軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1177話 天空島の危機

「!?!? どうした!一体何があった!?」

カタポレンの家の玄関前に倒れていた天使を見たレオニスが、慌てて天使の横にしゃがみ中級回復魔法のキュアラを天使にかける。

レオニスはその天使の顔も名前も知らないが、天空島から来た者であろうことは着ている衣服や防具から察せられた。

そしてキュアラを三回かけたところで、青褪めていた天使の顔色に血色が戻ってきた。

そして薄目を開けて、目線だけで周囲を見る天使。自分のすぐ横にレオニスがいることに気づき、ハッ!とする。

「ああ……ちゃんとレオニス殿のところに辿り着けたか……」

「しっかりしろ!何があった!?」

「……天空島が……邪竜の群れに急襲されたのだ……」

「何だとッ!?」

未だぐったりとしている天使に向けて手のひらを翳し、追加のキュアラを二回かけるレオニス。

その間、レオニスは心の中で『くそッ、三日後にはこちらから邪竜の島に討って出る予定だったのに……』と思いながら歯軋りする。

現時点ではまだ詳しいことは全く分かっていないが、それでも邪竜の群れというからにはレオニス達が討滅する予定だった邪竜の島から出てきたものである可能性が高い。

しかも時刻は深夜、天空島に住まう者達が最も力を発揮しにくい時間帯だ。

邪竜の群れが果たしてそこまで狙ってやったのかどうかは定かではないが、不意を突かれた天空島勢が形勢不利なのは間違いなさそうだ。

そんなことをレオニスが考えているうちに、天使の方も五回もキュアラを受けて何とか回復してきたのか、自ら上半身を起こしてそのまま地面にぺたりと座り込んだ。

天使の体調がだいぶ良くなってきたところで、レオニスが天使に事情を聞こうとしたその時。ライトが玄関に出てきた。

ライトも先程の玄関を叩く騒がしい音で目が覚めてしまい、何事かと思いつつ様子を見に来たようだ。

「レオ兄ちゃん、どうしたの?…………って、え、何、天使さん!?」

「ライトか、ちょうどいいところに来た。ラグナロッツァの屋敷に行って、ラウルとマキシを呼んできてくれるか」

「う、うん、分かった!……って、何て言って呼んでくればいいの?」

「天空島が邪竜の群れに襲われているらしい」

「!!!!!」

レオニスの言葉に、ライトは驚愕しつつすぐに自室にすっ飛んでいった。

玄関に天使がいるのを見た時点で、ライトも天空島に何事かが起きたことを感じ取っていた。

普段天空島にいる天使が、こんな夜中に自分達の家を訪ねてくること自体が既に異常事態だからだ。

しかし、事態はライトの予想よりはるかに逼迫していた。

ライトは自室に戻ると、急いでパジャマから私服に着替えながらベッドで寝ているケリオンを起こした。

「ケリオンさん、寝ているところを起こしてごめんなさい!起きてください!」

「……ンぁ……ら、らいと殿……ふぁぁ……どうかしましたか……?」

「天空島が邪竜の群れに襲われています!」

「……!?!?!?」

ライトに叩き起こされたケリオン。

最初のうちは寝ぼけ眼でぼんやりとしていたが、天空島が一大事と聞きびっくりしながら飛び起きた。

「ラ、ライト殿、それは真ですか!?」

「はい、今うちの玄関に天空島にいる天使さんが来てて、レオ兄ちゃんが対応してます。きっとぼく達に助けを求めに来たんです」

「わ、わかりました、では私も父様を起こしてレオニス殿と合流します!」

「よろしくお願いします!ぼくはラグナロッツァの屋敷に行って、ラウルとマキシ君を連れてきます!」

ケリオンは慌ててライトの部屋を出ていき、着替え終えたライトは自室の転移門でラグナロッツァの屋敷に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

