軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

338話:企業戦士

数分後。

さらなる物資を補充すべく、一良はいつものホームセンターにやって来た。

車を降りて店の入口に向かうと、自動ドアの前で主事店員改め、店次長が箒を手に掃除をしていた。

一良に気付き、箒を壁に立てかけて頭を下げる。

「志野様、お待ちしておりました」

「ご無沙汰してます。もしかして、ずっと待ってたんですか?」

「はい。といっても、掃除しがてらですが。お問い合わせいただいた品物は、他社分も含めてすべて用意できています。一部はすでに、ご指定いただいた住所に運ばせていただいております」

「すみません、あれこれと中継ぎまで頼んじゃって。さっそく支払いさせていただいても?」

「承知しました。こちらへ」

受付カウンターに向かい、カードで支払いを済ませる。

今回注文したものは、硫黄粉末、ドラム缶、無線機、携帯用アンテナといった軍事に用いる物と、リポD、米、野菜の種、ビニールハウスの材料だ。

ビニールハウスは、昨夜バレッタと話したこともあり、村人たちにお願いして野菜の栽培を始めてもらおうと思い購入することにした。

ビニールハウスがあれば、冬でもある程度の野菜は育てることができるだろう。

もちろん、ハウス内を温めるための道具は揃える必要はあるのだが。

無線機などの機械類は、型番を伝えて店次長に他店との取次ぎをお願いした。

どういうわけか一良からの注文は代金の肩代わりの許可が本社から出ているとのことで、少額の手数料のみで一挙に手配から配達まで済ませてくれるようになっていた。

「これでよし。それにしても、鶏糞とか硫黄粉末とか、いつもの3倍くらい在庫がありましたけど、需要が増えてるんですか?」

「いえ、志野様が定期的に在庫を丸ごとお買い上げくださるので、本部のほうからもっと大量に用意しておくようにとの指示がありまして」

「えっ。じゃあ、俺のために用意してくれてたんですか?」

「まあ、そうですね。とはいっても、他のお客様もよくお買い上げになられる商品ですので、どうかお気になさらず」

にこやかな笑顔で言う店次長。

気にするなとは言うが、そうまでされたらちゃんと買いに来ないと迷惑がかかるのでは、と一良は冷や汗をかいた。

「ああ、そういえば、義妹には今もお仕事を頼んでくださっているので?」

義妹とは、動画編集を頼んでいる宮崎のことだ。

しばらく前に、宮崎には別件で仕事を頼んだことがあったのだが、その時に彼の義妹であることが判明していた。

「ええ。彼女にはいつも手伝ってもらっていて。すごく助かってますよ。でも、いろいろと災難続きで心配ですよね。元彼さんが闇金で勝手に借金作ってたりして」

「そうなんですよ。まあ、故人を悪く言うのはアレですが、あのろくでなしとも縁が切れたことですし、もう大丈夫でしょう」

やれやれといったように、彼が言う。

「義妹はちょっと抜けているというか、人が良すぎるというか。騙されやすいところがあるので心配で。でも、すごく優しくていい娘なんです。どうですか志野さん、あの娘、今はたぶんフリーですよ?」

