軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

305話:身体検査

「マ、マジか。本当に人質を……あれ? 護衛がいない?」

「ほんとだ。どうしてだろ?」

彼女らの周囲には他の騎兵はおらず、どうやら単騎でここまでやって来たようだ。

普通ならば護衛を付けるだろうに、と一良とリーゼは困惑顔になる。

「あれは……勝手に抜け出してきたっぽいわね」

「「えっ」」

ジルコニアの言葉に、再び2人の声が重なる。

「荷物も何も持ってないみたいだし、そういうことじゃない? 書状を受け取ってすぐに人質を出すっていうのも、ちょっと変だし」

「なるほど……でも、どうしてそんなことをしたんですかね? それに、秘書官さんの後ろに乗っている彼女は……」

「まあ、彼女たちに直接聞いてみれば分かります。出迎えに行きましょう」

丘を下るジルコニアの後を、一良とリーゼも追う。

ラタを怖がらせてはいけないだろうと、オルマシオールはその場に座って3人を見送った。

ティティスたちのラタは丘の終わりにまで幾重にも掘られた防塁の前にたどり着くと、ゆっくりと歩みを止めた。

彼女らに駆け寄ろうとする警備兵を、ジルコニアが制す。

「あっ、ジルコニア様!」

フィレクシアがジルコニアに気付き、大きく手を振る。

「ひさしぶりね。元気にしてた?」

ジルコニアが声をかけると、フィレクシアはぱっと笑顔になった。

「はい! ジルコニア様もお元気そうでなによりなのです!」

「フィレクシアさん、ラタから降りてください」

「あ、はい!」

ティティスが後ろを振り返ってうながすと、フィレクシアは彼女の服にしがみつきながら、恐る恐るといった様子で片足を持ち上げた。

「ほら、掴まりなさい」

「す、すみません」

ジルコニアが差し出した手を掴み、ずるずる、とラタから飛び降りる。

ティティスもラタから降り、ジルコニアにぺこりと頭を下げた。

「ジルコニア様、おひさしぶりです。貴軍の出した条件どおり、人質としてやって来ました」

「そう。でも、勝手に出てきちゃったあなたに、人質としての価値があるのかしら?」

ジルコニアが言うと、ティティスは悲しそうに目を伏せた。

本当にそうだったのかと、一良とリーゼがちらりと目を合わせる。

「分かりません。ですが、あなたたちの要求には応えているかと」

「……まあ、確かにそうね」

ジルコニアがフィレクシアに目を向ける。

「あなたはどうして来たの? 呼んだ覚えはないのだけれど」

「そ、それは、えっと……」

フィレクシアが少し目を泳がせる。

「人質は1人より2人のほうが価値があるのですよ! 私も人質にしてください!」

「何よそれ。そんな理由で、くっついてきたの?」

「そ、そんな理由って何ですか!? 私にも、十分人質としての価値はあるのですよ!」

呆れたように苦笑するジルコニアに、フィレクシアが憤慨する。

「まあ、こっちとしては大歓迎だけどね。ありがたく、2人とも人質にさせてもらうわ」

「……ジルコニア様、我々はそちらの要求に応えました。カイレン様の作戦には、協力していただけるのですね?」

沈んだ表情のまま、ティティスがジルコニアを見る。

「それは作戦の内容次第ね。まだ何も聞かされてないのだし。あなたは、作戦の内容は把握しているの?」

「はい。詳しくは、ナルソン様も交えて砦内でお話させていただいてもよろしいでしょうか?」

「ええ、分かったわ。その前に、身体検査をさせてもらうわね。凶器を持っているなら、今この場で出しなさい。どのみち、一度全裸になってもらうけど」

「かしこまりました」

「ぜ、全裸ですか……」

即座に頷くティティスと、表情を引き攣らせるフィレクシア。

「そんな顔しなくても、ちゃんと女の兵士に確認させるわよ。反抗さえしなければ手荒なことはしないから、安心して」

「は、はい……」

ティティスがブーツの隙間に手を入れ、ナイフを取り出す。

刃先をつまみ、ジルコニアに差し出した。

「私が持っているのは、これだけです」

「預かっておくわ。フィレクシア、だったわね。あなたは?」

「私は丸腰なのですよ」

「そう。じゃあ、行きましょうか」

ジルコニアはそう言うと、彼女たちの乗って来たラタに歩み寄り、その尻をパチンと叩いた。

バルベール陣営に向かって走り去るラタを見送り、ジルコニアが丘を上がり始める。

ティティスとフィレクシアは、その後に続いた。

「カズラ、こっち」

リーゼが一良をうながし、彼女たちの後ろに回った。

一良を自分より半歩後ろに下がらせ、手を伸ばせば届くほどの距離を歩く。

リーゼは左手の袖に隠してあった護身用の短剣を握っており、前を歩く2人に鋭い視線を向けている。

フィレクシアはそれが気になるようで、ちらちらとリーゼを振り返っている。

「あ、あの、何もしませんから、それはしまってもらえませんか?」

怯えた様子で言うフィレクシアに、リーゼはにこりと微笑んだ。

「いいえ、そういうわけには。万が一ということもありますからね」

「でも……」

「フィレクシアさん、これは当然の処置です。我々は捕虜なのですから、従いましょう」

ティティスに言われ、フィレクシアが渋々頷く。

そうして丘を上り切ると、オルマシオールがお座りをして待っていた。

ティティスとフィレクシアは一瞬身を硬直させたが、足は止めずにジルコニアの後を追う。

オルマシオールが腰を上げ、フィレクシアの隣に並んで城門をくぐった。

「……アルカディア軍は、ウリボウを手懐けることができているのですね」

オルマシオールを横目で見ながら、ティティスが言う。

「ただのウリボウじゃないわ。戦いの神、オルマシオール様よ」

「……は?」

怪訝な顔をするティティスに、ジルコニアが少し振り返る。

「前に砦の倉庫で話した時に、食糧事情改善の話をしたのを覚えてる?」

「は、はい」

以前、砦がバルベール軍第10軍団に占領されてジルコニアが捕虜になった折、ジルコニアはティティスから誘導尋問のようなことをされたことがあった。

そのなかでアルカディアの食糧事情が急速に改善した話も出たのだが、その時ティティスは「グレイシオールの加護が強いグリセア村の土を使って農作物を増産させた」という、ナルソンが巷に流した噂話を口にしていた。

