軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

334話:大工事計画

その日の昼。

野営地に戻った一良たちは、天幕内でテーブルを囲み、蛮族への対応を話し合っていた。

この場にいるのは、一良、バレッタ、ナルソン、ジルコニア、ルグロ、エイラ、マリーだ。

テーブルにはノートパソコンが置かれ、一良の隣でエイラが議事録担当としてメモ帳を開いている。

マリーはリブラシオールということになっているので、ルグロの手前同席させている。

マリーは母親がいつ到着するのか気が気でないようで、そわそわした様子でイスに座っていた。

「バルベールの北側くらい、くれてやっちまえばいいんじゃねーの?」

ナルソンから話を聞いたルグロが、軽い口調で言う。

「どうせ土地なんていくらでも空いてるんだろ? 戦闘停止と住人の引き渡しを引き換えにして、連中が住める場所をやれば丸く収まるじゃねえか」

「そう簡単にことが収まりますでしょうか? 要求を1つ飲めばまた次の要求、といった具合に増えていくのが普通と思います」

ナルソンの言葉に、ルグロが顔をしかめる。

「そりゃあ、いくつか追加でってのはあるだろ。でもさ、連中が欲しがってるのは安住の地なんだろ? 食べ物と街を作るための資材も提供するって言ってやれば、頷くんじゃねえの?」

「そうかもしれませんが、彼らの人数はすさまじいものがあります。要求される金や資材は、途方もないものになるかと」

「んなこと言ったって、このまま戦うわけにはいかねえだろ。連中の後ろには、もっとヤバイ奴らがいるんだし」

「カズラさん、もういっそのこと、蛮族にも動画を見せて脅しちゃえばいいんじゃないですか?」

ジルコニアが一良に話を振る。

「逆らったらこうだぞって、動画を使って脅せば一発ですよ。バルベール相手にだって、上手くいったんですから」

「うーん。でも、彼らはまだこちらと一度も戦ったことないじゃないですか。そんな相手から、いきなりそんな脅しを受けて、素直に降伏するとは思えないんですけど」

「逆らうようなら一発ぶち込んでやればいいんですって」

当然、といった様子でジルコニアが言う。

「その辺の廃村とかに火薬をしこたま設置して、大爆発させて村ごと吹き飛ばせして見せればいいんです。きっと縮み上がりますよ」

「い、いや、それだけの火薬を用意っていうのは時間的に……」

「バレッタ、どう? できないかしら?」

「うーん……火薬よりも、ガソリンをタンクか何かにたっぷり入れて、その上にガソリンを染み込ませた木材をたくさん乗せて火を点ければ大爆発は起きますから、そのほうが簡単かと思います」

「カタパルトで飛ばすやつの何十倍もガソリンを使えば、もっと大きな爆発が起きるわけね。爆発で木材が飛び散れば、迫力もありそう」

うんうん、と頷くジルコニア。

「なら、それでいいじゃない。そうしましょうよ」

「ですけど、この間の戦闘でガソリンはかなり使ってしまいましたから、カズラさんに補充をお願いしないと」

「そうね。カズラさん、お願いできますか?」

皆の視線が一良に集まる。

「……いや、脅してばかりだと恐怖で押さえつけることになるんで、相手に旨味を持たせないとダメだと思うんです」

「うむ。バルベールやプロティア、エルタイルに対してもそうですな。我らといい関係を築けば、敵対するよりはるかに美味しい思いができると理解させるのが上策かと思います」

