軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1195話 拭えぬ不安

ヴィゾーヴニルとグリンカムビが放った光線が、邪竜の島に直撃した。

邪竜の島周辺に、土埃のような靄が漂っている。

その様子を見た天使や竜騎士達が、思わず歓声を上げた。

「やったな!」

「ああ!あんな凄まじい威力の浄化砲が直撃したんだ、島の一つや二つ、簡単に木っ端微塵だぜ!」

「これで邪皇竜メシェ・イラーザも、邪竜の島もろとも無に帰したことだろう!」

神鶏達の放つ浄化砲の威力を目の当たりにし、自分達の勝利を信じて疑わない竜騎士達。

シュマルリの竜達も、一瞬呆気にとられながらも今では安堵の表情を浮かべている。彼らもまた、竜騎士達同様に勝利を確信しているのだろう。

しかし、レオニスやピース、そして神鶏達の後ろに控えている天使達の顔は何故か険しい。

じっと前を見据えたまま、微動だにしないレオニス達に気づいたディラン。不思議そうな顔でレオニスに問うた。

「レオニス卿、どうしました?」

「……いや何、邪竜の島が消えたところをこの目でちゃんと確認するまでは、決して油断できんと思ってな」

「そうですね……我々は少々浮かれ過ぎていたかもしれません」

レオニスの言葉にハッ!とするディラン。

瞬時に気を引き締めて、邪竜の島のある方向を見据える。

何故レオニスが未だに警戒しているかというと、ちゃんとした理由がある。

それは『神鶏達の浄化砲の威力が、レオニスの予想をはるかに下回っていた』ということだった。

今回はヴィゾーヴニルとグリンカムビ、天空島の神鶏二羽が同時に鳴き声を放った。もちろんその威力が強いことは間違いない。

しかし、昨年夏の神樹襲撃事件の時にレオニスが見たヴィゾーヴニルの浄化砲の威力は、そんなものではなかった。

目を開けることすらできない程の閃光に、とんでもなく凄まじい爆風。あの時ヴィゾーヴニルが発した衝撃的な威力は、その場にいた者達全員が一生忘れることはできないだろう。

そしてその時の威力に比べたら、先程放たれた浄化砲は明らかに威力が下回っていた。ヴィゾーヴニルとグリンカムビ、二体揃っての咆哮を放ったにも拘わらず、である。

これはやはり、夜明けまで待たずに深夜のうちに浄化砲発射を強行したせいか。

今現在の時刻は、まだ午前三時半を回ったばかりでまだまだ深夜の範疇。辺りは深い闇に包まれていて、夜明けには程遠いことを思うと神鶏達の力が十全に発揮できないのも致し方ないのだが。

しかし、こうした不安要素を感じていたのは何もレオニス一人だけではない。レオニスと同じく神樹襲撃事件解決の立役者であるピースや、神鶏達の真の実力をよく知る天使達も感じていたことだった。

神鶏達の名誉を重んじて皆口にこそ出さないが、それでもやはり胸中に漂う不安感を拭いきれない。

皆固唾を飲みつつ、静かに邪竜の島を注視し続ける。

次第に邪竜の島を包んでいた靄が風に流れ、再び邪竜の島が姿を現した。

それを見たレオニスの目が、極限まで大きく見開かれた。

「……何ッ!? 無傷だと!?」

驚愕するレオニスの横や後ろで、ピースやディラン、白銀の君も愕然とする。

神鶏達二羽の浄化砲が直撃したはずの邪竜の島は、木っ端微塵どころか何事もなかったかのように傷一つつかずそこに浮かんでいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「くそッ……これは一体どういうことだ……」

