軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1213話 鋭い視線

至るところで様々な交流や会談が行われる中、時刻は午前十一時となった。

本館玄関のある方から、ワァッ!という歓声が聞こえてくる。どうやら新郎新婦の入場が始まったようだ。

会場の端も端、外壁近くにいるライト達の位置からでは、とてもじゃないが新郎新婦の姿など全く見えない。

これじゃ披露宴に来た意味がない!とばかりに、ライトがレオニスの手を引っ張った。

「レオ兄ちゃん、ここからじゃ新郎新婦さんの姿が全然見えないよ!もっと近くに見に行こうよ!」

「そうだな、さすがに空中を飛んで上からアマロ達を見るってものアレだしな。もうちょい前に行くか」

ライトの催促に応じ、二人で新郎新婦のいる場所に近づいていく。

だが、新郎新婦が出てきたばかりで大勢の人達に囲まれているため、なかなかその姿を見ることができない。そのためライト達は、新郎新婦が座る雛壇の近くで待つことにした。

ここにいれば、いずれは新郎新婦が来て着席する。そうなってから存分に新郎新婦の晴れ姿を拝めばいいのだ。

そうしてしばらく待つうちに、新郎新婦が雛壇に近づいてきた。

アマロは真っ白いタキシード、新婦も純白のウェディングドレスを着ている。ツェリザークの雪原を思わせる純白の新郎新婦は、二人の満面の笑みと相まってとても眩しく輝いていた。

幸せいっぱいの新郎新婦を見て、ライトが思わず呟く。

「うわぁー……お嫁さん、すっごく綺麗だねぇー」

「だな。気立ての良さそうな嫁さんを迎えることができて、アマロのやつも幸せ者だな」

新郎新婦を惚れ惚れとしながら見惚れているライトに、レオニスもにこやかな笑顔で同意する。

そんな二人に気づいたアマロが、これまた嬉しそうな顔でレオニスに声をかけた。

「あッ、レオニス君!忙しいだろうに来てくれたんだね!」

「当然だ。アマロの新しい門出を祝う結婚式だ、何が何でも這いずってでも駆けつけるさ」

「ありがとう!ライト君まで来てくれて、本当に嬉しいよ!」

「アマロさん、ご結婚おめでとうございます!」

レオニスだけでなく、ライトにまで喜びと礼を伝えるアマロ。その人懐っこい笑顔は、彼の人柄の良さを如実に感じさせる。

そんな眩しい笑顔を向けられたライトも、破顔しつつ心からお祝いの言葉をかける。

そしてレオニスがアマロに話しかけた。

「さ、早く席の方に行きな。皆新郎新婦の着席を待ってるぞ」

「そうだね、また後でゆっくり話をしようか」

「ああ、また後でな」

レオニスの言葉に、アマロが新婦を伴い雛壇の方に移動していく。

そして新郎新婦の二人が雛壇の席の後ろに立ち、二人の後をついてきたヴァイキング道場主であるハンザが挨拶を始めた。

その挨拶の間に、門下生達が招待客全員にシャンパンやソフトドリンク入りのグラスを配っている。

「本日はご多用の中、我が息子アマロ・パイレーツとその生涯の伴侶サティ・ゴートの披露宴にお越しくださり、心より感謝申し上げる」

「若き二人の輝かしい未来と門出を皆々様に祝していただくため、ささやかながら食事をご用意させていただいた。今日は心ゆくまで飲んで食べて語り尽くしていただきたい」

「それでは……乾杯!」

「「「乾杯ーーー!」」」

ハンザの乾杯の音頭に、招待客全員がグラスを高々と掲げて祝う。

ちなみにライトだけでなく、レオニスもぬるぬるドリンク薄黄色で乾杯していた。

その後は新郎新婦が雛壇に座り、招待客達も立食で思い思いの食事を取り、庭園は再び歓談の場となっていく。

大きなテーブルの上には、ホド名物のかぼちゃを使ったミートパイやグラタン、サラダ、スープなどを始めとして、他にもシーフードマリネにアヒージョ、カットステーキ等々、どれも華やかで素晴らしい絶品料理が並ぶ。

