軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1196話 闇の女王の秘策

レオニス達の上で、悠然と浮き立つ闇の女王。

思わぬ存在の出現に、レオニスだけでなく光の女王と雷の女王も上を見上げたまま呆然としている。

しかし、他の者達には闇の女王の姿は見えていない。漆黒の夜空に溶け込んでいて見え難いのだ。

声はすれど姿は見えぬ何者かを探すように、皆周囲をキョロキョロと見回している。

ちなみにレオニスの場合、闇の女王やクロエの加護のおかげで夜目が効くので闇の女王の姿がちゃんと見えている。

そして二人の女王達も、属性の女王の姉妹同士ということでしっかりとその目に映っていた。

そして闇の女王がゆっくりと降下し、レオニス達のいる場所に近づいていく。

レオニスの目の前までくると、その近くにいる二人の女王や神鶏達が発する光に照らされて、闇の女王の全身が浮かび上がってきた。

しっとりとした流れるような艶やかな黒髪に、濡れたような黒い瞳。すっきりとした頬や顎のラインにふっくらとした唇。

艶めかしい漆黒の肌に、滑らかな流線型のスリムな美しい体型。存在感と気品に満ち溢れる高貴なオーラ。

闇の女王が放つ圧倒的な存在感に、シュマルリの竜達や竜騎士達が感嘆のため息を漏らす。

そんな中で、ようやく我に返ったレオニスが闇の女王に問うた。

「闇の女王……どうしてここに!?……いや、それよりどうやってここに来た!?」

心底驚きながら尋ねるレオニス。

闇の女王がここまで来た理由も気になるが、ここには転移門や瞬間移動用の設備など全くないのにどうやってここまで来たのかが、レオニスには分からなかった。

そんなレオニスの疑問に、闇の女王がきょとんとした顔で答える。

『どうして、とは? 其の方らは、今まさに危機に瀕しておろう?』

「そ、そりゃまあ、そうなんだが……」

『それに、どうやってここに来たも何も。闇満ちる夜こそ吾の領域にして、全てが吾が庭も同然。夜の間ならば、どこであろうと行きたいと思った場所に行けるのは当たり前のことぞ?』

「ああ、確かに……」

闇の女王が語る答えに、レオニスは未だ呆然とした顔つきながらも納得する。

夜明けどころかまだ深夜の今、全てが闇の女王のフィールドも同然。ウィカやアクアが水場を自由に行き来したり、火の女王や炎の女王もマグマや炎を通して互いの住処を行き来できるのと同じである。

そんな問答をしているうちに、やがてレオニスも冷静さを取り戻していく。

そして改めてレオニスが闇の女王に問うた。

「闇の女王、さっき『攻撃を止めろ』と言ったが……このまま攻撃し続けちゃマズいのか?」

『ああ。あの防御結界のように見える膜は、ただ単に防御を担っているだけではない。あれは幼体が成体になる前の繭のようなもので、言ってみれば今の邪皇竜は 蛹(さなぎ) なのだ』