程なくして、ライトはラウルとマキシとともにカタポレンの家に戻ってきた。

時間にして約三分。まだ起きていて厨房で料理の仕込みをしていたラウルが黒の天空竜革装備に着替えたり、その間ライトが二階で寝ていたマキシを起こして事情を話したりして、できる限り急いできた結果だ。

その間にウルスとケリオンが玄関に移動し、レオニスは天使から事情を聞いていた。

「今天空島はどういう状況になっている?」

「今はパラス隊長を中心に、邪竜の群れを迎撃しているが……状況は芳しくない」

「何故だ? 邪竜の数が予想以上に多いのか?」

「数も多くて厄介だが、何より今回の邪竜達は……これまでとは比較にならないほどデカいんだ……」

レオニスの問いかけに、天使が力なく項垂れながら天空島の状況を語る。

「デカいって、どれくらいの大きさなんだ?」

「通常状態のヴィー様やグリン様とほぼ変わらん」

「何ッ!? ヴィーちゃん達と大きさが変わらん邪竜だと!?」

「ああ。しかもそれが一匹二匹じゃない。何百といる邪竜の半数近くがヴィー様達並みの大きさなんだ……」

「そんなんが天空島で暴れまくってんのか……」

天使の証言に、レオニスが目を大きく見開きながら驚愕する。

レオニスが天空島勢から事前に聞いていた情報では、これまでの邪竜は5メートルから10メートル程度で小型のものが多いはずだった。

しかし、今の天使の話が事実なら、事態はかなり深刻だ。

神鶏ヴィゾーヴニルやグリンカムビと大差ない体格というと、下手をすれば竜の女王である白銀の君よりも大きさを上回るかもしれない。

邪竜の群れも、10メートル越えの巨体が多ければ厄介だが、10メートル以下の小型が主流なら余裕で撃破できるはず―――レオニスのそうした事前の目論見が早くも崩れた格好になる。

「今はまだパラス隊長やヴィー様、グリン様も踏ん張っておられるし、各島も女王様方やエル様の防御結界で何とか凌いでいる。だが……ヴィー様達は、この真夜中では全力を発揮できない。どれだけヴィー様達の咆哮で敵を撃ち落としても、邪竜の島から絶えず邪竜が涌き続けては天空島目がけて襲いかかってきている」

「確かにな……夜明け前の深夜じゃヴィーちゃん達も全力は出せんだろうな」

「ああ。そして結界が破られるのも時間の問題だろう、とパラス隊長は仰っておられた。だから今のうちにレオニス殿達に助力を求めるよう、パラス隊長が指示されて私がここに来たのだ」

