軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1086話 拒絶する逆風

冒険者ギルドケセド支部を出たライトとレオニス。

街の外出て、目的地であるフラクタル峡谷があるコルルカ高原に向かう。

街の中もそこまで賑わいは感じられなかったが、街の外はもっと荒涼とした景色が広がっていた。

「よし、ここからは走っていくぞ。しっかりついて来いよ」

「うん!」

レオニスの呼びかけに、ライトも元気よく応える。

人里以外の郊外で全力で駆け抜けるなど、クレエとディープシーサーペントを引き合わせたエンデアンでの帰りのかけっこ勝負以来か。

果てしなく広がる高原を走るのは、いつも駆け回るカタポレンの森とはまた違う、とても新鮮な感覚だ。

高原の中でも、なるべく谷を迂回しながら平らな地面を走り続ける。

迂回が難しそうな、河川に面した切り立った崖に近い斜面に近づいた時には一旦止まり、レオニスがライトを背負って川を渡る。

それを何度か繰り返しながら走り続けること約二時間。とても深い谷がある場所に辿り着いた。

「うわぁー…………ここがフラクタル峡谷?」

「多分な。看板とか注意書きなんて何もねぇけど、ケセドの街からひたすら真西に走ってちょい北にあるここが一番深そうだ」

フラクタル峡谷の崖っぷちの上から、おそるおそる下を覗き込むライトにレオニスが悠然と答える。

このコルルカ高原は、高原部分の平均標高が1500メートルを越えていて、その最も深い峡谷とされるフラクタル峡谷の最大高低差は2000メートル近いとされている。

実際ライトが下を覗き込んでも、奥の方は影になっていて底の方までよく見えない程だ。

「この谷のどこかに、風の女王様がいる神殿があるんだよね? どこら辺にあるのかな?」

「谷底の手前の壁面にあるらしいが……実際に下に降りてみないことには分からんな。とりあえず下に行ってみるか」

「うん!」

レオニスがライトを再び背負いふわりと宙に浮く。

そして、谷の底に向かうべく下降し始めて数瞬時。突如強い突風が下から吹き上げてきた。

「……ッ!!」

突風に押し戻される格好で上空に吹き飛ばされたレオニス。

それまで谷から風はほとんど吹いていなかったのに、レオニスの行動にタイミングを合わせたかのように突然起きた突風。

それはまるで、他者の侵入を決して許さず排除するかのような逆風でらクレスが言っていた現象と一致していた。

レオニスは一旦高原の地面に戻り降り立った。

「ライトはちょっとここで待ってな」

「うん」

背負っていたライトを地面に下ろし、今度はレオニス単身で再び宙に浮き谷底に向かってみる。

しかし、やはり谷底に向かおうとすると先程と同じく強烈な突風が吹き上げてきて、下に行こうとするレオニスを身体ごと上に押し戻す。

ビュービューと轟音が響く中、レオニスが谷から抜けると風も途端に止む。やはり何らかの意思が働いていて、侵入者を拒絶しているのか。

しばらくしてライトのもとに戻ったレオニス。

渋い顔をしながら呟く。

「うーーーん……この風の吹き方からして、クレスが言っていた通りだな。俺達がこの谷に入ることを拒んでいるんだろう」

「それってやっぱり、風の女王様がしているのかなぁ?」

「おそらくな。こんな強風を自由自在に操れるなんて、風の女王以外にいねぇよ」

「だよね……」

あからさまな拒絶反応に、ライトもレオニスも渋い顔で考え 倦(あぐ) ねる。

何もしていないうちからここまで拒絶されるのは、ライトはもちろんレオニスでも初めてのことだ。

あの人嫌いで有名な氷の女王ですら、ここまで門前払いにすることはなかったというのに。

ちなみにライトもレオニスも、マントやロングジャケットの内ポケットに属性の女王達の勲章を入れてある。

