軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1106話 レオニスの密かな願望

冒険者ギルドディーノ村出張所に移動したライト達。

広間の方に行くと、例によって例の如く人っ子一人いなかった。

「……あれ? クレアさんもいない……お出かけ中かな?」

「多分庭でクー太に昼飯やってんじゃね?」

「ご主人様の予想が当たりのようだ」

辺りをキョロキョロと見回すライトに、ラウルが窓口を右手親指でクイッ、と指す。そこには

『只今クー太ちゃんのご飯タイム中。

御用の方は、お手数ですが裏庭までお越しください。

★クレア★』

と書かれた木製のミニボードが立てて置いてあった。

これを目にする来訪者など滅多にいないだろうに、きっとクレアはクー太の昼御飯の度に毎回毎度律儀に置いていくのだろう。

いつ何時も職務に忠実なクレアらしい。

「裏庭にいるのか。そしたらこっちから出るか」

その置き札に従い、レオニスの案内で裏口から外に出たライト達。

外に出ると、そこにはなかなかに広い裏庭?が広がっていた。

その裏庭のど真ん中で、日向ぼっこをしながら食事しているクー太とクレアがいるのが見える。

ライト達に背中を向けている状態のクレアに、レオニスが声をかけた。

「おーい、クレアー」

「……あ、レオニスさん? あらあらまぁまぁ、ライト君にラウルさんまで!」

レオニスの呼び声に振り返ったクレア。

レオニスだけでなくライトやラウルもいるのを見て、花咲くような笑顔でライト達のもとに駆け寄ってきた。

小走りでライト達のいる方に向かうクレアは本当に可憐で、新年早々眼福の栄誉に恵まれたライトはニッコニコの笑顔である。

「こんにちは、クレアさん!あけましておめでとうございます!」

「久しぶり、あけましておめでとう」

「皆さんご丁寧な挨拶をありがとうございますぅ。あけましておめでとうございますぅ、本年もどうぞよろしくお願いいたしますぅ」

ライトとラウルの新年の挨拶に、クレアもまた丁寧にお辞儀をしながら挨拶をする。

その傍らで、レオニスが空間魔法陣を開いて【Love the Palen】のお年賀セットを取り出した。

「あけましておめでとう、今年もよろしくな。これは俺達からの日頃の感謝の印だ」

「ンまぁぁぁぁ、これは……【Love the Palen】のお年賀ですか?」

「おう、しかもこないだ開店したばかりの二号店の方で買ってきた、向こうの店だけの限定品だぞ」

「あの二号店の限定品!? そんな素晴らしいものをいただけるなんて……ありがとうございますぅー♪」

レオニスが手渡したお年賀セットに、目を輝かせながら礼を言うクレア。

先程のクレナ程の感激ぶりではないが、それでもその言動はほぼ同じという驚異のシンクロ率である。

しかし、そこは十二姉妹長姉のクレア、ただ礼を言うだけに留まらない。

「あのレオニスさんが、こんなにもきちんとした年始の挨拶ができるようになるなんて……こんな夢みたいな日が来るなんて、思ってもいませんでした……」

お年賀セットを胸に抱きしめつつ、右手の人差し指で眦に浮かんだ涙をそっと拭うクレア。

ヨヨヨ……と涙ぐむクレアに、やんちゃ坊主扱いされたレオニスが不服そうな顔で抗議する。

「おい、クレア、お前ね……そんなに俺のことをポンコツだと思ってんの?」

「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです? 寝言は寝て言うものですよ? 年始の挨拶は去年もいただきましたが、それとてライト君の指導の賜物でしょう?」

「ぐぬぬ」

「その前からずーっと挨拶に来てくださってたなら、レオニスさんが自発的に考えて成長したと言えるでしょうが。そうではないことが丸分かりですからね?」

「ぐぬぬぬ」

レオニスの不満クレームに、クレアは怯むことなく言い返す。

その結果、レオニスはクレアから新年一発目の『寝言は寝て言え』を早々に食らってしまった。

その言葉は紛うことなき正論で、レオニスはぐうの音も出ない。

しかし、クレアはただ単にレオニスを腐して終わりではない。

思いっきりレオニスを秒殺で論破した後、一転してニッコリと優しい笑顔を浮かべる。

「でも……年下の子であっても、その意見や指導をきちんと聞いて受け入れるところは、レオニスさんのとても素晴らしい長所だと思いますよ? これからも日々成長ですね♪」

「………………」

いつもの『寝言は寝て言え』の直後に放たれた褒め言葉。

実はレオニス、このようにクレアから直接手放しで褒められることはあまりない。

クレアからは基本的に鞭=ダメ出しや叱咤を受けることが多いレオニスだが、それでもクレアは褒めるべきところはきちんと褒める。

いわゆる『飴と鞭』である。

そしてこの飴、滅多に出てくることがないだけにその味は実に甘美なものだ。

褒め言葉という甘い囁きの不意打ちを食らったレオニスは、照れ臭そうにプイッ!とそっぽを向きブツブツと呟いた。

「……ったく……ホンット、あんたにゃ敵わねぇよ」

天下無双で常に我が道を行くレオニスが、一人の可憐な女性には全く歯が立たずに毎回毎度言い負かされる。

クレア十二姉妹の前でのみ繰り広げられる光景に、ライトもラウルも込み上げてくる笑いを堪えるのに精一杯だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