ライトとレオニスもお皿にいくつかの料理を乗せて、再び庭園の端の方に移動してかゆっくりと食べていた。

「うわッ、このマリネ美味しーい!」

「カットステーキも美味ぇな。よし、後でおかわりしてこよう」

「レオ兄ちゃん、他の人の分もちゃんと残す程度にしてね?」

「もちろん。さすがに今日くらいは俺だって節制するぞ?」

人気の少ない壁の花と化し、披露宴の料理に舌鼓を打つライト達。

今日はレオニスもトレードマークの深紅のロングジャケットを着ていないので、レオニス目当てに寄ってくる権力者や野次馬達も出てこない。スーツ効果のおかげで、当初の目論見通り目立たずのんびり過ごせて万々歳である。

そんな二人のもとに、気軽に声をかける者が現れた。

「レオニスの旦那、遠慮しなくていいぜ? あっちの調理場にはまだまだたくさんの料理が控えてるからよ」

「あッ、バッカニアさん!」

「そうだとも、バッカニアの言う通りだ。今日はアマロの結婚を祝う晴れの日だ、レオニス君もライト君も遠慮せず好きなだけ食べていってくれ」

「おお、ハンザ!あれから体調の方はどうだ?」

「おかげさまでこの通り、ピンピンしておる!」

ライト達のもとに現れたのは、バッカニアとハンザ。

二人とも招待客に挨拶をして回っているようだ。

ちなみにバッカニアの他の家族、コルセアやレイフ、母グレイスも今は別の招待客達と歓談している。

「アマロの目出度い日に、俺達も参加させてもらってありがとう」

「いやいや、こちらこそ礼を言わねばならん。レオニス君達に祝ってもらえるなんて、これ程光栄なことはない」

「アマロも結婚して、ヴァイキング道場のこれからはますます安泰だな」

「だといいのだがな」

レオニスとハンザが穏やかに会話を交わしていると、少し離れたところからハンザを呼ぶ声が聞こえてきた。

それはヴァイキング道場の門下生の一人で、ハンザに用があるようだ。

「ハンザ大先生、あちらに南辰二刀流のナハト・ズィーゲル先生がいらしております」

「おお、そうか。分かった、今すぐ行く」

門下生の呼びかけに、ハンザが振り向きながら承諾の返事をする。

そしてすぐにレオニスの方に向き直り、申し訳なさそうに口を開いた。

「レオニス君、あまりゆっくりと話もできなくてすまんな」

「いやいや、俺のことは気にしないでくれ。ハンザこそ新郎の父ともなれば忙しくて当たり前だし、何ならバッカニア達とのんびり話でもしてるさ」

「そう言ってもらえるとありがたい。バッカニア、レオニス君達のもてなしを頼んだぞ」

「おう、任せとけ!」

バッカニアに後を託し、ハンザは呼びに来た門下生とともにその場を離れていった。

これだけ大規模な披露宴だ、他の剣術の重鎮達も大勢祝いに駆けつけてきているだろう。

そう、新郎新婦の親兄弟は招待客の接待に大忙しなのである。

そしてハンザが去った後、ライトがバッカニアに声をかけた。

「バッカニアさん、スパイキーさんやヨーキャさんは別のところにいるんですか?」

「ン? ああ、あいつらもこのホドに戻ってくるのは久しぶりだからな。こっちにいる幼馴染や道場仲間と話は尽きないみたいだ」

ライトの質問に、バッカニアが右手親指をクイッ、と立ててとある方向を指す。

その方向には、数人の道場仲間と思しき招待客と楽しそうに会話をするスパイキーとヨーキャがいるのが見える。

すると、その方向を見たレオニスが何かに気づいたようだ。

「ン? ありゃフェリックスか?」

