軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1210話 ラーデの初めてとライトの久しぶり

その後ライト達は、三人と一頭でカタポレンの家で晩御飯を軽く済ませ、ラウルはラグナロッツァの屋敷に帰っていった。

一方ライトとレオニスは、ラーデとともに風呂に向かう。一応皆浄化魔法を身体や衣服にかけてはいたが、やはり入浴に勝ることはないのだ。

たっぷりの湯が張られた大きな浴槽に、ライトがヒャッホーィ!と叫びながら飛び込む。

いつものライトなら、お湯に浸かる前にかけ湯をしてー等々するところなのだが。邪竜の島討滅戦という大仕事を終えた後の解放感ということで、大目に見てやっていただきたい。

そしてライトの後に浴室に入ったレオニスに、ライトが飛び込んだ浴槽の湯がバッシャーーーン!と盛大にかかる。

その湯はレオニスに抱っこされているラーデにまでかかり、レオニス達は風呂に入る前からびっしょりである。

「おぉおぉ、こっちまでド派手に湯を飛ばしてくれたじゃねぇか」

「だってー、あれからゆっくりとお風呂に入れるのなんて、ものすごーく久しぶりな気がするんだもん!」

「まぁなー……ま、仕事で疲れた身体を解すにゃ風呂にゆっくり入るのが一番だわな」

「だよね!ラーデもこっちおいでよ!」

『………………』

風呂の中からラーデに向かって、両手を広げて『こっちおいで!』アピールをするライト。

だがしかし。皇竜メシェ・イラーデは生まれてこの方、人族が入るような風呂に入ったことなど一度もない。そもそも入浴という習慣がなく、してもせいぜい水浴びくらいまでだ。

ラーデは不思議そうな顔で、レオニスに問うた。

『……つかぬことを聞くが……これは一体、何なのだ?』

「ぁー、ラーデは風呂になんて入ったことねぇか。これは『風呂』といって、人族の習慣の一つだ。『入浴』とも言うが、要は温かい水を浴びて身体の汚れを落としたり、湯に浸かることで疲れを癒やす行為全般を指すんだ」

『ふむ、水浴びと同じものだと思えばいいのか?』

「そういうことになるな。……ま、百聞は一見に如かず、だ」

『???』

ラーデの質問に、レオニスはそれに答えながらラーデをライトに差し出した。

ライトがレオニスからラーデを受け取り、ラーデの背後にいるレオニスが手桶に湯を入れてラーデの身体にかけた。

『ンギャッ!?!?!?』

「これは『かけ湯』といってな、風呂に入る前に身体全体にお湯をかけておくんだ」

『お湯とは何ぞ!?!?!?』

「お湯ってのはな、温めた水のことを言うんだ。人族の場合、暑い夏なんかには水浴びもするが、基本的に人族の水浴びは体温より少し熱い温度に温めたお湯に入るんだ。つーか、こんな寒い冬に水浴びなんぞしたら凍死しちまうからな」

『そ、それは分かるが!皇竜たる我まで、このような『風呂』なるものに入る必要があるのか!?』

「ンー? そりゃもちろんあるさ。ラーデが人族の習慣や文化を知る機会なんて、この先そうそうないだろ?」

『そそそそれはそうだが……ギャフン!』

初めてのかけ湯体験に、ラーデが半ばパニックに陥りかけている。

そんなラーデに、レオニスは容赦なく二度、三度とかけ湯を続けている。

そして手足をジタバタとさせて暴れているラーデを、ライトは涼しい顔でがっしりと掴んで決して離さない。

いくらラーデが弱体化しているとはいえ、そこまで非力なはずもないのに。まるで生まれたての子犬か子猫でも扱うようなライト、今日も人外ブラザーズ弟としてその力を遺憾なく発揮しているようで何よりだ。

