軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1082話 咆哮樹の実

その後ヴォルフやヴィヒト、長老達ナヌスの結界術のレクチャーを受けたライト。

添削や手解きのために、今後しばらくナヌスの里に通うことになった。

「ライト殿はなかなかに筋がいいのぅ!」

「ええ、これならあと五回……いえ、三回も教えれば結界を完璧に使いこなせるでしょう」

「いやはや、天晴れ天晴れ!さすがは森の番人の弟御、将来が楽しみじゃな!」

飲み込みの早いライトを手放しに絶賛するナヌス達。

親バカならぬ兄バカのレオニス並みに持ち上げられて、ライトは「ぃゃぁ、それ程でも……」と照れ臭そうにはにかんでいる。

その一方で、ヴィヒトやパウル、ハンスはライトが魔法陣を描く際に使用した自作コンパスを手に取り、繁繁と眺めている。

「円形を素早く描ける道具があるとは……」

「我らは自らの手で真円を描けるようになるまで、何年も修行するというのに……」

「これも人族の叡智か……ますます以て侮れぬ」

「よっしゃ、我らも早速この道具を取り入れようぞ!」

ライトが魔法陣を素早くかつ綺麗に描き上げた秘訣、コンパスを見てブツブツと呟くヴィヒト達。

コンパス一つに人族の叡智とは、些か大仰な気がしないでもないが。未知の便利な道具を目の当たりにすれば、ヴィヒト達が驚愕するのも致し方ない。

習った魔法陣を描いた紙や画板などの道具をアイテムリュックに仕舞い、帰り支度をするライト。

また数日後に里を訪ねることを約束し、茜空のもとナヌス達に見送られながらライトは家に帰っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その翌日の朝。

ライトは朝の魔石回収ルーティンワークを終え、レオニスと朝食を摂った後マッピングスキルで転職神殿東に向かった。

目指すは山の頂上付近、その目的は『咆哮樹の実の採取』である。

ライトは今までコズミックエーテル作りのために、それはもう咆哮樹の柴刈を散々してきた。

だが、今まで咆哮樹の実を採取したことは一度もない。これまでの小型、中型で実をつけている咆哮樹は一体もいなかったからだ。

ならば、咆哮樹が実をつけるのは必然的に大型以上ということになる。

という訳で、今日のライトは大型咆哮樹を狩りに来たのだ。

まず出かける前に、カタポレンの自室のマッピングポイントの上に立ち、その場でBCOスキル【隠密】をかける。

これは【斥候】の闇系三次職【忍者】の★4で習得したスキルで、文字通り隠密行動に必要な『気配を消すスキル』である。

この【隠密】はBCOの職業システム由来のバフスキルなので、効果の上乗せができる。

一回の使用につきSP1とMP20消費で、スキルをかける対象者に25%の隠密効果をかけることができる。

一回かける毎に対象者の存在感が薄くなり、上限の100%に到達する四回で完全に他者からの認識外になる。

ここまで聞くと、最強無敵のスキルじゃーん!と思われがちだが、実はそうでもない。

スキルの効果時間は10分と短く、それ以上隠密行動を続けたければ効果が切れる都度、その場で即時四回の【隠密】をかけ直さなければならない。

また、一度他者にその存在を認識されたらその時点で効果が切れる。足音や話し声など、物音を立てて他者に不審に思われた時点で存在がバレる。

戦闘時の不意打ちにはかなり有効な手段だが、その後勝つ見込みがなければ即時逃亡するしかない。

他にも乖離した高レベル者や看破スキルを持つ者には、【隠密】100%でも通用しないケースがある。こればかりは存在を隠したい相手の能力次第であり、運要素が強い。

このように、使いどころを選ぶスキルではあるが、斥候という職業ならではの偵察行動に最適な手段であることは間違いない。

そして今ライトがこの【隠密】をかけたのは、まずは大型咆哮樹に実がついているかどうかを先に確認するためだ。

ライトは既に大型咆哮樹とも戦っており、十分に渡り合えることは分かっている。

だが、先日戦った大型咆哮樹には実がついていなかった覚えがある。

その時のライトは『身代わりの実レシピA』の内容をまだ知らなかったので、大型咆哮樹をよくよく観察した訳ではないのだが、それでも他の小型中型同様の姿をしていて実のようなものはなかった気がするのだ。

