軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1274話 ライトの次なる策

亀裂出現してから八日目の夜。

ラウルやマキシとラグナロッツァの屋敷で晩御飯を食べたライトは、一人カタポレンの家に戻った。

そして戻るなり、自室のベッドにぽすん……と倒れ込み、仰向けに寝転び直してからマイページを開いた。

「はぁー……やっぱどう考えても、あと二日で【神聖騎士】マスターは無理だ……」

マイページを眺めながら、力無く呟くライト。

ライトが見ているのは、職業習熟度の進捗数値。そこには『【神聖騎士】51%』という数値が示されていた。

BCOの職業習熟度は、職業のランクが進むにつれて必要経験値が大量に要るようになる。

それは必然的に、一次職よりは二次職、二次職よりは三次職の方がマスターに至るまでの手間と日数がかかるということだ。

ましてや最終ランクの四次職ともなると、普通なら1%上げるだけでも数日は要する。

それを考えると、残り二日で四次職の【神聖騎士】をマスターするには絶対的に時間が足りない。

やはり何をどう足掻いても無理なことは明白だった。

【神聖騎士】をマスターしてヴァレリアに会うという望みが絶望的な以上、ライトは他の策を考えなければならない。

ライトは起き上がり、ベッドの上で胡座をかいたまましばらくマイページを操作する。

一通り作業を終えたライトは、徐にベッドから降りてとある場所に向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「こんばんはー……夜分遅くにすみませーん……」

ライトがそう言いながら入っていったのは、ツェリザークにあるルティエンス商会。

以前登録しておいたマッピングスキルで移動したのだ。

店の裏手から、扉を開けて中に入るライト。

すると、奥の方から店主のロレンツォが出てきた。

「こんばんは、ライトさん」

「こんばんは、ロレンツォさん。こんな夜中に突然訪ねてきて、すみません」

「いえいえ、私こそこんな普段着のままで出てきてしまって申し訳ございません」

「いえいえ、それはこんな夜中に訪れるぼくの方が悪いので……ロレンツォさんが謝る必要なんてないです!」

互いにペコペコと謝り合うライトとロレンツォ。

ライトは普通の私服で来ているが、ロレンツォは既に寝支度を済ませていたのかパジャマ姿でライトの前に出てきていた。

ライトがいつも会うロレンツォは、濃いグレーのピシッとしたスーツを着こなしているのだが、今ライトの目の前にいるロレンツォは淡い水色と白の縦ストライプ柄のパジャマを来ている。

