軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

278話:歓迎会

次の日の早朝。

一良たちは、開け放たれた西門の外に出ていた。

いつものメンバーの他に、ルグロ一家と軍団長たち、コルツとその両親、それにクレイラッツ軍司令官のカーネリアンと側近たちもいる。

防壁の上では、見張りの兵士たちの他に、使用人や手の空いている兵士たちが見物している。

オルマシオールが砦に来る、という話をナルソンが士気高揚のために振れ回ったためだ。

朝食の席で昨夜の出来事を話したところ、ナルソンはかなり喜んでいた。

「うう、どきどきする。私、オルマシオール様とちゃんとお会いするの初めてなんだよね」

リーゼがわくわくと緊張が混じった表情で一良に言う。

「この間の夜に森に行った時はご挨拶できなかったから、ちゃんとお礼言わないと」

「ああ、リーゼは眠っちゃってたんだもんな」

「うん。何か私だけ仲間外れみたいで、すごく悔しかった」

その時のことを思い出し、リーゼが暗い顔になる。

「まあ、彼らにも事情があったからさ。悪く思わないでくれよ」

「そんな畏れ多いこと、思ってないって」

「あの……そのオルマシオールというのは、昨日北の丘の下にやって来ていたウリボウなのですよね?」

一良とリーゼに、カーネリアンが半信半疑といった表情を向ける。

彼の側近たちも、困惑した表情をしていた。

「本当に、あの巨大なウリボウたちが神なのですか?」

「はい。そうですよ」

即答する一良に、カーネリアンが「むう」と唸る。

ウリボウたちは自分たちのことを「精霊のようなもの」と言ってはいたが、カーネリアンたちにはこの説明でいいだろう。

兵士たちにもそう伝えることになっているので、余計な情報まで話す必要はない。

「しかし、現世に神が降臨したなど……それどころか戦に加勢するなんて話は、おとぎ話でしか聞いたことがないのですが」

「カーネリアン様。オルマシオール様は私たちを何度も助けてくださっています。疑うべくもなく、本物です」

リーゼがカーネリアンに、にこりと微笑む。

「クレイラッツの民が崇める神とは違いますが、どうか信じてください」

「ふうむ……カズラ殿は、お会いしたことがあるのですね?」

カーネリアンが一良に話を振る。

「ええ、何度か。彼らは本物ですよ。安心してください」

「ううむ。にわかには信じられない話ですな……」

「サッコルト、お前、その袋は何だ?」

王都軍第1軍団長のミクレムが、第2軍団長のサッコルトが手にしている2つの小洒落た布袋を見て言う。

「これか。オルマシオール様は菓子が好きだとカズラ様に聞いてな。連れてきた料理人に、急いで作らせたものを持ってきたのだ」

「な、何だと!? なぜ私にも教えてくれなかったのだ! 手ぶらで来てしまったではないか!」

焦り顔になるミクレムに、サッコルトが笑う。

「安心しろ。ちゃんと2つ用意してある。我ら2人からの贈り物ということにしようと思ってな。1つ貸しだぞ。菓子だけに」

「そ、そうか。すまんな。恩に着る」

「へえ、ミッチーもサッチーも仲いいじゃねえか」

2人のやり取りに、ルグロが笑いながら言う。

「そりゃまあ、従兄弟ですので……それよりも、殿下」

「何度も言いましたが、その愛称で呼ぶのは止めていただけませんか……」

困り顔で言うミクレムとサッコルトに、ルグロが笑う。

「親しみやすくていいじゃねえか。それに、ミッチー、サッチーって、呼びやすいんだよ」

「いや、呼びやすいとかそういうことではなくてですね」

「いくらなんでも、王族として皆に示しがつきませんよ」

「俺らダチだろ? 気にすんなって」

「だ、ダチ?」

「あのですね、そのお気持ちは光栄なのですが、呼びかただけは直してください。後生ですから」

諫めるミクレムとサッコルトに、ルグロが「面倒くさいこと言ってんなよ」と渋い顔になる。

すると、彼の背後にいたルティーナが、ちょいちょいとルグロの服の裾を引っ張った。

「ん? ルティ、どうした?」

「ルグロからのオルマシオール様への手土産、ちゃんと持ってきてあるよ」

ルティーナが大きな木のカゴをルグロに差し出す。

ルグロがそれを受け取って上にかかっている真っ白な布を捲ると、美味しそうな丸パンがいくつも入っていた。

「ドライフルーツをたくさん入れた甘いパンだから、気に入ってもらえるんじゃないかな? お砂糖もたっぷり入ってるし」

「おっ! ルティ、用意がいいな! さすが俺の見込んだ女だ!」

ルティーナがルグロに、にっこりと微笑む。

「今朝、バレッタさんから教えてもらってね。急いで焼いたのよ」

「お父様、私、オルマシオール様とお茶会がしたいです」

「オルマシオール様に、パンをあーんってしてあげたいです」

見上げてくるルルーナとロローナの頭を、ルグロがよしよしと撫でる。

「んじゃ、後で神様たちとお茶会だな! 楽しみだ!」

わいわいと話しているルグロ一家。

カーネリアンとその側近たちは、何とも困惑した表情だ。

「む、むう。神とそんな気軽に接することができるものなのか……」

カーネリアンがそう言った時、皆で眺めている森の中から、複数のウリボウがトコトコと走り出ててきた。

巨躯の白いウリボウと、それより一回り小さな黒いウリボウ、さらには数十頭の普通サイズのウリボウもいる。

見物していた兵士や使用人たちから、「おおっ」と声が上がった。

「わあ、あれがウリボウなのですね!」

