軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1015話 火が消えたかのような静けさ

レオニスとラウルがあちこち動き回っている間。

ライトはいつも通りラグーン学園に通っていた。

しかし、その足取りはいつもよりはるかに重たい。その原因はもちろん、前日にラグナ神殿で起きた爆発騒動だ。

その現場に居合わせてしまったイヴリン、リリィ、ジョゼのことが心配でならないライト。

いつもより重たく感じる教室の引き戸を開く。

ライトは自分の席に向かいながら、キョロキョロと教室の中を見回す。

いつもイヴリン達はライトより少し早く教室に入っていて、後から登校してきたライトに向けて「おはよーぅ!」と元気な挨拶してくれていた。それが今日はないところを見ると、やはり三人とも欠席のようだ。

ライトに少し遅れて、ハリエットが教室に入ってきた。

ハリエットの席はライトの席の真横なので、必然的にライトの方に近づいてくる。

ライトがいつものようにハリエットに朝の挨拶をした。

「ハリエットさん、おはようー」

「ライトさん、おはようございます」

二人ともイヴリン達ほど元気いっぱい!なキャラではないので、その挨拶は一見していつもと変わらない。

だがやはり、二人ともどことなく声に張りがない。ハリエットもイヴリン達の姿を探しているのか、教室の中をキョロキョロと見回している。

「……イヴリンちゃん達は、今日はお休みのようですね……」

「うん……昨日あんなことがあったばかりだしね……」

「ライトさんは、レオニスさんからお話を聞いたのですか?」

「うん……イヴリンちゃんとリリィちゃん、ジョゼ君は目が覚めてその日のうちに自分の家に帰ったって。でも、イグニス君だけは……」

「………………」

俯きながら話すライトに、ハリエットもまた悲しげな顔になる。

いつも賑やかなイヴリンやリリィがいないだけで、教室の中はまるで火が消えてしまったかのようだ。

だが、静けさの中にもざわついた空気はあって、同級生達の何人かはラグナ神殿での事件のことを話している。

そうした不穏な静けさに居た堪れなくなってきたのか、ライトがパッ!と上を向きながらハリエットを見つめる。

「あ、でも、ハリエットさんが無事だったことは、すごく良かったと思ってるよ!」

「ありがとうございます。でも……私がお兄様のジョブ適性判断のことを話さなければ……イヴリンちゃん達が、ラグナ神殿に見学しに来ることもなかったと思うと……」

「そ、それは…………」

ライトの懸命なフォローも虚しく、ハリエットはさらに落ち込んでしまった。

実際のところハリエットの言う通りで、もしあの日ウィルフレッドのジョブ適性判断にイヴリン達がついていかなければ、四人が爆発騒動に巻き込まれることもなかったはずだ。

ハリエットの後悔はあまりにも的を射過ぎていて、さすがにライトも口篭る。『そんなことないよ!』と言ったところで、それは上辺だけの言葉に過ぎないことが丸分かりだからだ。

するとここで教室の扉が開き、担任のフレデリクが入ってきた。

その後二人はラグーン学園での授業を受けていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

午後の授業も終わり、帰りの会を終えて下駄箱に向かうライトとハリエット。

昼食時とお昼休みの間に、今日は二人でイヴリン達の家にお見舞いに行こう!という話になったのだ。

お昼の食堂でも、あちこちで昨日のラグナ神殿での出来事でもちきりだった。だが、ハリエット達がその場にいたことはほとんど知られていないので、ライト達も誰に絡まれることなく平穏に過ごせたことだけが救いだ。

