軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1027話 他の二つの目的

それからしばらくして、地底の星を採取しに飛んでいったレオニスとラウルがライトのもとに戻ってきた。

その手には、キラキラと輝く魔石のようなものが握られている。

大きさは野球のボールより一回りくらい大きく、レオニスの手でちょうどがっしりと握るくらいのサイズだ。

そして何よりライト達の目を引くのが、その強い輝きだ。

電球の昼白色のような眩しい塊、その中には虹の如き七色の煌めきが絶えず揺らめいている。それはライト達が普段使っている魔石の極上品のようだ。

地底の星を見たライトが、思わず感嘆している。

「うわッ、眩しいー!……でも、すっごく綺麗な色をしてるね!」

「ああ、遠目から見てもすっげー光ってて綺麗だったもんな。その実物となれば、なおさら美しく感じるな」

「ぼくも一つ欲しい!」

「おう、もちろんライトの分も採ってきてあるぞ。ほら、手を出しな」

地底の星のあまりの美しさに、自分も一つ欲しい!とおねだりするライト。

もちろんライトがそう言い出すであろうことは、レオニスもラウルもちゃんとお見通しだ。

レオニスの言う通りにライトが両手を前に差し出すと、ラウルが持っていた地底の星をライトの手の上にポン、と乗せた。

持った感じは然程重くなく、ほんのりとした程度の温かさがライトの手のひらに伝わってくる。

だが、そんなほんのりとした温かさに反して、その内包する魔力は途轍もなく大きい。じんわりと伝わってくる温かさの中に、常にゾクゾクとした感覚が背中を走るのがその証拠だ。