「おっ、いいねぇ。俺はそういう方針のほうが好みだな」

一良の意見に、ナルソンとルグロが続く。

「で、旨味ってのはどういうのにするんだ? 何かいい方法はあるのか?」

「俺が思うに、蛮族の人たち……あのさ、彼らの呼びかた変えないか? 彼らと話している時にうっかり『蛮族』なんて言ったら、見下してるって思われそうだしさ」

「ああ、それもそうだな。んじゃ、これからは『部族』って呼びかたで統一するか」

「うん。で、旨味なんだけど、部族の人たちは背後から迫ってる連中が怖くて堪らないわけだろ? それに対する備えを、同盟国とバルベールが支援するってのはどうかな」

「備えですか。何か考えがおありで?」

ナルソンが聞く。

「思いつきではあるんですけど、似たような目的で作られたものが神の国に存在しまして。バレッタさん、百科事典で『万里の長城』の項目を開いてもらえます?」

「えっ? あ、あれを作るんですか?」

バレッタが驚いた顔で一良を見る。

「ものすごい工事期間がかかると思うんですけど……それに、お金も資材も、すごいことになると思いますよ?」

「ええ。でも、今の状況だと、長期の大工事ってのが、逆にいいかなと思うんです」

「逆に……ああ、なるほど。確かにそうかもしれないですね」

バレッタが百科事典の万里の長城の項目を開き、皆に見えるようにノートパソコンを動かす。

画面には、万里の長城の写真と、それに関する説明文が表示されている。

「む……これは、長い防壁でしょうか?」

ナルソンが画面を見ながら一良に聞く。

「そうです。神の世界に巨大な領土を誇る国があるのですが、外部からの侵略者を防ぐために作られた防壁がこれです。数万キロという長さの国境線にこれを作って、外敵の攻撃を防いだんです」

「す、数万キロ? 確か、1メートルがこれくらいで、その千倍が1キロメートルだから、ええと……めちゃくちゃ長いですよね?」

ジルコニアが画面を見つめながら、信じられない、といった顔で言う。

「めちゃくちゃ長いです。完成させるのにも、ものすごい期間がかかったそうで……バレッタさん、何年間だか覚えてます?」

「最初の工事を起点とするなら、現存している物の完成までは2000年くらいですね。途中で移転とか修繕が繰り返されたと書いてありました」

「いや、かかりすぎだろ……完成するまで、俺らの国が残ってるのかすら怪しいぞ」

ルグロが渋い顔になる。

確かに壮大すぎるプロジェクトなため、すぐに防衛効果を発揮させるのは難しい代物だ。

「そうだね。でも、部族の人たちを安心させるにはいい計画だと思うんだ。工事の間は、彼らやバルベールの人たちは職にありつけるんだしさ」

「ああ、戦後の大不況対策にするわけですか。大勢が職にありつけるわけですし」

なるほど、といった様子でジルコニアが頷く。

「ええ。あと、同盟国からも作業員を招集して、現地で一緒に作業させるのはどうかなって。お金は、バルベールからの賠償金を当てればいいかと」

「現地にたくさん商人を呼び込んで、作業員が稼いだお金はそこで使ってもらえばいいですね。商人には税をかければ、お金がぐるぐる回って、結局は私たちのところに戻ってきますし」

「ですね。バルベールの国境線が人口過密地帯になるかもですけど」

「ふむ……最初はいがみ合うでしょうが、長期間一緒に作業をさせていけば、時間が経つにつれて関係も改善するやもしれませんな。すべての国を巻き込んだ、巨大な経済圏が作れそうです」

ナルソンが感心した顔で頷く。

「それと、講和を結んだ後の生活がどう変わるかを教えてあげるんです。機能的な新たな住居と街、充実した食生活、先進的な医療設備、それに加えて、交易で得られる様々な品物の数々。それらの紹介動画を大急ぎで用意するんで、それを彼らに見てもらいましょう」

「ふむ。それをするにはかなりの資材と資金が必要になると思うのですが、それも賠償金を使うので?」

「使いますけど、俺が神の国から資材を大量に調達してきます。生産に時間のかかる医療道具や薬、肥料、工事に使う工作機械なども持って来るので、ナルソンさんは何も心配しなくていいですよ」

