軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1119話 唯一無二の存在

時は少し遡り、ラウルが気絶して以降のこと。

ひとまずライト達は、最奥の間の中で最も炎の噴出が少ない場所にラウルを寝かせてから、炎の女王と話し合いを始めた。

レオニスが出したテーブルと椅子に座りながら、二人の話に聞き入る炎の女王。

ライト達から 凡(おおよ) そのことを聞いた彼女は、はぁ……と力無くため息をつく。

『そうか……あの者は、木を母に持つ妖精なのだな。それでは妾のことを怖く感じて当然であろうな……』

ラウルが抱える様々な事情を知った炎の女王が、伏し目がちになりながら無念そうに呟く。

火とは基本的に、生きとし生ける者全てにとって畏怖の念を抱かせる具象。

少しの火ならば灯りや熱、暖を得る有益なものとなり、人族にとっても欠かせない存在であり、火を神聖なものとして扱う文化も多い。

だが、大き過ぎる火はそうはいかない。

迂闊に近づけは火傷を負い、最悪は死に至る傷を負わせる恐ろしいもの。

大火は触れたもの全てを呑み込み、あらゆるものを燃やし尽くして何もかもを奪い失わせる。

そして今ここにいる炎の女王と朱雀は、火属性の一種である炎の頂点であり、火の塊にして権化。

木から生まれた妖精であるラウルにとって、彼女達は本能レベルで嫌悪する天敵以外の何者でもないことを―――彼女達自身も痛い程よく分かっていた。

ラウルのそうした事情が分かり、しょんもりとしてしまっている炎の女王と朱雀。

せっかく新たな客人が来たのに、自分達はもてなすこともろくにできない。もてなすどころか、その前に目の前で気絶してしまった。

炎の女王達がしょげるのも無理はなかった。

そんな炎の女王達に、ライト達も何と声をかけていいものやら分からない。

これは決して炎の女王や朱雀が悪い訳ではないし、ラウルが臆病過ぎる訳でもない。だが、何事にも相性の良し悪しというものがある。

木が火と相容れないことは動かしようのない事実であり、こればかりはライト達でもどうしようもないからだ。

しかし、だからといってこのまま何もせずに帰る訳にはいかない。

今日ライト達がここに来たのは、ラウルに火の姉妹の加護を授けてもらうため。

それは、炎の女王や火の女王達に万が一異変が起きた時に、火の精霊を通じて知らせてもらうためである。

ライト達の中で最も火を使うのは、間違いなくラウルだ。

普段から厨房や殻処理焼却のため、ラウルは頻繁に火を使う。そのため、火の姉妹達との連絡係にはラウルが最も適しているのだ。

最奥の間に入った途端にラウルが気絶してしまったのは想定外だったが、それでも何とか成果を得て目標達成したい。

その思いでレオニスは炎の女王達に交渉した。

「炎の女王、朱雀、頼みがある。当のラウルがこんな状態になっちまってて申し訳ないんだが、もし可能ならラウルにもあんた達の加護をつけてもらえないだろうか? 俺達がこれからも様々な活動をしていくためには、こいつの力がどうしても必要なんだ」

「炎の女王様、朱雀、ぼくからもお願いします……ラウルは木の妖精だけど、人里に出てきて料理を知ってから火への恐怖を克服したんです。そんなラウルだからこそ、炎の女王様達の加護を受ける資格があると思うんです!」

『…………』

レオニスの交渉に、ライトも続けてラウルの擁護をし始める。

炎の女王は二人の熱弁を静かに聞いていた。

そしてライトの言葉が一旦途切れたところで、徐にその口を開いた。

『……もちろん妾に否やはない。汝達は妾の命の恩人にして、朱雀様誕生の功労者でもある。その汝達が望むことならば、妾は身命を賭してでも応えよう』

「……!!炎の女王様、ありがとうございます!」

「俺からも礼を言う。炎の女王、ありがとう」

ラウルへの加護の付与を快諾した炎の女王に、ライトもレオニスもすぐさま礼を言う。

もし炎の女王がへそ曲がりな者ならば、気を悪くして断ることも普通にあり得ただろう。

だが炎の女王には、ライト達に多大な恩がある。

それだけでなく、ライト達はいつも彼女達属性の女王を気遣い尊重してくれる。

そうした数々の恩義に、今こそ恩に報いる時だ!と炎の女王は思ったのだ。

『不幸中の幸い、と言えば聞こえは悪いが……その者は今気を失っておる故、妾が傍に近づいても問題なかろう』

「そうですね、今のうちにラウルに加護をつけてもらえるとありがたいです」

『朱雀様も、妾とともにあの者に加護を与えてくださいますか?』

「ピィィィィ!」

『ありがとうございます。朱雀様の寛大な御心に、妾からも感謝いたします』

炎の女王の要請に、彼女の腕の中にいる朱雀も機嫌良さそうに返事をしている。

ライト達にはまだ朱雀の言葉は分からないが、炎の女王の様子から見るに朱雀も加護を与えることを快諾したようだ。

『では、今すぐにあの者に妾達の加護を与えよう』

「よろしくお願いします!」

早速席を立ち、ラウルが寝ている場所に向かう炎の女王。

ライト達も急いで彼女の後を追う。

そうしてラウルの横に立った炎の女王。その場にしゃがみ、未だ気を失っているラウルの寝顔をしばしじっと見つめる。

そして炎の女王が右手を伸ばし、ラウルの頬をそっと撫でた。

『木の精でありながら、炎の加護を求める者よ……汝のその気骨稜々たる強き心を讃え、妾の加護を与えよう』

『ピィィィィ!』

目に見えない大いなる二つの力がラウルを包み込み、その身体に染み込むように吸収されていく。

それは、ラウルに炎の女王と朱雀の加護が与えられた瞬間だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それからしばらくして、ラウルは目を覚ました。