「え、えっと……今、ちょっと急いでまして。電話で聞いた業務用プロジェクタと業務用複合機、見せてもらってもいいですか?」

「承知しました。では、こちらへ」

そんなこんなで、もろもろの買い物を済ましたのだった。

その後、一良は以前バイクを購入した店にやって来ていた。

今は、支払いを済ませ、従業員たちの見送りを受けているところだ。

今回購入したものは、前回買ったものと同じバイクを10台と、イクシオスへのプレゼント用のスポーツタイプのバイク。

それに、超小型の軽トラックを1台だ。

当然のように即全額を振り込んだ一良に、支店長の顔はとろけそうになっている。

前回、一良がサイドカー付きバイクを大量に購入した後、販売実績としてホームページで公表したところ、興味を持って購入する顧客が増えたらしい。

そんなわけで、各店舗で多めに在庫を持つようになっており、今回はすんなりと購入できた。

超特急で手続きを済ませてくれるとのことで、4日後に納車できるとのことだ。

ナルソンには準備に6日かかると伝えてあるので、4日後の納車ならバイクの輸送も間に合う計算だ。

それ以外の物資も、揃えることができるだろう。

トラックは通路を通れなかったら無駄になってしまうので、とりあえず1台購入した。

「ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!」

「「「お待ちしておりまーす!」」」

「はい、またよろしくお願いします」

声をそろえる支店長たちに車の窓ごしに答え、アクセルを踏み込む。

それと同時に全員が深々と腰を折り、離れていく一良の車を見送った。

バックミラーでその姿をチラチラと確認していたのだが、彼らの姿が視認できなくなるくらいに離れても、彼らはずっと腰を折ったままだった。

「あそこまでしてくれなくてもいいような……それにしても、待ってる間にショートケーキが出てくるとは思わなかったな。わざわざ用意してくれてたのには驚いた」

電話で注文を済ませていたせいか、来店するとケーキと紅茶が出てきた。

おまけに、お土産として高級焼き菓子の詰め合わせまで貰ってしまった。

大口購入パワー、恐るべしである。

「さて、次はお偉いさんたち懐柔用のコップだな。エルタイルとかプロティアの人にも、いくらか渡したほうがいいよな」

車を走らせ、以前、ナルソンたちにプレゼントした江戸切子のタンブラーなどを買ったワイングラス館へとやって来た。

大型倉庫を丸々改装して作られた店の隣には巨大なブドウ棚があり、紫色のブドウがたわわに実っていた。

「おお、見事なもんだな。そっか、もうそんな時期なのか」

店の前にはのぼりが出ており、「巨峰・シャインマスカット直売中」と書かれていた。

ブドウ棚の下にはカゴに入れられたブドウがたくさん並んでおり、何人かのお客がそれらを選んでいる。

駐車場に車を停め、どれどれ、とそこへ向かう。

「いらっしゃいませ! どうぞ、試食していってくださいね!」

中年女性の店員が、木編みのカゴに入れられた巨峰とシャインマスカットを一良に差し出した。

それらは房についたままのもので、実がかなり大きい。

張りがあり瑞々しく、とても美味そうだ。

さっそく、シャインマスカットを1粒いただく。

「ん! ものすごく美味しい!」

「でしょう? 今年はすごく出来が良いんですよ」

「そうなんですか。日持ちはどれくらいですかね?」

「常温で新聞紙に包んでおけば2~3日、冷蔵だと5日くらいですね。冷凍すれば1カ月は持ちますよ」

「なるほど。そしたら、えーと……巨峰とシャインマスカットを15房ずつ、持ち帰りでお願いします」

かなり多めの注文に、店員が少し驚いた顔になる。

「まあ、そんなにたくさん! でも、持ち帰りでいいんですか? 宅急便で送ることもできますけど」

「これから地元に帰るんで……あ、すみません。夕方に取りに来るんで、取り置きしておいてください。それと、1房ずつ、プレゼント用に包んでもらえると。それは今持って行くので」

「かしこまりました。少々お待ちを!」

そうしてシャインマスカットと巨峰を包んでもらい、料金を支払ってワイングラス館へと移動した。

ブドウの入った紙袋をぶらさげて、ワイングラス館へと入った。

店内にはさまざまな種類のガラスのコップやアクセサリーが陳列されており、地産ワインがいくつも棚に陳列されている。

一良は買い物カゴを手に、商品を見て回り始めた。

「さて、どれを買っていくかな。どれを持って行っても、国宝級の扱いになるだろうけど」

ここで購入するものは、アルカディアやクレイラッツ、そして同盟国のお偉いさんたちへの贈り物にする予定だ。

黒曜石、もとい、ガラス加工品はあちらの世界には存在していないので、その希少価値は計り知れない。

此度の戦争で関わった者たちに「グレイシオールからの贈り物」としてこれらを贈ることで、彼らにグレイシオールの存在を強く認識してもらうのだ。

今まではアルカディアの重鎮たちを天国と地獄の動画で脅していたが、このような旨味を味わえば、今後もっと積極的に協力してくれるようになるだろう。

これからの働きに応じて、時々こういったものを恩賞のようなかたちで贈るというのもいいかもしれない。

きっと、他者よりも神から良い評価を得ようと発奮してくれるはずだ。

アルカディアが他国より優位に立つうえでも、役立つはずである。

「信頼の証って扱いにしてもいいのか。やりすぎるとその人の発言力が大きくなりすぎちゃいそうだから、注意は必要かもな……おっ。これすごいなぁ」

薄っすらと虹色に輝くガラスのタンブラーを見つけ、手に取ってみる。

キラキラと輝くその姿は、実に美しい。

その美しさにもかかわらず、1つ700円というリーズナブルな価格だ。

棚のネームプレートには、「オパールグラス」と書かれていた。

製法についての簡単な説明書きもあり、近代になってから考案された製法のようだ。

これならば、あちらの世界でガラス加工技術が進んだとしても、おいそれと真似することはできないだろう。

神からの贈り物、とするにはうってつけだ。

「よし、これをいくつかと……アルカディア王家とか領主さんには、江戸切子のいいやつも買っていくか。そういえば、グレゴルン領ってこれからどうするんだろ。ダイアスさん死んじゃったし」

