軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

294話:仮初めの「平等」

翌日の昼。

砦を発ったカーネリアンは、バイクのサイドカーに座りながら過ぎ去っていく景色を眺めていた。

平坦とはとても言えない石だらけの街道をものともせず、バイクは風を切って走り続けている。

道すがら砦に向かう輸送隊と出会ったのだが、彼らは初めて目にするバイクの異様さに慌てふためいていた。

カーネリアンが事情を説明したのだが、皆が「まさか神が降臨したとは」と唖然とした顔になっていた。

――アルカディアが神の寵愛を受けているならば、この先の立ち回り次第で我が国の未来も開かれる、か。

バイクの力強いエンジン音を聞きながら、カーネリアンは自国の将来を考える。

クレイラッツはすべての国民が平等に生きていけることを指針として発展してきた国家だ。

国民すべてが平等の権利を持ち、平等に責任を負い、平等の生活を送ることが理想である。

しかし、カーネリアンは直接民主制という自国の政治形態に、限界を感じ始めていた。

権力が集中しないようにクジで要職を決め、なおかつ1年という短い任期にすることは、特権階級を作らないということには極めて役に立つ。

しかし、それだと政治を執り行う者が素人ばかりになってしまい、要職に就いた者は今までの慣習をなぞってばかりで、いざ問題が起こった時の対応力は皆無だ。

カーネリアンは軍司令官として長きにわたってこの役職を務めているため、今ではご意見番のような立ち位置になってしまっている。

その結果、自身の発言力が大きくなりすぎてしまっており、それをとても心配していた。

――皆、私が意見を言うと対案を出そうともしない。かといって私が黙れば、いつまで経っても話がまとまらない。このままではダメだ。

直接民主制とは名ばかりの、カーネリアンの意見が国家の意思決定になってしまう現状は非常にまずい。

自分の代は良くても、次に軍司令官になった者が判断を誤れば大変なことになるからだ。

「……アイザック殿」

カーネリアンが、バイクを運転しているアイザックに声をかける。

「はっ」

「貴国は、グレイシオール様とオルマシオール様の力添えで、このバイクのような道具を頂戴したり水車のような道具の作りかたを教わって急激に発展したとナルソン殿から聞いているのですが」

「はい。そのとおりです。神のお力添えにより、私たちは窮地を脱して大きく発展することができました」

「ふむ。オルマシオール様の姿は拝見できましたが、グレイシオール様は今どこにおられるのでしょうか?」

「それは私も知りません。ナルソン様やジルコニア様は、直接お会いしているとのことですが」

アイザックが素知らぬ顔で答える。

カーネリアンに対しては、一良がグレイシオールであるということは伏せられている。

理由は、クレイラッツとアルカディアでは信仰している神が違うからだ。

アルカディアの者ならば地獄の動画を見せれば完璧に秘密を守らせることができるが、クレイラッツの者相手ではそうもいかない可能性がある。

一良の身に万が一のことがあっては大変、ということで、他国の者には正体を明かさない方針となっていた。

「そうですか。ナルソン殿伝いであれば、グレイシオール様とやり取りをすることは可能でしょうか?」

「それは私には分かりませんが……グレイシオール様に、何かお聞きしたいことがあるのですか?」

「ええ。政治について、相談できればなと。国家の政治形態とはどうあるべきなのか、ご意見を賜りたいのですよ」

「なるほど……」

「できれば、我らが信奉する神に直接お伺いを立てたいところではありますが……この戦争が終わったら、ナルソン殿に相談してみようと思います」

神妙な顔で言うカーネリアン。

アイザックは下手なことは言えないと、黙って頷いた。

そうしているうちに、クレイラッツの都市、ベルタスが見えてきた。

川に面した場所に作られたその都市は、石造りの防壁で囲まれたかなり巨大なものだ。

周囲の土地も豊かで農耕に適しており、川に沿ったかたちで広大な農地が広がっている。

「こちらに気付いたようですね」

アイザックが運転しながら、城門へと目を向ける。

城門の上で見張りに立っている数名の兵士がこちらを指差し、慌てた様子で門の内側に向かって何やら叫んでいた。

「アイザック殿、城門から少し離れたところで止まってください」

「承知しました」

アイザックが片手を上げて後続に合図し、城門の200メートルほど手前で停車した。

カーネリアンがサイドカーから降り、城門へと歩いて行く。

アイザックもそれに続いて歩き出すと、腰の無線機から声が響いた。

『カズラです。アイザックさん、今話せますか? どうぞ』

アイザックは慌てて無線機を取り、バイクに駆け戻って携帯用アンテナを取る。

カーネリアンが足を止めて、振り返った。

「危ない危ない。これを忘れたらダメだってのに」

アンテナを砦の方へと向け、無線機の送信ボタンを押す。

「アイザックです。たった今、ベルタスに到着したところでして。どうぞ」

『おっ、もう着いたんですか。バルベール軍が、北に向けて直接軍を向かわせ始めたんです。カーネリアンさんに伝えてもらえます? どうぞ』

「承知いたしました。ムディアに向かっている軍団は、今のところはないのですか? どうぞ」

『ないですね。あと、敵は砦に大攻勢をかけるような動きを見せています。おそらくハッタリですが。どうぞ』

「ということは、クレイラッツ軍がムディアを占領したと同時に、砦からも攻撃を仕掛けるとなるわけですね? どうぞ」

『ですね。アイザックさんはカーネリアンさんを送り届けたら、そのまま彼と一緒にクレイラッツ軍に加わってください。彼らの戦いぶりを、その目で見てきてほしいとナルソンさんが言っているので。どうぞ』

