軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談5話:長期滞在の準備

翌朝。

スマートフォンから鳴り響く軽快な音楽に、一良はぼんやりと目を開いた。

隣では、バスローブ姿のエイラが一良の腕を抱いて横になっている。

彼女も起きたようで、眉間に皺を寄せて薄っすらと目を開いた。

「エイラさん、おはようございます」

「おはようございます……んー」

エイラは窓から差し込む光から逃れるように、一良の腕にぎゅっと顔を押し当てた。

「うう、眠いです……」

「はは。昨日、すごくはしゃいでたからなぁ。疲れが取れませんか?」

「その……よく眠れなくて。はあ」

昨夜はあれから皆が順番に風呂に入り、その後すぐに寝室に向かった。

エイラはリーゼとバレッタからのお説教の件と、「今夜はしない」という自身の発言もあって、一良といちゃつくのを我慢した。

ところが、いざ2人で床に入ると興奮してしまい、目が冴えて眠れなくなってしまった。

一良は一日中ショッピングモール内を引っ張り回された疲れで速攻で寝てしまったので、エイラは1人で2時間近くもんもんとして過ごしたのだった。

「初めての日本ですもんね。興奮しちゃって眠れなかったんですね」

「……はあ」

「だ、だいぶつらそうですね。もう少し寝ます?」

「大丈夫です……」

エイラはもう一度一良の腕に顔をぎゅっと押し付けると、身を起こした。

一良も起き上がってベッドから下り、昨夜のうちに棚に出しておいた服を取りに行く。

「はい、エイラさん」

「ありがとうございます」

一良はエイラに服を渡すと、彼女に背を向けてバスローブを脱ぎ始めた。

「……」

エイラは思わず、その後姿をじっと見つめてしまう。

そうしていると、視線を感じて一良が振り返った。

「着替えないんですか?」

「あ、いえ! 着替えます!」

慌てるエイラに、一良がニヤリとする。

「……エイラさん、実はムッツリスケベだったりします?」

「ななな、何を言ってるんですかっ!? 怒りますよ!?」

「じょ、冗談ですって」

顔を真っ赤にして怒るエイラに、一良が慌てて着替え始める。

エイラもバスローブを脱ぎ、着替え始めた。

着替えている姿をガン見するとエイラは怒るので、一良は再び背を向けている。

ちなみに、リーゼとジルコニアはそんなことはない。

一良になら、明るいところで裸を見られてもまったく抵抗がないとのことだ。

「今日は実家にいかないと。昼過ぎまではこっちで遊べますけど、行きたいところはありますか? 服屋には行かないとって思ってますけど」

「あ、はい。リーゼ様……さんも、服を見たいって言ってました。でも、『行かないと』というのは?」

「こっちに長期滞在しても、大丈夫なようにしたくて。もっと多めに着替えを用意したほうがいいかなって」

バレッタはすでにかなりの数の服を持っており、件の屋敷に置いてある。

エイラたちはグリセア村で過ごしている間に、一良が持ってきたカタログを見て数着買ってもらったが、長期滞在できるほどには持っていない。

昨日の買い物では、荷物になるからということで、服は購入しなかった。

「旅行するにしても、着替えは必要ですからね。洗濯ができる宿って、けっこう少ないんで」

「なるほど。では、今日はお洋服探しを……あの、ご実家でご挨拶を済ませたら、山のお屋敷に戻るのですか?」

「そのつもりです。あんまり長くこっちにいると、バリンさんたちが心配するでしょうし」

日本に来るにあたって、グリセア村の皆とナルソンには事情を伝えてある。

何日か泊ってくるかも、とも言ってあるが、なるべく早く戻ったほうがいいだろう。

きっと、皆が土産話を期待しているはずだ。

「あのお屋敷に泊まるご予定は?」

「あそこに? 電気が通ってないし、かなり不便だから泊まるのはないかなぁ。水道は使えるみたいですけどね」

バレッタを両親と親族に紹介した折に聞いたのだが、あの屋敷は水道だけは使えるらしい。

といっても水道管が引かれているわけではなく、どこから繋がっているのか分からないが蛇口を捻ると水が出るとのことだ。

