軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1265話 模索し続けるライト

ラグナロッツァのスラム街、旧ラグナロッツァ孤児院の敷地内から突如出現した謎の亀裂。

それが現れた日から、ライトはビースリーを回避する方法を懸命に模索し続けていた。

亀裂の出現によってラグーン学園がしばらく臨時休園のため、幸いにも時間はたくさんある。

それに、レオニスはほとんど家に帰ってこれなかったし、ラウルも主に日中は食糧配給活動のために朝早くからずっと出かけていた。マキシはライトの体調が大丈夫そうなことを受けて、ラウルの手伝いをするために日中はラウルと行動をともにしていた。

おかげでライトは静養兼留守番という名目で、誰憚ることなく一人でじっくりと考察することができた。

まずライトは、カタポレンの家の自室でベッドの上に座りながらマイページを開く。

イベントの中のビースリー系イベントがどうなっているかを確認するためだ。

その結果、数多羅列されている未発動のイベントの中に『昏き星海からの来訪者』があった。

しかし、イベントタイトルの前についている丸いアイコンは白色のままだ。

この丸いアイコンがピンク色になっていれば、そのイベントが発動中であることを示す。

つまり、ライトのマイページのイベント欄では『昏き星海からの来訪者』は発動していないことになる。

「くッそー、俺のマイページではイベントなんて発動していないのに……よりによって何でラグナロッツァに、コヨルシャウキなんてもんがいきなり出てきたんだ……」

ライトはマイページのイベント欄の中にある『昏き星海からの来訪者』の文字がある辺りを、人差し指で押そうとしては指を引っ込め、をしばし繰り返している。

ライトはイベントの概要だけを見てみたいのだが、まかり間違って万が一にもここで手が滑ってイベントをスタートさせてしまったら―――今以上に取り返しがつかないことになる。

それを思うと、あまりに怖過ぎてイベント名をタップすることすら躊躇われる。

結局ライトは震える指を引っ込めて、マイページでのイベント確認を諦めた。

「とりあえず、俺が間違ってイベントを発動させたんじゃないってことだけは分かったし、それだけでも良しとしよう……」

「さて、そしたら今度はどうやってビースリーイベントを中止させればいいんだろう……つーか、 一(いち) ユーザーに過ぎない俺に、運営が繰り出してくるイベントを無理矢理中止させることなんて、できるのか……?」

ふぅ……とため息をつきながら、ひとまずマイページを閉じたライト。またも真剣に考え込む。

そもそもソシャゲのイベントというものは、ゲームを運営する側がユーザーに遊んでもらうために定期的または常時提供するサービスだ。

そのイベントで遊ぶ遊ばないはユーザーの選択の自由だが、イベントそのものは余程のバグなどでもない限り開催され続ける。

これを運営側ではない、ただのユーザーに過ぎないライトが力づくで中止させられるかどうか―――ライトには全く自信がなかった。

しかし、ライトには迷っている余裕などない。

ライトは目をギュッ!と閉じ、己の頬を両手でパン!パン!と二回強く叩いた。

「……いや、できるできないじゃない、何が何でもやるしかないんだ。でなきゃラグナロッツァが滅びる」

「しっかりするんだ、俺!こんな時に弱気になってどうする!もっと気を強く保て!」

ともすれば気弱になりがちな己の弱い心を、ライトは必死に鼓舞する。

ラグナロッツァでビースリーが強行されれば、間違いなくラグナロッツァは滅びる。

しかし、今のラグナロッツァにはライトにとって大事な人がたくさんいる。

ラグーン学園の学友達や先生達、冒険者ギルドや翼竜牧場、スライム飼育場、ヨンマルシェ市場など、様々な場所で出会い仲良くなった人達。そうした人達が住むラグナロッツァが、ビースリーで生み出される無尽蔵の魔物達によって蹂躙され生命を落とす―――そんな惨たらしい未来など、ライトには絶対に耐えられない。

大事な人達を守るために。

ビースリーが何なのかを知る自分にしかできないことを見つけるべく、さらに模索するライトだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして旧ラグナロッツァ孤児院にコヨルシャウキが出現してから、五日が経った。

レオニスはあれから未だ一度も帰宅していないが、ラウルとマキシは夜になる前にラグナロッツァの屋敷に帰ってくるので、外の情報を聞くことができた。

ライトとラウルとマキシ、食堂で三人で晩御飯を食べながらその後の進展具合などを話し合う。

「ラウル、冒険者ギルドの方はどうなってるの? ラグナロッツァだけじゃなくて、全部の支部で勇者候補生の捜索をしてるんだよね?」

「ああ、コヨルシャウキが出現した日に、マスターパレンが国内外問わず全ての全支部に『勇者候補生を見つけ出せ』という指令を出したが、発見の報告は未だにどこからも来ていないらしい」

