軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1256話 ラウルの新しい依頼

レオニスのコルルカ高原奥地遠征も無事完了し、しばらくは平和な日が続いた。

そして正月三が日に公国生誕祭、邪竜の島討滅戦にレオニスのコルルカ高原奥地遠征等々、怒涛の一月が終わり二月になった。

二月と言えばバレンタインデー。

ラグナロッツァの街も、既に一月末頃からあちこちでバレンタインデー商戦が繰り広げられている。

ヨンマルシェ市場は軒並みハートマークに溢れ、食料品店だけでなく武器屋や防具屋までが『大事な人の身を守るための武器/防具を、愛するあの人に贈ろう!』とかいう看板を店先に出してアピールしている。

さらにはあの冒険者御用達ジョージ商会も、冒険者用エリアの三階と四階の売場内のあちこちにピンクのハートマークのポップが飾られているくらいに、世の中はバレンタインデー一色に染まっていた。

そんな中、ラウルは冒険者ギルド総本部に足繁く通っていた。

その頻度は何と朝昼夕の一日三回。何でそんなに通い詰めているのかというと、そのお目当てはギルド内売店にあった。

「よ、おばちゃん、おはよう」

「あらあらラウルさん、おはよう。今日も アレ(・・) を買いに来たの?」

「もちろん。 アレ(・・) は今しか買えんからな」

「そうよねー。でも一日三回も買ってたら、購入制限の意味なんてなくなっちゃうけど……ま、他ならぬラウルさんだから許しちゃう!」

「すまんな」

ギルド内売店の会計のおばちゃんと和やかに話すラウル。

二人が言う『アレ』とは、そう、バレンタインデー限定の『濃茶色のぬるぬるドリンク・チョコレート味』である。

去年と同じく今年も『たっぷり濃いめ』と『すっきりサラサラ』の二種類が売られていて、ラウルは販売開始の二月一日の朝から買いに行くという余念の無さである。

そして、売店のおばちゃんの言うように一日三回も買っていたら『お一人様合わせて五本まで』という制限など全く意味をなさない。

しかし売店のおばちゃんは、明るい笑顔でカラカラと笑いながらラウルの複数回購入を許すと宣言する。

実はこのおばちゃんも、公国生誕祭でラウルの差し入れをご馳走になっていて、その美味しさにすっかり魅了されていた。

一本25Gのぬるぬるドリンクチョコレート味、濃いめを三本とサラサラを二本購入したラウル。

代金125Gをおばちゃんに渡し、それと入れ替えにおばちゃんから計五本のぬるぬるドリンクチョコレート味を受け取った。

ラウルは空間魔法陣を開き、早々に買ったものを仕舞い込む。

「はいよ、毎度あり!またお昼にも来るんでしょ?」

「おう、もちろんだ」

「十四日まで毎日、朝昼夕と三回もラウルさんに会えるなんて嬉しいねぇ!てゆか、バレンタインデーが過ぎてもたまには買い物に来ておくれよ?」

「ああ、俺もたまにはおばちゃんの顔を見に来るから安心してくれ」

「約束だからね!」

ブンブンと大きく手を振りながらラウルを見送る売店のおばちゃんに、ラウルも小さく手を振りながら売店を後にする。

いつものラウルなら、そのまま建物を出てラグナロッツァの屋敷に帰るところなのだが。今日は違う。

売店を出た後、ラウルは依頼掲示板に向かって歩いていった。

「黒鉄級が受けられる依頼は、ここら辺からか……」

「何なに、プロステス行きの商隊の護衛……エンデアンに帰る伯爵の護衛……ここら辺は日数がかかり過ぎるからダメだな」

「『求む!乙女の雫(属性の種類問わず)』って……まだ募集が続いてんのか。こんなん誰も引き受けないんだから、いい加減諦めりゃいいのに」

「……ふむ、前に比べて薬草採取が異常なまでに増えてるな? 何でだ?」

依頼掲示板に貼られている様々な依頼書を眺めては、ぶつくさと独り言を溢すラウル。

先日ラグナロッツァの屋敷に遣いで来たダレンに言われた通り、久々に総本部の依頼も引き受けようと思って来てみたのだが。これはと思うような、今のラウルに合った依頼がなかなか見つからない。

