軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1169話 建国記念日の朝

充実した公国生誕祭初日を過ごした翌日。

この日は一月十七日、アクシーディア公国の建国記念日当日である。

朝から建国記念日を祝う花火の音が数分置きに絶え間なく続く。

パン、パン!パパパン!と景気良く鳴り響く乾いた音は、弥が上にも公国生誕を祝う気分を盛り上げてくれる。

公国生誕祭中は、ラグナロッツァの屋敷に寝泊まりしているライト。

朝起きて顔を洗い、私服に着替えてから一階の食堂に向かう。

するとそこには、既にラウルやマキシ、ウルス、ケリオン、そしてシャーリィがいた。

「あ、ライト君、おはようございます!」

「おう、おはよう、ライト」

「ライト殿、おはよう」

「おはようございます!」

「ライト君、おはよー♪」

いち早くライトの到来に気づいたマキシを皮切りに、皆ライトに向けて朝の挨拶をする。

皆のにこやかな笑顔に出迎えられて、ライトの顔も自然と綻ぶ。

「皆、おはよう!ぼくが一番最後なんて、皆起きるのが早いねー」

「いやー、昨日はあまりにも楽し過ぎて……晩御飯を食べた後、僕達は部屋に戻ってすぐ寝ちゃいましたし」

「うむ、我らも早々に寝てしまったな……」

「ええ……人族最大の街で催される祭りのすごさには、圧倒されるばかりです」

ライトの言葉に、照れ臭そうに答えるマキシ達。

八咫烏一族はもともと早寝早起きな習性を持つ。そこに公国生誕祭の祭りの熱狂を体験したのだ、疲れきって早々に寝てしまうのも当然である。

一方もう一人のゲストであるシャーリィは、非常にご機嫌な様子だ。

「私はねぇ、昨日冒険者ギルドのお店で買った、マスターパレン様の抱き枕を早速使って寝たの!すーっごく気持ち良く眠れたわぁ♪」

「あー、あの抱き枕か……マスターパレンを模した等身大だからなぁ、さぞかし抱き甲斐があるだろ」

「ええ!そりゃもう!今まで経験したことのない、素晴らしい寝心地だったわ!」

シャーリィがすごくご機嫌な理由、それは昨日買ったばかりの『マスターパレン抱き枕』を早速使って寝たかららしい。

確かに今朝のシャーリィは、いつも以上に肌艶が良くツヤッツヤに輝いている。なのにこれですっぴんだというのだから驚きだ。

興奮気味に語るシャーリィ、その饒舌さは留まることを知らない。

『マスターパレン抱き枕』の持つ素晴らしさを、これでもか!というくらいにラウルに説き続ける。

「売店にいたギルド職員さんから聞いた話だと、中の綿もすっごくこだわった最高品質のものを使っているらしくてね? 実際使ってみると分かるんだけど、あんなに大きい枕なのにすっごく軽いの。でもしっかりとした弾力性があって、本ッ当ーーーに気持ち良く眠れたんだから!」

