軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

374話:精一杯の告白

どうにかビニールハウスを作り終え、一良たちは家に戻ってきた。

一良が持ってきた総菜やピザを、皆で皿に載せて囲炉裏の前に並べている。

ピザはアルミホイルに包んで、囲炉裏の火の傍で温め直した。

他の村人たちの分も買ってきたので、それらはすでに各家庭に配布済みだ。

アイザックとハベルは、あまり大人数になるのも申し訳ないとのことで、守備隊陣地で休むとのことだ。

2人にも、一良が持ってきた料理を取り分けて先に渡してある。

「すっごく豪華だね! 美味しそう!」

大量に並んだ料理を前に、リーゼはうきうき顔だ。

囲炉裏の鍋では、バレッタがから揚げを揚げている。

「いい匂いですね! 揚げ物、大好きなのですよ!」

フィレクシアは待ちきれないといった様子で、ジュワジュワと音を立てている鍋を凝視している。

土間の台所では、エイラとマリーが炭火カツオのたたきとローストビーフを切り分けている。

「どれもすごく色鮮やかですね。この透明な袋に入っている白いものと茶色いものは、何なのですか?」

ティティスがサラダを大皿から小皿に取り分けながら、一良に聞く。

「白いのはシーザードレッシングっていって、塩とか卵を使って作ったソースです。茶色いのは、ゴマっていう実の種から作ったソースですね」

「なるほど。塩と卵なら、シーザードレッシングは私たちでも作れそうですね」

「似たような味のものでしたら、作れますよ」

バレッタがから揚げを油から上げながら、ティティスに答える。

「後で、レシピを書いてお渡ししますね。バルベールでも作ってみたらどうでしょうか」

「ありがとうございます。できれば、一度一緒に作らせていただけると」

「はい。明日の朝、作ってみましょっか」

「そういえば、バレッタさん。バリンさんは?」

「それが、ロズルーさんと一緒に森に狩りに出かけちゃって。今日はもう戻ってこないかもしれないです」

「そうなんですか。いいお酒買ってきたんだけどな」

「たぶん明日には帰って来ると思いますよ」

「ただいま。お、カズラさん、帰ってきていたのですか」

そうして夕食の準備をしていると、入口の引き戸が開いてバリンとロズルーが入ってきた。

バリンは手に大きな肉の塊を、ロズルーは何やら細長いオレンジ色の植物をたくさん抱えている。

「あ、お父さん」

「いやぁ、遅くなってしまった。カフクを解体していたら真っ暗になってしまったよ」

バリンがそう言いながら、エイラとマリーの隣に並んで水桶で肉を洗う。

「カズラ様、料理、ありがとうございます。ターナもミュラも、大喜びしていましたよ」

ロズルーが小上がりに腰掛ける。

「いえいえ。ロズルーさんも、お疲れ様でした。それ、何ですか?」

「レヌーラという果物です。森で見つけたので、お土産に採ってきました」

はい、とロズルーがレヌーラを1つ、一良に差し出す。

それを見て、ラースが「ほう」と声を漏らした。

「こっちでも採れるのか。それ、美味いよな」

「ええ。よく熟してて、すごく甘かったですよ。どうぞ」

ロズルーが投げたレヌーラを、ラースがキャッチする。

どれどれ、とラースはそれの真ん中あたりに両手の親指を突っ込み、左右に開いた。

中には真っ白な果肉がぎっしり詰まっている。

ふわっと甘い香りが、一良の下にまで漂ってきた。

「おお、いい匂いですね」

「ん? カズラ様は、食べたことがないんですかい?」

「ええ。存在すら知りませんでした。街でも見たことがないですし」