見慣れた小型中型では実をつけた個体が皆無な以上、大型以上にしか実が成らないのはほぼ確定事項だろう。

だが、大型なら必ず実をつけている訳でもないのだとしたら、実の有無を先に確認してから戦闘に入る方が絶対にいい。

今のライトの実力では、大型咆哮樹相手に無制限で連戦できるまでには至らないからだ。

今回の目的は咆哮樹の実を採取することなので、実をつけていない個体との対戦は完全に無意味となる。

ライトはそうした無駄を極力省き、最初から実をつけている個体を見つけてサクッ☆とミッション遂行することを目指していた。

そうしてカタポレンの家の自室で【隠密】を四回かけたライト。

満を持して転職神殿東に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

転職神殿東の山の中腹に移動したライト。

キョロキョロと周囲を見回すも、魔物は一匹もいない。

ライトは足音を立てないように、慎重に歩いていく。

今は冬真っ盛りとあって枯れ葉もほとんど落ちていないので、足音が発生しにくいのが幸いだ。

そうして山の上に移動していくこと約三分後。

今日初めての大型咆哮樹を遠目に見つけた。

樹高10メートル超えの大きな咆哮樹を、ライト遠くからじっと凝視し観察する。

幹から上の茂みを重点的に観察したのだが、葉っぱ以外に枝についているものは見当たらない。どうやらその個体には、咆哮樹の実はついていなさそうだ。

コイツはハズレだな……とライトは内心思いつつ、その大型咆哮樹を大きく迂回しつつ山の上を目指す。その後三体の別個体を発見したが、どれも実をつけていなかった。

そうこうしているうちに、最初にかけた【隠密】の効果が切れる時間が近づいてくる。

この手のスキルは、効果が切れた瞬間身体がフッ……と軽くなったり重くなったり、何らかの微妙な違和感が発生する。

それを感じる瞬間に備え、ライトはマイページのスキル欄を開いたまま歩いている。

そして違和感を察知した瞬間に、素早く【隠密】を四回連打した。これでまた10分間は誰にも気づかれずに行動ができる。

そうして七回目の【隠密】100%をかけてからすぐのこと。

ようやくライトは咆哮樹の実が成っている個体を見つけた。

それは身の丈20メートルはあろうかという、大型の中でも特に大きな個体だった。それはもはや大型を超えた『超大型咆哮樹』といったところか。

その超大型咆哮樹の樹上、天辺近くの枝に一つ、普通の葉っぱとは明らかに違うハート型のものが見える。

それはまるで 鬼灯(ほおずき) のような形をしていて、如何にも『これは実です!』というオーラがビンビンに感じられる。

ようやくターゲットを見つけたライト、しばしその場で考えを巡らせる。

『ようやく咆哮樹の実を見つけたはいいが……さて、ここからどうしようか』

『10メートルくらいの咆哮樹なら、何とか頑張って倒せるとは思うが……コイツ、その倍以上はあるよな? つーか、体格だけなら白銀さんよりデケェし……』

『うーーーん……実がもうちょい下についていたら、【手裏剣】の連打で実がついてる枝だけを切り落として、実だけ回収してさっさと逃げるんだが……あんな天辺じゃ、それも無理ゲーだよなぁ……』

