」

ラウルが大好きな砂漠蟹を土産に買ってくる!と言うライトに、ラウルが小さく微笑みながらライトの頭を優しく撫でる。

本当は他の魔物のように、狩ったまま持ち帰ることができればいいのだが。砂漠蟹=サンドキャンサーは、そのままだと肉の中にも砂漠の砂が結構入り込んでいて、口当たりがジャリジャリして美味しさが半減してしまう。

そのため、サンドキャンサーを生け捕りにしてきちんと砂抜き処理されたものをネツァクの街で買うしかないのだ。

「じゃ、いってきまーす!」

「いってらー」

玄関から外の門扉までの間、ライトはラウルに大きく手を振りながらお出かけの挨拶をし、レオニスも右手をひらひらとさせながら無言でラウルに挨拶をする。

二人が門扉を出て姿が見えなくなるまで、ラウルもずっと小さく手を振りながらライト達の出立を見送っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして冒険者ギルドの転移門を使い、ラグナロッツァ総本部からネツァク支部に移動したライト達。まずは情報収集のため、窓口に向かう。

受付窓口には、クレア十二姉妹の七女クレノがいた。

ライト達はクレノがいる窓口に向かい、二人で声をかけた。

「クレノさん、こんにちは!」

「よ、クレノ、久しぶり」

「あらぁー、ライト君にレオニスさんじゃないですかぁー!お二方とも、お久しぶりですぅー!」

「うちの執事がいつも世話になってるようだな」

「……ああ、殻処理貴公子様のことですね!いえいえ、私どもの方こそ殻処理貴公子様には大変お世話になっておりますぅー」

「殻処理貴公子……それ、普通にラウルって名前を呼ぶ方が早くね?」

ラベンダー色をまとった美女が、ライト達の来訪を快く迎え入れる。

話は自然とラウルのことになったが、彼のことをわざわざ『殻処理貴公子様』と呼ぶクレノに、レオニスが不思議そうに首を傾げている。

しかし、そんなレオニスにクレノが毅然と反論する。

「いーえ!殻処理貴公子様は、我が街にとって正真正銘救世主なのです!そしてこれは我が街ネツァクだけでなく、クレエ姉さんがいるエンデアンや下の妹クレハがいるツェリザークでも同じことが言えるのです!」

「ぉ、ぉぅ、そうか……うちの執事がいろんな街で役に立ってるようで何よりだ」

「そうですとも!それに先日のドラリシオ騒動でも、殻処理貴公子様はネツァク所属でもないのに偵察任務まで請け負ってくださって……本当にありがたいことです……何なら街の入口や中央公園に、殻処理貴公子様の偉業を讃えるための銅像を建てようか、と皆で話し合うくらいにとても感謝しているのです!」

「うん、さすがにそれはやめておいてやってくれ……」

天高く掲げた拳にグッと力を込めて握りしめながら、高らかに銅像建立宣言をするクレノ。その姿はまるで、どこぞの覇王もしくは拳王を彷彿とさせる世紀末的オーラを感じさせる。

砂漠蟹の殻を持ち帰るだけで銅像建立とは、さすがに如何なものかと思うのだが。殻処理問題に悩む街にとって、ラウルは本当に掛け値なしで救世主にも等しい存在なのだろう。

そしてここでクレノがはたと我に返り、天に掲げた拳をスッ、と下ろしてレオニスに問うた。

「ところで今日は、どういったご用件でのお越しですか? もしかして、レオニスさんも殻処理依頼を引き受けてくださるので?」

「いや、殻処理依頼は今後もラウルに任せる。今日は砂の女王探しをしに来たんだ」

「砂の女王探し、ですか……ということは、ノーヴェ砂漠にお出かけになるのですね?」

「そういうこと。ついては砂の女王に関する直近の情報があれば、聞かせてもらえると助かる」

「ふむ……少々お待ちくださいねぇー」

レオニスの今日の目的を聞いたクレノが、資料を探しに奥の事務室に一旦引っ込んだ。

そしてしばらくして、資料と思われるファイルを持って窓口に戻ってきた。

「砂の女王の目撃例は、近年ほとんどありませんねぇ……今から約百年から二百年くらいまでの一時期だけ、目撃情報が頻繁した時期があったらしいんですが。代替わりでも起きたのか、百年ほど前からぱったりと姿を見せなくなったようです」

「そうか……一番直近の目撃例は何年前のことだ?」

「えーと……三年程前に、砂の女王の居城と思われる巨大な城を見た、という商隊の証言がありますが……それもはるか遠くにぼんやりと見えた、というだけで、単なる蜃気楼の可能性が否めないんですよねぇ」

