軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1149話 ドングリクッキー作りとラウルの学び

その後ラウルとマキシは、グレイスと三人の門下生達とともにドングリクッキー作りに勤しんでいた。

カラス向けのクッキーなので、ドングリの実を細かく砕いてからクッキー生地に混ぜ込むのだが、ラウルが提供したドングリの実にグレイスが感心している。

「これ、すっごく大きなドングリねぇ。どこで採ったものなの?」

「ああ、これはカタポレンの森で採取したものだ」

「へー、カタポレンの森っていうのー。どこにある森なのかよく知らないけど、とても素晴らしい恵みの森なのねぇ」

「……まぁな。いろんなものが共存している広大な森には違いないな」

己の手のひら程もある巨大なドングリの実を繁繁と眺めながら、その産地を問うグレイス。

ラウルが木の実を拾う場所と言えば、カタポレンの森一択だ。そしてラウルはそのことを正直に答えた訳だが、グレイスは特に驚くこともなく普通に受け止めている。

というのも、このホドの街はカタポレンの森からかなり離れていて、その存在をよく知る者自体がかなり少ないのだ。

知っていてもせいぜい現役冒険者くらいのもので、冒険者稼業に縁のない者にはカタポレンの森にも一生縁がない。

故に剣術道場の女主人であるグレイスも、カタポレンの森が『魔の森』と呼ばれていることも知らないのである。

「これ、一晩水に浸けてから乾燥させてあるのよね?」

「もちろんだ。そうしないと虫食いの実を弾けないからな」

「さすがね!レオニス君も、ラウル君のようなとても素晴らしい執事に出会えて幸運だわね!」

「お褒めに与り光栄だ」

ドングリの実の完璧な下処理に、グレイスがラウルを手放しで褒める。

そこら辺は栗などと同じで、虫食いの実を弾くためには必須の工程だ。

しかもラウルが提供したのは、既に鬼皮を剥いてあって実の中身を取り出したもの。これなら実を砕くだけで済むから楽ちんである。

完璧な下処理済みのドングリの実を、すり鉢の中に十個程入れて擂り粉木で軽く砕く。

粗挽き胡椒程度に細かくなったら、クッキー生地に混ぜ込む。

そして小さく千切って丸めて円形にした後、軽く潰して平たくしてオーブンで焼く。

焼き上がるまでの待ち時間の間、皆でのんびりとお茶を飲んでいた。

「これが焼き上がった後、うちのカラス達に会っていく?」

「そうだな、せっかくなら会っていきたいな。焼きたてのドングリクッキーも味見してもらいたいし」

「じゃあ、ある程度クッキーが冷めてから持っていくことにしましょうね」

「そうしよう」

お茶とともにのんびりとした会話を楽しんでいると、何やら廊下の方がバタバタと騒がしい。

何事かとグレイスが訝しがっていると、この厨房にも若い門下生が慌てたように飛び込んできた。

「すみません、マム!」

「何だい、うるさいねぇ。何かあったのかい?」

「門下生達全員道場に集まるよう、ハンザ先生からの指示が出ました!」

「そう、それは急いで向かわないとね。アンタ達、ここはもういいから急いで着替えて道場に行っておいで」

「「「分かりました!」」」

それまでラウル達とともに調理していた三人の門下生が、ガタン!と席を立ち上がり急いで隣の更衣室に向かう。

三角巾や割烹着を脱いで、バタバタと厨房を出ていく門下生達。

嵐のようなドタバタ騒ぎが収まり、静けさが戻る頃にはラウル、マキシ、グレイスの三人だけが厨房に残っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