だが、炎の女王は決してライト達のもとに行こうとはしない。

自分達がそこに行けば、やっと正気を取り戻したラウルが再び恐慌状態に陥ってしまうからだ。

そんな炎の女王達の心情を思い、ライトがラウルに話しかけた。

「あのね、ラウル。ラウルがここで気を失っている間に、炎の女王様と朱雀がラウルに加護を与えてくれたんだよ」

「何? そうなのか?」

「うん。ラウルが木から生まれた妖精だってことは、ぼく達から炎の女王様達にもう説明してあるよ。その上で、炎の女王様達に加護をくださいってお願いしたの」

「そうだったのか……」

ライトの言葉に、ラウルは己の右の手のひらをじっと見る。

ラウル自身は、体感的にそこまで変化は感じない。だが、この熱気溢れる最奥の間の中にあって、気絶する前よりも暑さを感じていないことにふと気づいた。

そしてラウルは、最奥の間の天井や周囲の壁を見回し始めた。

どこを見てもどこかしらで絶えず大小の炎が渦巻いていて、今も火の粉があちこちで飛んでいる。なのに、どういう訳か今のラウルは微塵も恐怖を一切感じなかった。

炎の洞窟に入ってから、ずっと恐怖しかなかったのに―――

己自身に大きな変化が起きたことに、ラウルは驚きつつも納得していた。

「そうか……俺がここの炎に対する恐怖を感じなくなったのは、炎の女王と朱雀が加護を与えてくれたからなんだな」

「うん、そうだよ。でもって、炎の女王様がラウルにも持たせるようにって、炎の勲章もすぐに作ってくれたんだよ。ほら、これ」

「…………」

ライトが手に持っていた炎の勲章を、ラウルに手渡した。

それは炎の女王がラウルに加護を与えた直後に作り上げた、ラウルのためだけに新たに作られた勲章。今代の炎の女王が他者のために作る、この世で三つ目の炎の勲章だった。

ラウルは無言のままそれを右手で受け取り、しばし勲章を眺め続ける。

そして徐に立ち上がり、炎の女王がいる方向にゆっくりと歩き始めた。

ラウルが近づいてきたことに、炎の女王はびっくりしながら後退る。

自分に近づいたら再びラウルに恐怖を与えてしまう、と思っているようだ。

じりじりと後退る炎の女王が、ラウルに向けて困惑気味に話しかけた。

『こ、これ、それ以上妾に近づくでない……また気絶してしまうやもしれぬ』

「もう大丈夫だ。あんた達の加護をもらえたんだからな」

『でも……それでもやはり、気分が悪くなるかもしれぬであろう?』

「問題ない。現にここまで近づいても、全く怖さは感じない。それどころか、俺は今感動している。火の持つ温もりが、こんなにも優しいものだったとは知らなかった」

『…………』

炎の女王がラウルの身体を気遣い、近づかぬように後退りしているというのに。ラウルは一向に構うことなく、炎の女王に話しかけながらどんどん距離を縮めていく。

そうして炎の女王は、遂に最奥の間の壁まで来てしまった。

これ以上後退できない状況に追い込まれた格好だが、なおも戸惑う炎の女王にラウルが静かに語りかける。

「俺が妖精だって話は、あのご主人様達からもう聞いて知ってるんだろ?」

『あ、ああ……汝はフォレットという木から生まれる、プーリア族という妖精だとは聞き及んでおる』

「ならば話は早い。妖精の俺が、あんた達に嘘をつけると思ってんのか?」

『『!!!!!』』

きょとんとした顔のラウルが放つ言葉に、炎の女王も朱雀もハッ!とした顔になる。

このサイサクス世界の妖精は、炎の女王達を始めとする精霊と同じく決して他者に嘘をつくことはない。

そのことは、炎の女王達もよく知っている。

その妖精であるラウルが、自らの口で堂々と『もう火は怖くない』『火の持つ温もりはとても優しい』とはっきり宣言しているのだ。

その言葉は紛うことなき真実であることを、炎の女王達もようやく理解できた。

『そうか……妾達の加護が役に立ったようで、何よりだ』

「やっと俺の言葉を信じてくれたか。良かった」

『ああ。決して疑ってかかっていた訳ではないのだが……妾達が汝の近くにいることで、無意識のうちにも汝に危害を加えるのは本意ではないからな。逆に気を遣わせてしまって、すまなかった』

「とんでもない、謝るのは俺の方だ。あんた達の加護を得なければ、炎が持つ本当の優しさを一生感じ取ることもできなかったんだからな」

互いを気遣い歩み寄ることで、ラウルと炎の女王達は双方ともに理解を得ることができた。

そしてラウルの方から、炎の女王に向けて右手を差し出す。

「改めて礼を言わせてくれ。俺にも貴重な加護と勲章を与えてくれて、本当にありがとう」

『何のこれしき。汝は妾の大恩人達が大事に思う仲間。それは即ち妾にとっても信に足る。これからも汝の飛躍を願うておるぞ』

「ああ、任せとけ」

ラウルが差し出した手を、炎の女王がそっと握る。

その手の上に、何と朱雀も翼の先端をちょこん☆と乗せたではないか。

朱雀も握手の仲間に入ってきたことに、ラウルも炎の女王も思わず微笑む。

こうして無事炎の女王と朱雀の加護を得たラウル。

まさしく異端にしてサイサクス世界史上初の、正真正銘世にも珍しい唯一無二の『炎の女王と朱雀の加護を持つ木の妖精』がここに誕生したのだった。