「ほう、そりゃすげーな」

「何なら今日の夜、特別にラウルにも使わせてあげるわよ?」

「いや、遠慮しとく」

その使い心地の良さをラウルにも知ってもらおうと、シャーリィが特別にラウルだけに貸し出しを許したというのに。当のラウルは素気無く速攻で断っている。

確かに抱き枕という商品としての品質は最高級かもしれない。だがそれをラウルが抱っこしながら寝る図というのは、かなり寒いものがある。

ラウル自身もそれがよく分かるのか、如何にそれがシャーリィの純粋な厚意だとしても受け入れる訳にはいかなかったのだろう。

「さて、ライトも起きてきたことだし、そろそろ皆で朝飯にしようか」

「うん!ぼくもお手伝いするよ!」

「僕も手伝います!」

朝食の支度を始めたラウルに、ライトとマキシが率先して手伝いについていく。

その一方で、ウルスとケリオンはテーブルの端にちょこん、と留まったまま会話をしている。

まだ人化の術を会得していない二羽に、人族の朝食の支度を手伝うのは無理なので致し方ない。

「おお、ラウル殿の作る朝食か。どれも美味しくて、ここに来てからというもの体重が増えまくりだ」

「え、父様もですか? 私も腹回りが大きくなった気がします。ですが……身体が重たくなる以上に、魔力が以前とは比べものにならない程強くなっている気がしませんか?」

「ケリオンも感じていたか……確かにラウル殿が作った食べ物を食すと、身体中に魔力が漲るのが分かる」

「ですね……ラウル殿の作る料理は偉大です」

ラウルが作る料理の美味しさだけでなく、その副産物に対しても感心しきりのウルスとケリオン。

もともとこのラグナロッツァは、カタポレンの森のように魔力に満ちた空間ではない。

なので、普段はカタポレンの森の魔力を呼吸で取り込むだけで生きていける八咫烏達も、ここでは何らかの料理を食べるなりして生命維持を図らなくてはならない。

その役割をラウルの料理が果たしている訳だが、ラウルの料理はカタポレンの森の魔力を上回る効果があるようだ。

そして二羽の八咫烏達が話している横で、シャーリィが暗い顔をしながらブチブチと呟いている。

「そうなのよねぇ……ラウルの料理はホンットに美味し過ぎて、ついついたくさん食べちゃうのよねぇ……」

「ああでもラウルの料理を食べられるのは、長くても明日の朝までな訳だし……」

「…………うん!ダイエットは公国生誕祭のパレードが終わってからにするわ!うんうん、そうしましょ!」

「だって今の私には、何てったってあのマスターパレン様特製のプロテインがあるもの!明日のお昼から一週間はプロテイン生活すればいいのよ!」

最初は暗い顔をしながら鬱々と呟いていたシャーリィ。

そのうち方針が決まったのか、徐々に顔が上向いていく。

基本的にシャーリィはものすごくポジティブ思考なので、例え落ち込むようなことがあってもすぐに気分を切り替えることができるのだ。

そのうちにライト達が朝食の準備を整え終えて、ラウルやマキシとともに席に着いた。

テーブルの上には、ピザトーストやサラダ、ヨーグルトなどが並ぶ。

ライト達は全員合掌しながら食事の挨拶をする。

「「「いッただッきまーーーす!」」」

食事の挨拶を唱和した後、各自好きな食べ物を取り食していく。

家の主であるレオニスがいないことだけが残念かつ寂しいが、それでもウルスにケリオン、そしてシャーリィという特別ゲストがいる食事の場は穏やかで楽しいものだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

朝食を食べた後は、午前九時半まで各自自由に過ごす。

建国記念日の超目玉行事である竜騎士団と鷲獅子騎士団の飛行ショーは、午前十時から始まるためだ。

午前九時半に二階ホールに集合という約束をして、各自散っていった。

といっても、その日もやることは初日の午前中と同じで、ライトはカタポレンの森で修行兼魔石回収作業をし、マキシ達八咫烏はライトについていき森を駆け回る。

そしてラウルはカタポレンの畑で収穫や手入れを行い、シャーリィはラウルの働く姿を嬉しそうにニコニコ笑顔で見守っている。

そうして時間はあっという間に過ぎ、九時半に集合した二階ホールから皆で屋上に移動した。

ライトはアイギス特製マントを羽織り、ラウルはそのままいつでも出かけられるように黒の天空竜革装備を着ている。

マキシも温かいコートを着込み、ラウルが空間魔法陣から取り出す椅子を並べて鑑賞の準備の手伝いをしている。

しかし、シャーリィだけは相変わらずアラビアン・プリンセスの衣装のままだ。

一月中旬の厳寒のこの季節に、その格好は寒くはないのか?と思われがちなのだが。実はシャーリィの着ている衣装に秘密があった。

シャーリィが被っているヴェールやオーバースカート、そして腕に着けている長袖のオーガンジー素材には特殊な糸が使用されていて、外気の暑さ寒さを和らげる温度調節を担う付与魔法が施されているのだ。

これは『踊り子たる者、いつ何時であっても美しい姿であれ』という『暁紅の明星』とシャーリィ自身の矜持による心意気の現れである。

さすがにツェリザークの冬の雪原や氷の洞窟、灼熱のノーヴェ砂漠などを相手取るのは少々厳しいが、それ以外の場所なら大抵はこのアラビアン・プリンセスの一張羅で事足りる。

その証拠に、今日も晴れ渡る晴天で空気はとても冷たいが、シャーリィが寒さに震える様子は全くない。

「へー、このお屋敷からもラグナ宮殿がよく見えるわね!」

「ああ。だから竜騎士団達の飛行ショーをのんびりと見たいなら、ここが一番もってこいなんだ」

「うんうん、そうよね。私達『暁紅の明星』は、いつもラグナ宮殿内からVIP席で見せてもらえるんだけど。ここもなかなかに眺めが良くて素敵ね!」

既に大勢の平民が、ラグナ宮殿に集結していっている。

その様子を、シャーリィは物珍しさそうに眺めながら感心していた。

そして全員席に座り、準備万端整った。

ちなみにウルスはマキシの膝に座り、ケリオンはシャーリィがニコニコ笑顔でその胸にガッシリと掴んで離さない。

いや、別にシャーリィもケリオンを狙い撃ちしている訳ではないのだが。

ウルスがとっととマキシの膝に座ってしまったので、残るケリオンは是非とも私が抱っこしたい!とシャーリィがとっ捕まえたのだ。

ケリオンとしてはどこにいてもも構わないので、シャーリィの意を汲んでおとなしくシャーリィに抱っこされていた。

そして午前十時ぴったりになった時。

ラグナ宮殿から平民達に向かって、アクシーディア公国国主であるラグナ大公が挨拶を始めた。

『……歴史ある我がアクシーディア公国は、生誕813年を迎えることができた』

『これも官民揃っての努力の賜物である……』

去年のそれと、何ら変わることのないラグナ大公のスピーチ。

一見退屈に思えるが、こうして毎年公国生誕祭を無事迎えて民達とともに祝えるのは、とても素晴らしいことだ。

それなりの平和が保てていなければ、アクシーディア公国最大戦力である竜騎士団及び鷲獅子騎士団が平民向けの飛行ショーなど披露できるはずがないのだから。

『……では、我が国の誇る二大騎士団、竜騎士団と鷲獅子騎士団の勇姿をとくと見よ』

『彼等はアクシーディア公国の輝かしい未来を護る守護神である』

『我等アクシーディア公国に、 永久(とこしえ) に栄光あれ』

ラグナ大公の祝辞が締め括られた途端『おおおおおッ!!』という割れんばかりの歓声が、庭園に集まった民衆から沸き起こる。

こうして今年の竜騎士団及び鷲獅子騎士団の飛行ショーが始まっていった。