軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

324話:1発で十分です

草原を猛スピードで走り続け、ジルコニアたちはバルベール軍の進路上へと向かう。

その間、アルカディア・クレイラッツ連合軍陣地からはカノン砲の射撃音が響き続けていた。

全速力で進むバルベール軍勢のあちこちからは火炎弾が爆発するオレンジ色の炎が吹きあがり、真っ黒な黒煙が無数に空に上っている。

「ああ、くそ。滅茶苦茶に撃ちまくりやがって」

それをサイドカーから眺めながら、カイレンが悔しそうに言う。

「仕方がないでしょ。諦めなさい」

「分かってるよ。議員たちはどうなった? その腰ので、聞いてみてくれよ」

「はいはい」

ジルコニアが左手で無線機を取る。

「ええと、バレッタのチャンネルは……」

右手もハンドルから放して無線機をいじり始めた彼女に、カイレンが目を剥いた。

「お、おい! 危ねえぞ!」

「大丈夫だって。バレッタ、ジルコニアよ。議員たちは殺せた? どうぞ」

ジルコニアが送信ボタンを押し、話しかける。

『少なくとも十数人は仕留めました。他の議員たちも、ほぼ全員ラタが転倒して身動きが取れなくなっています。どうぞ』

「そう。よくやったわ。追撃はしてるの? どうぞ」

『いいえ。遠方からの射撃のみです。騎兵隊がそちらを追って出撃していますが、説得に応じなかった場合に備えて火炎壺で足止めすることになっています。オルマシオール様はウリボウたちを従えて、敵の騎兵を見張りながら追っています。どうぞ』

