軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1219話 レオニスの新たな任務

朝イチでラウルから書状を受け取ったレオニス。

封筒の中を検めつつ「くッそー、もう来たか……」とブチブチ溢しながら早々に冒険者ギルド総本部に向かう。

そして向かった先のギルドマスター執務室では、朝日の輝きにも負けないマスターパレンがいた。

「よう、マスターパレン。おはようさん」

「おお、レオニス君か!すまないが、温かいお茶でも飲みながら待っててくれ。おーい、シーマ君!」

「畏まりました」

相変わらず書類の山に埋もれているパレン。

書類の山々が絶峰となって顔も見えないのに、後光の如き眩しい煌めきによって机の向こうに彼がいることが分かる。

そんなパレンの指示により、第一秘書であるシーマが温かいお茶と茶菓子をワゴンで運んできてレオニスの前のテーブルに置く。

相変わらず無口だが、実に優秀な秘書である。

そうしてしばらく待っていると、書類仕事の一区切りがついたのか、マスターパレンが背伸びをしつつ執務机の檻から出てきた。

本日のマスターパレンのコスプレテーマは『僧兵』である。

重厚な黒衣に白袴、白い袈裟頭巾に高下駄という、実に古式ゆかしい模範的な僧兵の出で立ちだ。

そして首元には大小二重の木製数珠がかけられていて、僧兵感をよりマシマシにしている。

さらには執務机の後ろに僧侶が持つ薙刀まで立てかけられていて、実に本格的な僧兵を再現していた。

現代日本の歴史マニアなら、真っ先に『武蔵坊弁慶』を思い浮かべるであろう凛々しい姿である。

おお、今日のマスターパレンは僧兵か。

僧兵ってのは、いわゆるモンクと同等らしいが。そういやラグナ教にもモンクっているのかね?

しかし、筋骨隆々なマスターパレンの体躯にこの僧兵の格好はよく合ってるよな!つーか、もうこれをマスターパレンの制服にすりゃいいのに!ってくらい似合い過ぎだな。

……って、今は冬だからすんげー温かくて着心地いいだろうけど、夏は地獄だよな……下手すりゃ熱中症で死んじまうわ。マスターパレン専用制服にするにしても、冬服限定だな。

それにしても……『悪を打ち破るため、粉骨砕身で戦う僧侶』を具現化したら、きっとこんな姿になるんだろう。

正義の人に最も相応しいコスプレを選ぶとは、さすがはマスターパレンだ!

僧侶姿のパレンを感嘆の眼差しで見つめつつ、脳内でポジティブレビューを展開するレオニス。

普段は女装や奇抜なコスプレが多いパレンだが、今日の僧兵は彼の持つ体格的資質に完全に合致していて、ここまで掛け値なしで似合うコスプレは実に珍しいケースと言っても過言ではない。

それだけに、レオニスでなくとも誰もがうっとりと見惚れること請け合いである。

そんな僧兵のパレンが、レオニスの真向かいの席に座る。

そして早速今日の本題を切り出した。

「早速だがレオニス君、書状に目を通してくれたかね?」

「ああ。鷲獅子騎士団から俺個人に指名依頼が入るってのは、昨日知った」

「ンフォ? そうなのか? まさかとは思うが、レオニス君の方にまで鷲獅子騎士団の使者が押しかけていったりしたのか?」

レオニスの話を聞き、パレンの涼やかな糸目の奥がギラリ!と光る。

それは『冒険者ギルドを通した正式な依頼を出しておきながら、鷲獅子騎士団はレオニス君個人にも接触を図ったのか?』『それはさすがにフライングが過ぎるのでは?』という、尤も至極な疑念からきたものだ。

しかしレオニスは、それを当然の如く否定した。

「いや、昨日はホドの街で俺の友達の結婚式があってな。それに俺もお呼ばれして行ってきたんだが、そこに鷲獅子騎士団の団員がいてな。そいつに『力を貸してください!』とか言われて、それがきっかけで知ったんだ」