「そうか、なら俺達も急いで助けに行かなきゃならんな。だが……」

天空島に迫る危機に、レオニスが懸命に脳内で考える。

本当なら今すぐにでも天空島に駆けつけたいが、邪竜の群れの攻勢が想定以上に強いことを考えると、こちら側も少しでも戦力を掻き集めてから天空島勢と合流したい。

レオニスだけで乗り込んで、やはり自分一人だけじゃ手に負えません!追加の援軍呼んできます!なんてことになったら、それこそ時間の無駄になってしまうからだ。

ラウルとマキシはライトが呼んできてくれるからいいとして……問題は白銀達竜族とピースだな。

白銀達もさすがにこの時間は寝てるだろうが、天空樹のエルちゃんがいる天空島の危機とあらば何をさて置いてもすっ飛んでくるだろう。

シュマルリの方は、ライトとラウルを遣いに出してラグスの転移門で天空島に直接移動するように伝えればいいか。

一番の問題はピースなんだが……天使の話からするに、おそらくは相当厳しい戦いになるだろう。となると、やはりピースにも絶対に駆けつけてきてもらわなきゃならんな……

レオニスが懸命に考えていると、レオニスのもとにライトとラウル、そしてマキシが到着した。

特にラウルは血相を変えてレオニスに迫る。

「レオニス!天空島が邪竜の群れに襲われてるってのは本当か!?」

「ああ。それを知らせに来てくれた天使に、今事情を聞いていたところだ」

「……リィシエルじゃないか!大丈夫か!?」

「ああ、ラウル先生……レオニス殿に回復魔法をかけてもらいました故、この通り大丈夫です」

「お前、大丈夫って顔色じゃないだろう……」

レオニスの向こうにいる天使、リィシエルの顔を見たラウルが慌てて天使の横に駆け寄る。

ラウルは天使達に何度も野菜栽培指導をしていたため、今では天空島にいる全ての天使の顔と名前を覚えていた。

リィシエルという名の天使の背に、ラウルが心配そうに手を添えながらレオニスに問うた。

「 天空島の皆は大丈夫なんだよな?」

「今のところは耐えているらしいが、邪竜の群れの勢いが思った以上に強いらしい。早いとこ援軍を出さんと、かなり厳しいようだ」

「なら、今すぐ天空島に行くぞ!天空島の皆を助けないと!」

食いつき気味にレオニスに迫るラウル。

天空島にはラウルが親しくしている者も多い。

天空樹のユグドラエルを始めとして、木の精仲間のドライアドや野菜栽培仲間のパラスやリィシエル他天使達、そして二羽の神鶏や二人の属性の女王だって全員ラウルの大事な仲間だ。

そんな大事な者達の危機に、ラウルの気が逸るのも無理はない。

しかしレオニスは、そんな逸るラウルを制する

「待て待て、ラウル、慌てるな」

「これが慌てずにいられるか!早く天空島に行こう!」

「いや、だからな? 天空島の仲間達を助けるためには、こっちもより多くの戦力を連れていかなきゃならん」

「何ッ!? 俺やレオニスが駆けつけるだけじゃ戦力不足だってのか!?」

「ああ、その通りだ。そこの天使の話によると、白銀やヴィーちゃん達並みの体格を持つ邪竜がうじゃうじゃいるらしい」

「……ッ!!!」

暗に戦力不足と言われたラウルが一瞬気色ばむも、その直後にレオニスから放たれた予想外の言葉に動きが固まる。

白銀の君や神鶏並みの巨大な邪竜がうじゃうじゃいる―――これがどれほどヤバいことなのか、頭に血が上ったラウルでもさすがにすぐに分かったらしい。

全身に冷水を浴びせられたようなものだが、逆にそれがラウルの頭を冷やして思考を落ち着かせた。

「……確かに。そんだけヤバい状況なら、こっちも戦力を増やしてからでないと話にならんな」

「そゆこと」

「なら、俺達はまず何をすればいいんだ?」

冷静さを取り戻したラウルに、レオニスも内心ほっとしながら指示を出し始める。

「まず、ラウルはライトといっしょにシュマルリの竜王樹のところに転移門で移動して、白銀や竜族達の援軍を掻き集めてくれ。お前自身はシュマルリとはあまり縁はないが、ライトといっしょなら向こうも受け入れてくれるはずだ」

「承知した。その後はどうすればいい?」

「もともとお前が担当する予定だった、ツェリザークでの邪龍の残穢への警戒。これは夜明け以降でいい。真夜中に邪龍の残穢が発生するというのは聞いたことがないからな」

「分かった。そしたらシュマルリで竜族達の援軍を取りつけた後は、俺もライトといっしょに天空島に移動するってことでいいか?」

「ああ。それでいい」

ラウルにテキパキと指示を出すレオニス。その言葉に、ラウルも素直に頷きながら従う。

そしてレオニスは、今度はライトに向けて指示を出した。

「いいか、ライト、お前はエルちゃんの島から絶対に出るな。本当ならお前にはここで留守番していてほしいところだが、今はそんなことも言ってられん。負傷者が多く出てて、皆エルちゃんのところで治療してるらしいからな。ライトもエルちゃんのところで、天使達にエクスポーションを与えるなどの治療を手伝え」