「そ、そこまでしていただけるとは……いつもいつも、本当にありがとうございます」

ナルソンが恐縮した様子で、深々と頭を下げる。

「いえいえ。それに、これが最後の大掛かりな支援になると思うんで。これさえ乗り越えれば、もう大丈夫でしょうし」

「はい。戦争さえ完全に終わらせてしまえば、あとは内政だけに注力できますからな。殿下、いかがでしょうか?」

「いいじゃんか! これだよこれ! 俺はこういうのを求めてたんだよ!」

ルグロが嬉しそうに言う。

「戦争も政争も、もうたくさんなんだよ。皆で一致団結して、1つの目標に向かう。そんで仲良しになってお互い繁栄する。最高じゃねえか! さすがカズラだぜ!」

ルグロが手を伸ばし、一良の肩をばんばんと叩いた。

「はは、気に入ってもらえてよかったよ。これで、彼らが納得してくれればいいけど」

「だな! 早速、父上に連絡……っと、リブラシオール様、勝手に進めてしまってすみません。これでいいっすかね?」

置物状態になっているマリーに、ルグロが話を振る。

「えっ!? あ、は……う、うむ! それでよいと思うぞ!」

急に振られてテンパったマリーが答える。

実のところ、母親のことで頭がいっぱいで、話をまったく聞いていなかったりするのだが。

ティティスにした説明と同様に、ルグロたちにも「マリーにはリブラシオールが憑依していて、ちょこちょこ本人の人格と入れ替わる」と話してある。

ルグロたちは特に疑うでもなく、「そうなのか」といった感じで納得していた。

その時、天幕の外からバイクのエンジン音が近づいてきた。

「うわ!? リーゼ様! 止まってから降りてくださいよ!」

ハベルの慌てた声が聞こえてすぐ、ばっと天幕の入口が開き、リーゼが飛び込んで来た。

「カズラッ!」

「おっ! おかうおっ!?」

座ったまま振り返っていた一良にリーゼが飛びつき、ものすごい勢いで頬ずりを始める。

「会いたかったよおおお! 寂しくて死にそうだったんだからあああ!」

「ちょ、ちょっとリーゼ! 落ち着け!」

「やーだー! ……あっ」

ルグロやナルソンが目を点にしているのに気づき、リーゼがそそくさと体を離す。

「こ、こほん。殿下、お父様、お母様。ただいま戻りました」

「お、おう。おかえりさん」

「……ご苦労だった。はあ」

「ふふ、おかえりなさい。お疲れ様」

普段とのギャップに面食らっているルグロと、ため息をつくナルソン。

ジルコニアはリーゼの素が楽しかったのか、くすくすと笑っている。

リーゼはあまり誤魔化す気がないのか、気恥ずかしそうに「えへへ」と頭を掻いていた。

バレッタは少々頬を引くつかせていた。

「え、えっと。交渉は無線で連絡したとおりです。アロンドに話を持ち帰らせたところで、今は蛮族の返答待ちです。あと、カーネリアン様はムディアに向かわれました。兵士たちに、交渉結果をすぐに伝えたいとのことで」

