軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1176話 八咫烏達の決意

程なくしてシャーリィを見送ったラウルが帰宅し、皆で客間で一息つく。

いつも夜早く寝るウルスとケリオンはかなり眠たそうだが、それでも頑張ってライト達に付き合って起きている。

というのも、今のうちに話しておきたいことがあるからだ。

ソファでのんびりとコーヒーを啜るレオニスに、ウルスが話しかけた。

「レオニス殿、一つ頼みというかお願いがあるのだが」

「ン? 何だ?」

「レオニス殿達は今から三日後に、天に浮く邪竜の島を掃討する戦いを控えておられると聞いたのだが。僭越ながら、是非ともその戦に我ら八咫烏も加えていただきたい」

「……それは……」

ウルスの申し出に、レオニスが言い淀む。

ウルスが言うように、三日後の一月二十一日の月曜日に邪竜の島の討滅戦を控えている。

これはアクシーディア公国生誕祭が終了後に決行するという約束で、公国生誕祭から三日も過ぎれば討滅戦参加予定のピースも動きやすいだろう、という計算から弾き出された日程だ。

そして、ウルスの申し出に頭を悩ませるレオニス。

確かに八咫烏は空を飛べるし、強力な魔法を繰り出すこともできる。

だが、邪竜の島の討滅戦で相対する敵は、八咫烏よりはるかに体格が大きい邪竜。その身の丈は5メートルから10メートルもあり、シュマルリの中位ドラゴン達と同程度もしくはそれらを上回る巨大さだ。

しかもその数も、少なく見積もっても数百体はいると思われる。

そんな危険な戦場に、いっしょに戦いたいから連れていってくれ!と言われても、レオニスとしてもすぐには頷けなかった。

しかし、ウルスもそのまま黙って引っ込む訳にはいかない。

何とかレオニスの承諾を得るべく、懸命に言葉を募る。

「レオニス殿……我らが数羽加勢したところで、大した戦力にもならぬであろうことは重々承知しておる。我らが単体で邪竜の群れに挑んだところで、敵を多数仕留めることも敵わぬであろう」

「だが、それでも……邪竜を裏で操る奴等は、我らが敬愛するシア様やツィ様、そして我が息子マキシを長年虐げ続けてきた憎き敵。怨敵を叩く機会を前に、何もせずにはいられないのだ」

「だから……無理を承知でお頼み申す。戦場の前線で槍働きできずとも良い、伝令係など裏方でも何でも構わぬ。どうか我らも邪竜を滅する戦場の末席にお加えいただきたい」

「…………」

頭を深々と下げながら、切々と訴えるウルス。

その真摯な姿にレオニスはしばし考え込み、そして徐に口を開いた。

「……分かった。邪竜の島の討滅戦の間、ウルス達には属性の女王達や天空樹のエルちゃんのところで控えていてもらおう。何かあった時の連絡要員としてな」

「!!レオニス殿、ありがとう!!心より感謝する!!」

レオニスの承諾を得られたことに、ウルスがバッ!と頭を上げて破顔しつつ礼を言う。

レオニスと天空島勢の事前の打ち合わせでは、討滅戦実行中の天空島及び天空樹のある島の守備要員に天使各十体を配備する予定だった。

その守備要員には、各島間の連絡係を務める者もいる。

この連絡係をウルス達に担ってもらえれば、その分天使を戦闘の前線に回すことができる。

そこまで考えた上で、レオニスはウルスの要請を承諾したのだ。

ちなみに今回の討滅戦に、ライトは参加できない。

数多の邪竜達が飛び交う危険な戦場に、冒険者でもない子供のライトを連れていく訳にはいかないからだ。

神樹襲撃事件ではライトもユグドラツィの親友としてともに解決に奮闘したし、ドラリシオ・ブルーム事件の時はそこまでさしたる危機もなかったことからレオニスもライトの同行を渋々承諾した。