「分かった!……で、レオ兄ちゃんはどうするの? レオ兄ちゃんも、天空島に行く前にどこかに行くの?」

レオニスの指示に頷きつつ、ライトがレオニスに問うた。

「俺は魔術師ギルドに行ってくる。魔術師ギルドに常時設置してある緊急回線で、ピースを呼び出してから二人で天空島に向かう」

「ああ、ピィちゃんね!そういえばピィちゃんも、邪竜の島の討滅戦に参加する予定だったもんね!」

「そゆこと。あいつの力があれば、味方の戦力強化の大幅アップが見込めるからな」

レオニスの答えに、ライトやラウルどけでなくマキシ達八咫烏も大いに納得する。

実際昨年夏の神樹襲撃事件の際に、ピースは門外不出の秘術を使ってまで事件解決に尽力してくれた実績がある。

あの事件を勝利に導いたのは、同じく援軍として駆けつけてきてくれた神鶏ヴィゾーヴニルにも負けない程のピースの貢献あってこそだった。

そしてここで、マキシがレオニスに声をかける。

「レオニスさん!僕達は何をすればいいですか!?」

「そうだな……もし可能なら、八咫烏の一族からもう少し戦力を引っ張ってきてくれるとありがたい。皆普通に寝ているだろうから、叩き起こすのは忍びないとは思うが……」

「そんなことありません!天空島の危機ということは、天空樹のエルちゃんの危機。シアちゃんの一番上のお姉さんの身が危ない時に、のうのうと寝ている八咫烏など絶対にいません!」

就寝中であろう八咫烏を気遣うレオニスに、マキシが即時否定する。

そしてそんなマキシの横で、ウルスとケリオンも大いに頷いている。

マキシの言う通り、天空島の危機とは即ち八咫烏達が敬愛する大神樹ユグドラシアの家族の危機でもある。

かつて神樹ユグドラツィが生命の危機に晒された時と同じで、大神樹ユグドラシアに仕える八咫烏達にとっては此度の危機も絶対に見過ごすことなどできなかった。

そんなマキシ達の心意気に、レオニスも小さく笑いながら礼を言う。

「……そうか、そう言ってもらえると助かる。皆で天空島の親友達を救いに行こう」

「はい!」

レオニスが一通り指示を出し終えたところで、最後にリィシエルの方に身体を向き直した。

「そしたら……リィシエルだったか? あんたはライトとラウルについていってくれ。そしてライト達がシュマルリの竜族達の協力を取り付けたら、いっしょに天空島に戻ればいい」

「承知した。……この恩は、一生忘れぬ」

「礼を言うのはまだ早い。邪竜の群れを全部ブッ潰してからだ」

「……そうだな。今は奴等を蹴散らして、完膚無きまでに殲滅することに専念するとしよう」

レオニスが出した最後の指示、リィシエルの行動に当人も頷きつつ礼を言う。

しかしレオニスの言う通り、礼を言うにはまだ早い。レオニスが天使達から礼の言葉を受けるとしたら、それは天空島の危機を完全に乗り越えてからだ。

レオニスが立ち上がり、続けてリィシエルやラウルもその場に立ち上がる。

そして全員で転移門がある平地に移動した。

「そしたらまずライトとラウル、リィシエルから先に転移門を使え。その次にマキシとウルスとケリオンな。皆を見送った後、俺は魔術師ギルドに向かう」

「分かった!」

転移門を使う順番を素早く決めていくレオニス。

その指示に従い、早速ライトとラウル、リィシエルが転移門の中に入っていく。

そして転移門の中に入ったラウルがパネルを操作し、その間にライトがレオニス達に声をかける。

「レオ兄ちゃん、マキシ君、皆も頑張ってね!」

「おう、ありがとうよ」

「はい!ライト君もどうかお気をつけて!ラウル、ライト君をしっかり守ってね!」

「任せとけ」

ライトの励ましに、レオニスは微笑みつつ応え、マキシも張り切った声で返事をしている。

そしてライト達が転移門で移動した後、マキシとウルスとケリオンも八咫烏の里にある転移門に移動していった。

二組を見送って、最後一人になったレオニス。再び家の中に戻り、ライトの部屋の転移門でラグナロッツァの屋敷に移動していった。