「おう、フェリ兄も来てるぜ。レオニスの旦那も、フェリ兄と話していくか?」

「そうだな、せっかくだから挨拶しとくか」

皿に取ったご馳走をもっしゃもっしゃと食べていたレオニス。

とりあえず口の中のご馳走をごっきゅん!と全部飲み込んでから、スパイキー達のいる場所に歩いていった。

「よう、フェリックス」

「ン? …………おお、レオニスじゃねぇか!久しぶりだなぁ、元気にしてたか!?」

「おかげさまでな、この通り何とか元気に生きてるぜ」

「そうかそうか、そりゃ良かった!」

レオニスに声をかけられたフェリックス。

しばしきょとんとした顔をしていたが、レオニスであることが分かると途端にパァッ!と明るい顔になり歓迎する。

このフェリックスという男、ヴァイキング道場の卒業生にしてバッカニアも『フェリ兄』と呼んで慕う人物だ。

バッカニアより十歳年上で、レオニスから見ても九歳年上の先輩冒険者である。

フェリックスは今は別の町を拠点にしているが、一時期ラグナロッツァを拠点にしていた時期があった。

レオニスとはその時に知己を得た仲である。

「おいおい、レオニス、何だその格好は? そんなもん着てたら、一瞬誰だか全く分からんかったじゃねぇか」

「そりゃお互い様だ。お前だって普段は絶対着ないような格好してんじゃねぇか」

「違ぇねぇwww」

「「ワーッハッハッハッハ!!」」

お互い着慣れないスーツに身を包み、ふんぞり返りながら高笑いするレオニスとフェリックス。

冒険者同士の気の置けない会話からは、フェリックスもまたレオニスと同じく脳筋族特有の大雑把さ、もとい 朗(おお) らかさを感じる。

「つーか、フェリックスは今どこにいるんだ?」

「あー、今はビナーの街に住んでてな。薬草採取に励む日々よ」

「何だ、フェリックス。お前程の冒険者が、薬草採取なんかしてんのか?」

「レオニス、お前ね、薬草採取『なんか』なんてバカにしちゃいけねぇぞ? 薬草がなけりゃ、俺達冒険者がいつもお世話になっている回復剤だって作れんのだからよ」

「そりゃまぁそうだが……でも、聖銀級のお前がする仕事じゃねぇだろ?」

数年ぶりに会うフェリックスの現状を問うレオニス。

今彼はビナーという街を拠点にして、日々薬草採取に励んでいるという。

ちなみにこのビナーという街、首都ラグナロッツァから割と近い場所にあり、その周辺には薬効成分が豊富な薬草が採取できることで有名な街である。

フェリックスが薬草で有名な街ビナーにいること自体は、別に然程問題ではない。

そして『薬草がなきゃ俺ら冒険者だって困るだろ?』というフェリックスの言葉も分かるし正論だ。

だがそれでも、レオニスには疑問が残る。

何故ならフェリックスは、その腕っぷしの強さで聖銀級にまで上り詰めた男だ。

そんな男が、薬草採取などという新人冒険者でも請け負えるような仕事をしていることが不思議でならなかったのである。

そんなレオニスの疑問に、フェリックスは飄々とした動きで語り始めた。

「ぃゃぃゃ、俺だってもう三十路半ばよ? 体力的にそろそろキツくなってくるお年頃なのよ」

「ぃゃぃゃ、それはねぇだろう。三十半ばなんて、まだまだこれから働き盛りじゃねぇか」

「そりゃあな? 俺だってまだっつーか、当分は冒険者稼業を引退する気はねぇが。それでも俺は普通に長生きするつもりなんでな、ぼちぼち引退後を見据えてそれなりに貯金に励んだり、何かと準備を始めなきゃならん頃合いだと思ってるんだ」

