軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1081話 大それた野望

その後大根おろしの他にも、ブロッコリーのオリーブオイル焼きや白菜のおひたしなどを堪能したライト。

特に植物魔法Bのブロッコリーは緑の香りがとても良く、「何コレ、 美味(ンま) ッ!」と言いつつラウルと二人してパクパク食べてしまった。

そして昼食を摂った後、ライトは再びカタポレンの家に戻った。

ちなみにラウルはそのままラグナロッツァの屋敷に戻り、料理をするという。今日ライトからもらった面白野菜を早速晩御飯用に用いたり、昨日入手した各種干し肉類の研究など、ラウルにはやりたいことが山ほどあるのだ。

カタポレンの家に帰ったライト、間を置かずにすぐに出かける。

今日の行き先はナヌスの里。ライトは彼らに相談したいことがあるのだ。

目覚めの湖の近く、ナヌスの里の結界がある辺りを通り過ぎたライト。

空に向かって声をかけた。

「エディさーん、いるー?」

ライトの呼びかけからしばらくして、一本の木から衛士のエディが飛び降りてきた。

そしてライトの前に駆けてくるエディ。

「よう、ライト!久しぶりだな!」

「うん!エディさんも元気してたー?」

「もちろん!この通り、今日もちゃーんと衛士の仕事してるぜー!」

「エディさんはナヌスの里を守る衛士だもんね!いつもお仕事ご苦労さま!」

久しぶりに会うライトと軽快な挨拶を交わしつつ、エッヘン☆とばかりに胸を張るエディ。

この衛士のエディは、ライトが初めてナヌスの里を訪れた時に一番最初に会った小人族。いつも結界近くに潜み、外敵や侵入者を見張る門番のような役割を持っている。

もちろん最初に出会った時は、普通に敵認定されてそれはもう邪険な扱いをされたものだ。

だが、今ではこうして仲良く話せる程気心の知れた仲になった。決して良いとは言えなかった初対面時に比べたら、ものすごい進展と言えよう。

「で? 今日は何の用で来たんだ?」

「ンーとねぇ、ぼく、ナヌスの結界について聞きたいことがあるんだー」

「うちで作る結界のことか? そういや前に、神樹の結界作りを森の番人達といっしょにしたって話は聞いたが……もしかして、ライトの家にも結界作るんか?」

「それと似たようなもんかなー」

「お前らの家に、今更結界なんて要るんか?」

「酷ッ!」

ライトの来訪目的を聞いたエディが、ライトに向けて軽口を叩く。

実際エディの言う通りで、もう何年もカタポレンの森に住んでいて森の番人を務めるレオニス宅に、今更結界の新設など不要としか思えない。

エディに言わせれば『お前らゴリッゴリに強いんだから、結界なんて要らんだろ?』といったところである。

だが、ライトに言わせれば『それと似たようなもの』であって、その目的はあくまでも別のところにあるらしい。

そうして里の中央の居住区に辿り着いたライトとエディ。

誰かからライトの訪問の知らせを受けたのか、族長のヴィヒトが数人の長老やご婦人方とともに出迎えに出てきていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ライト殿、久しいの」

「ヴィヒトさん、こんにちは!お久しぶりです!」

「ライト君、こんにちは!」

「お姉さん方もお久しぶりです!……あ、これ、いつものです」

ヴィヒトやご婦人方と和やかに挨拶を交わすライト。

早速とばかりにアイテムリュックの蓋を開けて、ご婦人方のお出迎えの最たる理由であろう手土産を取り出す。

その手土産とはもちろん『黄色いぬるぬるの素』。老若男女問わず、ナヌス達がこよなく愛する美肌と健康のもとである。

「ライト君、本ッ当ーーーにありがとうね!皆ー、倉庫に運ぶわよー!」

「「「はーい♪」」」

ライトから『黄色いぬるぬるの素』の大袋を受け取ったご婦人方。遠慮なくライトから大袋を受け取り、神輿のように複数人で担いでバビューン!と倉庫のある方面にすっ飛んでいく。