静けさの中、ラウルの茶を啜る音だけが小さく響く。

騒ぎに動じることのないラウルに、グレイスが頭を下げる。

「お客人の前だってのに、騒がしくして申し訳なかったね」

「いや、奥方が謝る必要はない。どうせうちのご主人様が道場で大暴れするために、今いる門下生全員が呼ばれたに違いない」

「多分そんなところだろうね」

謝るグレイスに、ラウルは事も無げにフォローする。

そして謝ったグレイスの方も、ラウルと同じようなことを推測していたようだ。

「前回レオニス君達が訪ねてきてくれた時は、生憎私は外に出かけててその場に立ち会えなかったけど……レオニス君の腕は、相変わらずどころか昔よりさらに強くなってたって、うちの人やコルセア達からも聞いてるよ」

「前回俺は、ご主人様達が道場で暴れていた時にここでたまごボーロの作り方を教えてもらってな。そん時も、二時間ぶっ通しで仕合っていたからな」

「そうかいそうかい、ラウルさんも随分待たされたんだねぇ!」

前回のヴァイキング道場訪問時のエピソードを披露するラウルに、グレイスが楽しそうに笑う。

そんな実例があるなら、今回もそうだろうと推測するのは当然のことだ。

するとここで、笑っていたグレイスがふとオーブンの方を見遣る。

「…………っと、そろそろクッキーが焼き上がる頃かしらね」

「おお、そうだな。せっかくならマキシ、お前が鉄板を取り出してみるか?」

「うん!やってみたい!」

ふと気がつくと、厨房内にクッキーの香ばしい匂いが充満してきている。ラウル達が作ったドングリクッキーがそろそろ焼き上がる頃だろう。

マキシが分厚いミトンを手に、オーブンの中の鉄板を取り出して調理台の上に置く。

オーブンから取り出した鉄板から、さらに香ばしいクッキーの匂いが漂ってくる。

出来上がりを見たグレイスが、パァッ!と明るい顔になる。

「ちょうどいい具合に焼けたようだね!」

「そうだな、そしたらこれを皿の上に乗せてから風魔法で冷ますか」

「え、何、ラウルさん、風魔法を使えるの?」

「もちろん。俺だけじゃない、マキシだって使えるぞ」

「はぁー……ラグナロッツァに住む人ってのは、皆才能溢れてるんだねぇ……」

「度重なるお褒めの言葉、誠に光栄だ」

ラウルもマキシも風魔法を使えると聞いたグレイスが、ほとほと感心しながらラウル達の顔を見つめる。

グレイスが嫁いだパイレーツ家の者達だって、魔法が全く使えない訳ではない。だが、三つも四つも別系統の魔法を使えるのはさすがに珍しい方だ。

今回ラウル達が、これまでにこの厨房内で披露した魔法は三つ。

ドングリの実を取り出すために開いた空間魔法陣、オーブンの火種用の火魔法、そして使用した調理器具を洗浄するための浄化魔法である。

そこにさらにクッキーを冷ますために風魔法を使えば、一人で四つもの魔法を操ることになる。

これはもうグレイスでなくとも驚愕かつ絶賛するのも当然だった。

そんな会話をしながらも、ラウルとマキシは焼き上がったクッキーを手早く別皿に移し替える。

そして風魔法で弱い冷風を送り、熱々だったクッキーがあっという間に常温程度に冷めていった。

マキシが一旦風魔法を止めて、クッキーの上に手のひらを翳して温度をみている。

「……ここまで冷やせば、もう大丈夫かな?」

「そうだな。……せっかくだからマキシ、お前が一番乗りで味見してみるか?」

「え、いいの? ここはグレイスさんに味見してもらった方が……」

ラウルの提案に、マキシが戸惑いつつグレイスの方を見る。

すると、マキシの視線に気づいたグレイスがニパッ☆と笑いながら口を開いた。

「そんなこと気にしないでいいよ!むしろお客人達にこそ、このドングリクッキーの美味しさを味わってもらいたいってもんさ!」

「……じゃ、じゃあ、遠慮なくいただきます……」

「そしたら俺達も一個づつ、お味見でいただこう」

「ンーーー……いつにも増していい匂いだねぇ♪」