「……まぁな、そりゃ確かに老後とか考えたら、貯金は早めに始めた方がいいとは思うがな」

「だろう?」

フェリックスがしみじみと語る将来設計?に、レオニスもまたしみじみと同意する。

今のフェリックスの年齢は三十五歳。一般的には働き盛りと呼ばれる年頃だが、常に危険が伴う冒険者稼業ともなると実情は厳しい。

年相応に体力が衰えてくれば危険な依頼は引き受け難くなるし、そうなると収入も右肩下がりに減っていくばかり。

そんな苦境に陥る前に、少しでも貯蓄して将来に備える―――フェリックスのそれは一見冒険者らしからぬ考え方だが、その堅実さはレオニスにとっては実に好ましく思えるものだった。

そしてフェリックスはなおも話を続ける。

「それにな、今ビナーの街では薬草の買取を強化しててよ。買取価格が過去最高額の右肩上がりで、薬草採取が大ブームになってんだぜ!」

「…………ン?」

フェリックスが興奮気味に語るビナーの現状に、レオニスの表情が『ン???』という顔になる。

そんなレオニスの表情の変化に気づくことなく、フェリックスは意気揚々と語り続ける。

「ビナーの冒険者ギルドで、受付の姉ちゃんに聞いたところによるとな? 何でも今ラグナロッツァでは、特にエクスポーションが不足している状態が続いているそうでな? それに伴って、近隣の街でも薬草を積極的に高価買取してるらしいんだ」

「ぁー……そゆことね」

「前は最高状態の薬草五本で100Gの買取だったのが、今はその2.5倍の250Gにまで跳ね上がってるんだぜ!空前絶後の薬草ブームってやつだ!」

「ぉ、ぉぅ、そうか……」

拳を握りしめ、熱く語るフェリックスの話によると、最高状態ではない多少傷んだ状態のものでも薬草なら何でも高値で買い取ってくれる状態なのだという。

その話に、レオニスだけでなくライトも凡そのことを察する。

ラグナロッツァにおけるエクスポーション不足は、言うまでもなくシュマルリの竜達におやつとして貢いでいるためだ。

そしてそれはレオニスだけでなく、買い占めの先鋒を竜騎士団が率先して担っている。

エクスポーションの品薄が続くせいで、薬草の買取を強化するという話は、レオニスもマスターパレンから聞いて知っていた。

その余波は何と、ビナー他ラグナロッツァ以外の周辺の街にまで及んでいたのである。

薬草バブルとも呼べるビナーの状況に、ライトもレオニスもアハハハ……という乾いた笑いしか出てこない。

まさかその薬草バブルの元凶である薬草不足を招いたのは、実は自分達です!とは間違っても言えない。

そんなライト達の微妙な変化に、フェリックスは未だ気づくことなく今度は少し落ち着いた声で話を続ける。

「……ま、ビナーの薬草ブームもいつまで続くか分からんがな。それでも薬草採取で稼げるうちは稼いでおこうと思ってな」

「ぁー、うん、まぁ、その、何だ……その薬草ブームはもうしばらくは続く、かも、な?」

「そうなのか? 何でそんなことが分かるんだ?」

「ぃゃ、その、俺もたまーにラグナロッツァの薬師ギルドに行くことがあるんだが、そん時にギルド職員がそんなようなことを言ってた、気が、する……」

「おお、そうなんか。レオニスは顔が広いもんな!それに、薬草不足が続くってことは俺が稼げる期間がそれだけ長く続くってことになるから、それはそれで俺的にはありがたいがな!」

小声でゴニョゴニョと取り繕うレオニスに、フェリックスは疑いもせずその言い訳を信じている。

ラグナロッツァの薬草不足が、まさかフェリックスの将来の老後資金貯蓄に有利に働くとは夢にも思わなかったレオニス。

……ま、フェリックスの将来設計に繋がるなら、それもいいか……とレオニスは心の中で思う。

するとここで、レオニスは強い視線が自分に向けられていることにふと気づいた。

その視線は、殺気という程の強いものではないが、それでも何かしらの意図を持って睨みつけていることを感じさせるもの。

チリッ、とした視線の発信先に目線を移すレオニス。

その方向はスパイキーの斜め後ろで、そこには濃茶色の騎士のようなピシッとした服を着た青年が立ったままレオニスを睨みつけていた。