軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1094話 冥界樹の偽らざる本音

地底池から冥界樹のもとに移動するライト達。

初めて地底世界を訪れる白銀の君は、全てが物珍しくてずっとキョロキョロしながら歩いている。

『大地の奥底に、このように広大な空間があるとは……』

「ここには冥界樹や地の女王達がいるからな。特にランガなんて、天空樹のエルちゃんよりもデカいぞ?」

『まぁ、ユグドランガ様はそんなに大きい御方なのですか?』

「見たところ、エルちゃんの五割増しはありそうな感じだったな」

『エルちゃん様の五割増し……我が君の倍以上ですね……』

レオニスが語る冥界樹ユグドランガ。

その偉大なプロフィール?に、白銀の君は僅かながら身震いしている。

『そんな偉大なる御方に、私のような若輩者が今から御目文字するなんて……ますます緊張してきました』

「何だ、白銀でも緊張することなんてあんのか?」

『レオニス、其方……私を一体何だと思っているのです?』

「そりゃアレだ、シュマルリ山脈最強の竜の女王だろ? 俺だってそれくらい、ちゃーんと覚えてるさ!」

思わず弱音を漏らした白銀の君に、レオニスがすかさずちゃちゃを入れた。

そんなレオニスを、白銀の君はジロリンチョ、と睨みつける。

もちろんレオニスがそれに縮まることはない。からからと笑いながら軽口を叩き続ける。

「ま、白銀の君が若輩者なら俺達人族はまたスライムかゴブリンにならなきゃならんな。なぁ、ライト?」

「ミジンコ毛虫よりはいいけどねー。てゆか、ゴブリンはラウルが嫌がったから、ナヌスとオーガってことになったでしょ?」

「そういやそうだっけか。ま、か弱い人族は人族なりに頑張らんとな!」

『其方達、本当に懲りないですね……』

頭の後ろに両手を組んで、カカカカッ!と大笑いするレオニス。

スライム&ゴブリン、ナヌス&オーガ云々は、かつてライト達が天空樹ユグドラエルの前で喧々諤々に議論した『白銀の君から見た自分達の位置づけ』である。

その時もユグドラエルの前で緊張しまくった白銀の君の『若輩者』という言葉をきっかけに、ライトとレオニス、ラウルの三人は白熱した議論を展開していた。

ライトとレオニスの懲りなさに、白銀の君はスーン……とした顔で呆れている。

そんな話をしているうちに、薄暗い中にも雄大な樹の姿が見えてきた。

ライトとレオニスはリラックスしたままだが、白銀の君は心持ち緊張しているように見える。

そうしてライト達一行は、冥界樹ユグドランガのもとに辿り着いた。

ライト達の来訪に気づいていたユグドランガの方から、ライト達に向けて声をかける。

『よくぞ参った、我等が神樹族の友よ』

「ランガさん、こんにちは!」

「よう、ランガ。元気にしてたか?」

『おかげ様でこの通り、息災に過ごしておる』

「そりゃ良かった」

ライト達を心から歓迎するユグドランガ。

その渋く穏やかな声は、相変わらずダンディで魅力的である。

『して、今日は何用かあって来たのか?』

「もちろん。いくつか目的があって来たんだが、まずはここにいる竜の女王を紹介しよう」

『ほう、竜の女王か』

「ああ。彼女の名は白銀の君、地上にあるシュマルリ山脈の主にも等しい存在だ。そして竜王樹であるラグスを我が君と慕い、常にその傍にいる」

『ああ、ラグスの……』

ユグドランガに来訪目的を問われたレオニス、まずは白銀の君の紹介から始める。

紹介される白銀の君の方は、緊張のピークに達しているのかガッチガチに固まっている。

緊張しまくりの白銀の君に、ユグドランガが優しい口調で語りかける。

『 其方(そなた) が白銀の君か。其方のことは、いつもラグスから聞いている。我が弟をよく助けてくれているそうだな。ラグスは其方の忠節にとても感謝していた、我からも礼を言う』

