軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1214話 鷲獅子騎士団団員イーノ

レオニスが感じた、何らかの強い意志が含まれた視線。

その先にいた青年は、濃茶色の騎士団員のようなパリッとした制服を着ていて、年の頃はスパイキーやヨーキャと同年代くらいか。

その制服に一応見覚えのあったレオニスが、小声でフェリックスに尋ねた。

「なぁ、フェリックス。スパイキーの後ろにいる、茶色の制服着ているやつ。あれって、鷲獅子騎士団の制服だよな?」

「ン? ああ、あれか? そうそう、ありゃヴァイキング道場の卒業生の一人で、鷲獅子騎士団に入ったイーノってやつだ」

「フェリックスも知ってるやつか?」

「いや、スパイキーの一つ下でヨーキャと同い年らしいから、直接話したことはほとんどなくてな。ただ、歴史あるヴァイキング道場はもちろん、このホドの街から鷲獅子騎士団入りする者が出ることなんざ滅多にないからな。そいつの鷲獅子騎士団入りが決まった時には、そりゃもう街中大騒ぎだったってのは俺も後から聞いて知ったくらいだ」

レオニスの質問に、スラスラと答えるフェリックス。

強烈な視線でレオニスを見つめていたのは、イーノという名のヴァイキング道場卒業生だという。

ヴァイキング道場の卒業生ということで、その繋がりで今日のアマロの結婚式にも参列した招待客の一人らしい。

ホドの街から鷲獅子騎士団入りする者など、それこそ数十年に一度の慶事。ヴァイキング道場はもちろん、街を挙げてのお祭り騒ぎだったという。

そしてレオニスの記憶通り、イーノが着ている濃茶色の制服は鷲獅子騎士団に所属する者だけが着用できる団員服だった。

しかしそうなると、ますますレオニスの疑問は深まる。

レオニス自身、鷲獅子騎士団と直接接点を持ったことはない。

鷲獅子騎士団も竜騎士団同様、ラグナ大公一族及び首都ラグナロッツァの治安を守るための近衛兵のような役割を持ち、市井の冒険者と深く関わりを持つこと自体が稀だからだ。

そんな鷲獅子騎士団員に、こうも強く睨みつけられる理由がレオニスには全く分からなかった。

「なぁ、何で俺は鷲獅子騎士団員に睨まれてんの?」

「さぁ……もしかして、どこかで恨みでも買ったんか?」

「そんな覚えは全くねぇんだがな……」

「酒場で絡んだ……とかな訳ねぇよなぁ?」

「当たり前だ。俺が下戸なのは、フェリックスも知ってるだろ?」

「もちろん。お前が【下戸界の金剛級】ってのは、ラグナロッツァにいた冒険者なら誰もが知ってることだしな」

「…………」

レオニスとフェリックス、二人してゴニョゴニョと話をしている。

それにしても、【下戸界の金剛級】とは一体何であろうか。金剛級とは本来は最上位の階級のはずなのに、一転して情けなさ満点の二つ名に変貌してしまっているではないか。

大陸一の強さを誇るレオニスは、酒の弱さも大陸一ィ!という比喩であろうし、そしてそれは紛れもない事実であるのだが。聞いてて心底嬉しくない二つ名である。

するとここで、フェリックスがレオニスに提言する。

「……ここで俺達二人でコソコソ話をしてたってどうにもならん。さっさと当人に聞いた方が早ぇだろ」

「そうだな……」

フェリックスの尤もな言い分に、レオニスも頷きつつスパイキー達の方に歩いていった。

そしてまずはスパイキーとヨーキャの二人に声をかける。

「よう、スパイキー、ヨーキャ。お前達も受付ご苦労さん」

「いやいや、アマロ先輩のお目出度い席で受付を任せてもらえるなんて、俺達にとっては光栄なことなんだぜ!」

「そうそう!いつもは威圧感と胡散臭さで、人に避けられやすいボクらだけど……スーツを着て椅子に座ってこなす受付なら、ちゃーんと仕事を全うできたしね……ウヒョヒョ☆」

いつもは半裸で山のようにデカいスパイキーも、猫背で目のクマがすごくて胡散臭さが半端ないヨーキャも、ネイビーや濃いグレーのスーツを着ていればいつになく明るく常識的な人間に見えるから不思議なものだ。