その感覚は、膨大な魔力に接した時に本能が畏れを抱く故に起こるものだからだ。

そして、薄暗い闇の中で光るそれは、かなり眩しい光を放っている。薄暗いこの地底世界だからこそ、余計に強烈な光に思えるのかもしれない。

しかし、あまりにも強い光をずっと直視し続けていると、視力に悪影響が出そうだ。ライトは慌てて地底の星を両手で鷲掴みにし、光を抑える努力をする。

「これを持つ時は、サングラスとかした方が良さそうだね……」

「ハハハ、そうかもな」

「と、とりあえずアイテムリュックに入れるね。……てゆか、レオ兄ちゃんもラウルも自分用のお土産にもらったの?」

「おう、結構大きめのを一個づついただいたぞ」

「眩しいからすぐに空間魔法陣に仕舞ったがな」

ライトの分だけでなく、レオニスもラウルもそれぞれ気に入った星を一個づつ入手したようだ。

もちろんそれだけでなく、他の神樹達五本へ持っていく手土産の方もきちんと確保してある。

そうして皆への手土産を採取し終えた後、レオニスがユグドランガに向かって話しかけた。

「さて、そろそろ俺達はお暇する」

『何だ、もう地上に帰ってしまうのか?』

「いや、まだ地上には帰らんが他にも二つ用事があってな」

『この地底世界で、我に会う以外にまだ二つもの用事があるというのか? その用事は何か、聞いても良いか?』

ここを去るというレオニスの言葉に、ユグドランガが明らかに残念そうな声になる。だが、レオニスはまだ地上には帰らないという。

一見矛盾したレオニスの話に、ユグドランガは驚きを隠せない。ライト達三人がここに来たのは、自分に会うためだけだとユグドランガは思っていたのだ。

実際この地底世界に対して、そんなにたくさんの用事があるとは誰も予想しないだろう。

その行き先を、レオニスが搔い摘んで話していく。

「まず一つは、地底神殿にいる地の女王に会いに行くのと、もう一つは水場探しだ」

『ああ、地の女王か。確かにここより近いところに地底神殿がある』

「ユグドランガは、地の女王と交流はあるか?」

『一応な。神殿守護神とともにこの近辺でよく戯れておるし、我の根元でうたた寝することもよくある』

「おお、そうなのか。地底神殿の神殿守護神はもう生まれているんだな」

ユグドランガの話に、今度はレオニスが興味を示している。

この地底世界は、ライト達が思っていたよりもはるかに広大な空間が広がっている。

しかし、そうは言ってもやはり地底の閉鎖された空間だけに、そこまでたくさんの物や見所が溢れている訳ではない。

故にユグドランガも地の女王のことは知っているし、地底神殿や神殿守護神のことも知っているようだ。

『で? 地の女王の他には、何の用事があるのだ?』

「この地底世界にあるかどうか分からんが、もし水場があればそこに行きたい」

『水場……か?』

「そう、この地底にも泉や池といった、大量の水がある場所はないか?」

レオニスのもう一つの用事、それは地底世界の水場探しだった。

その理由はもちろん、次回の地底訪問時に備えてウィカを呼ぶためである。

水場がなければ潔く諦めるしかないが、あれば儲け物。ダメ元で探すのはアリだ。

そんな訳で、レオニスがユグドランガに水場の情報を持っているかどうかを尋ねたのだ。

すると、ユグドランガから次のような答えが返ってきた。

『ここから地底神殿に向かう方向とは反対側に、小さな池がある。ここの生き物達の飲み水にもなっている池だ』

「池っていうからには、それなりに大きさはありそうだな」

『というか、池や泉などを探してどうするのだ? 水を汲んで持ち帰るのか?』

「あー、水の持ち帰りもしたいっちゃしたいが……実はそれ以上にしたいことがあってな」

レオニスが水場を探す真意をユグドランガに明かす。

『ほう、水の精霊の協力を得て水場を自在に移動するのか』

「ああ、そうすればこの地底世界にも気軽に来れるようになるしな」

『フフフ……この地底世界相手に、何度も気軽に訪れようとは……その豪胆さ、全く以って驚くべきことよ』

「そうかー? だってあんたはツィちゃん達の兄ちゃんだし、これから何回も俺達の方から会いに行く必要が出てくるかもしれんだろ? それに、地の女王にも何度も会わなきゃならんかもだし」

レオニスの真意を知ったユグドランガが、くつくつと笑う。

こんな暗闇しかない地底世界に、一体誰が好き好んで訪れるというのか―――昨日までのユグドランガはそう思っていた。

しかし今日、突然地上からの訪問者が三人も現れた。

それだけでも驚きなのに、この三人はこの先何度もここを訪問する気満々だというではないか。

あまりにも斜め上の事態が連続し、もはやユグドランガも笑うしかなかった。

『見ての通り、この地底世界には外界からわざわざ訪れる者はいない。あまりにも谷底が深く、地上からは隔絶された世界であることが最たる要因なのだが……他にも、取り立てて見るべきものも少ないせいであろう。其の方も、よくこんなところに何度も来る気になるものだな?』

「いやいや、そんなことはないと思うぞ? ここまで来るのに大変だというのは同意しかないが、それでも冥界樹はもちろん地属性の精霊達の頂点である地の女王にだって、一目会いたいと思うやつはいくらでもいる」

『そういうものなのか?』

来訪者の無さを自虐的に語るユグドランガに、レオニスは心底不思議そうな顔をしていた。

世界中を股にかけて旅する冒険者達にとって、冥界樹を始めとする様々な高位の存在との邂逅は目指すべき目標の一つ。

非日常の珍しい場所に赴き、未知なる高位の存在との遭遇や宝探しに勤しむのは、冒険者ならば当然至極なのである。

しかし、ユグドランガはレオニスの言う『冒険者』というのが何であるのかさっぱり分からない。

普段から人族との交流がないので、ユグドランガがそこら辺のことを理解できないのも当たり前のことだ。

なのでレオニスは、ユグドランガへのフォローや励ましの意味も込めて、冒険者が持つ夢を語る。

「特に俺達みたいに冒険を生業とする者達にとって、あんた達のような高位の存在に会う―――それは一生のうちに一度は叶えたい夢なんだ」

『そうか……ならば、これまで静かで退屈だった我の日々も、少しは賑やかなものになりそうだ』

心なしか、少しウキウキしたような声音のユグドランガ。

地上からの思わぬ来訪者は、長い時を生きるユグドランガにとっても心躍る出来事だったようだ。

そしてレオニスは、ライト達の方に向かって声をかけた。

「じゃあ、そしたら地の女王のいる地底神殿の方に先に行くか」

「うん!」

「今のうちに他の女王の勲章も出しとけよー」

「大丈夫!今日は最初からマントの内ポケットに全部入れてあるから!」

「俺もジャケットの内ポケットに全て入れてるぞ」

「お前ら、準備いいね……」

レオニスが、これまで属性の女王達からもらった勲章を出しておくようにライトとラウルに指示するも、二人とも今朝出かける前からちゃんと全部用意しておいたという。

その用意周到さに、レオニスがぶつくさ言いながら空間魔法陣を開き勲章を取り出す。

この中でまだ勲章を用意していなかったのはレオニスだけ、というオチである。

レオニスも深紅のロングジャケットの内側に勲章を仕舞い、再びユグドランガの方に向き直った。

「じゃ、俺達はこれから地底神殿に向かう。今日はいろいろとありがとう」

『何のこれしき、礼を言われる程のこともない』

「ユグドランガさん、ありがとうございました!また会いに来ますね!」

『ああ、其の方らが再びこの地に来る日を楽しみにしていよう』

「今日は忙しくて何もできなかったが、次回ここを訪れた時に何か美味しいものをご馳走しよう」

『樹木である我に、美味しいものをご馳走してくれるのか? 一体どんなものか想像もつかないが……それもまた楽しみにしておこう』

レオニスにライト、そしてラウル、三者三様の別れの挨拶に、ユグドランガも穏やかな声で受け答えする。

再開を約束したライト達は、ユグドランガのもとを去り地底神殿に向かって歩いていった。