軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1084話 ライトとラウルの勉強会

午前中は転職神殿で過ごしたライト。

お昼ご飯はラグナロッツァの屋敷でラウルとともに摂り、午後はラウルと二人でナヌスの里に向かう。

ライトは昨日に続きナヌスの結界術の勉強のために出向くのだが、何故そこにラウルまでついていくかと言うと、ライトの計画『カタポレンの畑の温室化大作戦!』を知ったからである。

昨晩のラグナロッツァの屋敷での晩御飯の時に、ライトがその日のナヌスの里での出来事を皆に話して聞かせた時のこと。

それはもうラウルの食いつき方がすごかった。

皆晩御飯を食べている最中なのに、ラウルは椅子からガタッ!と立ち上がり向かいに座っていたライトに前のめりで問い返す。

「何ッ!? カタポレンの畑も温室栽培できるのか!?」

「うん、多分ねー。ナヌスの結界を使えば可能になるはずだよー」

「そしたら俺も、畑の半分くらいを温室にしたい!その方法を俺にも教えてくれ!」

「じゃあ明日の午後、ぼくといっしょにナヌスの里に行く? 族長のヴィヒトさんから、もしレオ兄ちゃんやラウルも結界術を習いたいならきちんと個別に習いに来いって言われてるんだー」

「もちろん行くぞ!何が何でも、這ってでも行く!」

ライトの誘いに、一も二もなく食いつくラウル。

両の拳を握りしめ、その背には不動明王も斯くやあらん業火の如き火焔が燃え盛る。

何やらラウルの農家魂に、壮絶なまでに火がついたようだ。

そしてそんな二人の会話を、レオニスとマキシは冷静に見ている。

「あいつ、ホントはこの屋敷の執事が本業なはずなんだがなぁ?」

「ラウルの料理愛が、素材の野菜栽培にまでガッツリ飛び火してますよねぇ……」

「……ま、あいつが楽しく過ごせるならそれが一番だがな」

「ですね。それに、ラウルの野菜栽培はオーガの人達の役に立ったり、天空島のヴィーちゃん達も楽しみにしてますからね」

最初は半ば呆れつつも、最後の方では燃え盛るラウルを見ながら小さく笑うレオニスとマキシ。

ラウルの過去を思えばこそ、結局は二人ともラウルの幸せを願ってやまないのだ。

この日もラグナロッツァの屋敷は、温かい空気に包まれていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

昼食後にカタポレンの家に移動し、ナヌスの里に向かうライトとラウル。ライトが先頭を歩き、いつもの出入口の道からナヌスの里の中に入っていく。

ラウルがこのナヌスの里に入るのは、二度目のことだ。

その前の最初の訪問は、今から四ヶ月くらい前のこと。ライトの夏休みの終わり頃で、ユグドラツィを守る結界について話し合いにきた時以来である。

そしてラウルはまだ【加護の勾玉】を身体に取り入れてはいないが、オーガの族長ラキから同じものを貸し出してもらっているので問題なく入れた。

かつて八咫烏兄弟のフギンとレイヴンとともに、ナヌスの結界に挑んだラウル。結局何をどうしても突破することができず、三者揃って完敗を喫したのも今となっては良い思い出である。