ぶつぶつ言いながら、コップだけでなくアクセサリーなども見て回る。

ルグロの子供たちに似合いそうだと、ホタルガラスのネックレスやイヤリングもいくつかカゴに入れた。

ホタルガラスとは、ガラスを溶かしている途中で銀箔を中に入れたものの総称だ。

古代エジプトや古代ローマで人気のあった品で、腕のいい職人に作られたホタルガラスは、ルビーやサファイアなどの宝石にも勝る美しさを誇る。

カゴに入れたものは中に蓄光材が入っている品で、しばらく光に当てておくと暗闇で仄かに光るものだ。

まさに、闇夜で輝く蛍のような逸品である。

「こんなもんかな。そろそろ昼飯を食いに行くか」

レジで会計を済ませて車に戻り、スマートフォンを取り出した。

宮崎に電話をかけると、ワンコールで繋がった。

「宮崎さん、こんにちは。これから迎えに行っても大丈夫ですかね?」

『こんにちは! はい、もちろんです! どこで待っていればいいでしょうか?』

宮崎の元気な声が、スマートフォンから響く。

「何か食べたいものあります? ご馳走しますから、何でも好きな物いいですよ」

『あっ、いえいえ! 今日は私がご馳走します! ちょうど夏ボが入ったとこなんで!』

「そんな、気にしなくていいのに」

『いつもご馳走になってばかりなので、今日は持たせてください!』

というわけで、宮崎の奢りということになってしまった。

車を十分程走らせて宮崎のアパートに行くと、はち切れんばかりの笑顔でぶんぶんと手を振る彼女が待っていた。

「おひさしぶりです。元気そうですね」

「志野さんのおかげですよ。毎日ちゃんとご飯が食べられるようになりましたし、ようやく平和な日常が帰ってきた感じです」

助手席に乗り込んだ宮崎が、満面の笑みで言う。

「それはよかった。んじゃ、お店に行きますか」

「はい!」

宮崎のナビで車を走らせ、小洒落たイタリア料理店へとやって来た。

最近できた個人店とのことで、なかなかに味がいいと評判らしい。

駐車場に車を停め、店へと入る。

赤い壁紙とシックな木製テーブル、暖色系のシャンデリアと、とてもいい雰囲気の店だ。

今日は土曜日で並ぶことになるかもとの話だったが、運よく1組分が空いていて座ることができた。

「へえ、素敵なお店ですね」

「ですね! ネットで見ただけだったんですけど、すごく素敵ですよね!」

メニュー表を開くと、パスタがメインのランチメニューがずらりと並んでいた。

価格帯も1000円から2000円といったところで、気負わず注文できる印象だ。

「これ、お土産のブドウです。すごく美味しそうだったんで、買ってきちゃいました」

「わあ、ありがとうございます! いい香りですねー!」

ブドウが入った紙袋を宮崎に渡し、それぞれ料理を注文した。

待っている間に、宮崎が早速、とノートパソコンを取り出した。

電源を入れ、一良にも見えるようにノートパソコンをテーブルに横向きに置く。

画面には、映画やドキュメンタリー動画からの切り抜きファイルが数十個も表示されていた。

「志野さんが言っていた年代の動画を、片っ端から集めてみました。例えば、これとか」

宮崎がファイルの1つを再生する。

それは古代ローマ時代の治療院を扱ったもののようで、外科手術に使う道具の説明や、当時の医療技術が解説されていた。

実際に手当てをしているイメージ映像付きだ。

「おお! そうそう、こういうのです! ばっちりですよ!」

喜ぶ一良に、宮崎がにこりと微笑む。

「よかったです。他にも、当時の荘園生活の解説動画からの切り抜きとか、大小の施設の建築物の構造と建設手法の解説動画とか、いろいろと集めてみました。今、見てみます?」

「ぜひ! それにしても、こんな短時間で、よくこんなにたくさん集められましたね?」

「えへへ。実はあれから、徹夜で探してたんです。海外のチャンネルを探したらたくさん見つかってよかったです」

「ええ!? そこまでしてくれたんですか!?」

「志野さんのためですから! これくらい、どうってことないですよ!」

ぐっ、と胸の前で拳を握る宮崎。

よく見てみると、化粧で隠してはいるが目の下にクマがあり、若干頬がこけていた。

「ありがとうございます。そんなに頑張ってくれるなんて……えっと、報酬は10万円で大丈夫ですか?」

「えっ!? い、いくらなんでも多すぎですよ! 毎度毎度、そんなに貰えないです!」

慌てる宮崎に、いやいや、と一良が笑う。

「そんなに頑張ってくれたなら、相応の報酬は出したいんです。いつもお世話になっていますし、受け取ってください」

「う、うーん。でも、いつも貰いすぎなんで……今回のところは、3万円でどうでしょうか?」

「そんな、さすがに安すぎる気が……」

「そんなことないですって! 十分すぎるくらいの報酬ですよ!」

宮崎が勢い込んで言う。

「あと、もし必要なら、ただの動画ファイルだけじゃなくて、再生用のアプリも作りますから。もちろん、お金はいりません」

「ええ!? って、3日後には動画が必要なんで、さすがに無理なんじゃ」

「大丈夫。私に任せてください!」

宮崎が、どん、と胸を叩く。

「これでも一応、最前線で戦ってるエンジニアですから。どんな形式のものがいいですか?」

「うーん……じゃあ――」

そんなこんなで、宮崎の厚意に甘えることになった。

やたらと気合の入っている宮崎と内容を詰めながら食事をし、店を出た後で「まだ時間も早いですし」と彼女に誘われ、近場のゲームセンターで少し遊んでからこの日は解散となったのだった。