遠慮がちに最初のドングリクッキーをラウルから受け取るマキシ。

もともとカラス用に作ってあるため、一個一個の大きさは然程大きくない。マキシの手のひらの四分の一程度の大きさだ。

一方のラウルはさっさと自分の分の味見用を一枚取り、続いてグレイスにもササッ、と一枚渡した。

ラウルからドングリクッキーを受け取ったグレイス。手のひらの上に乗せられたクッキーに鼻を近づけて、その芳しい匂いにうっとりとしている。

そして栄えある最初の味見を任されたマキシ。

パクッ!とクッキーを食み、一気に一口で口の中に入れてもくもくと食べた。

ドングリクッキーを無言で食べるマキシの目が、どんどん大きく見開かれていく。

「……すっごく美味しい!」

「おお、ホントだ。ドングリの実のほんのりとした香ばしさが、このクッキー生地によく合うな」

「……もしかして、今までのドングリクッキーの中でも至上最高の美味しさかも!」

マキシに続き、ラウルとグレイスもドングリクッキーを実食して大絶賛する。

ドングリの実ならではのざっくりとした食感の中にも、ほろほろとした柔らかな口溶けのよいクッキー生地の絶妙なマッチングが堪らない美味しさとなっていた。

初めてドングリクッキーを食べたラウルやマキシはともかく、これまで散々作り続けてきたであろうグレイスにも『至上最高の美味しさ』とまで言わしめていた。

ラウル達三人と、ここにはいない三人の門下生達のドングリクッキークッキングは大成功である。

しかし、とても小さなクッキーなので、三人ともあっという間に口の中のクッキーが消えてしまう。

その後三人は、誰からともなく再び皿の上のドングリクッキーに手を伸ばし、二個目、三個目と口に放り込んでいた。

「……っと、いけない、いけない。このままじゃカラス達にあげる前に、私達だけで全部食べきっちゃうわ」

「ですね……ここら辺で手を止めておかないと、カラスさん達にあげる分がなくなっちゃいます」

はたと我に返ったグレイス、そしてマキシも伸ばしかけた四度目の手を止めた。

そう、彼女達の言う通り、このまま三人でバクバク食べ続けていたら、このドングリクッキーをあげる相手であるカラス達の食べる分がなくなってしまう。

だがしかし、そんな二人の気遣いを全く物ともしない者がここに一人。

「そしたらアレだ、今から二回目を焼こう」

「え? 今からまたクッキーを焼くの?」

「当然。つーか、ご主人様が今道場で暴れてる真っ最中なら、まだまだ当分終わらんぞ? 少なくともあと一時間半以上はかかるだろう」

「ぁー、そうねぇ……うちの子達とレオニス君の稽古があと二、三十分で終わる訳ないわよねぇ……」

「そゆこと」

ラウルのクッキー作り再開の提案に、マキシが驚きながら聞き返すもグレイスの方はその理由に納得している。

ラウルが言っているのは『どうせまだ時間がかかるんだ、ならご主人様達が存分に遊んでいる間に俺らも存分にドングリクッキーを焼こうぜ!』ということ。

実際あと二時間近くもレオニス達を待たなければならないなら、その間ラウル達もクッキーを焼きながら待っていたって何の問題もない。むしろその方が、ラウルもドングリクッキーのお持ち帰り分を作れて両者Win-Winである。

そう、ラウルは前回訪問時のたまごボーロの件で、ここでの過ごし方と時間の有効活用方法をしっかりと学んだのだ。

ラウルの粋な提案に、グレイスが破顔しつつ真っ先に同意する。

「いいね、その話、乗った!」

「OK、そしたら今からすぐにまた二回目を焼こう。つーか、クッキー生地を多めに作ればあと三回か四回は焼けるんじゃね?」

「よーし、そしたら皆でたくさんのドングリクッキーを作って、カラスさん達にもたくさん食べてもらいましょう!」

「「おーーー!」」

勢いに乗ったラウルとマキシとグレイス、皆して右手を高く掲げて気勢を上げる。

レオニス達が道場で稽古をしている裏で、厨房でも和やかな交流が培われていった。