飲むこともできて、大昔から使っているらしい。

風呂も1つ付いているが、昔ながらの薪風呂だ。

「水道が使えるなら、村の家と使い勝手は変わらないですよ。あちらでも、電化製品は冷蔵庫しか使っていませんし」

「確かに……エイラさんは、あの屋敷に住みたいんですか?」

「住むかどうかは別として、お泊りはしたいです。あのお屋敷、何だか『これぞ日本家屋!』って感じで素敵じゃないですか」

着替え終わったエイラが「着替えました」、と言い、振り返った一良に微笑む。

一良は先に着替え終わっており、ベッドに腰掛けている。

「それに、カズラ様と出会わせてくれたお屋敷ですし、綺麗にお掃除したいんです。泊まりがてら、大掃除をしませんか?」

「なるほど。それはいいですね。あと、また『様付け』になってますよ」

「あ。も、申し訳ございません。どうにも慣れなくて……はあ」

「はは。まあ、追々直していきましょう」

「はい……はあ」

エイラが再びため息をついた時、コンコン、と部屋の扉がノックされた。

「カズラさん、エイラさん。起きてますか?」

閉まったままの扉の向こうから、バレッタの声が響く。

「起きてます。今、着替えたところです」

一良が答えると扉が開き、バレッタが顔を覗かせた。

ベッドに座っている2人を見て、にこりと微笑む。

「おはようございます。ジルさんが、早く朝ご飯を食べに行こうって」

「了解です。エイラさん、急ぎましょっか」

「はい!」

そうして、2人は歯磨きをしに洗面所に向かうのだった。

約10分後。

5人はホテルの朝食会場にやって来た。

ホテルマンに案内され、席に向かう。

他の宿泊客も大勢おり、かなり繁盛している様子だ。

見たところ、男性の一人客や若い女性グループが多いように見える。

「あああ! なにこれ! まるで天国じゃない!」

料理が並んでいる長テーブルの傍を通りながら、ジルコニアが目を輝かせる。

朝食はバイキング形式で、100種類近い料理が並んでいた。

デザートも種類豊富で、フルーツ、ケーキ、アイスと盛りだくさんだ。

他の客が仕切りの付いた大皿を手に、思い思いに料理を取っている。

「美味しそう! 目の前で作ってくれるのもあるんだね!」

リーゼが大興奮で、オムレツのライブキッチンに目を向ける。

オムレツの他にも、パスタ、ピザ、天ぷらといった、朝食にしてはボリュームのある料理をシェフたちが作っていた。

案内された席に座ると簡単な説明を受け、ごゆっくりどうぞ、と告げてホテルマンは去って行った。

すぐさま、ジルコニアとリーゼが席を立って料理を取りに向かう。

「驚いたな……このホテルの朝食、こんなにすごかったのか」

「ですね。今まで泊ったホテルとか旅館のなかで、ここが一番すごいです」

2人の後を追いながら、一良とバレッタが感心したように言う。

「そうなんですね。他のお宿も、ここみたいなのかと思いました」

エイラがわくわくした顔で、2人に続く。

「いやいや、普通はこんなにすごくないですよ。朝からライブキッチンで天ぷらとか、初めて見ましたし」

「そうなんですね。夕食が出ない分、朝食を豪華にして他と差別化してるのでしょうか?」

「ああ、なるほど。そうかもしれないですね」

3人は一緒に列に並び、あれこれ話しながら料理を取った。

美味しそうな料理ばかりで目移りしてしまい、あれもこれも、とかなりの量を取ってしまった。

席に戻ると、リーゼとジルコニアがすでに座って待っていた。

「カズラ! 早く早く!」

「うわ、ずいぶん持ってきたな」

急かすリーゼに苦笑しながら、一良たちも席に着く。

2人とも、それぞれ2つの皿にいろいろな料理を取ったようだ。

ジルコニアはすでに、チョコレートケーキを3つも確保していた。

皆で、いただきます、と食べ始める。

「んー! このオムレツ、すっごく美味しい!」

「中がふわとろね! コクがあって、すごく美味しいわ!」

リーゼとジルコニアがオムレツを頬張り、とろけそうな顔になっている。

「おっ、ほんとだ。さすがプロだなぁ」

「でも、こんなに柔らかく作って大丈夫なのでしょうか? 食あたりしてしまうような……」