「指揮はそっちに任せていいのね? どうぞ」

『はい。騎兵だけ逃げそうな場合は、オルマシオール様がラタを止めてくださるとのことです。どうぞ』

「分かった。ご苦労様。通信終わり」

ジルコニアが無線機を腰に戻し、カイレンを見る。

「聞こえた?」

「ああ。これなら大丈夫だろ。適当なところで停めてくれ」

「りょーかい」

そのまましばらく走り続け、バルベール軍の先頭から500メートルほどの位置に到達した。

ジルコニアがバイクを停車させると、カイレンは拡声器を手に取った。

「よし。これはどうやって使うんだ?」

「そこの赤いボタンを押して。声が大きくなるわ」

「これか」

カイレンがボタンを押し、口に当てる。

「こちら、カイレン・グリプス臨時執政官だ!」

増幅されたカイレンの声が響き渡る。

すると、別のバイクに乗っていたフィレクシアが、サイドカーを降りてカイレンに駆け寄った。

拡声器に興味津々な様子で、「おー」と声を漏らしながらそれを見つめる。

「全軍、今すぐ止まれ! 我々は、同盟国と講和を結ぶことになった! 戦いは、もう終わりだ!」

カイレンが呼びかけるが、バルベール兵たちは足を止めない。

その様子に、ジルコニアが顔をしかめた。

「何よ。全然ダメじゃない」

「あいつら……止まれって言ってんだろ! 部隊指揮官、さっさと止まらせろ!」

カイレンが叫ぶが、一向に彼らは止まる気配がない。

焦るカイレンの隣で、ジルコニアはガサガサとビニール袋を漁り出した。

「ええと、まずこれを使えって……『手に持つな』、って書いてあるじゃないの。大丈夫なの、これ?」

大きな玉の上に筒がくっついた形状の物体を取り出し、筒に大きく書かれた文字を見て顔をしかめる。

ジルコニアはエイラに教わりながら日本語を少し勉強したことがあり、簡単な漢字なら読めるようになっていた。

玉の部分には、黒文字で「四号玉」と書かれている。

「執政官の命令は絶対だぞ! 止ま……お、おい、何をしてるんだ?」

カイレンの質問を無視し、ジルコニアはバイクを降りて、その筒――打ち上げ花火(1122円)――を小脇に抱えて斜め上に向けた。

ターボライターを取り出し、導火線に火を点ける。

途端に、ジジジ、と導火線が音を立てて火花を散らした。

「うわ!? お、おい!?」

「えっと、掛け声をかけるんだったっけ……たーまやー?」

ジルコニアの気の抜けた掛け声とともに、「ボン!」と音がして筒の先端から花火が打ち出された。

「わあっ!?」

「ぬあっ!?」

「おおーっ!」

打ち出した瞬間にジルコニアが驚いて尻もちをつき、カイレンが足をもつれさせて肩から転び、フィレクシアが目を輝かせる。

近衛兵たちも、一様に驚いた声を上げて仰け反った。

眩しく輝く赤い塊が、シュウッ、と音を響かせて飛んでいく。

数秒して、バルベール兵たちの頭上で「ドン!」と轟音を響かせて爆散した。

緑、赤、オレンジといった様々な光が、空に飛び散る。

当然ながらバルベール兵たちは驚愕し、集団前方にいた者たち全員が一斉に足を止めた。

歩兵の横を随伴していた騎兵たちも、ラタが大暴れしたり急停止したりと、大量の落馬者を出している。

前の者たちが立ち止まってしまったため、後ろに続く軍勢も連鎖式に足を止めた。

ジルコニアたちの遥か後方では、騎兵部隊の逃亡を警戒していたオルマシオールたちが、びくっと身を縮めて耳を伏せていた。

かなり驚いたようだ。

「いたた……び、びっくりした」

「な、なんつう兵器を使うんだよ!? あいつら、無事なのか!?」

動画で見たミサイルを思い出し、カイレンが青ざめて兵士たちに目を向ける。

「大丈夫そうなのです! 皆さん、ぽかんとしているのですよ。カイレン様、もう一度呼びかけてください!」

フィレクシアの言葉に、はっとしたカイレンが転んだ態勢のままで拡声器を口に当てた。

「今のは警告だ! もしまた動いたら、今のをお前らのなかに叩きこむってアルカディア軍は言ってるぞ! 吹き飛ばされたくなかったら、その場を動くな!」

カイレンが叫びに、兵士たちは動揺した。

あんなものが撃ち込まれたら、と考えれば、動けなくなって当然だ。

間近で音を耳にした兵士たちは、耳がキーンとして痛いほどだ。

あれを食らったら絶対に死ぬ、と誰もが思った。

「ええと……あっ、50連発っていうのがある! 撃ち込んでいい?」

「やめてくれ」

うきうき顔でビニール袋を漁るジルコニアに、カイレンが額を押さえて答える。

立ち上がり、再び口を開いた。

「今出されてる作戦指示はすべて無効だ! 我々は同盟国と講和することになった! 戦争は終わりだ!」

兵士たちがざわつく。

「誰に何を言われたのか知らないが、俺からの命令以外はすべて撤回だ! エイヴァー執政官、出て来てくれ!」

カイレンが言い終え、拡声器を下ろす。

兵士たちは動揺しているのか、全員がその場に立ち尽くしていた。

「はー。すごいですね。あれほどの威力のものが、そんな小さな筒から打ち出せるなんて。カノン砲よりすごいんじゃないですか?」

フィレクシアがジルコニアに歩み寄り、ビニール袋をのぞき込む。

「そうね。私もこれは初めて見たけど、本当にすごいわ」

「色も綺麗でしたし、夜に空に向けて撃ったら、すごく綺麗に見えそうなのです」

そりゃあ花火だからね、とジルコニアは思いながらも、「うん」と頷いた。

兵器でないことはバレてはいないようなので、「とんでもない兵器」、という彼女たちの思い込みはそのままにしたほうがいいだろう。

花火については雑誌を見て知っていたのだが、一良が持ってきていることは渡されるまで知らなかった。

今度花火大会を開いてもらえないだろうかと、場違いな考えが頭に浮かぶ。

『ジル、ナルソンだ。どうぞ』

そうしていると、ジルコニアの無線機からナルソンの声が響いた。

「どうしたの? こっちは、敵を止まらせるのに成功したわ。どうぞ」

『そうか。今、ラッカ将軍とラース将軍が、もう1人の執政官とこちらにやって来たんだ。どうぞ』

「えっ、そうなの? 2人とも殺されたのかと思ってたわ。何がどうなってるの? どうぞ」

『それが、カイレン将軍がこちらに来た後で、残った議員たちがカイレンたちを敗北主義者だとか売国奴だとか騒ぎ出したらしい。反論して拘束されそうになったところを、すんでのところで自分の軍団の下へ逃げたと言っているんだ。どうぞ』

