軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談4話:暴走エイラさん

その日の夜。

本日宿泊するホテル内のレストランで、一良たちは夕食を食べていた。

一良、バレッタ、リーゼはパスタ、ジルコニアはカツカレー、エイラはハンバーグドリアだ。

ディナーセットにしたので、それぞれにサラダとドリンクが付いている。

件の物件は無事に契約を済ませることが出来、2週間後に入居の運びとなっている。

店員の話では、前の契約者が諸事情で急遽キャンセルした物件とのことだった。

すでに問い合わせが何件もきていると聞き、他の人に取られる前にと急いで契約したのだ。

「それでね、私としては、まずはここに行ってみたいのよ」

ジルコニアが旅行雑誌を広げ、沖縄のページを皆に見せる。

エメラルドグリーンの海、真っ白な砂浜、豪華なホテルなど、さまざまな情報が載っている。

「わあ、綺麗ですね! ホテルも、すごく素敵です!」

「イルカと遊べる設備があるホテルなんだ。すごいなぁ」

写真の数々に、エイラとリーゼが目を輝かせる。

「そうなのよ。それに、こっちのページに載ってる古宇利島っていうところ、島全体がサンゴでできてるんですって。ここにも行ってみたくて」

「綺麗な島ですね……それに、海が沖縄本島よりも綺麗に見えます。泳いだら気持ちいいだろうなぁ」

「サンゴが拾い放題って書いてありますね。楽しそうです」

「でしょ? 10月末まではビーチが開いてるらしいし……バレッタ、どうしたの?」

パスタを巻いたフォークを手に、難しい顔で何やら考え込んでいるバレッタに、ジルコニアが小首を傾げる。

「あ、いえ。何でもないですよ」

「バレッタさん、何か悩み事があるなら、言ってください。俺たちの間では、隠し事はなしですよ」

一良が言うと、バレッタは少し悩んだ後、口を開いた。

「その、お金のことが、ちょっと心配で」

「お金ですか? 沖縄旅行でそのホテルなら、一番いい部屋で5人で5泊とかしても交通費含めて200万かからないですし、心配ないですよ」

「いえ、そうじゃなくて、これから先のことです」

真剣な顔のバレッタに、皆が頭にハテナを浮かべる。

「カズラさんの貯金がすごくたくさんあるのは分かってるんですけど、ただ消費するんじゃなくて、少し運用をしたほうがいいんじゃないかなって」

「運用っていうと、株とかですか?」

「株もですけど、国債とか社債をある程度買っておくのがいいんじゃないかなと」

「ああ、それはそうですね。銀行に預けておくのは、確かにもったいないか。今のままだと、利息も付かないし」

こくこく、とバレッタが頷く。

一良の貯金は、すべてを「決済用預金」というかたちで銀行に預けてある。

万が一銀行が倒産した場合でも、全額を国が補償してくれるというものだ。

代わりに、預金に利息は一切付かない。

安全ではあるが、大手の銀行が倒産することは滅多にないので、利息が付かないのはもったいないとも思える。

「はい。なので、そういった分野を勉強したいんです。ローリスクローリターンで、上手く運用できればいいと思うんですけど」

「ちょっと2人とも、私たち、全然話が分からないんだけど」

リーゼが少し不満そうに言う。

ジルコニアとエイラも、さっぱり分からない様子だ。

「えっとだな。要は、お金を運用して、増えたり減ったりするんだよ」

「そ、それはざっくりしすぎな気が……」

あまりにも雑な一良の説明に、バレッタが苦笑する。

「んー……博打みたいなものってこと?」

「博打とは違います。やりかたによっては大きくお金を増やしたり、逆に減ってしまったりするもので――」

一良に代わり、バレッタが株などの説明をする。

ひととおりの説明を聞き、なるほど、とリーゼたちは頷いた。

「面白そうだけど、せっかく使い切れないくらいお金があるんだから、あえてリスクを冒す必要はないんじゃないの?」

「そうよねぇ。何だか、下手を打ったら大損しちゃいそう。株主優待っていうのは、何だか楽しそうだけど」

「それも一理ありますが――」

運用に否定的なリーゼとジルコニアに、バレッタが自分の考えを説明する。

その後、食事をしながら、お金の運用についての話し合いが続いたのだった。

小一時間後。

ジルコニアはノンアルコール梅酒の缶を手に、バーカウンターで夜景を眺めていた。

この部屋は25階で、2部屋にベッドが2つずつあるコネクティングルームだ。

初めての日本でのお泊りなので、皆で一緒がいいだろうと一良が決めたのだった。

「ほんと、いい景色。お部屋も綺麗だし、最高ね」

ジルコニアは上機嫌で、ぐびぐびと梅酒を飲んでいる。

おつまみは、コンビニで買ってきたお新香の盛り合わせだ。

「エイラもこっちで飲まない? これ、すごく美味しいわよ。まるでお酒みたい」

ジルコニアがそう言って、ソファーで料理雑誌を見ているエイラに缶を揺すって見せる。

「いえ、私は大丈夫です」

「カズラさんとしてる最中に、おしっこしたくなっちゃうから?」

「ち、違いますよ! さっき、たくさんメロンソーダを飲んでお腹がたぷたぷなんです! ていうか、今日はしませんから!」