エイラがフォークでオムレツを切り、半熟状態のそれを見て一良に聞く。

グリセア村では根切り鳥の卵が取れるので、エイラは時々オムレツを作っていた。

調味料は塩のみの、シンプルなものだ。

あちらの世界では、卵はしっかりと火を通さないといけないのが常識なので、やや固めのオムレツである。

「大丈夫ですよ。日本で流通してる卵は、全部完璧に殺菌されていますから」

「そうなのですね。やっぱり、日本ってすごいです」

そうして、あれこれ話しながら食事を楽しんだ。

ジルコニアはチョコレートケーキがよほど気に入ったのか、2回もお代わりをして合計9個も食べていた。

朝食を済ませた5人はホテルをチェックアウトし、ショッピングモール内の服屋を巡っていた。

それぞれバレッタに見立ててもらいながら、下着や靴下を選んでいるところだ。

一良は男性服売り場で、1人でうろついて時間を潰している。

「うーん……」

エイラは真剣な顔で、並んでいる下着を手に取って選んでいる。

バレッタも隣で商品を見ているが、すでにいくつも持っているので買う気はない。

「ふふ、たくさんあって目移りしちゃいますよね。かわいいのばかりですし」

「それもありますが、洗濯の仕方がいろいろあるみたいで。ちゃんと読まないとと思いまして」

そう言いながら、エイラはショーツについているタグを読んでいる。

「液体酸素系漂白剤って、どこでも買えるのでしょうか?」

「買えますよ。というか、そこまで気にしなくても大丈夫です。日本の洗剤じゃなくても、いつも使ってる灰汁で綺麗に洗えますから」

「あ、そうなのですね。じゃあ、下着はこれとこれで……他のお洋服も選んできますね」

エイラは下着をいくつかカゴに入れ、スカート売り場に歩いて行った。

「下着って、絞めつけられてる感じがして、あんまり好きじゃないのよね……」

ジルコニアが面倒くさそうに、目に付いた適当な下着をぽいぽいとカゴに入れる。

日本に行くまでに慣れておこうということで、ジルコニアたちは村でも下着を着けていた。

だが、生まれてこのかた下着無しで生活していたので、1カ月以上経った今でも慣れないのだ。

気乗りしない様子の彼女に、バレッタは苦笑した。

「でも、こっちでは着けておかないと。ほら、これとか、かわいいじゃないですか」

花びらの柄が刺繍されたショーツを、バレッタが手に取る。

色合いも綺麗で派手過ぎず、とてもかわいらしい。

「うーん。別に服の下に着けるものなんだから、かわいさとか気にしなくてもいいんじゃない? どうせ見えないんだし」

「ええ……ジルさん、その発言は女としてちょっと……」

「お母様、夜のことを考えましょう。カズラだって、やぼったい下着よりかわいい下着のほうが、脱がせてて楽しいと思いますよ」

リーゼが棚から白のレースショーツを手に取り言う。

「えっ、そうなの? ていうか、脱がせててってどういうこと?」

ジルコニアが怪訝な顔になる。

「あれ? 脱がせてもらってないんですか?」

「一度もしてもらったことないわよ!?」

「おかしいなぁ。カズラ、自分で脱がすのが好きみた――」

「あ、あの、お店でそういう話はしないでいただけると!」

何とも際どい話を始める2人を、バレッタが周囲をきょろきょろしながら慌てて止める。

近くにいた中年女性が、唖然とした顔で3人を見ていた。

バレッタと目が合い、その女性はそそくさと去って行った。

「……はあ」

バレッタが深くため息をついて肩を落とす。

「う……バレッタ、ごめんね?」

「バレッタ、私に似合う下着を選んでくれない? カズラさんが好きそうなやつ」

「それくらい自分で選んでください」

バレッタがげんなりした顔でジルコニアに言う。

「カズラさんの好みが分からないから聞いてるのよ。あなたなら、よく分かってるでしょ?」

「うー……そこの、ベージュ色のレース付きのとかでいいと思います」

「これね!」

ジルコニアはバレッタが指差したブラジャーとショーツを手に取ると、男性服売り場に走って行ってしまった。

ジルコニアは一良を見つけて「これ着たら脱がしたいって思います?」と他の男性客がいるところで聞いてしまい、一良は「何言ってんの!?」と大慌てしたのだった。