「あー、なるほど。カイレンに賛同する議員たちを先に送り出して、残った議員たちはこれ幸いと強行突破させたのね」

そういうことか、とジルコニアが頷く。

ラッカたちが殺されなかったのは、半包囲状態からの脱出を優先して、逃げた彼らを追うのを議員たちが諦めたからだろう。

動画を見ていない状態では、強行手段に出た議員たちの考えも理解できる。

「あっちには神様が付いてるから講和しよう」などといきなり言われたら、こいつは頭がおかしくなったのではと考えるのが普通に思えた。

その点、カイレンにとりあえずは従った議員たちは、よほど彼と仲がよかったか、穏健派の者たちなのだろう。

「そうすればカイレンは約束破りってことで近しい議員とまとめて殺せるかもしれないし、対立してる議員は権力を取り戻せるものね。どうぞ」

『ああ。そういうことだろうな』

やれやれ、といった雰囲気のナルソンの声が響く。

『だから、今敵軍には執政官が不在だ。カイレン将軍には、そのまま全軍の取りまとめをさせて、ムディアの前まで戻らせてくれ。どうぞ』

「分かった。ものすごく時間がかかると思うから、覚悟してね。通信終わり」

ジルコニアが無線機を腰に戻し、カイレンを見る。

「そういうわけだから、何とかしてもらえる?」

「マジかよ……くそ、きっとヴォラス派の連中の策略だ。講和に賛成派を増やそうとして、先に連れてくる議員の選定を間違った」

「何て言うか、そっちの軍ってめんどくさそうね。少しだけ、同情するわ」

苦笑するジルコニアに、カイレンも苦笑する。

「まったくだよ。だがまあ、軍を止められてよかったよ」

「あなたにとっては、対立してる議員がたくさん死んでよかったんじゃない? これからやりやすくなるでしょ?」

ジルコニアが言うと、カイレンが彼女を睨んだ。

「冗談でも、そういうことは言うな。彼らだって、国を思っての行動だったはずなんだぞ」

「あら? まるで聖人みたいなことを言うのね。私にマルケスのことを殺させたくせに。らしくないんじゃない?」

「あれとこれとは別だ」

「ふうん。まあ、どうでもいいけど」

ジルコニアはそう言うと、さてと、とバイクのシートに腰掛けた。

「私はここで待ってるから、さっさと行ってきなさい。言っておくけど、妙な動きをしたら、さっきのをあなたがいる場所に撃ち込んであげるからね?」

「ああ」

カイレンが頷き、バルベール軍勢へと走って行く。

「……これで、邪魔者はいなくなりました。講和交渉は上手くいきますね」

カイレンの背を見送りながら、フィレクシアが言う。

「まるで、あいつらが暴走したのが好都合みたいに言うのね」

「そりゃあ、好都合なのですよ。巻き添えを食った人たちには、申し訳ないですが」

「まったくよ。いつだって割を食うのは、何も知らない弱者なんだから。ほんと、ろくでもないわ」

「……ジルコニア様は、素直でいい人ですね。けほ、けほ」

小さく咳込みながら、にこっと笑みを向けるフィレクシア。

ジルコニアがきょとんとした顔になる。

「はあ? 何よそれ」

「そのままなのです。私とは正反対で……羨ましい」

最後は消え入るような声で言い、フィレクシアがカイレンの背に目を戻す。

その瞳には、悲しみが籠っていた。

「……フィレクシア?」

「はい?」

くるっとジルコニアに顔を向けるフィレクシア。

その表情は、いつものものに戻っていた。

「……咳、大丈夫?」

「大丈夫ですよ! ちょっと埃っぽいから、出ただけだと思います」

「そう。しばらくかかりそうだし、おやつでも食べる? 特別に、チョコレートを食べさせてあげるわ」

「ちょこれーと?」

フィレクシアが小首を傾げる。

「すっごく甘くて美味しいお菓子。言っておくけど、カズラさんたちには内緒だからね?」

そう言いながら、荷物から板チョコを取り出すジルコニア。

「わわっ、甘いものは大好きなのです! いただくのですよ!」

大喜びで、フィレクシアがジルコニアに駆け寄る。

「あなたたちもあげるから、休憩にしましょ。こっちにいらっしゃい」

ジルコニアが近衛兵たちを呼び集め、チョコレートを配る。

そうして皆でバルベール軍を眺めながら、おやつタイムに興じたのだった。