『ハハッ!もったいなきお言葉、恐悦至極に存じます!冥界樹ユグドランガ様におきましt』

『ランガ』

『うぐッ』

改まって畏まった挨拶をする白銀の君に、ユグドランガからの容赦ないツッコミが炸裂する。

さすがに『ランガ君』とまではいかないが、ユグドランガも皆と同じく愛称で呼ばれたいらしい。

本当にこの神樹族は、揃いも揃っておちゃめさん達である。

『ぁー、ぇー、コホン……ラ、ランガ様におきましては、敬愛する我が君ユグドラグス様の兄君であらせられ……此度御目文字が叶いましたこと、誠に嬉しく存じます』

『フフフ……そんなに畏まらずともよい。ゆるりと過ごせ』

『そうは参りません!ランガ様のような畏れ多くも偉大なる御方を前に、ゆるりと過ごせなど……私のような若輩者には、到底無理難題でございます!』

『そうか? あの者達は、もう既に何がしかの支度をしておるようだが……』

『へ???』

相変わらず緊張しっぱなしの白銀の君に、ユグドランガがリラックスを促すもなかなか上手くいかない。

そんな白銀の君を尻目に、彼女の後ろでいそいそと敷物を敷いているライトに、空間魔法陣からいくつかのバスケットを取り出しているレオニス。

ウィカに至っては、既に敷物の上にちょこなんと座って美味しいものが出てくるのを待っているではないか。

ユグドランガに促されて後ろを振り返り、己の後ろで繰り広げられている光景を見た白銀の君。途端にジトーッ……とした半目になり、スーン……とした顔になる。

『『………………』』

しばらくすると、白銀の君のジト目視線に気づいたレオニス。

何事もないかのように、ニカッ!と爽やかに笑いながら声をかける。

「お、白銀、ランガへの挨拶は終わったか? そしたらここで一休みしようぜ!」

『レオニス……其方、本当にいい度胸してますね……』

「そうかー? 白銀にそんなん言われたら、照れるじゃねぇかー」

『褒めてませんからね?』

白銀の君の言葉に、何故か頭を掻きつつ照れるレオニス。

勇気と行動力が求められる冒険者にとって、度胸を褒められるのは基本的に褒め言葉になるのである。

もちろん白銀の君にとっては、それは決して褒め言葉ではないのだが。

しかし、こんな気の抜けた会話は逆に白銀の君の緊張を解していく。

『まったく……偉大なる御方の御前でする行動とはとても思えませんね。人族というのは愚かなのか賢いのか、時々分からなくなります』

「まぁまぁ、そう言うなって。ほら、白銀が好きなエクスポもたんまり用意したぞ!」

『…………エクスポ、ですか?』

レオニスがたんまり用意したというエクスポーション。

その言葉を聞いた白銀の君の角がピクリ、と動く。

白銀の君もエクスポーションは大好物なので、それがたんまりもらえるとあれば気が惹かれるのも当然だ。

そしてレオニスはレオニスで、白銀の君の機嫌が上向いてきたことを敏感に察知し、さらに言葉を続ける。

「おう、今日は特別に百本出したぞ。白銀には後でまた働いてもらわなきゃならんしな」

『ふむ……そういうことでしたら、いただくことにしましょう。其方達の気持ちを無碍にする訳にもいきませんしね』

「五十本二回と、三十三十四十の三回、どっちがいい?」

『そうですね……せっかくですから、ここは三回に分けて味わいたいですね』

「了解ー。じゃ、三十三十四十の三回な!ライト、白銀にエクスポ三十本渡してやってくれ」

「はーい!」

レオニスの気遣いに、澄ました顔で受け答えする白銀の君。

だが、額に生える左右一対の立派な角がピクピク☆と小さく動いている。