『はて、どうしたもんか……』

脳内で現状を冷静に分析していくライト。

身の丈20メートルと言えば、竜の女王である白銀の君よりも大きい。

もちろん能力的には白銀の君の方が断トツに上だろうが、それでもライト一人で挑むには少々荷が重い。

こんな時、レオニスやラウルのように宙を飛べたら良いのだが、悲しいかな今のライトはまだ自身による飛行手段は得ていない。

いや、飛行手段ならあると言えばある。転職神殿にいる力天使ミーナや黄金龍ルディの力を借りればいいのだ。

幸いにもここは転職神殿の近く、下山してミーナ達の協力を仰ぐこともできる。

だが、一度ここから離脱して援軍を呼びに行ったとして、戻ってきた時に実をつけた咆哮樹を再度見つけられる保証はどこにもない。

実際のところ、ライトも咆哮樹の実を見つけるのにここまで苦労するとは思っていなかった。さすがはクエストイベントのエクストラクエストでお題に出されるだけのことはある。

一時間以上かけてようやく見つけたこの獲物。なるべくならば目を離したくない。

『…………しゃあない。やってみるか』

ライトは心の中で決心し、腹を括る。

背負っていたアイテムリュックを慎重に前に向け、ゴーグルとガスマスクを装着する。

そしてアイテムリュックを再び背中側に背負い直してから、今度はマイページのスキル欄を開く。

マイページのホログラムパネル、そのスキル欄の中にあるライトが今使いたいスキルを人差し指で素早くタップし連打していく。

物理攻撃力アップの【エナジー】、敏捷アップの【俊足】、そして回避率アップの【身かわし】をそれぞれ上限の200%に到達するまで重ねがけをした。

全ての準備を整えたライト。音を立てることなく超大型咆哮樹に近づいていく。

近くで一旦立ち止まり、目を閉じながらスゥー、ハァー……と深呼吸をし、昂る気持ちを落ち着かせていく。

その間超大型咆哮樹がライトの存在に気づく様子はない。時折その大きな枝葉を揺らし、足元にいた大きなソイルワームやグランドスライムを足蹴にしてはキヒヒ……と醜悪な笑みを浮かべている。

深呼吸で気持ちを整えたライト。

次の瞬間、その目をクワッ!と大きく見開き、大地を蹴って高くジャンプした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それから約二十分くらい経った頃。

転職神殿では、いつものようにミーアとミーナ、ルディがのんびりと過ごしていた。

ルディが空間魔法陣から出したテーブルと椅子に座り、様々なお菓子類を囲み三人で仲良く食べている。

ルディはミーア達と同じくらいの身体に小さくなり、 蜷局(とぐろ) を巻きつつ椅子に座っている。どことなくシュールな絵面ながらも、姉達とともにお菓子を囲むルディはとても幸せそうだ。

ちなみにこの時のメニューは、ミーアがチョコレートケーキ、ミーナはシュトーレン、ルディは草餅を食べていた。

それらは全て、ミーナとルディがお使いに出かけて持ち帰ってくる拾得品である。

『貴女達がいつも持ち帰ってくるケーキやお菓子、本当に美味しいですねぇ』

『ミーアお姉様に喜んでもらえて、とっても嬉しいです!』

『僕ももっとお使いして、少しでも良い物をたくさんお持ち帰りしますね!』

姉と慕う巫女ミーアの言葉に、ミーナもルディも破顔しつつ張り切る。

二人が出かける『お使い』とはBCOコンテンツの一つであり、本来なら主であるライトが逐一実行コマンドを押して命令し執行するものなのだが。今のミーナとルディは、ライトの手を離れて独自の生を生きている。