相変わらずパワフルなご婦人方である。

「ハハハ……いつも我が里の者達の好きなものを持ってきていただけて、心より感謝する。本当にアレには、皆助けられておる」

「どういたしまして!皆さんのお役に立てるなら、ぼくも嬉しいですし」

「そう言っていただけると、我も救われる……して、本日は何か御用がおありかな?」

「はい。実はですね、ぼく、ナヌスの人達が作る結界について知りたいんです」

「ほう、我らの結界術を知りたい、とな?」

いつもの手土産『アレ』への感謝の意を示しつつ、ライトに来訪目的を問うヴィヒト。その答えを聞き、ヴィヒトが不思議そうな顔をする。

ヴィヒトも先程のエディと同じく、今更結界術を知って何になるのだ?という顔つきである。

「先日の神樹のように、もしどこかに結界を作りたいという話なら、我らがどこへなりと出向いてお作りするが」

「いえ、そうではなくてですね。野菜を作るための結界を作りたいんです」

「野菜を作るための、結界……???」

ライトの口から飛び出た突拍子もない話に、ヴィヒトも長老達もますます首を傾げる。

全く以て訳が分からない、という顔をしているナヌス達に、ライトは懸命に説明し始めた。

「えーとですね、ぼく、家の横にある畑で野菜を作り始めたんです」

「それで? 野菜作りと結界に何の関係があるのだ?」

「結界って、外からの侵入を弾いたりするだけじゃなくて、中のものを閉じ込めたりする働きもありますよね?」

「うむ。我らは主に外部からの侵入者を防ぐために結界を用いるが、その逆の使い方ももちろんできる」

「ですよね!? ぼくはその逆の使い方をして、カタポレンの畑を温室にしたいんです」

「……オンシツ……???」

ライトが懸命に語る真の目的、それは『カタポレンの畑の温室化』であった。

温室栽培は、季節に関係なく様々な野菜や果物、 花卉(かき) を育てることができる。旬ではない植物の通年生産を可能とする、一番手っ取り早い方法だ。

しかし、それをカタポレンの畑で行うのは通常では不可能に等しい。カタポレンの畑にガラス温室を建設すること自体、ほぼ無理ゲーに等しいからだ。

しかし、ライトは畑作りを進めながら懸命に考えた。結界を利用して大気中の熱を閉じ込めることができれば、それはもうガラス温室と変わりない効果を得られるのではないか?と。

そしてこれが実現可能かどうかを相談できるのは、結界の達人であるナヌス族を於いて他にない。

今日ライトがナヌスの里を訪ねたのは『カタポレンの畑に結界を作ることで、結界内を温室化させることは可能かどうか』であった。

しかし、ヴィヒトにはライトの言う『温室化』というのがどのようなものなのか、今一つよく分からない。

そんなヴィヒトのために、ライトは温室の何たるかを解説していった。

「ふむ……冬でも夏のような陽気や、夏なのに冬の気温を再現するのか……」

「はい。そうすることで、夏に咲く花を冬に咲かせたり、冬に実る作物を夏に実らせることもできるようになるんです」

「季節を無視した行い、か……自然の摂理に真っ向から反するとは、さすがは人族よの。考えることが我らとは根本的に異なる」

ライトの力説に、ヴィヒトは眉間に皺を寄せて難しい顔をしつつ呟く。

その険しい表情に、ライトは思わず怯みながらおずおずと可否を尋ねた。

「……もしかして、ダメ……ですか?」

「ああ、いや、絶対に駄目という訳ではない。我らのように森に住み、自然とともに歩む者達にとっては到底理解し難いことには違いないが」

「ですよね……」

ヴィヒトの答えに、ライトは思わず俯く。

実際ヴィヒトの言うことも尤もであり、自然の中で生きる者達はその摂理に従うのが当然として日々を過ごしている。

一年を通して春夏秋冬の恵みと試練を受け取り、それに反することなど微塵も考えない。もちろんナヌスもそうした者達の中の一人であり、自然の摂理に逆らうなどただの一度も考えたことがなかった。

そんなヴィヒト達からしたら、ライトの話はきっと大それた野望にしか思えないだろう。

そうだよねー……ナヌスの人達からしたら、自分達の技術を使って自然に反する行いをするなんて、きっと受け入れられないんだろうな……これはもう、ナヌスに教えてもらうのは諦めた方がいいかもな……