「あれね、実はグリセア村の土を使ったわけじゃなくて、実際にグレイシオール様が現れて私たちを救ってくれたからなの」

「……」

「あ、別に信じてくれなくてもいいのよ?」

顔をしかめるティティスに、ジルコニアが笑う。

「ただ、あなたたちが今、2つの小国相手にどうしてこんなに手こずっているのかを教えてあげようと思って。いくらなんでも、不自然だとは思わなかった?」

「……鉄の弾を飛ばしてくる長距離射撃兵器や、異常な勢いで燃え上がる火炎壺も、グレイシオールやオルマシオールがもたらしたというのですか?」

「まあ、そんなところね。私たちには神様が付いてるってわけ」

「むう。いくら技術に自信があるからって、そんなデタラメを言うのはあんまりなのですよ」

フィレクシアが頬を膨らませる。

「どうせ、市民や兵士たちの士気高揚のための作り話なのです。ティティスさん、真に受けちゃダメですよ!」

「酷いわね。本当の話なのに」

そんな話をしながら5人と1頭は砦内を進み、宿舎へと向かうのだった。

「少し待ってて。廊下に侍女と警備兵がいるから、何かあったら声を掛けなさい」

そう言って、ジルコニアが客室の扉を閉める。

燭台の蝋燭がぼんやりと照らす室内に、ティティスとフィレクシアの2人が残された。

「……はあ。来てしまいましたね」

部屋の中央に置かれた丸テーブルのイスに、ティティスが腰かける。

テーブルには銅の水差しとコップ、真っ赤な瑞々しい果物が銀皿に何個か盛られていた。

ナイフは見当たらないので、食べるとしたら丸かじりするしかなさそうだ。

窓の傍には植木鉢が置かれていて、場違いにも思えるほどに美しい花々がいくつも咲いている。

「うう、怖かったのです。私たちの後ろにいた美人さん、『いつでも殺すぞ』って雰囲気でしたよ……」

リーゼの表情を思い出し、フィレクシアが身を震わせる。

あれは、何かしたら即座に刺すつもりの顔だった。

「ジルコニア様も何だか眼つきが怖かったですし、ウリボウさんはすごい迫力でしたし……私たち、酷い目に遭わされないか心配なのです」

「フィレクシアさん。今さらですが、本当に来てよかったんですか?」

疲れた顔で、ティティスが尋ねる。

「人質として要求されていたのは私だけです。それに、あなたが人質になったと知ったら、カイレン様は青ざめますよ」

「そんなことはないのですよ」

フィレクシアが表情を曇らせる。

「私がカイレン様に渡せる兵器は、すべて造りました。これ以上、戦いでお役に立つことはできません」

「そんなことはないでしょう。あの移動式の防御塔だって、たった数日で考えて詳細な設計図を描いて作ってしまったではないですか」

「あれは、移動防壁を見た元老院司令部が『移動防壁を火に強くしたうえで射手を乗せられるように改良しろ』、と資材を送り付けて命令してきたから作ったものなのです」

フィレクシアが言い、悔し気に表情を歪める。

「それを、毒の兵器を上から飛ばすために使おうとするだなんて! 私は騙されたのですよ!」