資料のファイルをパラパラと捲りながら、レオニスの質問に答えるクレノ。

楕円形の薄型メガネを時折クイッ、と直しながら資料に目を通す仕草は実に理知的で、仕事ができる女子オーラが半端ない。

「ちなみにそれは、ノーヴェ砂漠のどの辺りで見たかとか時間帯とか分かるか?」

「ワカチコナを出てすぐのところで、時刻は夜明け直後の早朝、とありますね」

「夜明け直後か……やっぱ外が明るいうちの方が、砂の巨城を見つけられる可能性が高いってことか」

「そうですねぇ、やはり夜はどうしても視界が悪いですからねぇ。すぐ近くに砂の巨城が現れたとしても、常人には察知できないかと」

「そうか、分かった。ありがとう」

「どういたしましてですぅー」

クレノの話に、レオニスが納得しつつ礼を言う。

レオニスとて、ここで砂の女王の有力情報が得られるとは端から期待してはいなかった。そもそも砂の女王の目撃例や資料など、ほとんど一般に出回っていないのだから。

だが、それでも何とか数少ない目撃例や手がかりを得ることができた。さすがはノーヴェ砂漠の前線基地と謳う街だけのことはある。

そしてレオニスは、今後の予定をクレノに伝えた。

「とりあえず、俺達は今日から最長で一週間、ノーヴェ砂漠に滞在する予定だ。もちろんそれより早くに砂の女王に会えたら、その時点で戻ってくるがな。だから、俺達がすぐにこの街に戻らなくても心配しなくていいからな」

「え"ッ、一週間もノーヴェ砂漠に滞在するんですか!? レオニスさんだけじゃなくて、ライト君も連れて!?」

「ああ、ライトも今年の夏に冒険者登録できる歳になるしな。予行演習にちょうどいいだろ」

「予行演習にノーヴェ砂漠って……」

レオニスから二人の滞在予定を聞いたクレノ。

最初はびっくりした顔をしていたが、それも無理はない。

十歳にも満たない子供を連れて、灼熱のノーヴェ砂漠に一週間も滞在するとか無理難題にも程がある。

そしてクレノの仰天顔は、すぐに呆れ顔に変わっていった。

「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです? 寝言は寝て言うものですよ? 冒険者ギルドだって、新人冒険者に対してそんな過酷な演習は課しませんからね?」

「うぐッ……べ、別にいいじゃねぇか。今はライトも春休み中だし、何より本人がついて来たがっているんだからよ。なぁ、ライト?」

クレノから『寝言は寝て言えアタック』を食らったレオニス、一瞬怯みながらもすぐに気を取り直してライトに話を振る。

無謀にしか思えないレオニスの行動を窘めるクレノ。彼女の正論に真っ向では勝てないレオニス、ライトに話を丸投げしたようだ。

そんなレオニスをフォローするように、ライトもレオニスの論を肯定した。

「うん、レオ兄ちゃんの言う通りです!今さっきレオ兄ちゃんも言ったように、ぼくは今ラグーン学園の春休み中でして。今のうちにたくさん冒険しておきたいって、ぼくの方がレオ兄ちゃんに無理を言って連れてきてもらったんです。だから、レオ兄ちゃんは全然悪くないんです!」

「まぁ……レオニスさんを庇うなんて、とても出来た弟さんですねぇ」

兄(レオニス) を庇う 弟(ライト) の健気な姿に、クレノが感じ入ったようにライトの頭をそっと撫でる。

クレノもクレア十二姉妹も一人。姉を慕う気持ちも妹の願いを叶えてあげたい気持ちも、どちらもよく分かるのだ。

「……そうですね、レオニスさんがいればノーヴェ砂漠での探索も無事完了できることでしょう」

「はい!ぼくにはレオ兄ちゃんがついていてくれるから、何が起きても大丈夫です!クレノさんも、ぼく達のことを心配してくれてありがとうございます」

「いえいえ、冒険者ギルドの受付嬢が冒険者達の身を案じるのは当然のことですよぅ」

クレノは目を閉じ、ふぅ……と小さくため息をつきながら、結局はライトとレオニスのノーヴェ砂漠遠征を認めた。

実際レオニスは現役最強の金剛級冒険者。レオニスがいっしょに行動すれば、ノーヴェ砂漠と言えどもライトの身の安全は保証されたも同然である。

そしてライトの完璧なフォローを得たレオニスが、フッフーン☆とばかりに得意げな顔でふんぞり返る。

「そうだぞ、ライトの言う通りだ。俺がついているんだ、ライトが怪我をしたりすることなんてある訳ねぇだろ?」

「ぃゃぃゃ、レオニスさんはノーヴェ砂漠が全然平気でも、ライト君はまだ子供なんですからね? レオニスさんがライト君を守るのは、冒険者としても保護者としても当然のことですからね?」

「うぐッ……そりゃその通りだが……」

ドヤ顔でふんぞり返っていたレオニス、またもクレノに論破されてしまいぐぬぬとなる。

そしてクレノがライトの方に向き直り、レオニスとの会話とは全く違う優しい口調で語りかけた。

「ライト君、如何にレオニスさんがついているとはいえ、ノーヴェ砂漠が危険な地であることに変わりはありません。どうかくれぐれもお気をつけて、お出かけしてきてくださいねぇ」

「はい、分かりました!」

「お二方のお早い無事のお帰りを、心よりお待ちしておりますぅー」

「ありがとうございます!じゃ、いってきまーす!」

「いってらっしゃいませぇー」

元気いっぱいに手を振りながら、クレノに向けてお出かけの挨拶をするライト。

そしてレオニスは、ここでも振り返ることなく小さく右手をひらひらとさせながら無言でクレノに挨拶をする。

二人が建物の出口を出て姿が見えなくなるまで、クレノもずっと小さく手を振りながらライト達の出立を見送っていた。