「ンッフォゥ……そういうことだったのか。目出度い席でそんな話を聞かされるとは、レオニス君も災難だったな」

「全くだ……」

レオニス側に情報を漏らしたのが、鷲獅子騎士団上層部の企みではなかったことにパレンは安堵する。

とはいえ、やはりそうした情報漏洩は決して褒められたものではないし、案件の内容によっては懲戒処分ものであることに違いないのだが。

「とはいえ、レオニス君の方も既に知っているなら話は早い。冒険者ギルド側としても、この案件は是非ともレオニス君に引き受けてもらいたい。鷲獅子騎士団の実力が上がれば、その分ラグナロッツァやアクシーディア公国の安全や防衛面で非常に有益だからな」

「だよな……マスターパレンなら絶対にそう言うと思ってたわ」

「ハッハッハッハ!既にそこまでお見通しだったか!」

がっくりと項垂れるレオニスに、パレンは己の頭を右手でペシッ☆と軽く叩きながら高笑いする。

パレンは白い袈裟頭巾を深々と被っているのに、頭を叩いた瞬間に最初から漏れていた輝きがさらに強く増すとは一体どういう原理であろうか。

パレンはペカーッ☆と輝く頭を袈裟頭巾越しに撫でた後、改めて真剣な面持ちでその口を開いた。

「さて……そしたら今後、どのように鷲獅子騎士団に助力するべきか、だな」

「ああ、それが一番の問題なんだよな。竜騎士団の場合、俺が先にシュマルリの竜族と親交を深めていたから、問題なくあいつらを引き合せることができたが……」

「さすがにレオニス君でも、野生の鷲獅子の知り合いはいないか?」

「そんなんいる訳ねぇって」

パレンの問いかけに、レオニスが首を横に振りつつ否定する。

だが、パレンは事も無げに提案した。

「ならばシュマルリの時のように、鷲獅子の生息地にレオニス君が乗り込んで知己を得ればよいのではないかね?」

「え、ちょ、待、マスターパレンよ、すんげー軽く言ってくれるな?」

「いやいや、確かに鷲獅子の生息地であるコルルカ高原の奥地は、そこに到達するだけでも厳しい場所だが……レオニス君ならば、行って行けないこともなかろう?」

「そりゃまあ、天空島に行くことに比べたらずっとマシだが……」

パレンの言い分はかなり無茶振りのように思えるが、実はそこまで酷いものではない。

このサイサクス世界における鷲獅子の生息地は、コルルカ高原の最奥。海と面した断崖絶壁の奥地周辺に、多数の鷲獅子が生息しているとされている。

コルルカ高原ならば、最寄りの街ケセドから出立できる分シュマルリ山脈遠征よりははるかに敷居は低いだろう。

それに、純粋な個体の強さだけで言えば、鷲獅子よりも竜族の方に軍配が上がることは間違いない。

故にパレンが楽観視するのも無理はなかった。

「というか、私もかつて若い頃、伝説の金鷲獅子を見たさにコルルカ高原を旅したこともあったな」

「え、マスターパレン、シュマルリだけでなくコルルカ高原にも行ったことあんのか?」

「もちろん!世界中のいろんな場所をこの目で直に見たくて、それはもういろんなところに赴いたもんだ」

「あんた、ホンットすげー人だな……」

思わぬところでパレンの武勇伝を聞いたレオニス。そのバイタリティさに心底感心している。

マスターパレンがシュマルリに行ったことがあるって聞いた時も、無茶しやがって……と思ったが。そうか、シュマルリにまで行ったことがある人がコルルカに行かん道理はないわな。

ホンット無茶ばっかりして、全く物好きな人だよな!