顔を赤くするエイラに、ジルコニアがきょとんとした顔になる。

今夜から、夜は女性陣のうち1人が2日間ずつ、一良と過ごすことになっている。

部屋に入ってからじゃんけんで順番を決め、エイラが1番手となったのだった。

「えっ? しないの?」

「隣の部屋で皆さんが寝てるのに、できるわけがないじゃないですか!」

「別に、気にしなくてもいいのに。覗いたりなんかしないわよ?」

「私が気になるんですよぅ」

現在、一良は風呂に入っていて、バレッタとリーゼはホテル内を探検中だ。

ジルコニアとエイラはのんびりしたかったので、部屋でくつろいでいる。

「それに、カズラさん、今日はお疲れのご様子ですし」

「ショッピングモールで、あちこち引っ張り回しちゃったからね。ちょっと、やりすぎたかな?」

ジルコニアがバスルームに目を向ける。

一良が入浴してから5分ほどなので、出てくるにはまだしばらくかかるだろう。

「なら、今日の順番はノーカウントにして、明日からの2日間にする?」

「えっ。よろしいのですか?」

「だって、隣の部屋に私たちがいるから落ち着かないんでしょ? ちゃんと2人きりになれる時からの2日間にしましょうよ」

「ありがとうございます!」

そうしてしばらく2人が雑談していると、一良が風呂から出てきた。

アメニティの、バスローブ姿だ。

「はー、さっぱりした。お風呂どうぞ」

「ジルさん、お先に入ってください」

「そうさせてもらうわね。カズラさん、これ半分くらい残ってますけど、飲みます?」

「うん、いただきます」

ジルコニアが一良に飲みかけの梅酒を渡し、バスルームに向かう。

一良はソファーに行くと、エイラの隣に座った。

バスローブ姿の一良に、エイラはドキドキしてしまう。

すぐに、バスルームから、ざあっ、とシャワーの音が響き始めた。

「料理本を見てたんですか」

「は、はい。もっといろいろ、料理を作れるようにしないとと思いまして」

これとか、と、エイラが「鱈のアヒージョ」のページを開く。

「これ、すごく美味しそうじゃないですか?」

「おお、いいですねぇ。今度、作ってくださいよ」

「かしこまりました。他にも、ご要望があればおっしゃってください」

「……エイラさん、前から思ってたんですけど、そのしゃべりかた、固すぎじゃないですか?」

一良が少し困った顔で言う。

「えっ。か、固すぎ、ですか?」

「うん。俺たち、もう主従関係じゃないし、夫婦なんですから。タメ口でいいですよ」

「うう、でも、今さら口調を変えるのは……って、カズラさんも敬語じゃないですか!」

「あ、確かに。俺も今のままのほうがしっくりくるなぁ」

「もう!」

頬を膨らますエイラに、一良が笑う。

エイラもそれにつられ、くすくすと笑った。

「でもまあ、『かしこまりました』とかは、使わないようにしたほうが自然かなと思うんですよ」

「そ、そうですね。気を付けます」

「そうしてください。エイラさん、汗掻いてますね。暑いんですか?」

「は、はい。ちょっと暑いかなって。あはは」

「じゃあ、何か冷たい飲み物でも持ってきますね」

「あっ」

そう言って冷蔵庫に向かおうとする一良の腕を、エイラはとっさに掴んでしまった。

「ん? どうしました?」

「……飲み物なんて、いらないです」

エイラが上目遣いで一良を見つめ、蚊の鳴くような声で言う。

その潤んだ瞳に、一良が息を飲む。

エイラは我慢できずに、そのまま一良を引き寄せてキスをした。

たっぷり5秒ほどもそれは続き、ゆっくりとエイラが唇を離す。

至近距離で一良の顔を見つめ、エイラはごくりと唾を飲んだ。

「カズラ様……」

エイラは「さん付け」にすることも忘れ、ぐい、とそのまま、一良の肩を掴んでソファーに押し倒した。

「ちょ、ちょっと待って! ここじゃまずいですって!」

一良が慌てて、エイラの肩を押し返そうとする。

エイラは思考が灼熱してしまい、一良の制止の声を無視して彼のバスローブの胸元に手をかけてはだけさせた。

それと同時に、がちゃりと部屋の扉が開いた。

「ただい……ま」

「カズラさん、ロビーのパソコンで、積み立てニー……うあ」

どう見ても一良を襲っているエイラの姿に、リーゼとバレッタがぎょっとする。

「……あのさ。するなとは言わないけど、せめて寝室でしてくれない?」

「うう、こういうのだけは見たくなかったのに……」

呆れ顔でリーゼが言い、よよよ、とバレッタが肩を落とす。

エイラは慌てて一良から離れた。

「ち、違います、違います! カズラ様がマッサージして欲しいって言ったんです!」

「ええ? いくらなんでも、その言いわけは苦しすぎるでしょ」

「本当なんです! カズラ様、そうですよね!?」

「そ、そうそう! 胸元の筋肉をほぐしてもら……いや、さすがに無理があるかと」

「どうしてそういうこと言うんですかあああ!?」

エイラが顔を真っ赤にして、ぶんぶん、と両手を振る。

バレッタはしゃがみ込んで、地面にのの字を書いている。

「あーもー、分かったから。売店でお菓子買ってきたから、皆で食べましょ。ほら、バレッタも立って」

「うー」

その後、ジルコニアが風呂から出るまで、エイラは半泣きでリーゼとバレッタから説教を受けたのだった。