「エディさーん、こーんにーちはー!」

空に向かって呼びかけるエディ。そしてその呼び声に応じ、エディが木の上から飛び降りてきた。

「よう、ライト。昨日も来たのに今日も来るなんて、珍しいな?」

「うん、ぼく今冬休み中だから、しばらくの間は毎日好きなことができるんだ!」

「フユヤスミ? よく分からんけど、子供なのに毎日好きなことができないのか……人族ってのは大変なんだなぁ」

「ハハハハ……まぁね……」

人族ならではの学習システム、学校を知らないエディがライトの現状を憐れむ。

ライトだって本当は毎日冒険三昧したいところだが、まだ子供であるライトはラグーン学園に通って様々なことを学ばなければならない。

人族社会で生きていくには、数多の柵を経て成長していかなければならないのである。

そして里の中央に着いたライトとラウル。

今日もヴィヒト他数人のナヌス達がライト達を出迎えた。

「ライト殿、ようこそいらした」

「ヴィヒトさん、こんにちは!今日も結界魔法の伝授、よろしくお願いします!」

「うむ、勤勉なのは良いことぞ」

ヴィヒトに頭を下げるライトを、ヴィヒトは快く受け入れる。

そしてそれと同時に、ライトの斜め後ろにいるラウルに目を遣りながら問いかけた。

「……して、ラウル殿は今日はどうなされたのかな?」

「小さなご主人様が、ここで結界術を学ぶと聞いてな。俺も是非学びたいと思い、小さなご主人様についてきたんだ」

「そうか、ライト殿は我らとの約束をきちんと守ってくれたのだな」

ラウルの答えを聞き、ヴィヒトが満足そうに頷く。

ヴィヒトがライトに『結界を学びたければ、必ず個々に訪ねてこい』と言ったのは、又聞きによって誤った解釈や使い方をしないように、という配慮と対策であった。

その意図をライトはちゃんと理解し、約束を守ったことにヴィヒトは満足していた。

「では、早速今から結界魔法をお教えしよう。まずラウル殿に一からお教えする故、ライト殿もそれをよく見ておくように。昨日の復習も兼ねられるしな」

「ありがとう。よろしく頼む」

「分かりました!」

笑顔で指示を出すヴィヒトに、ライトは元気よく返事をし、ラウルは深々と頭を下げる。

そんなライト達に、ナヌスの長老達もご機嫌そうに話しかける。

「昨日のライト殿の話を受けて、あれから我らも魔法陣の改良に取り組んだんじゃ!」

「ホントですか!? ありがとうございます!」

「でな? 結界の内側に何かを閉じ込めるというのは、今までの結界を反転させるということじゃろ? それを実現するには 云々(うんぬん) かんぬん……」

「ふむふむ……」

新しい結界技術を理論展開させる長老達の話に、ライトも頷きつつアイテムリュックから画板やコンパス、ペンなどを取り出す。

一方ラウルの方も、空間魔法陣を開いて画板その他を取り出す。

ラウルの画板その他は、今日の午前中にラウルが市場の画材店で購入してきたものだ。

前の日の晩に、ラウルはライトから『ナヌスの結界を学ぶなら、前もって画板とコンパスを用意した方がいいよー。ほら、魔法陣って円形が多いでしょ? 紙の上に正確な魔法陣を描くには、ちゃんとした画材が必要だし。ラウルのお料理といっしょで、良い道具を使って取り組んだ方が絶対に早く上達するからねー』というアドバイスを受けた。

そりゃそうだよな、とラウルも納得できる話だったので、今日も迷うことなくライトの指示に従う。

うちの小さなご主人様は本当に物知りだよな、とつくづく思うラウルである。

ラウルは里の中央広場のど真ん中に胡座で座り、使い慣れないコンパスを駆使して四苦八苦しながら円形を描く。

そんなラウルの横には、ヴィヒトとヴォルフがつきっきりで結界用魔法陣のレクチャーを行う。

そしてライトはラウルの斜め後ろにつき、昨日の学習内容を復習しつつ長老達の助言にも耳を傾ける。

全てはカタポレンの畑の温室化のため。

学習意欲に燃える 人族(ライト) と 妖精(ラウル) 相手に、 小人族(ナヌス) 達もまた全力で応えていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして午後の三時半を回った頃。

休憩を兼ねて皆でおやつを食べることになった。

ライトはカスタードクリームパイと牛乳、ラウルはバニラクッキーとホット珈琲、ナヌス達には細かく切り分けたアップルパイを出す。

ちなみにナヌス達の飲み物は、ヴィヒトがナヌスのご婦人方に頼んで各種ぬるぬるドリンクを持ってきてもらっていた。

「この、水色のぬるぬるドリンク? 本当に不思議な味と喉越しよのぅ……全く以って癖になるわい」

「黄色のアレも良いが、ワシは断然この水色がイチ押しじゃ!」

「特に風呂上がりの水色の一杯、これが堪らん!」

アップルパイを食べつつ、水色のぬるぬるドリンクを大絶賛するナヌスの重鎮達。

ご婦人方には黄色のぬるぬるドリンクが圧倒的な人気を誇るが、男性陣には水色が大人気のようだ。

水色のぬるぬるドリンクとは、炭酸入りのソーダ味。人族の間でも人気の味だ。

「ワシもこの水色が好きなんじゃが、もうすぐ素の粉が尽きてしまう……ライト殿、今度は水色の素もいただけんかのぅ?」

「水色ですねー、分かりました、明後日またお昼過ぎに結界の勉強をしにきますので、その時に持っていきますねー」

「おお、早々に届けてくださるか!そりゃありがたい!」

水色のぬるぬるドリンクの素がもうすぐなくなりそうなことに、しょんぼりするナヌス達。

早速その場でライトに追加を申し入れ、ライトもこれを快諾する。

毎回毎度、何かしらのぬるぬるの素をナヌスに届け続けるライト。今回も『ナヌスの結界を伝授してくれる御礼』と思えばお安いものだ。

美味しいおやつに美味しい飲み物を囲むライト達。

話も多岐に渡り弾む。

「このアップルパイ?というのは、ラウル殿が使ったものなのか?」

「はい、そうです。ラウルはとても料理が上手で、オーガの里でも料理教室を開くくらいなんですよー」

「そういえば、オーガの里と言えば肉料理が主流だったのが、ここ最近は様々な料理が増えたと聞いていたが……そうか、ラウル殿の指導によるものだったのだな!」

「確かにこれは美味い。いつもライト殿がくださるアレらに、負けずとも劣らない美味さよの!」

「お褒めに与り光栄だ」

ライトが語るラウルの功績に、ナヌス達は大いに絶賛する。

ナヌス達はオーガの里の結界維持のために、交代で時折オーガの里に出入りしている。

そのためか、オーガの里での料理の質の飛躍的な向上を知っていたようだ。

他にもユグドラツィの結界のその後の話なども話題に上る。

ナヌスの里とユグドラツィの敷地内に転移門を設置して以来、ナヌス達が時折ユグドラツィのもとを訪ねては結界の様子も見ているという。

神樹のための守護結界を作るという、一世一代の大仕事を完遂したナヌス達。その後のアフターフォローも完璧とは、さすが『結界の達人』を自負するだけのことはある。

そして休憩の間も、ライト達は結界の魔法陣の改良方法を討論している。この様子なら、ライトとラウルが運営するカタポレンの畑の温室化も実現間近だろう。

目覚めの湖の畔近くにある小人族の里は、今日も異種族との温かい交流で賑わっていた。