これは、白銀の君の機嫌が非常に良いことを表している。彼女が嬉しい時や楽しいと思った時に必ずそこが動くことを、レオニスはこれまでの付き合いを通して知っていた。

ちなみにレオニスとの模擬戦時にも、その角はよく動く。

レオニスとの戦いは、白銀の君にとっても対等な相手と戦える喜びをもたらしていた。

「白銀さん、どうぞ!」

『ありがとう。早速いただきますね』

ライトの前にスッ……と差し出された、白銀の君の大きな手。

その上にライトは三十本のエクスポーションを乗せて渡した。

大好物のエクスポーションを、早速全部口の中に放り込む白銀の君。

パリン、バキン、モクモク、ゴッキュン…………白銀の君がエクスポーションの瓶を噛み砕く音が響く。

目を閉じながら味わう白銀の君、その顔からエクスポーションの美味しさを心の底から堪能しているのが窺える。

ライトが白銀の君に大好物をご馳走している間、レオニスはユグドランガの方に赴いていた。

「ランガには、ツィちゃんやシアちゃんも大好きなものをご馳走しよう」

『妹達が大好きなもの、か?』

「ああ。ツィちゃん達だけじゃなくて、エルちゃんやラグスも好んで飲んでくれるぞ? イアだけは海の中に住んでるから、おやつとして出すこともできんけどな」

『…………???』

海に住まう海樹ユグドライアを除く、他の神樹がこぞって大好物だというもの。

現時点では、それが何か全く分からないユグドランガ。不思議そうにしているユグドランガに、レオニスは空間魔法陣からツェリザークの雪を取り出した。

『それは……一体何なのだ?』

「これはな、天から地上に降り注ぐ雪というものだ。気温が低い時にできる、水が凍りかけたもんだと思ってくれりゃいい」

『それが雪というものか……エル姉様やツィ達弟妹から、時折話には聞いていた。何でも『ブレンド水』なる不思議な味の水を、其の方達が時折ご馳走してくれる、とな』

「おお、そうか、やっぱツィちゃん達から話は聞いてたか」

レオニスが取り出したのは、レオニスの身長の倍はあろうかという巨大な雪玉。

これは今日ユグドランガのもとを訪ねるにあたり、レオニスが前もってツェリザーク郊外で採取してきたものだ。

年越し間近のツェリザークは、もうすっかり豪雪地帯と化している。今年も去年と変わらず雪の取り放題なので、この巨大な雪玉をレオニスは一日かけて何十個も確保してきたのだ。

この大きな雪玉を、ユグドランガの幹と根本の境目に置くレオニス。

冷たい雪が触れたことで、ユグドランガが『うおッ、冷たッ!?』と小さく声を上げた。

地底世界には雪どころか氷も存在しないので、冷たいものに触れるという経験自体がユグドランガには皆無。雪の冷たさにびっくりするのも無理はない。

『こんなに冷たいものに触れるのは、我が長き生に於いても初めてのことだ……』

「あー、そりゃそうだよな。初めての雪とそのお味はどうだ?」

『……確かにこれは、地底の池の水と全く違う。とても清浄な魔力が含まれているのが我にも分かる』

「美味い不味いで言えばどうだ?」

『もちろん美味い。決して地底の池の水が不味い訳ではないが、それでもこの雪というものの味は別格に思える』

「そうかそうか、美味いなら良かった!」

ユグドランガの根の上で、ツェリザークの雪玉がじんわりと融けていく。

今回は初めてということで、ブレンド水ではなく純粋にツェリザークの雪を味わってもらうために単なる雪玉を出した。

その甲斐あってか、ユグドランガにもその美味しさが十二分に伝わったようだ。

「この雪が降るツェリザークには属性の女王の一人、氷の女王が住まう氷の洞窟があるんだ。その氷の洞窟からは、氷の女王の魔力が常時大量に漏れ出る。そのため、雪にも上質な魔力が含まれているんだ」