「こいつはすぐ傷んで臭くなっちまうから、あんまり市場には出回らないっすね。新鮮なのは種ごと食えるんすよ」

ラースはそう言って、スプーンで果肉をすくって口に入れた。

一良も彼を真似して、皮を引き裂いてスプーンで果肉をすくう。

口に入れてみると、濃厚な甘みが口いっぱいに広がった。

バナナをもっと甘くしたような味だ。

小さな種が入っているのだが、シャリシャリとして少し酸味があり、いいアクセントになっていて果肉とよく合う。

「おっ、これは美味いですね」

「ロズルーさん、私も食べたい! 食べたことないの!」

「私も食べたいです!」

「おや、そうでしたか。明日の朝には臭くなってしまうと思うので、今日中にどうぞ」

ロズルーがリーゼとフィレクシアにも、レヌーラを渡す。

ティタニアとオルマシオールは皮ごと食べていた。

そうしていると、エイラとマリーがローストビーフとカツオを皿に載せて戻ってきた。

「では、私は家に戻ります。皆さん、また明日」

「あ、ロズルーさん、明日なんですけど」

一良がロズルーを呼び止める。

「村でお祭りをやれたらなって思うんです。いろいろと準備してきたんで、村の人たちにも伝えておいてもらえますか?」

「おっ、祭りですか。カズラ様も帰ってきたことですし、ぜひやりましょう! バリンさん、いいですよね?」

「ああ。皆、きっと大喜びするな。どれ、私も伝えに行ってくるか。カズラさん、いつ頃始めますか?」

「昼くらいから夜まででどうでしょう?」

「分かりました。では、行ってきます」

「あ、お父さん。ご飯食べてからにしたら?」

バレッタがバリンを呼び止める。

「いや、遅くなってしまうし、私は後で食べるよ。皆で先に食べててくれ」

バリンとロズルーが家を出ていく。

なら先に、ということで、皆でいただきますと食事を始めた。

「いやはや、これまた珍しいものばかりですね。どれも美味しそうです」

カーネリアンが嬉しそうに、ピザへと手を伸ばす。

エビやイカがたくさん載った、シーフードピザだ。

「これは、何という料理ですか?」

「ピザって料理です。上に載ってる薄黄色のは、動物のミルクから作ったチーズっていうものです」

一良が答えると、カーネリアンは「ほほう」とピザを一口齧った。

「ん、これは美味い。いい味付けですね」

「でしょう? そっちにあるのがテリヤキっていう、鶏肉を甘く焼いたのが載ってます。あと、そっちのはトマトっていう甘酸っぱい野菜のピザです」

「カーネリアン様、もし辛い味付けがいいようでしたら、これをかけてください。タバスコっていう、すごく辛い調味料です」

バレッタがタバスコの小瓶をカーネリアンに差し出す。

「んー! このお肉、美味しいですね! ピリ辛で最高なのですよ!」

「だな。やっぱ、肉は辛めの味付けが一番だわ」

「このお芋、ほんのり甘くて美味しいですね。すごく柔らかいです」

フィレクシアとラースがスパイシーチキンを、ティティスが里芋の煮っころがしを、それぞれ食べている。

総菜はかなりの種類を買ってきたので、煮物から揚げ物まで選り取り見取りだ。

「あの、カズラ様。さっき酒がどうのって言ってましたが」

ラースが揉み手をしながら、一良に言う。

「あ、そうですね。たくさん買ってきましたし、先に飲んでましょうか」

「そうこなくっちゃ!」

「カズラ、どんなお酒を買ってきたの?」

リーゼが弾んだ声で尋ねる。

「いろいろ買ってきたよ。ウイスキー、ブランデー、日本酒とかさ。バリンさんは日本酒が好きだから、今回はそれがメインだな」

一良がバッグから、桐の箱に入った「夢殿」を取り出した。

長野県の地酒で、芳醇な香りの飲みやすい酒だ。