「……それは、フィレクシアさんがあそこまで大掛かりなものを作ったから利用されたのでは? 元老院の指示とあの防御塔は、だいぶかけ離れた構造のような気がするのですが」

ティティスの指摘に、フィレクシアが「うっ」と言葉を詰まらせる。

カイレンお抱えの技師のフィレクシアの功績は、そのままカイレンの評価にも直結する。

なので、フィレクシアはカイレンに喜んでもらおうと、元老院の指示内容を魔改造してあの防御塔を作り上げたのだ。

あの防御塔と従来の移動防壁を組み合わせて活用すれば、アルカディア軍の火炎弾の射程外からバリスタで射撃が行えるはずだった。

当然ながらカノン砲に狙われるだろうが、他の部隊はカノン砲の被害を受けなくなる。

アルカディア軍に対して、必ず有効な兵器になるだろうとフィレクシアは考えていた。

「まあ、元老院が毒の兵器を増産させていたとは思いませんでしたけどね……」

「そ、そうなのですよ! まさか、部材の取り寄せ内容から気付かれるとは思いませんでした。ちゃんと、バレないように届けてもらう場所もバラバラにしたのに……」

フィレクシアが悔しそうにうつむく。

「きっと、私の行動はずっと監視されていたのですよ」

「かもしれませんね。ただでさえ、カイレン様は元老院に目を付けられていますから。その力になっているフィレクシアさんも――」

ティティスがそう言った時、部屋の扉が開き、ガチャガチャと鎧の音を響かせてシルベストリアとセレットが入って来た。

後から入ったセレットが、バタン、と扉を閉める。

「身体検査を行う。2人とも、服を脱げ。髪の中も調べるから、その三つ編みも解くんだぞ」

有無を言わさぬ、といった口調でシルベストリアが言う。

「……フィレクシアさん、脱ぎましょう」

「は、はい」

ティティスが立ち上がり、三つ編みに手をかける。

フィレクシアは不安げな顔で、ワンピースの肩紐に手をかけた。

「言っておくが、もし部屋の中に武器を隠したなら正直に話せ。今なら許してやる」

「そんなことはしていませんよ」

「そうか。まあ、嘘をついていたとしても、必ずバレるがな」

「……」

冷たい口調で言うシルベストリアに、ティティスは黙って髪を解き続ける。

フィレクシアは一足先に、ワンピースを脱いで全裸になった。

羞恥に顔を赤く染め、両手で胸と股間を隠す。

「うう、恥ずかしいのです……」

「セレット」

シルベストリアに呼ばれ、セレットがフィレクシアの下へと進む。

「口の中から調べるわ。あーんって、大きく開いて」

「あー」

あんぐりと口を開くフィレクシア。

セレットはポケットからペンライトを取り出すと、スイッチを入れてフィレクシアの口の中を照らした。

突然出現した眩い光に、髪を解いていたティティスが目を見開いて手を止める。

フィレクシアも、ぎょっとした顔で目を真ん丸に見開いた。

「ああ!? あうえうあほえ!?」

「黙って口を開けてなさい」

セレットが左手でフィレクシアの口を掴み、唇の裏側まで丁寧に調べる。

「手が止まっているぞ。さっさと髪を解け」

「は、はい」

シルベストリアに急かされ、ティティスは慌てて手を動かした。