『そうなのか……属性の女王の力は我も知っているが、地上には我も知らないような様々なものがあるのだな』

「まぁな。逆にこの地底世界にしかないものってのも、たくさんあるがな」

外の世界に思いを馳せるユグドランガに、レオニスはつい、と真上を見ながら語りかける。

「例えばこの、星屑を散りばめたような景色。地上でも夜になれば満天の星が輝くこともあるが、ここの景色はそれに勝るとも劣らない絶景だ」

『夜、か……ここには夜も昼もないが、其の方達がエル姉様や弟妹達に渡してくれた分体を通して地上の景色を見ている。あの昼間?というのは我には眩し過ぎて、未だに慣れることができぬ』

「ははは、そうか。そりゃそうだよな」

少しだけ愚痴っぽくなっているユグドランガに、レオニスは明るく笑いながら同意する。

確かにこの地底世界には昼夜の概念はない。太陽がないのでそれも当然だ。

そんな地底世界に住むユグドランガには、分体を通して見る昼の明るさは眩し過ぎるというのも無理はなかった。

「ま、住む世界が違うのはどうしようもないよな。その世界に生まれ落ちた以上、そこで生き続けていかなきゃならん。特にあんた達神樹族は樹木だけに、自力で動くのは至難の業だしな」

『そうだな。我もこの運命を……我が身を何度呪ったか知れぬ』

「だろうな。だが……俺達が届けた分体を通して外の世界を見ることで、神樹達の気が少しでも晴れれば本望だ」

『…………』

静かに語るレオニスの言葉に、ユグドランガはしばし無言になる。

まだ二度しか会っていないこの人族に、何故自分はここまで本音を曝け出してしまっているのだろう?

ユグドランガ自身、このことが不思議で仕方なかった。

だがその時、過日レオニスに入れてもらった他の神樹達の分体がふいに温かくなるのを感じたユグドランガ。

その瞬間、ユグドランガは悟った。

全ての神樹達に寄り添い、彼ら彼女らの望みを積極的に叶えてくれるレオニスだからこそ、偽らざる本音を隠すことなく曝け出せたのだ―――と。

レオニスが先程ユグドランガの根の上に置いた、ツェリザーク産の巨大な雪玉が半分以上融けている。

この地底世界は閉ざされた世界で、気温は地上でいうところの初夏くらい。常夏とまではいかないが、常時温暖な気温が保たれているので雪や氷も融けるスピードがかなり早いのだ。

半分以上融けた雪玉の底から、雪解け水がどんどん滴り落ちる。

氷の女王の魔力を含んだ上質な水を飲みながら、ユグドランガは再びレオニスに語りかけた。

『レオニス、と言ったか。其方がもたらしてくれる数多の光は、未だ我には眩しいが……これからも新たな光を届けてくれると嬉しく思う』

「俺ができることなら、何だってしよう」

『対価は然程出せぬと思うが……それでも良いか?』

「もちろん。つーか、対価ならこないだもらった枝だけで十分だ!それに……」

これからもレオニス達との友誼を望むユグドランガ。

だがしかし、レオニス達の働きに対して出せる対価が少ないことを気にしていた。

そんな生真面目なユグドランガの悩む姿に、レオニスは努めて明るく返す。

「何より俺達はもう友達だろ? ツィちゃん達の兄弟姉妹なら、全員漏れなく俺達の友達だぜ!」

『……ッ!!』

屈託のない笑顔で友達宣言をするレオニスに、ユグドランガはハッ!とする。

種族の壁など物ともせず、いとも簡単に飛び越えてくるレオニス。

その眩しさは、今までユグドランガが見てきたどんなものよりも眩しかった。

『……そうだな。我と其方達は、もう既に友達であったな』

「だろ? だからランガはいつでも俺達を頼ってくれていいし、俺達もランガの力が必要な時は遠慮なく頼らせてもらう。それでいいだろ?」

『ああ、承知した』

対等な友として付き合う、というレオニスの言葉に、ユグドランガも嬉しそうな声で答える。

ユグドランガの枝葉が、風もないのにサワサワと揺れ動く。

それは、住む世界が全く違う新たな友を得たユグドランガの、心からの喜びを表していた。