「何だと……ッ!?」

闇の女王がレオニス達に攻撃を中止するよう言った理由に、レオニスが顔を歪めつつ驚愕する。

まさかあの防御結界が、単なる防御結界というだけではなく蛹の繭の役割をしていたとは。

そしてこの『蛹の繭』という喩えは実に秀逸で、何故闇の女王が攻撃を中止するよう言ったかを皆瞬時に理解した。

繭に篭った蛹―――邪皇竜メシェ・イラーザが繭から解き放たれて、羽化すればどうなるか。

それは『サイサクス世界の滅亡』に他ならなかった。

『あの結界の繭の中は、ものすごい濃度の瘴気で満ちている。それが解き放たれれば、周囲にいる其の方らもただでは済まん。それは分かるな?』

「あ、ああ……確かに洒落にならん事態になるだろうな」

『しかも、だ。あの邪皇竜は、其の方らの攻撃……そこな神鶏達が放つ浄化の力をも取り込み、成長の糧としておるのだ』

「何だとッ!?」

『『!!!!!』』

闇の女王のさらなる解説に、レオニス達は愕然とする。

邪竜の島の中央にいる邪皇竜メシェ・イラーザは、邪竜の魂を糧に成長していることはレオニス達も知っていた。

しかし、邪竜達の勢いを削いでメシェ・イラーザの誕生を阻止するためには、敢えて攻撃の手を緩めずにいた。そのことが、またも敵に利する行動になっていたとは。

ずっと敵の思う壺だったことに、レオニスが悔しげに歯を食いしばる。

「くそッ……何てこった……」

『其の方ら人族が、それを知らぬもの無理からぬこと。しかし……光の女王よ、其の方なら邪皇竜のことも知っているはずだが……』

『…………???』

顔を顰めながら唸るレオニスに、闇の女王が慰めの言葉をかける。

と同時に、闇の女王が光の女王をちろりと見遣る。

闇の女王の口から突如自分の名が出てきたことに、光の女王は無言のまま戸惑っている。どうやら光の女王には、何故闇の女王が自分を引き合いに出したのか、全く心当たりがないようだ。

そして光の女王の顔を見た闇の女王が、はたとした顔で呟いた。

『……ああ、もしかして其の方、代替わりして間もない年若い女王なのか?』

『え、ええ……私が女王になってから、まだ百年も経っていないので……』

『そうか。それ故其の方の記憶の中には、 皇竜(・・) に関する記憶が未だ出てきておらんのだな。……まぁ、それも致し方あるまい。吾とて皇竜に関する記憶など、滅多に思い出すことではないからな』