しかも頭には円錐形のナイトキャップまで被っているではないか。

そしてそのナイトキャップは、何故かロレンツォのパジャマの柄と異なっている。紺地に黄色い星柄という、どこぞの某渾沌魔女のパジャマ柄と全く同じものであった。

しかし、今のライトにそれらを突っ込む余力などない。

思い詰めたような顔で、ロレンツォに話しかけた。

「本当にこんな夜中にすみませんが、どうしてもロレンツォさんに急ぎの用事があるんです」

「ここで立ち話も何ですから、中に入ってからお伺いいたしましょう。どうぞおいでください」

「ありがとうございます。お邪魔します」

ロレンツォが扉を大きく開けて、ライトを中に招き入れる。

二人は亜空間の部屋に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

秘密の客間に通されたライト。

応接セットのソファに座り、ロレンツォが部屋の隅にあるワゴンのところでお茶を淹れている。

しばらくして、ロレンツォがそのままワゴンを押して応接セットの横にきた。

そして淹れたばかりのお茶が入った湯呑みをライトの前に置いた。

「これは……そば茶、ですか?」

「ええ。そば茶にはカフェインが入っていないので、就寝前の飲み物として最適なんですよ」

「そうなんですね。……はぁー、すっごい良い香り……」

ライトは両手で湯呑みを持ち、ロレンツォが淹れてくれたそば茶の芳しい香りにうっとりとしながら嗅いでいる。

そして一口二口そば茶を啜り、ほっと一息ついてから本題に入った。

「実はですね……このツェリザークまで情報が届いているかどうかは分かりませんが、今ラグナロッツァでは大変なことが起きていまして……」

ライトは夜中の来店理由を告げる前に、先にラグナロッツァの状況から説明をし始めた。

ライトの来店理由はラグナロッツァの事件が起因なので、まずはそちらを話しておかないと始まらないからだ。

ラグナロッツァの現状を語るライトに、ライトの向かいの席に座ったロレンツォも真剣に聞き入っている。

そうしてライトは謎の亀裂事件の概要を一通り伝え終えた。

ライトの話を静かに聞いていたロレンツォだったが、聞き終えて徐に口を開いた。

「ビースリー、ですか……そんなものがラグナロッツァで発生するとは……」

「はい、今はまだ開始されていませんが……あんなもんがラグナロッツァで始まったら、間違いなくラグナロッツァは壊滅してしまうでしょう」

「しかも、イベントボスであるコヨルシャウキが勇者候補生を連れてくることを求めるなどと……驚くべきことです」

「レオ兄ちゃんがコヨルシャウキと直接会話して、そう要求されたそうです……」

予想外の事態に、ロレンツォの顔も険しくなっている。

ロレンツォはBCOにおける交換所店主というNPCの一人だが、ライト達勇者候補生が行う各種イベントのことはそこそこ知っている。

何故かというと、イベントで得た様々なアイテムを交換素材として、交換所に持ち込んで別のレアアイテムを得る!という方式のイベントも多々存在するからだ。

交換所にアイテムが持ち込まれる以上、店主であるロレンツォもそれらのイベントのことは知っておかなければならない必須知識なのだ。

そして、ロレンツォも何らかの異変が起きていたことを全く知らなかった訳ではないようで、ここ最近のツェリザークの状況を話し始めた。

「実はこのツェリザークでも、冒険者ギルドが勇者候補生を探していましてね……当店にも冒険者達が聞き込みに来ましたよ」

「えッ、ルティエンス商会にまで冒険者さん達が来たんですか!?」

「ええ。今から五日程前のことですかね」

ロレンツォの話に、ライトがギョッ!とした顔になる。

確かにレオニスやラウルから、冒険者ギルドの全支部に『勇者候補生を探して、何としても見つけ出せ!』という指令のもと、各地で連日捜索を続けている、という話はライトも聞いていた。

しかし、こうして実際に捜索が行われているという話を聞くと、自分のことがバレていないかとても心配になってくる。

そんなライトの不安そうな顔に、ロレンツォがフッ……と小さく微笑みながらライトに話しかけた。

「その冒険者達は『我々は、勇者候補生という肩書を持つ者を探している。何か心当たりはないか?』と聞かれましてね。もちろん『そんなものは知らないし、見たことも聞いたこともない』と答えておきましたが」

「そうですか……黙っててくれて、ありがとうございます」

「いえいえ、当然の対応をしたまでですよ」

ロレンツォの言葉に、ライトが心底ホッ……とした顔で安堵しながら礼を言う。

ロレンツォに嘘をつかせたことは申し訳ないと思うが、今ここでライトの正体を他者からバラされる訳にはいかない。

そんなことになったら、ライトの家族も同然であるレオニスやラウルが心底びっくりするだろうし、ライトのことを詰問するだろう。

「しかし……私も不思議に思っていたのです。一体何故『勇者候補生』などという言葉が世に出て、しかもそれを冒険者ギルドが総力を挙げて探しているんだろう?と……」

「ですよね……ぼくだってレオ兄ちゃんからその話を聞いて、本当に気絶しちゃいましたし……」

「ライトさんの話を聞いて、合点がいきました。勇者候補生を連れていくことができなければ、ラグナロッツァはビースリーによって滅ぼされることが分かっていたからなのですね」

「はい……」

冒険者ギルドが血眼になって勇者候補生を探している理由。

それがようやく知れたことで、ロレンツォの方も納得したようだ。

冒険者達はビースリーのことを伏せつつ勇者候補生捜索をしていたので、ロレンツォには詳しいことを話さなかった。

そのため、ロレンツォは彼らが勇者候補生を探す理由が全く分からなかったのだ。

そんなロレンツォに反して、ライトはずっと俯いていた。

「本当はぼくがさっさと名乗り出ていれば、皆に迷惑をかけることもなかっただろうとは思うんですけど……どうしても、その勇気が出せませんでした……」

「ライトさん……」

「これじゃとても勇者になんかなれないし、勇者候補生失格ですよね……」

「…………」

しょんぼりとしながら、己の不甲斐なさを吐露するライト。

コヨルシャウキが出現して以降も、ライトは勇者候補生が自分だということを伏せていた。

しかし、日が経つにつれどんどん事態が大きくなっていくことに、ライトは『本当にこのままでいいのだろうか?』と思い始めていた。

ライトの後悔が決定的になったのは、ハリエットがプロステスに避難することを聞かされて以降のことだ。

もし、もっと早いうちに俺が勇者候補生だってことを皆に打ち明けて、コヨルシャウキと直接交渉していたら、ハリエットさん達だってプロステスに避難することもなかったかもしれない。