「あ、リーゼ。これからは蛮族じゃなくって部族って呼ぶことになったんだ」

「そうなんだ。うん、気を付けるね」

「それと、リスティルさんは? 一緒に帰ってきたんだろ?」

「うん! イクシオス様のバイクに乗って来たよ」

すると、再び天幕の外からバイクの音が近づいて来た。

キッ、と停車する音が響く。

「着いたぞ。降りろ」

「は、はい」

「っ!」

聞こえてきた声に、マリーが天幕の外に飛び出した。

一良も立ち上がり、入口へと向かった。

「ああああん! おがあざあああん!」

マリーがリスティルにしがみつき、わんわんと大声で泣きじゃくる。

その後ろでは、イクシオスとマクレガー、ティタニアとオルマシオールが微笑ましそうにそれを眺めている。

「大きくなったわね……また会えるなんて、夢みたい」

リスティルはマリーをぎゅっと抱き締め、涙を零しながら頭に頬ずりする。

そして、天幕から出て来た一良たちに、リスティルはぺこりと会釈をした。

「リスティル。この人がカズラです。その後ろにおられるのが、ルグロ殿下で――」

リーゼが一良たちを紹介する。

「マリー、ちょっとごめんね。皆様にご挨拶しないと」

リスティルはマリーをそっと離れさせると、一良に深々と腰を折った。

「リスティルと申します。マリーが大変お世話になっていると聞いております。本当にありがとうございます」

「こちらこそ、マリーさんには日頃からお世話になりっぱなしで。ナルソンさん、リスティルさんもこちらで雇うってかたちでいいですよね?」

「はい。我が邸宅で侍女として働いてもらいましょう。身分も平民とするよう、手続きしておきますので」

「というわけなんで、これからよろしくお願いしますね」

にこりと微笑む一良に、リスティルがとても嬉しそうに頷いた。

「ありがとうございます。このご恩は生涯をかけてお返しいたします」

「はは。まあ、そう気を張らずに、気楽にいきましょう。さて」

一良がバレッタに振り返る。

「これから、大急ぎでグリセア村に戻ります。バレッタさん、エイラさん、一緒に来てもらえます?」

「えっ!? カズラ、私は!?」

バレッタの隣にいたリーゼが、不満げな顔で言う。

「来てほしいけど、そうもいかないだろ? 交渉の責任者なんだしさ」

「カズラ殿、こちらは私のほうでやっておきますので、リーゼも連れて行ってください」

ナルソンが口を挟む。

「いいんですか?」

「はい。あまり使い倒してもかわいそうなので。もう十分経験は積めたでしょうし、一息つかせてもよいかと」

ナルソンの言葉に、リーゼは「やった!」と喜んでいる。

「それで、準備が整うまで、部族連中に攻撃を思いとどまらせる必要がありますが、時間はどれくらい必要でしょうか?」

「ええと……6日、お願いします」

「6日ですか……分かりました。何とかやってみます」

「あと、バイクは半分持って行きます。乗り物も追加で調達するので、運転できる人をすぐに集めてください。医薬品は全部使い切ってもいいので、バルベールと部族の怪我人や病人を治療するといいと思います。我々の力を認知させるのには、ちょうどいい機会かと」

「なるほど、確かにそうですな。そうしましょうか。ティティスとフィレクシアはどうしますか?」

「カイレンさんに引き渡しちゃっていいかと。講和も決まりましたし、約束は守らないとですから」

「承知いたしました。カイレン将軍には私から無線で伝えておきます」

一良がリーゼに目を向ける。

「村から帰ってくる時に、バレッタさんたちと連携して、バイクに乗りながら動画編集を頼む。時間がないから、集めた動画からのつぎはぎと字幕を作ってほしいんだ」

「うっ……わ、分かった。頑張る」

「ねえ、ナルソン。私も行っていい? 私のやること、もう何もないと思うんだけど」

ジルコニアがナルソンに聞く。

「分かった、分かった。好きにしろ」

「やった! 生チョコ食べれる!」

「ナルソン様、私も護衛として付いて行ったほうがいいと思うのですが」

うきうき顔のジルコニアを見て、イクシオスが自分もと申し出る。

そんな彼に、マクレガーとナルソンは呆れ顔になった。

「お前、ただバイクを乗り回したいだけだろ……」

「い、いや、そういうわけじゃないぞ」

「はあ。イクシオス、これからバーラルに医薬品を運ぶ必要があるんだ。お前には運転手をしてもらう。それでいいか?」

「はっ。承知いたしました」

ナルソンに言われ、キリッとした顔でイクシオスが敬礼する。

バイクが運転できれば、それでいいようだ。

「オルマシオール様、カズラ殿の護衛をお願いできますでしょうか?」

ナルソンに話を振られ、オルマシオールが頷く。

ティタニアが、「私は?」といった顔で一良を見ながら、前足で自分を挿した。

「ティタニアさんは、ここでウリボウたちの通訳をしてください」

「クゥン……」

ぺたん、と耳と尻尾を垂らすティタニア。

日本から持って来る食事にありつきたかったようだ。

ぷっ、と思わず吹き出すオルマシオールを、ティタニアが恨めしい目で見る。

「そ、それじゃあ、行きますかね。バレッタさん、リーゼ。バイクの燃料を補充しよう」

「はい!」

「うん!」

そうして、一良たちは大急ぎでグリセア村まで戻ることになったのだった。