靴を履き替えたハリエット。ライトとともに一旦貴族門の方に行き、門の外で待っている帰宅用の馬車に先に帰るように伝える。

馬車はそのまま帰っていったが、馬車とともに来ていた護衛の騎士二人はハリエット達についてくることになった。

いつもは護衛は一人なのだが、ラグナ神殿での爆発騒動直後ということもあり、父親のクラウスの指示で護衛二人に増えたのだ。

ハリエットはライトとともに平民門を潜り、イヴリン達の家に向かう。その数歩後ろを、護衛騎士二人は静かについてきていた。

そうしてしばらく歩いていくと、リリィの実家である向日葵亭が見えてきた。

向日葵亭の入口に行くと、何やら立て札が立っている。

そこには『定食屋 本日臨時休業』『宿屋 予約客のみ受付』と書かれている。リリィの家も昨日の騒動でバタバタしているようだ。

宿屋は営業中ということなので、扉は開いている。

ライトがそっと扉を開けて、ハリエットとともにおずおずと中に入っていった。

いつもの向日葵亭なら、昼下がりを過ぎた夕方頃でも結構な宿泊客がいて賑わっているのに、今日は人影がほとんどなくて静かなものだ。

「こんにちはー……どなたかいらっしゃいますかー?」

一声かけてしばらく待っていると、中から女将のシルビィが出てきた。

「はいはーい…………あっ、ライト君にハリエットちゃん!」

「リリィちゃんのお母さん、こんにちは!ぼく達、今日はリリィちゃんのお見舞いに来たんですが……」

「まぁまぁ、ありがとうねぇ。リリィはもうすっかり元気だから、明日からは普通に学園に行けるけど。せっかくだから会ってやって、奥の部屋にいるから」

ライトとハリエットのお見舞いに、シルビィが嬉しそうにしている。

リリィがいるという奥の部屋にライトとハリエットを案内し、部屋の手前で中にいるであろうリリィに声をかけた。

「リリィー、ライト君とハリエットちゃんが来てくれたわよー」

「えッ、ホント!?」

部屋の中からリリィの嬉しそうな声が聞こえてきた。

娘の嬉しそうな声から間を置かず、再びシルビィがライト達に声をかけた。

「後でおやつと飲み物を持っていくから、中でリリィとのんびりお話でもしててね」

「はい!」

「お気遣いありがとうございます」

ペコリと頭を下げて礼を言うライトとハリエットに、シルビィはニコニコ笑顔で手を振りながら再び店の方に戻っていった。

ライト達がシルビィの背を見送っていると、リリィの部屋の扉がガラッ!と勢いよく開いた。

「ハリエットちゃん、ライト君、こんにちは!」

「リリィちゃん、こんにちは!体調は大丈夫ですか!?」

「うん!この通り、リリィは全然元気よー!」

「良かったぁ……本当に、本当に良かったですぅー……」

扉を開けて現れたリリィの元気いっぱいな姿に、ハリエットは思わず涙ぐむ。

自分のせいで、リリィ達四人を爆発騒動に巻き込んでしまった―――そんな後悔に昨日からずっと苛まれていたハリエット。リリィの元気な姿を見て、彼女が安堵の涙を零すのも無理はなかった。

リリィは涙ぐむハリエットの手を握り引っ張る。

「ささ、二人とも中に入って!リリィね、今日はずっとこの部屋にいなくちゃならなくて、すっごく退屈してたの!」

「そうだったのですね。では、お邪魔します」

「お邪魔しまーす」

リリィが嬉しそうにハリエットを部屋の中に連れ込み、ライトはその後ろをいそいそとついていく。

部屋の中はこざっぱりとしていて、ちゃんと整理整頓がなされている。宿屋の跡取り娘だけあって、室内を綺麗に整えることは得意な方なのだろうか。

調度品は勉強用の机にベッドくらいしかなく、来客用の椅子やソファなどないので、ライト達は三人してセンターラグの上にべた座りする。

ちなみに靴は部屋の入口で脱ぐ仕様だ。もちろんライトもハリエットもそれに従い、入口で靴を脱いでからリリィの部屋に入っていた。

「リリィちゃん、元気そうで本当に良かった」

「ライト君もありがとうー。皆に心配かけちゃってごめんねぇー」

「そんな!リリィちゃんが謝ることなんてないです!私の方こそ、リリィちゃん達に謝らなきゃいけないのに……!」

再び泣きそうになるハリエットに、リリィはきょとんとしている。

そしてニコッ!と笑いながら、ハリエットに話しかけた。

「ハリエットちゃんの方こそ、謝ることなんて一つもないよー?」

「でも……でも…………」

「昨日リリィ達がラグナ神殿に行ったのは、リリィ達がジョブ適性判断するところを見たかったからだし。むしろ無理矢理押しかけたようなもんなんだから、変な目に遭ったのはハリエットちゃんのせいじゃなくてリリィ達が悪いんだよー」