レオニス達は知らなかったが、光の女王は代替わりしてからまだ百年に満たないという。

これを『年若い』と言う闇の女王は、果たして何歳なのか―――という疑問は、この際横に置いておこう。

闇の女王が光の女王の目の前に進み出て、穏やかな声で語りかける。

『其の方の中に眠る皇竜の記憶……吾が呼び覚ます手伝いをしてしんぜようぞ』

『…………ッ!!!』

闇の女王が右手の人差し指を突き立てて、光の女王の額にちょこん、と優しく触れた。

すると、それまでずっと戸惑い気味だった光の女王がハッ!とした顔でその目を大きく見開く。

闇の女王が光の女王の額に触れた途端、光の女王の頭の中に様々な記憶が雪崩のように怒涛の勢いで蘇り続けていた。

様々なことを瞬時に理解した光の女王。

闇の女王が光の女王の顔を覗き込みながら、そっと尋ねた。

『……どうだ、思い出せたか?』

『ええ……闇の姉様のおかげで、全て理解できました』

『そうか、それは良かった』

光の女王の答えに、闇の女王がニッコリと微笑む。

闇の女王に『年若い』と言われた光の女王は、闇の女王のことを『闇の姉様』と呼ぶことにしたようだ。

そんな二人の様子に、若干蚊帳の外の雷の女王がオロオロとしながら問うた。

『え、えーと……何がどうなっているか、私達にも分かるように説明してくれるかしら?』

『そうね……これは皆にも話しておかなければならないわね』

雷の女王の要求に、光の女王が顔を上げて話し始めた。

『まず、あの邪皇竜がかつては皇竜と呼ばれていた、というのは、そこにいる子……闇の精霊がさっき語った通りなんだけど』

『もともと皇竜は、光と闇の両方の性質を内包していたの。神にも本来は善悪などないように、光と闇も単純に善悪で分かつものではないから』

『皇竜の中で、光と闇は同量が共存していたの。それこそが、メシェ・イラーデが皇竜という名を持つようになった理由で、まさに稀有な存在なの』

『でも、それがいつしか善悪とはまた違う『邪』に侵されて、皇竜は邪皇竜という厄災に墜ちてしまった……』

闇の女王の手助けにより得た記憶を、悲しげな表情で語る光の女王。

それは、皇竜という存在が邪皇竜などという醜悪な魔物に歪められてしまったことへの悲しみか。

『邪皇竜がグリンちゃん達の浄化の攻撃を成長の糧にできたのも、邪皇竜の中に皇竜の光の部分が今も残っていて……それを利用されてしまっているの』

『ほら、皆にも見えるかしら? あの邪皇竜の喉元あたりで、苦しそうに呻いている皇竜の顔が……』

光の女王が指差した方向を、レオニス達は一斉に見遣る。

かなり罅が入った防御結界の向こう側には、邪皇竜メシェ・イラーザがニヤリ……と醜悪な笑みを浮かべている。

そしてその喉元が、他の赤黒い部分と違って薄っすらと光り輝いて見える。

その薄く儚い光こそが、皇竜メシェ・イラーデの魂の一欠片だった。

それまでずっと、属性の女王達の話を静かに聞いていたレオニスが、光の女王に話しかけた。

「そうか……つまり、皇竜メシェ・イラーデが持つ光の性質を、邪皇竜メシェ・イラーザに逆手に取られたってことだな?」

『ええ、そうよ。そして、メシェ・イラーザが成体となったら……メシェ・イラーデは邪に完全に飲み込まれて、消滅してしまうわ……』

「だろうな。邪皇竜が完全体になれば、前身である皇竜はお払い箱っつーかただの邪魔者でしかないからな」

『ええ……』

レオニスの確認するような問いかけに、光の女王は全て頷く。

そして、このままでは幾許もしないうちに現実と化すであろう悲劇的な未来に、光の女王の顔はますます翳りを強くしていた。

しかし、レオニスの目は絶望していない。

天色の瞳は力強く輝きながら、前を見据えていた。

「逆に言えば、邪皇竜の中の皇竜―――メシェ・イラーデを引っ張りだすことができれば、邪皇竜を消滅させることができるんじゃないか?」

『理論的にはそうなるけど……グリンちゃん達の浄化の力も使えない今、他に何か手立てがあるの……?』

レオニスの言葉に、光の女王が戸惑いながら問い返す。

確かにレオニスの言うように、皇竜の中に巣食う邪悪な存在だけを消滅させることができれば、今の絶体絶命のピンチを切り抜けられる。

いや、ピンチを切り抜けるどころの話ではない。レオニス達は勝利を得て、サイサクス世界の危機をも回避できる。

しかし、果たしてそんな方向があるのだろうか。

光の女王が力無く呟いたように、今のレオニス達は八方塞がりに陥っているとしか思えない。

邪竜の島を撃墜する切り札だったはずの神鶏達の浄化砲は封じられ、襲い来る邪竜を撃破するだけでも邪皇竜の贄となりその成長を促してしまう。

これでは何をどうすればいいか、光の女王でなくとも途方に暮れるのも無理はなかった。

しかし、この場の状況に絶望していないのは、レオニス一人だけではなかった。

闇の女王がレオニスを見ながらニヤリ……と笑っていた。

『ほほう……レオニス、やはり其の方はココ様のパパを務めるだけあって見所があるな』

「ン? そ、そうか? そんなん言われたら照れるじゃねぇか」

『照れずとも良い。其の方が先程言うた策……邪皇竜の中の邪だけを倒す。吾がここに来たのも、まさにそのためだ』

不敵な笑みを浮かべる闇の女王に、レオニスはもとよりその場にいた全員が目を大きく見開き驚いている。

そしてレオニスもまた瞬時にニヤリ……と笑い、闇の女王に問いかけた。

「あんたがそう言うってことは……何か手があるんだな?」

『もちろん。そのためには、あの御方の御力をお借りせねばならぬ』

「あの御方?」

闇の女王に何か策がある、というのは分かったが、そのためにはさらに誰かの手を借りなければならないという。

この場には既に、レオニスが呼び得る援軍のほぼ全てが集結しているのだが。闇の女王に言わせれば、まだ借りられる手があるらしい。

そんな伝手に心当たりがないレオニス、不思議そうに闇の女王に問うた。

「あの御方って、それは一体誰のことなんだ?」

『ン? そんなのもちろん……』

レオニスの問いかけに、闇の女王がとんでもない答えを口にした。

『ココ様に決まっておろう?』

「!?!?!?」

あまりにも想定外の答えに、レオニスは今日一番の衝撃を受けていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「…………」

『そもそも吾が『あの御方』と呼ぶなど、ココ様を置いて他におる訳がなかろう。というか、本当はココ様をこのような危険な戦いの場に巻き込みたくはなかったのだがな……事ここに至っては致し方あるまい。あれが邪に堕ちたまま世に放たれれば、もはや地上に安全な場所などなくなるからな』