ライトがしょんぼりとしながらそう考えていた、その時。

ヴィヒトが再び口を開いた。

「今聞いた話は、我らには到底できない芸当ではある。だが……ライト殿達人族ならば、きっと有用できるであろう」

「…………!!でしたら…………」

「ああ、ライト殿にも我らの結界術をお教えしよう。もともとライト殿には黄色いぬるぬるだけでなく、様々な恩義があるしの」

「ありがとうございます!!」

ライトに結界術を教えてくれる、というヴィヒトの言葉に、ライトはすぐさま頭を深く下げて礼を言う。

先程のヴィヒトの様子では、ナヌスの結界術は伝授してもらえないだろうな……とライトは半ば諦めかけていた。

なのに、ヴィヒトからは承諾をもらえた。思いがけない幸運に、ライトの顔は不安と歓喜が入り混じった複雑なものになっていた。

そんなライトに、ヴィヒトがいくつかの念押しをする。

「ただし。伝授した結界術は、ライト殿だけが使うこと。もし森の番人殿やラウル殿が結界術を知りたい、と言ってもライト殿が彼らに教えることは許さぬ。その場合は、森の番人殿やラウル殿が直接我らに教えを請い自ら学ぶことが絶対条件だ」

「はい!」

「それと、もし人里で我らの結界術を用いる場合、我らの名を絶対に出さぬこと。我らの存在を必要以上に人族の間で広められても、良いことがあるとは到底思えんからな」

「もちろんです!絶対に秘密にします!」

「あとは……」

「……(ゴクリ)……」

ヴィヒトが刺す釘に、真剣な顔で逐一頷くライト。

どれもナヌスにとって重要なことであり、絶対にライトが守り続けなければならない条件だ。

そして三つ目の条件を伝える前に、ヴィヒトの言葉がふと止まる。

しばしの沈黙に、ライトは思わず固唾を呑みながら続きの言葉を待つ。

そんな緊張感漂う空気の中、ヴィヒトはニヤリ……と笑いながら徐に口を開いた。

「そうさな、その『野菜栽培の温室化』?の成果でも教えてくれれば良いかな。自然の摂理に反する用途とその行く末は、我らも気になるところではある」

「…………はい!」

不敵な笑みを浮かべながら最後の条件を伝えたヴィヒトに、ライトも破顔しつつ元気よく肯定の返事をする。

自分達が自然の摂理に反するのはあり得ないが、他種族がする分には口出しはしない。むしろその結末は興味津々なので、実験結果だけを教えろ!とヴィヒトは暗に言っているのだ。

何だかんだと理屈をつけてはいるが、結局のところはライトに結界術を教えてくれるというヴィヒト。それは今日のラウル同様、己にはない人族ならではの発想や着眼点に感服してのことだった。

とはいえ、ラウルのように手放しで褒めるのは憚られたようだが。

そしてこのヴィヒトの承認は、一見族長の独断のように思えるかもしれない。しかし、ヴィヒトの周りにいる長老達もただ頷くだけで反対はしていないので、一族の総意として認められたとみて間違いないだろう。

ヴィヒトや長老達の温情に、ライトは心から安堵していた。

「よし、そしたら早速今からお教えしようではないか。ライト殿、この先時間の猶予はおありかな?」

「もちろんです!紙もペンもちゃんと持ってきていますし、日が暮れる直前まで居られます!」

「上等上等。そしたらエディ、ヴォルフを呼んできてくれるか」

「畏まりました!」

すぐに結界術を伝授すると言うヴィヒトに、ライトは喜び勇んでアイテムリュックから紙やペン、画板などを取り出す。

その間ヴィヒトはエディに、魔術師団団長のヴォルフを呼んでくるよう指示する。結界術も魔術の一つ、その講師に魔術師団団長を呼び寄せるのは最適と言えよう。

画板の紐を首の後ろに通し、クリップ部に紙を挟んで鉛筆を持つライト。結界の魔法陣を書き写す準備は万端である。

そんなライトを見て、ヴィヒト達が不思議そうな顔でライトを取り囲む。

「この板は、何ぞ?」

「これは画板と言ってですね、ここに紙を挟んで動かないように留めて、その紙に絵や文字を書いたりするための道具です」

「ほう、なかなかに便利そうな品じゃの……ヴィヒトや、早速我らもこれと同じものを作ってみるか」

「そうだな、便利なものは我らも積極的に取り入れねばな!」

初めて見る画板という革新的?な道具に、ヴィヒト他長老達は取り入れる気満々である。

自然の摂理に反しない程度のものならば、便利なものは積極的に受け入れる方針ということか。

画板を抱えながら、体育座りでヴォルフの到着を待つライト。その周りを、多数のナヌス達が取り囲んで賑わう。

ナヌスの里での異種族交流は、今日も和やかな空気に包まれていた。