「そんな……そんなこと言わないでください……」

ハリエットの罪悪感を払拭するために、リリィが自業自得説を唱えるも、ハリエットの涙を止めることはできない。むしろリリィが明るく庇えば庇う程、ハリエットの罪悪感は増していくばかりだ。

これではいつまで経っても収拾がつかないので、ライトは二人の話の中に入ることにした。

「リリィちゃん、ハリエットさん、昨日のことは誰が悪いとかないよ。強いて言うなら『ちょっと運が悪かった』ってくらいで、今はこうして皆で元気にお話できてるんだから、まずはそれを喜ぼう? ね?」

「うん、ライト君の言う通りだよね!」

「ライトさん、リリィちゃん……ありがとうございます……」

ライト達の心遣いに、ハリエットもようやく微笑みながら頷く。

ハリエットの罪悪感は、ライトの言葉やリリィの笑顔で少しづつ上書きされて薄れていく。

ライトの方も、思っていた以上に元気そうなリリィの様子に、心から安堵していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「でね、今日は冒険者ギルドの人達がお話を聞きに来るってことでね、リリィも学園をお休みしなくちゃいけなかったのー」

「そうだったんだー。もう冒険者ギルドの人達は来たの?」

「うん。お昼前に来たよー」

「どんなお話を聞かれたんですか? やはり昨日のラグナ神殿での出来事ですか?」

「うん」

リリィがラグーン学園を休んだ理由など、様々な話をしていたライト達。

リリィが今日ラグーン学園を休んだのは体調面の問題ではなく、ラグナ神殿での爆発騒動の事情聴取に応じるために休まざるを得なかったようだ。

「ていうか、お話を聞きに来られても、リリィほとんど何も覚えてなかったんだけどね?」

「そうなんだ。でも冒険者ギルドの人達も、一応は現場にいた人達全員から話を聞かなきゃいけないんだろうねー」

「多分ねー。ハリエットちゃん達のジョブ適性判断が終わった後、ハリエットちゃん達はすぐにおうちに帰ったけど、リリィ達はしばらく聖堂の中にいてさ。ジョゼとイヴリンちゃんは司祭のおじさんにいろいろ質問してたんだけど、リリィはイグニスといっしょに水晶を見てたんだよねー、ってお話をしたよー」

事件当時の記憶がほとんどないというリリィ。

話せることは少ないながらも、正直かつ真摯に事情聴取を受けたようだ。

「でさ、何でか知らないけど、いきなり水晶が光り始めてね? すっごく眩しい光が出たことまでは覚えてるんだけどさ? そこから先は覚えてなくて、気がついたらラグナ神殿の医務室?のベッドに寝かされてたのー」

「水晶がひとりでに光り出したんですか? それは不思議ですねぇ」

「うん、今考えても不思議ー」

「…………」

事件当時の経験を語るリリィに、ハリエットは相槌を打ちながらリリィの話に聞き入っている。

ライトも無言のまま聞き入っていたが、頭の中では様々なことを考えているようだ。

するとそこに、シルビィが部屋に入ってきた。その手に持ったお盆の上には、三人分のおやつと飲み物が乗せられている。

「皆お待たせー。おやつと飲み物を持ってきたわよー」

「やったー♪」

「ありがとうございますー」

「お気遣いありがとうございます」

母からのおやつの差し入れに、大喜びするリリィ。もちろんライトとハリエットもシルビィの心遣いを嬉しく思う。

そこで美味しいおやつと飲み物を飲みながら、しばし歓談を楽しむライト達だった。