レオ兄の夜の監視やラウルとマキシ君の配給活動だって、俺がさっさと名乗り出ていればやらなくて済んだ仕事だったのに―――一度湧き出た後悔の念は、堰を切ったようにライトの胸の内にとめどなく溢れ続けた。

だが、ライトは己が異質であることを痛い程理解している。

異質故に周囲から排除されたり隔離されたり、果ては拒絶されることをライトが恐れたとて、誰がそれを責められようか。

しかもライトの場合、中身の年齢はともかく見た目も身体もまだ九歳で、保護者の庇護が要る子供の身だ。

唯一頼れるレオニスや、小さなご主人様と慕ってくれるラウルやマキシから奇異や侮蔑、あるいは恐怖の目で見られることになったら―――あまりにも恐ろしくて、本当のことが言い出せなかったのも無理はない。

ライトの瞳に、じわりと涙が浮かぶ。

自分が不甲斐ないばかりに、皆に迷惑をかけてしまった。そんな思いがライトの中でどんどん強い後悔となって、自分自身を責め続ける。

そんなライトに、ロレンツォが優しい口調で語りかけた。

「ライトさん、そんなに自分を責めてはいけませんよ」

「でも……ぼくが、意気地なしだから……こんな、大事になっちゃって……」

「そんなことはありません。ライトさんは立派な勇者候補生です。事態の解決をまだ諦めていないからこそ、私のもとに来られたのでしょう?」

「…………」

ロレンツォの問いかけに、涙声になっていたライトは無言で頷く。

もしライトがもう駄目だ、どうすることもできない、と完全に諦めきっていたら、こんな夜中にわざわざルティエンス商会を訪れることなどないはずだ。

そしてそのことを、ロレンツォも十分に理解していた。

「して、本日のご用向きをお伺いしてもよろしいですか?」

「……はい!」

にこやかな笑顔で用向きを問うロレンツォに、ライトもキッ!と顔を上げる。

そう、ロレンツォが言ったように、ライトはまだ諦めていない。

ライトが講じようとしている策には、どうしてもロレンツォの力添えが必要なのだ。

ライトは意を決したように、ロレンツォに問いかけた。

「先日お話ししていたガンメタルソード、入荷してますか?」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトの要望を聞いたロレンツォが、ライトに「少々お待ちくださいませ」と言ってソファから立ち上がり、客間を出ていった。