無事新年の挨拶とお年賀を渡した後、ライトはクレアに尋ねた。

「クレアさん、クー太ちゃんと遊んでもいいですか?」

「もちろんですとも。クー太ちゃんも食後の運動は必要ですので、是非ともいっしょに遊んでやってください」

「ありがとうございます!」

ドラゴンの幼体クー太と遊ぶ許可を得たライト、早速嬉しそうにクー太のもとに駆けていく。

ライトはもうクー太とは何度も会っているし、クレア十二姉妹以外の人族で最も仲が良い友達と言えるだろう。

ライトはアイテムリュックから巨大ボールやブーメランを取り出し、遠くに投げてはクー太が喜んで飛んでいく。

この『飛んでいく』というのは走りの比喩ではなく、本当に空中高くに飛んでボールやブーメランをキャッチしている。

というのも、玩具を投げるライト自身がクー太以上に力が強いため、物を投げるにしてもその威力が半端ないのだ。

そして、クー太もクレア以外の人族と遊ぶのが余程楽しいのか、時折ボールやブーメランに極太ビームや火炎砲を口から吐いている。

その都度ボールやブーメランは黒焦げの炭と化してしまうのだが、それにライトが怒ることはない。

むしろ「うわぁ!クー太ちゃんビーム、カッコいい!!」と大喜びしながら、アイテムリュックから新しいボールやブーメランをいそいそと取り出している。

ライトもクー太に負けないくらい、クー太と遊ぶことがとても楽しいようだ。

そんな一人と一頭の仲良く戯れる様子を、レオニスとクレア、そしてラウルが遠くから見守っている。

するとここで、ライトからラウルにお呼びがかかった。

「ねぇ、ラウルー、ラウルもこっち来てクー太ちゃんと遊ぼうー!」

「え? 俺?」

「そう、ラウル!だってレオ兄ちゃんは、もうシュマルリでたくさんの竜族と散々遊んでるからね!たまにはラウルもドラゴンと触れ合おうよ!」

「「「…………」」」

ライトの言葉に、レオニスが「ぃゃ、俺だってあいつらとただ遊んでる訳じゃねぇんだが……」とブチブチ呟いている。

だが、実際ライトが見てもレオニスとシュマルリのドラゴン達の模擬戦?はすっかり脳筋族の宴と化している。

皆空中で狂気に満ちた哄笑とともにバンバン魔法や拳を繰り出し戦う様は、ライトに言わせれば『戦闘狂が普通にバトルを楽しんでいるようにしか見えない地獄絵図』である。

そんなライトの言い分を知ってか知らずか、ラウルがのっそりと立ち上がる。

「……小さなご主人様のお呼びとあらば、行くしかあるまい」

「おう、ラウル、お前もクー太と存分に遊んでこい」

「ラウルさん、うちのクー太ちゃんはとっても優しくて賢い子ですから、怪我をする心配などありませんので。たくさん遊んでやってくださいねぇー」

「了解ー」

レオニスとクレアに見送られながら、ライトとクー太の遊び場に混ざるラウル。

空中を自在に飛ぶラウルが遊び相手に加わり、クー太も大喜びで空を飛び回っている。

人族の子供とドラゴンの子供、そして妖精の青年の三者がキャーキャーと騒ぎながら遊ぶ光景を、レオニスとクレアの二人はしばし無言で見守っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ライト君、ますます強くなっているようで何よりですねぇ」

「間違っても普通の子供じゃないがな……」

「それはそれで良いことじゃないですかぁ。だってライト君は、将来立派な冒険者になることを目指している訳ですし」

「……まぁな。あんだけいろいろと恵まれた素質があるというのは、喜ばしいことだとは思うがな」

間違っても普通の子供の遊び方ではないライトを眺めながら、クレアが微笑んでいる。

レオニスとしては、この尋常でないライトの力が若干心配の種ではある。

しかしクレアの言うことは尤もで、ライトが持つ非凡な才能は彼の将来の夢『立派な冒険者になる!』を叶えるための大きな力となるだろう。

そのことは現役冒険者であるレオニスもよく分かるだけに、苦笑しながらもクレアの論を認める他ない。

「グランさんとレミさんが、今のライト君の姿を見たら……きっと大喜びなさることでしょうねぇ」

「ああ……特にグラン兄なんか、絶対に『俺の息子は将来世界一の冒険者になるぜ!』って大はしゃぎするだろうなぁ」

「でしょうねぇ。そしてグランさんの横で、レミさんが渋い顔をしながら『この子が冒険者になるのはいいけれど、貴方の無鉄砲さまで移っちゃ困るわ!』と苦言を呈するんでしょうねぇ」