やはり朝イチに仕事を取りに行かないといけないのだろうか。

そうしていくつもの依頼書を見ていくラウル。

ふと一枚の依頼書に目が留まった。

「これは…………よし、これにするか」

ラウルはその依頼書を手に取り、受付窓口に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

依頼を引き受けたラウルが出向いたのは、旧ラグナロッツァ孤児院があったスラム街。

ここは再開発地域に指定されて、マイラ達がいた孤児院も強制退去を余儀なくされた。

旧ラグナロッツァ孤児院は、ラウルが冒険者登録してから初めて依頼を受けた思い出の場所。バッカニア達『天翔るビコルヌ』に誘われて、四人で雨漏り修理をしたことがつい昨日のことのように思える。

そんな思い出の地に関する依頼書。

その内容は『土地調査』であった。

受付嬢のクレナの話によると「正月明けからガーディナー組が建物撤去を開始してるんですが、どういう訳か建物を壊そうとする度に担当の魔法使いが突如体調を崩してしまうのだそうで……」とのこと。

本当なら一月の間にスラム街の建物全てを撤去して、更地にする予定だったのだが。謎の体調不良に見舞われるせいで、二月に入った今も半分くらいしか工程が進んでいないのだという。

依頼書にあった依頼主はガーディナー組。

あまりにも続く魔法使いの体調不良に、ガーディナー組側も『これは何かある』『土地に対する呪いの類いがあるに違いない』と思い、まずは冒険者ギルドでゴースト退治のスペシャリストを募ろう!ということになったらしい。

ちなみに魔術師ギルドに同様の依頼を出していないのは『魔術師ギルドにも相談したんだが、そこで浄化魔法呪符の大量購入、しかも三桁後半の枚数購入を勧められたため』なのだそうだ。

確かに魔術師ギルドには、浄化魔法呪符という強力なアイテムがあり、土地の浄化もお手の物だろう。

しかし、それを三桁後半枚数購入しなければならないとなると、ガーディナー組が躊躇するのも無理はない。

例えばピース作成の最上級浄化魔法呪符『究極』の場合、一枚15000Gという価格が設定されている。

これをもし五百枚購入するとしたら、総額750万Gもかかってしまう。

しかも五百枚で足りるかどうかも分からない。もし足りなければさらに追加費用が発生することになる。

いくら国が主体の公共事業といえど、その予算には限りがある。

魔術師ギルドが勧めるような、浄化魔法呪符での土地浄化は最終手段としてとっておいて、それより先に冒険者ギルドに依頼を出してもうちょい安上がりで何とかならないかを試みる、というのがガーディナー組の思惑であった。

あの浄化魔法呪符『究極』を五百枚も要するとは……

しかし、あの孤児院があった一帯全部を一気に浄化するとなると、それくらいの枚数は必要なんだろう。

そんなことを考えながら、スラム街に向かって歩いていくラウル。

すると、スラム街の入口手前に規制線が張られており、見張りと思しき警備員が立っている。

警備員が着ている制服は、ラウルも見覚えがあるガーディナー組のものだ。ただし、警備員の顔には見覚えはないが。

構わず近づいていくラウルに、当然の如く警備員が声をかけてきた。

「ここは一般人の立入は禁止だ」

「俺は冒険者ギルドの依頼を受けて来た。ここを通してもらいたい」

「冒険者ギルド? ……ああ、土地調査の件か。なら問題ない、通ってくれ」

「ありがとう」

警備員の呼び止めに、ラウルは空間魔法陣から冒険者ギルドカードを取り出して提示する。

ラウルのギルドカードを見た警備員は、すぐに警戒を解いて道を開けた。この警備員も、上の指示で外部から土地調査が入ることを聞いていたのだろう。

そうしてラウルは再び見覚えのある道を辿り、程なくして旧ラグナロッツァ孤児院前に到着した。

孤児院以外の建物もまだたくさん残されていて、昼なのに鬱蒼とした空気が立ち込めていた。