客間に一人取り残されたライトは、内心でドキドキしながらロレンツォの帰りを待つ。

もしまだ未入荷だったら「残念ながら……」と言いつつここにないことをすぐに明かすだろう。

そうせずに客間から出ていったということは、きっとガンメタルソードが既にここにあるに違いない―――ライトの期待は弥が上にも高まる。

そうして五分程待った頃、ロレンツォが再び客間に入ってきた。

どこかから戻ってきたロレンツォの手には、光り輝く茶色の長剣があった。

「お待たせいたしました。こちらが、以前お話しなさっていたガンメタルソードでございます」

「ああ……ガンメタルソード……やっぱりこっちの世界にも実物として存在していたんですね……」

ロレンツォの手にあったガンメタルソードを見て、ライトは感激の面持ちでソファから立ち上がる。

そしてロレンツォは、テーブル越しにガンメタルソードをライトに差し出した。

ライトは震える手を伸ばし、ガンメタルソードを恭しく持つロレンツォの両手から受け取る。

前世では、スマートフォンの画面越しに見ていたライトの愛用の得物。BCOでも人気断トツナンバーワンの課金武器だった。

実際に受け取ってみると、それは箸かペーパーナイフかと思うくらいに軽い。

ガンメタルソードは刃渡りだけで1メートル近くあり、色も燻した茶色でそこそこ厳ついのだが、こんなにも軽いものだとはライトも予想外だった。

しばしガンメタルソードをうっとりと眺めていたライトだったが、はたとした顔でロレンツォに声をかけた。

「ロレンツォさん、前にガンメタルソードの話をした時には、2000CPで購入できるって言ってましたよね?」

「はい。その通りでございます」

「そのお値段は、今も変わっていませんか?」

「もちろんですとも」

「でしたら、これを買わせてください!」

購入の意思を伝えたライトの言葉に、ロレンツォが少しだけ目を見開きながら問うた。

「もしかして……2000CP、もしくは200億Gを確保なさったのですか?」

「はい!マイページの中に、200億Gを貯めてあります!」

「それはまた……すごいですね」

ガンメタルソードを一旦テーブルの上に置き、マイページを開くライト。

ロレンツォは向かいからライトの横に移動し、ライトが開いているマイページを横から覗き込んだ。

「おお、確かにGの残高が200億を超えてらっしゃいますね……失礼ですが、どのようにして資金調達なさったのか、聞いてもよろしいですか?」

「はい、大丈夫です!実は少し前に、風の女王様がいる辻風神殿に行きまして。そこで大掃除をしてですね―――」

200億Gという巨額の資金を得たライトに、ロレンツォがそのからくりを問うのも無理はない。

それはライトにも分かるので、正直にロレンツォに話していく。

この200億Gは主に、風の女王が住む辻風神殿で得たもの。

そう、ライト達が風の女王や青龍が不在の間にしておいた、辻風神殿の大掃除の時に得た【風の乙女の雫・悲嘆】の売却益である。

「なるほど……売価1200万Gの【風の乙女の雫】を千粒以上も得たのですか。それなら納得です」

「はい。もっとも、風の女王様の悲嘆の涙だけではちょっと足りなくてですね……他の女王様からこれまでにいただいた雫も売却したりして、何とか工面したんです」

ライトの金策方法に、ロレンツォも感嘆している。

ライトが風の女王から譲り受けた【風の乙女の雫・悲嘆】は、総数1505粒あった。

そのうちの1500粒を売却して180億Gを得た後、足りない20億Gを他の女王からもらった雫を売却して補充した。

と言いつつ、どの雫も最低でも一個以上はとっといてある。属性の女王達からもらった雫は、ライトにとって何より宝物だからだ。

しかし、今はそんな悠長なことを言ってはいられない。

ライトはガンメタルソードを手に入れて、万全の体制でコヨルシャウキと直接対決するつもりなのだ。

もちろんライトとて、コヨルシャウキと会ってすぐに戦闘開始すると思っている訳ではない。対決する前に、ちゃんと対話を試みるつもりではいる。

だが、もし万が一コヨルシャウキとの交渉が決裂した場合、その場で戦闘開始になる可能性だってある。

最悪の場合、ライトの目の前でビースリーの火蓋が落とされるかもしれない。

また、先日ライトが見た夢でも、コヨルシャウキに『勇者候補生よ、此方と戦え』と言われた。

それが正夢か、あるいは本当にただの夢かは分からない。

ただ、イベントボスであるコヨルシャウキが天敵である 勇者候補生(ライト) に会った時に、夢の中と全く同じことを言い出しかねない———夢から覚めた時、ライトはそう感じていた。

そしてもしそうなった時に、ちゃんとした武器を持っていなければ話にならない。本来天敵同士である者同士が至近距離で対峙する場に、丸腰で挑むなどあり得ないことだ。

コヨルシャウキと会う際には、戦闘突入の可能性を踏まえて強力無比の武器を用意したい。自分でも扱える片手武器で、最も強力な武器―――そう考えた時に、ライトが真っ先に思い浮かべたのが、このガンメタルソードだった。