しかし、さすがに今回の邪竜の島の討滅戦はこれまでとは訳が違う。いくら何でも危険度が高過ぎて、子供連れでの参戦など絶対に無理だ。

そんな甘いことを許していたら、自分達のみならず他の者達の生命まで危険に晒してしまう。そんなことは断じて許されない。

このことはライト自身も理解しているので、無理は言わずマキシとともにラグナロッツァの屋敷で待機していることを承諾していた。

「つーか、そしたら八咫烏は何羽加わる予定だ? 正確な数を把握しておきたいんだが」

「さすがに我が一族全員で向かうと、里とシア様の守備が薄くなり過ぎるのでな……私とフギン、ムニンの三羽で参戦させていただきたい」

「そっか、三羽な。そしたら一羽は神殿の島、一羽はエルちゃんの島、一羽は畑がある天使達の島に待機しててもらおうか」

「承知した」

八咫烏一族からは三羽、自分とフギンとムニンを参加させたいというウルス。

自身は八咫烏一族の族長だから参戦は当然。

フギンは次期族長筆頭候補として研鑽を積ませたい。

そして里の治安部隊長として日々努力するムニンにも、歴史に残る戦いを直に目撃させてやりたい。

ウルスの選択には、そうした思いがあった。

「そしたら我らは明日の朝にも里に帰り、明後日またこちらにお邪魔させていただこう」

「それがいいな。つーか、ウルスもケリオンも今日はもう休め。公国生誕祭であちこち出歩いて疲れただろ」

「うむ、疲れていないと言えば嘘になるが……レオニス殿のお言葉に甘えて、今日はもう寝かせてもらうとしよう」

「はい……」

就寝を促すレオニスの言葉に、ウルスとケリオンは早々に案に乗っかる。

先程まで懸命に論じていたウルスはともかく、ケリオンはもう既にかなり眠たいようだ。

今にも寝落ちしそうなケリオンを、レオニスは心配そうに覗き込みながらウルスにさらなる提案する。

「つーか、朝イチで八咫烏の里に帰るなら、今夜はカタポレンの家に泊まるか? 向こうで寝泊まりすれば、起きてすぐに転移門で移動できるし」

「ああ、それはいい。是非ともそうさせていただこう」

「なら、俺とライトがカタポレンの家に連れてってやろう」

「……ありがとうございますぅ……」

レオニスがウルス達にカタポレンの家への移動を提案したのには、理由がある。

カタポレンの家の近くには、神樹族がいる場所同士を繋いだ転移門ネットワークとリンクした転移門がある。

八咫烏の里は大神樹ユグドラシアを中心として形成されているので、ライトやレオニスが普段住んでいるカタポレンの家との行き来も容易に可能になったのだ。

そしてレオニスの言葉を受けて、早速ライトが寝落ち寸前のケリオンを抱っこして胸に抱える。

一方ウルスはまだしゃんとしていて、文鳥サイズになってからレオニスの右肩に留まった。

そしてラウルとマキシに向かって声をかけた。

「今回の人里見学では、本当に有意義な時間を過ごさせていただいた。レオニス殿やライト殿、そしてラウル殿にも本当に感謝しておる。大変世話になった、ありがとう。マキシも、これからも人里でより励むようにな」

「どういたしまして。またいつでも遊びに来な」

「父様、ケリオン兄様、またお会いしましょう!おやすみなさい!」

「うん……マキシも元気でね……おやすみー……」

今からカタポレンの家に移動するウルス達は、ラウルとマキシとはここで別れることになる。

別れの挨拶をきちんと交わし、ウルスとケリオンはライト達に連れられてカタポレンの家に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラグナロッツァの屋敷の二階の旧宝物庫から、転移門でカタポレンの家に移動したライト達。

カタポレンの家に着いた頃には、ケリオンはライトの腕の中ですっかり寝ていて、ウルスもレオニスの肩でうつらうつらとしてきている。

「ケリオンさんはこのままぼくの部屋でそのまま寝かせておくね。ウルスさんの方は、レオ兄ちゃんといっしょのベッドでいいよね?」

「おう、俺は別にそれで構わんぞ」

「じゃ、おやすみなさーい」

「おう、おやすみー」

カタポレンの家の転移門はライトの部屋にあるので、ライトはそのまま部屋に残り、レオニスはウルスを連れてライトの部屋を出ていく。

そうして二人と二羽は、それぞれ分かれて別の部屋で就寝していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その日はライトも結構疲れていたので、パジャマに着替えて早々に布団に潜り寝てしまった。

いつもは一人で寝るベッドだが、今日はむっちりむちむちまん丸な八咫烏ケリオンがいるので、生きたカイロよろしく布団の中がとても温かくて気持ちがいい。

そして身体に蓄積した疲れも、これはこれでまた心地良い。

この疲れは、三日間に渡るアクシーディア公国生誕祭を全力で楽しんだ証と反動なのだから。

布団に潜ってあっという間に眠りに落ちたライト。

しかし、そんなライトの心地良い微睡みを邪魔するけたたましい音が鳴り響いた。

ドンドン!ドンドンドン!という、カタポレンの家の玄関扉を繰り返し強く叩く音。

あまりにも突然発生した騒音に、思わずライトはベッドから飛び起きた。

「……!?!? ……な、何??」

まだ寝ぼけ眼な目で、頭を左右に振りキョロキョロと辺りを見回すライト。

その間も扉をドンドン!と叩く音は続いていて、同じくこの騒音で叩き起こされたレオニスが玄関に向かっていた。

時刻は深夜零時を少し回った頃。

こんな時間に、しかもカタポレンの家を訪ねる者など全く心当たりがない。

レオニスは慎重に玄関に近づき、しばし様子を窺う。

だが、玄関扉を叩く音の勢いが止まらない。

中から誰かが出てくるまでは、意地でも叩くのを止めないぞ!という勢いすら感じられる。

この様子に、レオニスは様子見するのを早々に諦めて玄関の扉を開いた。

「こんな夜中にうるせーな、一体誰だよ…………!?!?!?」

レオニスがのっそりと玄関扉を開いたその先には―――

身体中傷だらけの天使が、体勢を崩してグズグズ……と倒れ込んでいた。