以前、バリンにプレゼントした「真澄」のシリーズである。

「うっわ、高そうな箱に入ってるんだね」

「まあ、高いっていえば高いかな。マリーさん、コップを取ってもらえます?」

「かしこまりました」

そうして、豪華な夕食を食べつつ酒盛りが始まった。

少ししてバリンも戻ってきて、その夜はおおいに盛り上がった。

数時間後。

バレッタの家の風呂小屋で、一良は風呂に入っていた。

全員が交代で入るには時間がかかるので、あちこちの家に貰い湯をしに行っている状態だ。

今は、手伝いに来てくれたニィナが火を見てくれている。

「もう、ほんっとうに美味しかったです! 王都でご馳走になった宮廷料理よりも美味しかったですよ!」

窓越しに、ニィナの楽しげな声が響く。

「はは。それはちょっと言いすぎじゃないですか?」

「そんなことないですって! 特に、プリンアラモードっていうのが最高でした! 毎日食べたいくらいです!」

「一緒にアイスクリームも渡したと思いますけど、プリンアラモードのほうが美味しかったですか?」

「私はそうですね。父と母は、チョコレートのアイスが一番気に入ったみたいです」

村の各家庭には保冷剤付きで、アイスやケーキ菓子などのデザートを配布した。

100人以上いる村民全員分を用意するためにスーパーを梯子して骨が折れたが、皆とても喜んでくれた。

さすがにすべて同じ物とはいかなかったので、配った内容は家ごとにバラバラだ。

「あれって、村でも作れるようにはなりませんか?」

「できると思いますよ。砂糖は俺が持ち込めばいいし、卵とかミルクは畜産すれば村でも作れますからね」

「やった! たくさん動物を仕入れないとですね!」

「ミャギなら世話しやすそうですし、ナルソンさんに頼んでいくらか村に送ってもらいましょう」

「あ、エイラさん!」

窓越しに聞こえたその名に、一良が一瞬びくっとなる。

「お風呂、ありがとうございました。あとは私が代わりますので」

「分かりました。お願いします。カズラ様、また明日!」

ニィナが駆けて行く音と、じゃり、とエイラがかまどの前に座る音が響く。

そして10秒ほど、無言の時間が過ぎた。

「は、早かったですね。温まれましたか?」

沈黙に耐え切れず、一良が話しかける。

「はい。ニィナさんの家のお風呂もすごく立派で……その、カズラ様。今朝は突然あんなことを言ってしまって、申し訳ございませんでした。その……驚かれましたか?」

「は、はい。かなり」

「あはは、そうですよね」

エイラはそう言うと、口をつぐんだ。

再び、2人の間に沈黙が流れる。

「「あのっ」」

2人の声が重なり、互いに言葉を止める。

「あ、エイラさん、先にどうぞ」

一良が言うと、数秒間を置いてエイラは小さく「はい」と答えた。

「私……カズラ様が好きです。本当は言うつもりなんてなかったけど、心の声が勝手に口から出てしまいました。それくらい……好きなんです」

緊張を押し殺すようなエイラの声が響く。

「カズラ様は……バレッタ様のことが、お好きなのですよね?」

「……はい」

一良が小さく、だがしっかりとした声色で答える。

再び数秒、沈黙が流れた。

「……それは、いつからですか?」

「しっかりと意識したのは、一年くらい前です」

「藁小屋が倒壊して、お怪我をされた時、ですね」

断言するエイラに、一良が驚く。

彼女の言うとおり、一良がバレッタのことを強く意識しだしたのはその時からだ。

それまでも彼女の好意には気づいていたが、自分が村に来るまでつらい生活をしていたということを知っていたことから、守らなければならない存在としての認識が大きかったのだ。