ライトの意図を汲んだロレンツォが、早速ライトにマイページ操作を促す。

「でしたらまず、この200億Gを2000CPに交換してください」

「はい!…………交換しました!」

「そしたら、CPショップの武器欄を開いてください」

「はい」

「マイページの中に2000CPが反映されていれば、購入できる武器一覧の中に『ガンメタルソード』が出てくるはずです」

「…………あッ、ありました!」

ロレンツォの流れるようなレクチャーに、ライトが素直に従い手続きを進めていく。

そうしてライトはマイページの中で、ガンメタルソードの購入ボタンをポチッ☆と押した。

これでガンメタルソードは、晴れてライトの所持品となった。

その嬉しさに、ライトは破顔しつつロレンツォに礼を言う。

「ロレンツォさん、ありがとうございます!ガンメタルソードは、BCOでのぼくの愛用武器だったんです!」

「ライトさんに喜んでいただけて、私としても何より嬉しいです」

ライトからの礼に、ロレンツォも微笑みながら嬉しそうに返す。

そしてここで、ロレンツォが何故か客間の扉を開いて一旦廊下に出た。

ロレンツォはすぐに戻ってきたが、その手にはまた何かを持っていてライトに向けて差し出した。

「こちらは、当店からのささやかな粗品です。ガンメタルソードをご購入されたお客様に、必ずおつけしようと思い用意しておりました」

「これは……ガンメタルソード用の鞘、ですか?」

「はい。ゲームの中では武器を丸出しのままでも問題ありません。ですが、このサイサクス世界で鞘無しの常時剥き出し状態というのは、非常に危ないですからね」

「確かにそうですね……」

ロレンツォがライトに渡したのは、ガンメタルソード用に誂えた専用鞘だった。

ライトは鞘を受け取りながら、ロレンツォの言葉に大きく頷く。

ゲームの中なら武器に鞘など要らないことも多いが、現実世界ではそうはいかない。刃が剥き出しのままの武器を持ち歩くのは、非常に危険な行為だ。

ライトは失念していたことだが、CPショップ店主を兼任するロレンツォにそこら辺の抜かりはなかった。

ロレンツォがライトから一旦ガンメタルソードを受け取り、専用鞘に収めてから再びライトに手渡す。

ロレンツォ曰く『ドラゴンの革で作られた、非常に靭やかで頑強な鞘』に入れられたガンメタルソード。

鞘には剣帯もついていて、背負ったり腰に佩くことも可能だ。

もっとも、ガンメタルソードは刃渡りだけで1メートル近くあるので、まだ子供である今のライトが腰に佩くのはとても無理なのだが。

「ロレンツォさん、本当にありがとうございます」

「どういたしまして。お客様のご要望にお応えするのは、交換所店主として当然のことでございます。しかし……」

改めてロレンツォに礼を言うライトに、ロレンツォも紳士然とした優雅な口調で応える。

しかし、そのすぐ後にロレンツォが心配そうな顔でライトに尋ねた。

「ライトさんは、このガンメタルソードでもってコヨルシャウキと対決なさるおつもり、なのですよね?」

「はい。ぼく以外に勇者候補生が存在しない以上、ぼくがコヨルシャウキと対峙しなければならないので。……とはいえ、最初から戦うつもりはありませんよ? もしかしたらコヨルシャウキだって、話せば分かってくれるかもしれないし」

「そうですね……」

ライトの並々ならぬ覚悟に、ロレンツォもそれ以上ライトを止めることはできない。

実際ライトの言う通りで、コヨルシャウキが求める勇者候補生がライト唯一人しかいないならば、ライトはコヨルシャウキと会わなければならない。

そうしなければ、ラグナロッツァでビースリーが問答無用で開始されてしまう。

それを食い止めるために、ライトはコヨルシャウキと話し合いの場を持つつもりなのだ。

そうしたライトの強い決意に、ロレンツォはいつも以上に慎重に言葉を選びながら語りかける。

「私には何の力もありませんが……このガンメタルソードの出番がないことを、心より祈るのみです」

「そのお気持ちだけでありがたいです。ぼくも、このガンメタルソードをこうして持てたことで……すっごく勇気が湧いてきた気がします!」

「それはようございました。勇者候補生のお役に立てて、私としても本望です」

コヨルシャウキとの対峙に備え、念願のガンメタルソードを手に入れたライト。

一方でロレンツォの目には、ライトは幼子にしか見えない。

如何に彼が勇者候補生の魂を持つ者とはいえ、まだ幼子の身でたった一人でコヨルシャウキに立ち向かわねばならないとは……創造神も、何と過酷な運命を課すのだろう―――

ロレンツォの胸には、ライトに対する憐憫の情が押し寄せる。

しかし、ロレンツォはそんな胸の内をおくびにも出さない。

勇者候補生とは、将来勇者となるべく様々な研鑽を積み続けて進みゆく者。

その道は茨が生い茂るかの如き険しいが、この少年ならばきっと成し遂げるだろう―――そんな予感もロレンツォの中には確実にあった。

ライトはマイページを開き、ガンメタルソードを一旦アイテム欄に仕舞う。

ガンメタルソードはBCO由来の武具なので、アイテムリュックに入れずともマイページ収納で事足りるのだ。

「ロレンツォさん、夜遅くに来てすみませんでした。でも、おかげさまでぼくは素晴らしいアイテムと勇気をもらえました。本当にありがとうございます」

「いえいえ、私の方こそ礼を言わねばなりません。勇者候補生とは、こんなにも強い心を持つ至高の存在であることを改めて思い知った次第です。このロレンツォ、ライトさんの勇気に心底感服いたしました」

「そそそそんな……ロレンツォさん、それは買いかぶり過ぎというものですって!」

ライトの勇気をべた褒めするロレンツォに、当のライトは慌てふためいている。

この少年は、明日明後日のうちにコヨルシャウキと対峙するだろう。

創造神よ、どうかこの勇気ある少年に輝ける未来を与え給え―――

照れ臭そうに顔を赤らめるライトを見つめながら、ロレンツォは心の中で真摯に祈り続けていた。