これがあれば、大抵の女王達は会う前から興味を示してくれたのだが。今回に限っては、どうもそれが通用しなさそうだ。

クレスさんの話では、風の女王様の代替わりが起きたって言ってたけど……そのことで悲しんでいるのかな。

それとも氷の女王様のように、人族が知らないうちに何か無礼を働いていて、人族が谷に入るのを嫌っているのかな……

ライトがそんなことを考えていると、レオニスがライトに声をかけた。

「しゃあない、重力魔法をかけながら下に降りていくぞ」

「うん、分かった。重力魔法でうんと重くなれば、下から風が吹いても重さで降りていけそうだもんね!」

「そゆこと。とりあえず命綱代わりに俺とライトの胴体に縄をつけて結ぶぞ」

「はーい」

レオニスが空間魔法陣を開き、一本の長縄を取り出す。

まず自分の腹部辺りに縄でぐるりと輪を作り、本体側の端の縄でライトの胴体にも輪を作って二人を結ぶ。締め付け過ぎない程度にしっかり結ぶのがポイントだ。

そしてレオニスがライトを前側に抱っこし、ライトはレオニスの身体に全力でしがみつく。木にしがみつく小猿状態の完成である。

「よし、行くぞ」

「うん!!」

準備万端整えたレオニス、ふわりと宙に浮き三度目の谷突入に挑む。

レオニスが谷に入ろうとした途端に、またも強風な風が谷底から真上に吹き上げてくる。やはりライト達を拒絶しているようだ。

しかしレオニスもこのまま黙って引き下がる訳にはいかない。

すかさず重力魔法を自分自身にかけ、徐々に重さを増していく。

そうしてレオニスが三回目の重力魔法をかけた時、強風吹き荒ぶ中レオニスの身体がだんだん下に沈み始めた。下からの強風の浮力より、レオニスの重力魔法による加重の力が上回ったのだ。

ゆっくりとではあるが、少しづつ谷底の方に降りていくレオニス達。

途中再び風が強くなる度に、レオニスも重力魔法を重ねがけして慎重に対処していく。

二人がゆっくりと下に降りていく最中、ライトはレオニスの肩越しに背後の岩壁をじっと見ている。レオニスの背後側に神殿が現れないかをずっと見張っているのだ。

そうしてライト達が谷の中で下に向かい続けてから約十分が経過した。

その頃には風の勢いも弱まり、レオニスも重力魔法を解除してゆっくり降りていった。

「……着いたぞ」

レオニスが地面と呼べる場所に降り立ち、抱っこしていたライトを下ろして命綱の縄を解く。

そこはレオニスが見ていた側の壁面で、谷底から50メートルくらい上に一ヶ所だけ崖のようにぽつんと突き出た場所。

何かを設置するためだけに切り出されたような、猫の額のような平らな地面の上に神殿が建っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その神殿は、ライト達が今まで見てきた湖底神殿や海底神殿、天空神殿や雷光神殿などと全く同じ作り。例によって例の如くコピペで創り出されたものと思われる。

見慣れた作りの神殿を前に、ライトとレオニスは見上げながら話し合う。

「これが、風の女王様がいる神殿……?」

「だろうな。風の女王がいる神殿は『辻風神殿』と呼ばれているらしい」

「辻風神殿……」

ライト達の前に聳え立つ白亜の神殿。

二人はしばらく無言のまま中の様子を伺うも、何の気配も感じられない。

もし風の女王が代替わりしたのなら、この辻風神殿の中に風の女王がいるはずなのだが。風の女王が出てくる様子は全く見受けられない。

このままここで立ち続けても何もならないので、レオニスがライトに声をかける。

「とりあえず、神殿の中に入ってみるぞ」

「うん……」

神殿の入口に向かって歩き出したレオニスの後を、ライトが遅れないようについていく。

これまでにないアウェー感に包まれたまま、ライトとレオニスは辻風神殿の中に入っていった。