なので、彼女達がお使いに出る頻度も日によってまちまちなのだが、それでも使い魔の本能であるお使いは決して消えることなく、今でも継続的に行われていた。

『二人とも、ありがとうね。貴女達のその気持ちが、私には一番嬉しいわ』

『『エヘヘ……♪』』

『しかし、本当に不思議ですねぇ……こんなに美味しくて綺麗な形のままのチョコレートケーキって、一体どこで拾えるものなのかしら?』

『『???』』

皿の上に乗せられた食べかけのチョコレートケーキを、ミーアはその手に持ち繁繁と眺めながら呟く。

ミーアが不思議に思うのは尤もなことで、そこら辺はBCOユーザーであるライトも未だに常々思うところだ。

これらの食べ物系アイテムの正体は、バレンタインデーやクリスマス等の期間限定イベントアイテムで、食べる=服用することでHPやMPの回復効果がある。

そうした過去イベントの限定アイテムを、使い魔達のお使い戦利品として 創造神(うんえい) が適当に使い回しているだけのことなのだが。そうした事情をミーア達が知る由もない。

しかし、由来は謎でもそれが美味しく食べられるものであることに変わりはない。

ましてやそれは、ミーアにとってこの上なく可愛い弟妹ミーナとルディが持ち帰ってきてくれたもの。毒や害悪になる成分なども一切ないことが分かっている。

ミーアがこれらを不思議に思いつつ食べて喜ぶことはあっても、決して忌避したりすることなどないのだ。

そんなのんびりとした会話をミーア達がしていると、ガサガサッ!と近くで草木を掻き分ける音がした。

かなり大きなその音を聞いた三人は、思わずその方向を見遣る。

特にミーナとルディは即時身構えて、音がした方をじっと睨みつける。ルディなどすぐに身体のサイズを元に戻し、警戒感マックスで侵入者を迎撃する気満々である。

そうして転職神殿を囲む木々の間から現れたのは、ライトだった。

『……主様ッ!?』

『パパ様!?』

『まぁ……ライトさん、その格好は一体どうしたんですか!?』

突如姿を現したのがライトだと分かり、三人は一瞬だけポカーン……と驚いたものの、すぐさま警戒を解きライトのもとに駆け寄る。

ミーナ達が警戒感を顕にしたのも無理はない。何故ならライトは、この転職神殿に来る時にはいつも瞬間移動用の魔法陣から現れていたから。

故に転職神殿の外からわざわざライトが出てくるとは、全く思いもしなかったのだ。

そして珍しく外の林から現れたライト。頭や身体が葉っぱ塗れのせいか、髪もボサボサのバサバサになっていた。

そんなライトを見て、ミーナとルディが涙目になっている。

『主様、こんなにボロボロになって……一体どうしたんですか!?』

『この近くの魔物にやられたんですか!?』

「アハハハ……ミーナ、ルディ、ミーアさん、こんにちは」

ボサボサ頭を照れ臭そうに掻きながら、転職神殿の面々に挨拶をするライト。

だが、ミーア達にしてみたらそんな呑気に構えてなどいられない。

ズタボロ姿のライトに、ミーア達はなおも詰め寄る。

『主様、笑い事ではありません!』

『そうですよ!どうしてこんなことになってるんですか!?』

『ライトさん、どこかお怪我などしていませんか?』

「あ、怪我はしてないので大丈夫です。皆、心配かけてごめんね」

涙目でライトの身体をあちこち触ったり、身体中についている葉っぱを取り払ったりするミーア達。

彼女達に心配をさせてしまったことに、ライトは平身低頭で謝り続ける。

そんなライトの口調は確かにしっかりしていて、怪我などは負っていなさそうだということがミーア達にもだんだんと伝わってきた。

ズタボロ姿でも怪我をしていないのなら、とりあえずは一安心だ。

心配のあまり泣きかけたミーナとルディは、鼻をスン、スン、とさせながらライトを見ている。

それ以上言葉が出ない弟妹に代わり、ミーアがライトに声をかけた。

『ライトさん。とりあえずこちらに座り、訳を聞かせていただけますか?』

「分かりました……」

『ミーナとルディもこちらにいらっしゃい。ライトさんのご無事を確認できたのですから、もう泣かないで』

『『……はいぃ……』』

ミーアの言葉に、ライトもミーナもルディも素直に従う。

四人はひとまずテーブルのある場所に移動していった。