闇の女王の話に、言葉が出ないレオニス。口をあんぐりと開けたまま、息をするのも忘れてしまったかのようだ。

そんなレオニスのことなど構うことなく、闇の女王はさも当然のように返している。

しばし絶句していたレオニス、頭は混乱しつつも何とか気を取り直し闇の女王に問い質した。

「え? え? ココをここに呼ぶって、一体どういうことだ? というか、ココの力を借りるって、そもそもココはもうここにいるぞ?」

『…………』

「……ココ? おい、どうした?」

しかし、闇の女王が言う『あの御方』というのがクロエのことだと知り、レオニスは思わず己の右肩にいる闇の精霊を見た。

だが、闇の精霊の様子がどうにもおかしい。

その顔はぼーっとしていて、心ここに在らず、といった感じだ。

というか、そういえばクロエは先程からレオニス達の会話にも全く入ってきていない。そして今もレオニスの呼びかけに全く返事もしない。

もしかして、闇の精霊に憑くのを中断してしまっているのか。

いつの間にかクロエが闇の精霊から抜けてしまっていたことに、レオニス他誰も気づいていなかった。そう、唯一人、闇の女王を除いて。

『ココ様はもうすぐここにいらっしゃる。それまであの繭は吾が闇の力で封じ込めておく故、其の方らは吾を守れ。もう少しあの島に近づかねば、闇の力を駆使するのも厳しいのでな』

「え、ちょ、待、ココがこっちに来る? ココは空を飛べるようになったんか?」

『そんな訳なかろう。ココ様はノワール・メデューサぞ? メデューサ族が空を飛べる訳あるまいて』

スッ……と前に進み出る闇の女王に、レオニスが慌てふためきながらその後を追いかける。

確かに闇の女王の言う通り、かなり離れた今の距離では邪竜の島に闇の力を行使するのも一苦労だろう。

そのため闇の女王は前に進み出た訳だが、レオニスにしてみたら闇の女王の言っていることがさっぱり理解できない。

メデューサ族とは、上半身が人族で下半身が大蛇という身体的特徴を持つ。

蛇とは基本的に地を這うものだから絶対に飛べない、という訳ではないが、それでもやはりこのサイサクス世界でも飛行能力を持つ蛇というのはかなり稀だ。

そしてメデューサ族もその例に漏れず、飛行能力は持ち合わせていない。

飛べないクロエが、どうやってこの天空島周辺に来るってんだ?もし来れたとしても、いいとこ天空樹の島までで、この場に来るのは無理だろ!?というレオニスの疑問は、実に尤もなものだ。

しかし、闇の女王は全く意に介することなく平然と答えを口にした。

『先程ラウルとライトに、ココ様をここに連れて来るよう頼んでおいた』

「え!? ラウルとライトに!?」

『そう。だから、其の方らがココ様のことを心配する必要はない。其の方らが吾とともに今すべきことは、唯一つ。ココ様が到着するまで、あの繭―――蛹と化した邪皇竜を抑えることだ』

「~~~ッ!!………………分かった!」

闇の女王が先手を打っていたことを明かされたレオニス、あまりにも衝撃的な情報が多過ぎてもはや頭の中はパンク寸前だ。

しかし、ここで無為に過ごして時間を無駄にする訳にはいかない。

こんな危険な場所に、ラウルどころかライトまで巻き込んだことは後で抗議するとして。今は目の前に迫る世界滅亡の危機を回避することに専念しなければならない。

レオニスは意を決し、周囲にいた者達に向かって大きな声で呼びかけた。

「皆!闇の女王が邪皇竜を食い止めてくれるそうだ!俺達は全力で闇の女王を援護するぞ!」

「「『応ッ!!』」」

レオニスの呼びかけに、他の者達も威勢よく応じる。

皆レオニス同様に、何が何だか今一つよく分かっていないが、それでも何かしなければならないことだけは分かる。

闇の女王が先陣を切り、邪竜の島に向かう。

レオニス達は、邪皇竜に対する唯一の切り札となり得る闇の女王を守るべく、一斉に邪竜の島に向かっていった。