もっともヨーキャの場合、口を開けばやはり胡散臭さMAXに戻ってしまうのだが。

「つーか、ヨーキャはともかくスパイキー、よくお前の身体に合うスーツを見つけたな? もしかして、特注品か?」

「もちろん。ラグナロッツァのジョージ商会にも置いてないサイズの服を、このホドで買える訳ねぇって」

「そりゃまぁそうだよな」

「スパイキー君のこのスーツはねぇ、アマロ先輩のお嫁さんの実家で仕立ててもらったんだヨ!キャハ!」

二人のこの一張羅は、今日のこの日のために誂えたものだという。しかもそのオーダー先は、今日の主役の一人である新婦のサティの実家だというではないか。

サティの実家は『ゴート衣服店』という名の店を持ち、家族で仕立屋を営んでいる。そしてその店は、ヴァイキング道場第一支部の近くにあるらしい。

アマロとサティが出会ったのも、アマロがいつもゴート衣服店で道着の修繕を依頼していたのが縁なのだそうだ。

スパイキーやヨーキャが語る微笑ましい話に、思わずレオニスの頬も緩む。

最初の目的もすっかり忘れ、スパイキーやヨーキャと和やかな会話を楽しむレオニス。

するとそこに、例の鷲獅子騎士団と思しき青年が突如割り入ってきた。

「あの……お話し中のところをすみませんが……レオニス・フィア卿でいらっしゃいますよね?」

「ン? ああ、その通りだが」

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は鷲獅子騎士団所属のイーノと申します。以後お見知りおきを」

「ぉ、ぉぅ……」

イーノと名乗る青年は、スパイキーとヨーキャの間をわざわざ割って入ってまでレオニスに話しかけてきた。

頭を深々と下げて挨拶するところは、レオニスに対して相応の礼を尽くしていると言えよう。

だがその表情は未だ硬く、どことなく思い詰めているようにも見える。

そしてイーノは頭を上げ、レオニスに話しかけてきた。

「あの……実は、レオニス卿に折り入ってお話ししたいことがあるのですが……」

「ン? 何だ?」

「その……ここでは、ちょっと……」

イーノは何やらレオニスに対して話したいことがあるらしい。

しかし、イーノは左右をキョロキョロと見たりして、言い難そうにしている。どうやら他者にはあまり聞かれたくない話のようだ。

そこまで察してオーラを出されれば、さしものレオニスにもイーノの意図は十分に伝わってきた。

だがしかし、そこをレオニスは敢えてスルーせずにイーノに問うた。

「何だ、ここでは話せない話ってか?」

「その……そうです……」

「こう言っちゃ悪いが、俺にはそんな話を初対面のやつから聞かされる義務もなければ、それに付き合ってやらなきゃならん義理もないんだが?」

「!!!!!」

レオニスの突き放すような返事に、イーノの顔が微妙に青褪める。

実際レオニスの言うことも尤もで、もしこれがバッカニアやスパイキー、ヨーキャ、フェリックスなどの懇意の者達からの相談ならば、レオニスも喜んで話を聞いて親身に相談に乗ったことだろう。

だがこのイーノとレオニスは、ほんの数分前に会ったばかりの初対面同士。

いくらイーノがヴァイキング道場の卒業生だからといって、ただそれだけでレオニスが無条件で信頼を寄せる訳がない。

レオニスが諭すように、改めてイーノに話しかける。

「ここで話すなら、一応聞くだけは聞くが。どうしても話せないなら諦めてくれ」

「…………分かりました」

一見非情にも思えるレオニスの態度に、イーノは俯き加減で小刻みに震えている。

しかし、レオニスもここで折れる訳にはいかない。

個人の結婚式という非公式の場とはいえ、相手は鷲獅子騎士団の制服を着た正規の鷲獅子騎士団員。ここで下手な対応をして、鷲獅子騎士団に因縁を吹っかけられでもしたら、後々厄介なことになって困るのはレオニスの方なのだ。

初対面のやつと二人きりになって密談もどきをするくらいなら、他の知己が大勢いる前で話を聞く方が余程安全だ。

それに、このイーノというやつの言い分がおかしなものだったら、俺が断るより先に周りのやつらが諌めるだろ―――レオニスがそう判断するのも当然であった。

そうしたレオニスの警戒をイーノも理解したのか、下を向いていた頭をグッ、と上げてレオニスの顔を真っ直ぐに見つめた。

「でしたらここで構いませんので、私の話を聞いてくださいますか?」

「ああ」

ようやくレオニスの承諾を得られたイーノ。

意を決したように両手を強く握りしめ、再びガバッ!と頭を深く下げた。

「レオニス卿!是非とも我ら鷲獅子騎士団にも、その御力をお貸しください!!」

「「「!?!?!?」」」

突拍子もないイーノの嘆願に、レオニスだけでなく周りにいたライト達全員がその場で固まった。