「違ぇねぇwww」

クレアの何気ない呟きに、レオニスがくつくつと笑いながら同意する。

クレアはレオニスだけでなく、ライトの父グランが冒険者だった頃もずっと見守ってきた。

そんなクレアだけに、グランのこともレミのこともよく知っている。

彼女が語るグランとレミの想像の会話は、レオニスにもありありと思い浮かべることができた。

脳裏に浮かぶグランとレミの姿に、くつくつと笑っていたレオニス。

だがその笑いが治まった後、レオニスは明るく笑いながら走り回るライトをじっと見つめる。

「……ライトも今年十歳になる。本人曰く、『もちろん誕生日が来たらすぐに冒険者登録する!』んだそうだ」

「まぁ、それは楽しみですねぇ。ライト君のお誕生日はいつなんですか?」

「八月十二日だ」

「ということは、夏休みの間なのですねぇ。ライト君のことですから、きっとその日になったらすぐにでも冒険者ギルドにすっ飛んでいきそうですねぇ」

「全くだ。下手すりゃ朝イチの五時前に入口の前で並んで待って、五時ぴったりにギルド入りするんじゃねぇか?」

話の流れで、今度はライトの冒険者登録の話になる。

ライトの誕生日は、お盆直前の八月十二日。今年の誕生日で十歳になるライトは、二人が予想するまでもなくその日のうちに冒険者登録をしに行くことだろう。

するとここで、クレアがふと自身がずっと気になっていたことを口にした。

「そういえば、ライト君はどこで冒険者登録するんですかねぇ? やはり利便性を考えると、ラグナロッツァが最有力でしょうか」

「ンー、そこら辺はまだ話したりしてないから、ライトから直接聞いたことはないが……多分ディーノでするんじゃないか?」

「え、そうなのですか? 今のライト君はラグナロッツァに住んで、毎日ラグーン学園にも通っていらっしゃるのに?」

クレアが気になったのは、ライトがどこで冒険者登録を行うか、だ。

サイサクス世界の冒険者とは、一度冒険者ギルドに登録すれば以後全国どこでも活動ができる。故にどこの街で登録しても問題はないし、登録した場所によって待遇が変化することもない。

だが、一番最初に登録した街を所属とする冒険者は多い。

それは冒険者の大半が自身の出身地、つまりは生まれ故郷で登録を行うのが根強い慣習としてあるからだ。

その例でいくと、ライトもディーノ村出張所で登録するのが妥当だ。

だが、今のライトはその生活の大半を首都ラグナロッツァとカタポレンの森の家で過ごしている。

父母の出身地こそディーノ村だし、養い親であるレオニスもまたディーノ村の出身だが、ライト自身がディーノ村に住んだことは一度もない。

故にクレアは、ライトが冒険者登録を行うならきっと彼らの現在の居住地であるラグナロッツァに違いない、と予想していた。

しかし、レオニスの予想はクレアのそれと違うらしい。

クレアの疑問に答えるべく、レオニスは静かに語り続ける。

「クレアが言うように、今のライトはそのほとんどをラグナロッツァで過ごしている。だが、本当なら……グラン兄が生きていれば、きっと今でも家族皆でディーノ村に住んでいただろう」

「……それは……」

「だからきっと、ライトはこのディーノ村で冒険者登録するんじゃねぇかな。……って、これは俺の願望が多分に含まれてるかもしれんがな」

ライトならきっと、グラン兄の遺志を継いでディーノ村で冒険者デビューするに違いない―――レオニス自身が言うように、それはレオニスの願望も大いに含まれている。

そんな己の秘めた願いを包み隠さず話したせいか、レオニスが俯きつつ照れ臭そうな顔で小さく笑う。

そしてその照れ臭さを隠すためか、レオニスはパッ!と顔を上げてクレアの顔を見る。

「それに、ライトはクレアのことが大好きだからな!絶対にクレアのいるところで冒険者登録すると思うぞ!」

「それは……私にとっても、とても光栄なことですぅ」

「だろ? だからもしライトがここで冒険者登録するとなったら、そん時は俺ともどもよろしくな!」

「ええ、お任せください。正真正銘新人初心者のライト君はもちろんのこと、いつまで経っても手のかかるレオニスさんもまとめてこの私が面倒を見て差し上げましょう!」

ニカッ!と笑いながらライトのことを頼むレオニスに、クレアも即時レオニスとまとめて面倒を見る宣言をする。

クレアは冒険者ギルド主催の受付嬢コンテストの殿堂入りを果たしている、正真正銘世界レベルで有能な受付嬢だ。そんなクレアに冒険者のいろはを一から指導してもらえれば、ライトの冒険者としての将来は安泰を約束されたも同然である。

そんな大人達の水面下の話やさまざまな思いなど知らず、ドラゴンの幼体クー太やラウルと無邪気に遊び続けるライト。

破顔する彼の行く末が明るく幸福に満ちたものであることを、二人の大人達は心から願うばかりだった。