ラーデへのかけ湯を十分に済ませ、ライトはラーデを抱っこしながらちゃぷん……と湯に浸かる。

一方でレオニスは椅子に座り、手桶に湯を入れて二度、三度と自身の身体に満遍なくかけ湯をする。

それから浴槽に入り、ライトの横に座りふぅ……と一息ついた。

ライトもレオニスにつられるように、湯船の中でふぅ……と一息つく。

そんな頃にはラーデも湯の温度に慣れてきて、ふぅ……と一息ついている。

それはラーデの方が半ば諦めた感が漂うが、諦めておとなしく湯に浸かることでそれなりに入浴の気持ち良さを実感し始めているのかもしれない。

「はぁーーー……今週は、いつも以上に忙しかったねぇ……」

「だなぁ……公国生誕祭が無事終わったと思ったら、休む間もなく邪竜の島の急襲が起きたからなぁ」

「でも、邪竜の島の襲撃が公国生誕祭三日目でまだ良かったよね……これが初日や二日目とかだったら、ピィちゃんや竜騎士さん達に駆けつけてもらえなかったかもだし」

「全くだ……」

静かな浴室の中で、ライトとレオニスが会話する声だけが響く。

そしてライトは、己の腕の中で寛いでいるラーデの頭をそっと撫でた。

「でも……皆が頑張ったおかげで、天空島の危機は回避できたし。それに、こうしてラーデとも出会えて本当に良かったよね」

「だな。終わり良ければ全て良し、だ」

湯船の中で、しみじみとこの週末を振り返るライトとレオニス。

確かに今週はかつてない程に多忙を極めた。

水曜日からアクシーディア公国生誕祭が始まり、突然の来訪客シャーリィとともに存分に生誕祭を楽しんだ。

生誕祭中日の竜騎士達の飛行ショーも迫力満点だったし、翼竜牧場のふれあい広場やハリエット達学友とともに観たレインボースライムショーもとても楽しかった。

そんな楽しいひと時の後に、まさかあんな修羅場が待ち構えているとは。公国生誕祭中には夢にも思わなかった。

もともと三日後に敢行する予定だった邪竜の島討滅戦が前倒しになり、急遽天空島に駆けつけてきてくれたウルス達八咫烏、白銀の君を始めとするシュマルリの竜達、そしてピースに竜騎士達人族からの援軍。

そうした心強い援軍がたくさん駆けつけてきて、力を貸してくれたからこそ今という平和があるのだ。

二人がのんびりとした会話をしている間に、ラーデがライトの腕から抜け出して湯の中をふよふよと浮きながら泳いでいる。

皇竜と呼ばれるメシェ・イラーデが、人族とともに風呂に入るなど奇跡にも等しい光景である。

「……さ、明日も出かけなきゃならんことだし。ちゃちゃっと身体を洗って、ちゃちゃっと乾かしてとっとと寝なきゃな」

「だね!ラーデ、身体を洗うからこっちおいでー!」

『ンキュ?』

湯船からザバッ!と立ち上がったライト達。

のんびりと湯船の中を泳いでいたラーデをとっ捕まえて、洗い場で皆で身体を洗ったり洗髪を始めた。

初めて見る石鹸とその泡に、文字通り泡を食ったようにギャースカ慌てふためくラーデ。その様子にライトもレオニスも大笑いしながら、懸命にラーデの身体を洗ってあげている。

たくさんの泡を洗い流した後は、再びしばらく湯船に浸かり十分に身体を温める。

風呂から上がった後は、ライトとレオニス二人して腰に手を当てながら牛乳をクイーッ!と一気に煽る。

風呂上がりの一杯もまた、溜まった疲れを一気に吹っ飛ばす至福の時なのだ。

そして服を着て、リビングで髪の毛の乾かし合いをする。

レオニスがライトの髪を乾かす時にはライトがラーデを抱っこし、ライトがレオニスの髪を乾かす時にはレオニスがラーデを抱っこする。

ラーデはバスタオルで身体を拭うだけなので、湯上がり後も楽ちんである。

そうして髪の乾かし合いが終わり、後は布団に潜って寝るばかり。

するとここで、ライトがレオニスに声をかけた。

「ねぇ、レオ兄ちゃん、今日はレオ兄ちゃんの部屋でラーデといっしょに寝ていい?」

「そうだな、ラーデがある程度大きくなるまでは外で寝かすのも可哀想だしな。つーか、この家の中で過ごせるのもほんの数日だけかもしれんし」

「だよね!ラーデ、今日はぼくとレオ兄ちゃんとラーデの皆でいっしょに寝ようね!」

『よく分からんが、我に否やはない。其方らの好きにするがよい』

「ヤッター!」

レオニスとラーデの承諾に、ライトがその場で飛び上がって喜ぶ。

そして早速ラーデを抱き抱えて、意気揚々とレオニスの部屋に乗り込んだ。

キングサイズどころかトリプルサイズくらいの大きさを誇るレオニスのベッド。ライトがヒャッホーィ!と叫びながら、ラーデを抱き抱えたまま背中からダイブする。

今はライトも自室で一人で寝るようになり、この巨大ベッドでレオニスとともに寝るのは久しぶりのことだ。

ライトは巨大ベッドの上でゴロン、と横に転がって、腕の中にいるラーデにニコニコ笑顔で話しかける。

「ラーデ、今日はここで皆で寝るよ、おやすみ!」

『ああ。良い夢を』

「明日はぼくとレオ兄ちゃんはお出かけするから、ラーデはラウルといっしょにお留守番になるけど……お利口さんでお留守番しててね」

『万事我に任せておけ』

「ラーデにお土産を買う時間があるか分かんないけど……夜になる前には帰ってくるからね……」

明日の予定を伝えたり、ラーデに良い子でお留守番しているように、とラーデに話しかけるライト。

ラーデの見た目が50cmくらいしかないせいか、ラーデのことをすっかり子供扱いしている。

そんなライトに、ラーデが怒り出すことなどない。ラーデがこれからライト達の世話になることは間違いない事実だし、何よりラーデ自身この程度のことで怒る程狭量ではないのだ。

そして様々な話をしているうちに、ライトは目を閉じスゥ、スゥ……という寝息を立て始めた。

早々に寝てしまったライトに、後からベッドに入ってきたレオニスも静かに笑いながらライトの寝顔を見つめる。

ライト達がこうしてラーデを構ってあげられるのも、ラーデの身体が小さな今のうちだけだろう。

この先カタポレンの森の魔力をぐんぐん吸って、どんどん身体が大きくなれば、きっとこんなこともすぐにできなくなる。

今この瞬間しか味わえない平和なひと時。

ライトもレオニスも、この至福の平和を噛みしめながらラーデとともにカタポレンの夜を過ごしていった。