遠目にも健在なのが分かる邪竜の島の出現に、レオニスはギリッ……と歯を食いしばりながら、その端正な顔を歪める。

確かに神鶏達の浄化砲の威力は低めだったが、だとしても直撃を受けて無傷でいられるほど弱くもない。

何故神鶏達の浄化砲が効かなかったのかを、レオニスは懸命に脳内で模索する。

すると、レオニスの肩にいた闇の精霊=クロエが小さく叫んだ。

『パパ……あの島、島を丸ごと包むような大きな防御結界が張られてる!』

「何だとッ!?」

クロエから告げられた思わぬ事態に、またもレオニスは愕然とする。

確かによく目を凝らして見ると、薄い膜のようなものが邪竜の島全体を包むようにしているのが分かる。

それこそが、今クロエが言っていた防御結界なのだろう。

まさか邪竜の島に、そんな防御システムが施されているとは夢にも思わなかったレオニス。

しかもその防御システムは、神鶏達の浄化砲をも防ぎきるほどの頑強さを誇るとは、完全に想定外にも程がある。

そしてそれは光の女王や雷の女王も同じだったようで、二人とも目を大きく見開きながら絶句していた。

『グリンちゃん達の咆哮が、全く効いていない……ですって?』

『……まだよ!諦めるにはまだ早いわ!』

呆然とする光の女王の横で、雷の女王が悔しげな顔でキッ!と邪竜の島を睨みつける。

そして雷光神殿守護神であるヴィゾーヴニルに向けて、力強く指令を出した。

『一度目でダメだったから何だって言うの!だったら二度目、三度目を撃ち込めばいいだけのことよ!』

『ヴィーちゃん!グリンちゃん!貴方達の実力を、あの島にいるメシェ・イラーザに見せつけてやるのよ!』

『『クエエエエェェエエ工ッッッ!!!!!』』

邪竜の島に向けて右手をバッ!と翳し、追撃指令を出す雷の女王。

激しくも力強い女王の鼓舞に、二羽も大きな鳴き声で応えた。

そうして二度目、三度目の浄化砲を繰り出すヴィゾーヴニル達。その威力は初撃に劣らぬ強さを維持している。

神鶏達の絶え間ない攻撃に、邪竜の島の防御結界に僅かながら罅が入っていくのが見える。

防御結界を破りさえすれば、今度こそ神鶏達の浄化砲が邪皇竜メシェ・イラーザ本体にも届くようになるはずだ。

神鶏達が攻撃の手を緩めない一方で、邪皇竜メシェ・イラーザがいる魔法陣の周りに設置されている別の魔法陣から、大小様々な邪竜が次々と湧き出てくる。

その邪竜達は、神鶏達の浄化砲に手も足も出ずに蒸発させられていた。

この邪竜達の魂も、邪皇竜メシェ・イラーザの成長を促す糧となっていることは間違いない。

本当ならそれらが邪皇竜の糧になることは極力避けたいが、今はそんなことも言っていられない。

兎にも角にも、一刻も早く邪皇竜を仕留めなければならない。邪皇竜が成体化を果たしてしまったら、間違いなくこのサイサクス世界全土が地獄と化してしまう。

邪竜の島に向けて咆哮し続ける二羽の横で、光の女王と雷の女王がそれぞれの守護神の羽根に両手で触れながら、懸命に己の魔力を分け与えて続けている。

二人の女王達の支援があれば、神鶏達もまだまだ全力で戦い続けられるはずだ。

「ヴィーちゃん、グリンちゃん、頑張ってくれ!」

「ヴィー様、グリン様!あと少し、もう少しで邪竜の島の結界を突破できますぞ!」

「そしたら我らも邪竜の島に突っ込むぞ!」

「「「応ッ!」」」

『私達も竜騎士に負けてはいられませんよ!皆の者、突撃の準備をなさい!』

「「「ハッ!!」」」

レオニスやパラスが懸命に神鶏達を励まし、ディラン達竜騎士や白銀の君達シュマルリの竜達もいつでも突撃できるよう気合いを入れる。

もちろんレオニスもパラスも、ディランや白銀の君に遅れを取るつもりはない。彼ら彼女らとともに、丸裸になった邪竜の島に突っ込むつもりだ。

レオニス達の目の前にある邪竜の島。その防御結界は風前の灯で、もう間もなく天空島勢が落とすだろう。

そう、勝利はすぐ目の前まできているというのに。何故だかレオニスの中に嫌な感じがずっと燻り続けていた。

肌がざらつくような胸騒ぎが、どうにも止まらないのだ。

それはレオニスの冒険者としての勘か。

『何故だ……何故こんなにも嫌な予感が収まらない?』

『俺達はまだ、何か大事なことを見落としているのか……?』

『防御結界が完全に壊れれば、すぐに総突撃が始まる……そうなりゃ俺も、こうしてのんびり考える暇なんてなくなる』

『……何だ、俺達は一体何を見落としている?』

己の胸の内で止まらない嫌な予感を払拭するべく、レオニスは懸命に周囲を見回して観察し続ける。

険しい顔のまま懸命に考え込み、じっと前を睨み続けていた、その時。

レオニス達の頭上から、突如誰かの声が響いた。

『攻撃を止めよ』

「!?!?!?」

突如空から降ってきたその声は、凛とした透き通るような美しい声。その聞き覚えがある声に、レオニスは思わずガバッ!と上を見上げる。

そしてレオニスの目に映ったのは―――

「闇の女王!?」

カタポレンの森にある暗黒の洞窟、その主である闇の女王だった。