しかし、彼女が寝る間も惜しんで、ただ一良と一緒にいるために技術の習得や勉強をしていたこと。

そして、自分の身を案じてずっと思い悩んでいる彼女の言葉を聞き表情を見た時から、一良はバレッタを意識するようになった。

護られる存在ではなく、対等でありたいと強く願う彼女の姿が、一良にはこのうえなく眩しく見えたのだ。

「そ、そのとおりです。よく分かりましたね」

「あの時から、カズラ様の態度が少しだけ変わりましたので」

エイラがくすりと笑いながら言う。

「えっ、そうでしたか? 態度には出してないつもりだったんだけどな」

「ふふ。私、いつもカズラ様のことを見ていましたから」

でも、とエイラが続ける。

「リーゼ様のこともお考えに……絶対に傷付けないように、そして支えて差し上げようとしていましたよね」

「……はい。リーゼはいつも、周囲の期待に応えようと一生懸命で……だけど、何かの拍子にぽっきり折れてしまいそうで、あぶなっかしくって」

「分かります。リーゼ様はすごく真面目ですからね。カズラ様と出会ってから、ようやく頼れる人ができたって感じでした」

「俺、しっかりやれていましたか? 俺って、頭は悪いし勘は鈍いし、支えるどころか皆に助けてもらってばっかりでしたよね」

「そんなことないです。カズラ様は、すごく頼りになるおかたです。その、勘は少し鈍いかもですけどね」

くすくすと笑うエイラに、一良も苦笑する。

リーゼの好意はあからさまだったのでさすがに気づいていたが、ジルコニアのそれはからかいの延長だと思っていた。

エイラにも好かれているとは感じていたが、それは友人としてだとばかり思っていた。

もしかして、と思うことも何度かあったのだが、さすがに自意識過剰だろうと自分に言い聞かせていたのだ。

「カズラ様は、側室を持つというお考えはありますか?」

「そ、側室?」

「私を……カズラ様の側室にしていただけませんか?」

「い、いや、さすがにそれは――」

「お返事は、いつになってもかまいません。私はずっと、カズラ様のことだけを想い続けています。だから……だか……ら」

「おーい! エイラ―!」

リーゼの元気な声とともに、遠くから駆け寄る足音が響く。

「っ!」

「あれ?」

ぱたぱたとエイラが走り去る足音とリーゼの声に続いて、リーゼがひょこっと窓から顔をのぞかせた。

濡れた髪は解いてあり、肩にはタオルがかかっている。

「あ、やっぱり入ってたんだ。エイラがどこか行っちゃったけど、どうしたの?」

「え、えっと……お、お茶を用意しておくって言ってくれてさ」

「ふーん。なら、代わりに私が火の番をしてあげるね」

「ありがと。でも、ちょうどいい湯加減だから、先に屋敷に戻ってていいよ」

「家には誰かいるの?」

「バリンさんが酒を飲んでると思う。他の人は皆、まだ他所で風呂に入ってるんじゃないかな」

「そうなの? 皆遅いんだね」

「村の人たちと話し込んでるんじゃないか? 皆、いろいろと聞きたいこともあるだろうしさ」

「あー、確かに。私も、戦争はどうだったのかってあれこれ聞かれ……あ! そうだ!」

リーゼが顔を引っ込め、ぱたぱたと走る音が響く。

どうしたんだろう、と一良が首をかしげていると、浴室の引き戸が開いてリーゼが入ってきた。

「うわ!? な、何で入ってくるんだよ!?」

「背中流してあげるよ! ほら、こっち来て!」

「もう全身ピカピカだよ。洗う必要なんてないって」

「えー。だって、いつも邪魔が入ってちゃんとできてなかったじゃん」

リーゼが不満顔で頬を膨らます。

「それはお前がいたずらするからだろ……」

「だって、カズラってからかうとすごく面白いんだもん」

「本人に言うことじゃなくない?」

「えへへ」

リーゼが湯舟に近づき、膝立ちになってお湯に片手を入れる。

一良は慌てて、彼女に背を向けた。

「こ、こら!」

「えへへー」

してやったりと、リーゼは後ろから一良の体に両腕を回して抱き締めた。

「これからも、ずっと一緒にいてね」

耳に息がかかるほどの距離で、リーゼがささやく。

そして、一良の首筋に唇をつけた。

「おま、何しいいい!?」

リーゼはそのまま思いきり吸い、一良が未知の感覚に悲鳴を上げる。

リーゼが口と手を放すと同時に、一良は浴槽の反対側に逃げた。

「んふふふ。カズラ、キスマークって付けられたことある?」

「あるわけないだろっ!」

「やった! カズラの初めて、もーらいっ!」

「あっ! リーゼ様! 何をしてるんですか!?」

バレッタが窓から顔を覗かせ、風呂場にいるリーゼを見てぎょっとする。

そんな彼女に、リーゼは、にやり、と笑みを向けた。

「カズラで遊んでたの。バレッタもくる?」

「なっ、行くわけないじゃないですか! 早くそこから出てください!」

「んふふ。はーい」

顔を赤くして怒っているバレッタにリーゼは答え、風呂場を出て行った。

「まったくもう……カズラさん、大丈夫で――」

バレッタが一良を見下ろし、固まる。

その視線を一良は追い、自分の股間がお湯越しに丸見えになっていることに気が付いた。

「ご、ごめんなさいっ! あいたっ!?」

足を滑らせたのか、バレッタの転ぶ音が外から響く。

一良はリーゼに吸われた首筋を撫でながら、バクバクと鳴る胸をしばらく押さえていた。