レオニスは完全に己のことを棚上げし、目の前にいる人物を尊敬の眼差しで見つめつつそんなことを考えている。

このレオニスの心の声をマスターパレンが聞いたら、即効で『本日のおまいう大賞は、レオニス君。君だ!』と返すことだろう。

「マスターパレンよ、コルルカ高原に行った時にお目当ての金鷲獅子と会うことはできたのか?」

「片道一週間かけてコルルカ高原奥地に辿り着いたが、残念なことに実物の金鷲獅子にはついぞお目にかかれなかった」

「そっか……そりゃ残念だったな」

金鷲獅子には会えなかったというパレンの話に、レオニスが残念そうな顔で沈み込む。

レオニスや竜騎士、鷲獅子騎士のように飛行手段を持たない冒険者は、どこに赴くにも己の足一つで行かなければならない。

そしてそれはパレンも例外ではなく、シュマルリもコルルカ高原も全て己の足のみで踏破したという。

そうやって片道一週間かけてまでコルルカ高原奥地に行ったというのに、その成果が得られなかったと聞けばレオニスが落ち込むのも当然だ。

そんなレオニスに、パレンがこれまでになく明るい笑顔でレオニスに語る。

「しかし、手ぶらでのこのこと帰ってきた訳ではないぞ? ちゃんと土産は持って帰ってきた」

「そうなのか? 土産って、何を持ち帰ってこれたんだ?」

「それはな、あれだ」

レオニスの問いかけに、パレンがレオニスの後ろにある棚の一角を指差す。

パレンが指差す方向に、レオニスが振り返って見るとそこには一枚の美しい羽根が飾られていた。

「あの羽根って……もしかして、金鷲獅子の羽根なのか?」

「ああ。コルルカ高原奥地に生息する魔物や動物の中で、金色の羽根を持つのは金鷲獅子以外にいないからな」

棚の最上段の真ん中、一番見栄えの良いところに飾られた一本の大きな羽根。

それはレオニスの指先から肘くらいまではあろうかという大きさで、キラキラと輝く黄金色は何年も前のものとはとても思えない煌めきを保っていた。

「あんなすげーもんを拾ってくるなんて……マスターパレン、あんたって人はやっぱすげーな」

「そうでもないぞ? あれは地面に落ちていたのを拾ってきただけだからな」

「いや、それでもすげーよ。片道一週間かけてコルルカ高原奥地に行って、しかも無事に帰ってこれる人間がこの世の中にどれだけいると思ってんだ?」

「まぁな……レオニス君にそう言ってもらえると、恥ずかしくもあり嬉しくもある」

パレンの偉業を手放しで褒め称えるレオニスに、パレンが照れ臭そうに笑う。

そしてパレンのこの逸話には、レオニスも励まされた。

パレンが一週間かけてコルルカ高原奥地に行けたなら、飛行能力を持つ自分だって十分に行ける可能性はある。

それに、コルルカ高原奥地は海にも面している。これはレオニスにとって大いに優位な条件だ。

何故なら、もし万が一すぐにコルルカ高原を脱出したいとなった場合、とりあえず海に飛び込めば何とかなるはずだから。

レオニスはライトと同じく、海の女王から勲章と加護を得ている。

コルルカ高原奥地のすぐ近くの海は、海の女王が住むラギロア島からは壮絶に遠いが、それでも海であることに変わりはない。

海の勲章を持つ者に危害を加えるものなどいないだろうし、男女問わず人魚がいれば海底神殿なり海樹ユグドライアのもとに連れていってもらえるだろう。

そうした諸々の算段から、次第にレオニスはコルルカ高原奥地への遠征に前向きな気持ちになっていった。

「……よし。そしたら今週中に、俺が一人でコルルカ高原奥地に行ってみることにしよう」

「おお、そうしてもらえると総本部としても助かる!」

「とりあえず確認だが、あの地には鷲獅子以外に他の生物はいないよな?」

「ああ。ただし鷲獅子と一口に言っても、爪の色はかなり異なるという。火属性が強い者は赤い爪、水属性が強い者は青、といったようにな」

「要はシュマルリの竜族で言うところの、極炎や鋼鉄達みてぇなもんか」

レオニスがコルルカ高原奥地行きを決めたことに、パレンが破顔しつつ大喜びしている。

本当は、レオニスとともにコルルカ高原奥地に行きたい!とパレンは思う。

だがしかし、冒険者ギルド総本部マスターという地位がそれを許さない。パレンが不在になれば、それこそ冒険者ギルド全体が右往左往する事態となるだろう。

かつて己が成し遂げられなかった夢。

それはきっとこの、目の前にいる若者が達成してくれるはずだ。

パレンはそう思いながら、レオニスのことをじっと眺めていた。