「かしこまりました。クレイラッツ軍の出撃日時が決まったら、すぐにご連絡いたします。どうぞ」

『お願いします。帰ってきたら、ハベルさんも連れて一緒に釣りにでも行きましょう。土産話、聞かせてくださいね。通信終わり』

声が途絶え、アイザックが無線機を腰に戻す。

ううむ、とカーネリアンは無線機を凝視していた。

「すさまじい道具ですね。瞬時に遠方の者と会話ができるとは……アイザック殿、どうかしましたか?」

ぐっと涙を堪えているアイザックに、カーネリアンが小首を傾げる。

一良からの気遣いの言葉に感激しているのだ。

「い、いえ! 参りましょうか」

アイザックは表情を引き締め、カーネリアンと共に街へと向かうのだった。

数十分後。

アイザックとカーネリアンは、街なかの小高い場所に作られた議事堂で、この街のすべての文官と軍団長たちを集めて状況の説明をしていた。

議事堂は石造りの円形の建物で、太い石の柱がぐるっと取り囲んでいるような構造だ。

柱と柱の間に壁はなく、全方位に街の様子が見える造りになっている。

すべての市民たちが話し合いの様子を見れるように、とのコンセプトで作られた建物である。

政策会議中は関係者以外立ち入り禁止だが、普段は自由に見学したり、宴会や結婚式などを行うこともできる。

「バルベール軍は強固な軍団要塞を築いて待ち構えているが、数は2個軍団だ。犠牲を問わずに攻めかかれば、撃破は可能だろう」

この街にいるすべての軍団を率いてバルベール軍を強襲する、とカーネリアンが話すと、指揮官たちは一様に険しい顔つきになった。

「ううむ。好機なのは分かりますが、よしんばムディアを陥落させたとしても、その後守り切れるかどうか……我らだけでは厳しいのでは?」

「あの街は敵にとって補給の要、必ず奪い返しに来るでしょう。アルカディアからの援軍は来るのですか?」

カーネリアンに2人の軍団長が質問する。

彼らはカーネリアンと同じく、前回の戦争でも軍団長や副軍団長、その補佐を務めていた者たちだ。

それらの役職の者が戦死した場合には、下の者が繰り上げ昇進することになっている。

クレイラッツ軍はすべての兵士が市民兵であり、職業軍人は司令官クラスしか存在しない。

当然ながら兵士の質はバルベールに劣っており、大半は軽装歩兵で騎兵の数はわずかだ。

すべての指揮官が最前線で戦うため兵士たちの戦意は高いのだが、装備や技術的な面で不安があった。

「アルカディアからの援軍はない。その代わり、彼らが敵のすべての伝令を潰すと約束してくれた。我らが戦うのは、孤立無援の敵だ」

「その……先ほど、ウリボウが伝令を仕留めるとおっしゃいましたが、どうにも信じられません。何かの間違いでは?」

「私が実際にこの目で見たから間違いない。彼らの信奉するオルマシオールが実際に現れ、ウリボウを従えて助力してくれている。心配は無用だ」

「カーネリアン殿が載ってきたバイクという乗り物も、オルマシオールが提供してきたのですか?」

軍団長の1人が開け放たれた議事堂の入口に目を向ける。

すぐ外にバイクは停車してあり、護衛の兵士たちが見張りに付いている姿が見えた。

「いいや、あれはグレイシオールが用意したものらしい。そうですね、アイザック殿?」

カーネリアンがアイザックに話を振る。

「はい。我らには神が味方に付いています。必ずや、バルベールに打ち勝てるでしょう」

「むう……貴国で使っているという、カノン砲やスコーピオンという兵器を貸与していただくわけにはいかないのでしょうか?」

別の軍団長がアイザックに問う。

「ことは急を要しますので、輸送に時間を使っていられないのです。訓練にも日数が必要になりますし、あれらはかなり重量があるので、バイクで運搬とはいきませんので」

「そうですか……死に物狂いで戦うしかないということか……」

険しい顔の軍団長に、カーネリアンが頷く。

「そういうことだ。この機会を逃すわけにはいかない。アルカディアと連携してバルベールを一気に攻め立てて、戦いの形勢を完全にこちらのものにするのだ」

「承知しました。文官からの意見は?」

軍団長が文官たちに目を向ける。

数十人いる文官は、老若男女揃っており、皆が口をそろえて「ありません」と答えた。

「……では、明日の午後には全軍出撃できるように準備を整えてもらいたい。私は市民たちへの演説の準備に取り掛かる。ここで話したことを、すべて伝えてやらねば」

カーネリアンはそう言うと、拳を握って右手を上げた。

軍団長や文官たちも、同じように右手を上げる。

「「「平等な自由と権利のために!」」」

カーネリアンたちの力強い声が、議事堂内に響き渡った。