「そっか……」

ラウルの話に、ライトががっくりとしている。

今日ラウルが冒険者ギルド総本部で聞いてきたところによると、ラグナロッツァのみならず他の支部でも勇者候補生の懸命な捜索が続けられているらしい。

だがしかし、勇者候補生発見の報は未だどこからも寄せられていないという。

「あと五日以内に、勇者候補生とやらを何としても見つけなきゃいけないんだが……まさか偽者を仕立て上げる訳にもいかんしな」

「え"ッ、偽者!? そりゃそうだよ、そんなの連れてってコヨルシャウキに見破られたら、大激怒じゃ済まないよ!?」

「だよな。俺もそう思う。ただ、冒険者ギルドやラグナ宮殿でも様々な議論がなされているようで、そういう案もあったって話だ。だが、そもそもコヨルシャウキと直接会った俺やご主人様はすぐに『勇者候補生じゃない』と断言されたことから、コヨルシャウキの目を誤魔化すことは不可能だってことで、結局は却下されたらしいがな」

「そっか、ならいいけど……」

ラウルが語った『勇者候補生の偽者を仕立て上げる』という案に、ライトがギョッとした顔になる。

偽者をでっち上げて相手を騙そうとは、如何にも人族らしい作戦だ。

しかし、銀河の女神を名乗る相手にそんな浅はかな作戦が通用するとは到底思えない。

事実コヨルシャウキは、世界最強冒険者のレオニスや妖精のラウルを見て、一目で『其方らは勇者候補生ではない』と即時看破した。

もし万が一、勇者候補生ではない者を勇者候補生だと偽ってコヨルシャウキの前に連れて行ったら―――間違いなくコヨルシャウキは激怒するだろう。

そして、自分を騙そうとした人族に対する怒りに任せて、コヨルシャウキがその場ですぐにビースリーを開始してしまう危険性だってある。

これはライトだけでなくラウルもそう思っていたようで、偽者勇者候補生を立てる作戦は実行されないことに二人して安堵していた。

「あと五日の間に、見つかるといいね……」

「そうですね。勇者候補生を見つけ出せさえすれば、移動は冒険者ギルドの転移門で行えますからね。移送に関する手間はほとんど考えなくていいから、最後の最後まで諦めずに捜索を続ける、とマスターパレンは仰っていましたよ」

「うん、そうだね……」

マキシの話を聞きながら、ライトの顔は沈み込む。

ライトは内心では、もしかしたら自分以外にもBCOユーザーがこのサイサクス世界に転生しているかもしれない……と思っていた。

この広いサイサクス世界に、勇者候補生と呼ばれる者が自分一人だけだなんて思いたくなかった。

だから、ラグナロッツァ内じゃなくてもいい、他の街のどこでもいいから自分以外の勇者候補生がいてくれ———

ライトのそんな密やかな願いは、やはり叶わなさそうだ。

再びしょんぼりとしているライトに、ラウルが優しい声で話しかける。

「……さ、ライトもそろそろカタポレンの家に帰りな。向こうで留守番しているラーデも寂しがっているかもしれんぞ」

「うん……ラウルとマキシ君は、また明日も配給のお仕事をしに行くんでしょ?」

「ああ。そろそろ俺も、カタポレンの畑の様子を見に行きたいんだがな……今はそれどころじゃなくてな。野菜や林檎の収穫をライトに任せっきりにしてしまって、本当にすまない」

ライトの帰宅を促しつつ、カタポレンの畑の仕事をライトに押しつけていることを謝るラウル。

そんなラウルに、ライトが慌てながら答える。

「そんな!ラウルが謝ることなんてないよ!今はあの亀裂の事件の方を何とかしなきゃだもん!」

「すまんな、ライトにそう言ってもらえると少しだけ気が軽くなる」

「ラウルもマキシ君も、昼間はずっと頑張ってるんだもん。ラウル達こそ早く寝て、元気回復しなきゃ!」

「ライト君も、家から一歩も外に出られないのは辛いですよね……でも大丈夫!レオニスさんやマスターパレンさん達、冒険者の皆さん方がきっと何とかしてくれますよ!」

懸命にフォローしようとするライトに、ラウルとマキシも思わず微笑む。

マキシに至っては、これまで通りレオニスが何とかしてくれるさ!と元気な声でライトを励ましている。

暗い顔で絶望するよりも、明るい希望を見い出そうとするマキシの姿勢は、いつもだったら有効だっただろう。

特に自分達には、世界一の現役冒険者レオニス・フィアがついている。だから今度もきっと大丈夫!とマキシが思うのも当然と言えば当然だ。

しかし、今回ばかりはそんな楽観的な見方をすることはできない。

ライトの胸の中は、まるで大きな鉛か鉄の塊でも埋め込まれたかのように重たくて苦しい何かが渦巻いていた。

だがそれでも、ライトは懸命に笑顔を作る。

いつもの笑顔に比べたら、それは何ともぎこちない作り笑いだ。

しかし、これ以上ラウルやマキシを心配させる訳にはいかない。

ライトは気力を振り絞りながら、努めて明るい声で食堂の席から立ち上がる。

「……じゃ、ぼくはカタポレンの家に帰るね!ラウルもマキシ君も大変だけど、明日もお仕事頑張ってね!」

「ああ、ライトも向こうでのんびり過ごしな」

「ライト君もお疲れさまでした!おやすみなさい!」

「二人とも、おやすみー!また明日ね!」

「「おやすみー」」

ライトは元気よく食堂から飛び出していき、転移門がある二階の自室に向かう。

空元気で必死に取り繕おうとしているライトの姿に、ラウルとマキシは心を痛めながら見送っていた。