「私、初めて見ました! どのかたがオルマシオール様なのでしょうか?」

喜ぶルルーナとロローナに、一良が微笑む。

「あの大きな白いウリボウです。黒いウリボウもそう呼んで大丈夫みたいですけどね」

「そうなのですね」

「オルマシオール様は2人いたのですね」

すると、ウリボウたちはかなりの速さで走り出し、あっという間に一良たちの前へとやって来た。

「あっ、コルツ!」

両親といたコルツが、ウリボウたちに駆け寄る。

「本当に来てくれたんだね! あっ、黒いのがお姉ちゃんなんだ……うん、腕は大丈夫だよ。お薬もらってるから、痛くないよ」

黒いウリボウの傍に寄り、あれこれ話すコルツ。

他の者たちには何も聞こえていないので、皆、困惑顔だ。

「オルマシオール様、すごくかっこいいですね!」

「口が動いてないのに、しゃべることができるんですね」

コルツたちを見ながら言うルルーナとロローナに、皆が驚いた顔を向ける。

「えっ。ルルーナ、ロローナ、オルマシオール様の声が聞こえるの?」

ルティーナが聞くと、2人はすぐに頷いた。

「聞こえますよ?」

「お母様は聞こえないのですか?」

「全然聞こえないけど……ロン、リーネ、あなたたちは?」

ルティーナが末っ子の息子のロンと、その1つ年上のリーネに目を向ける。

「はい、聞こえます」

「『出迎えありがとう』って、言ってますよ?」

「……バレッタさん、聞こえます?」

一良が隣に立つバレッタに聞く。

「いえ、私は全然聞こえないです」

「リーゼは?」

「私も何も聞こえないけど……」

どうやら、ウリボウたちの言葉を聞けるのは子供だけのようだ。

子供のほうが心が純粋だからかな、と一良は内心頷き、コルツに目を向けた。

「コルツ君。オルマシオールさんたちと俺たち、今は話せないみたいなんだ。会話の橋渡しをしてもらえるかい?」

コルツが黒いウリボウの首に抱き着きながら、一良に目を向ける。

「そうなの? うん、いいよ」

「ありがとう。それじゃ、とりあえず砦に入るから、付いてきてもらえるように言ってもらえる?」

「うん。お姉ちゃ……え、そうなの? うん、分かった」

コルツが再び一良を見る。

「カズラ様たちの話してることは分かるって。自分たちの声は、今は伝えられないんだってさ」

「そうなんだ。じゃあ、皆さん、砦の中に入りましょう。付いてきてください」

そう言って一良が砦に入っていくと、ウリボウたちもぞろぞろとその後に続いた。

恐る恐るといった様子で、サッコルトとミクレムが巨躯のウリボウに近づく。

「オルマシオール様。この度はご足労いただき、ありがとうございます」

サッコルトが話しかけると、巨躯のウリボウがちらりと目だけを動かして彼を見た。

びくっ、と肩を跳ねさせるサッコルトに、巨躯のウリボウが、ふん、と鼻を鳴らす。

「あ、あの、オルマシオール様は菓子が好きだと聞きまして」

「我らで用意したものですが、お口に合えばと……」

サッコルトとミクレムが緊張しきった声で言い、それぞれ布袋を差し出す。

巨躯のウリボウは歩きながら顔を動かし、くんくんと布袋の匂いを嗅いだ。

「おっちゃんたち。オルマシオール様、『いただこう』って言ってるよ」

巨躯のウリボウの後ろで黒いウリボウの背に跨っているコルツが、2人に言う。

「おお、そうか!」

「後ほど、もっとたくさんご用意させていただきますので!」

ほっとした様子のサッコルトとミクレム。

少し離れて歩きながら、カーネリアンはその様子に「ううむ」と唸っている。

巨躯のウリボウがあまりにも大きいということもあり、近づくことに抵抗があるようだ。

「ルグロ、あなたも渡さないと」

「お、おう。しかし、すんげえ迫力だな……」

ルグロがルティーナからカゴを受け取る。

「お父様、私、オルマシオール様に『あーん』ってしてあげたいです!」

「私もしてあげたいです!」

「僕は、コルツさんみたいに背中に乗ってみたいです!」

「私も乗ってみたいです!」

キラキラした目で言うルルーナ、ロローナ、ロン、リーネ。

「う、うーん。それは後にしたほうがいいんじゃねえかな?」

「でも、そちらの黒いオルマシオール様は、笑いながら『どうぞ』って言ってますよ?」

「他のウリボウさんたちにも食べさせてあげてくださいって言ってます」

ルルーナとロローナの言葉に、ルグロが「マジか」と少し引き攣った表情で言う。

どうやら、ルグロは少し怖いらしい。

「じゃあ……失礼のないようにな?」

「「「「はい!」」」」

子供たちはカゴからパンを取り出すと、ウリボウたちに駆け寄って1頭に1つずつ与え始めた。

まったく怖がっていない様子で、パンを頬張るウリボウたちの頭を撫でまわしている。

ロンとリーネがそのなかの1頭の背によじ登ろうとしていると、そのウリボウは伏せの体勢になってくれた。

2人が「ありがとうございます!」と礼儀正しくお礼を言い、一緒にその背に跨る。

そうして砦へと入っていく一行を、防壁の上から見物していた者たちは歓声を上げて迎えるのだった。

砦に入った一行は、ひとまず中央にある広場へとやって来た。

使用人たちが大量の料理を運んで来て、地面に敷いたふかふかの藁の上に並べていく。

ウリボウたちは鼻をひくつかせながら、一列に並んでちょこんと座っていた。

そのすぐ傍にはテーブルも用意されていて、ナルソンたちの料理も次々に運ばれてきている。

「急ごしらえではありますが、歓迎の宴の用意をさせていただきました。どうぞ、召し上がってください」

皆を代表して、ナルソンが巨躯のウリボウに言う。

巨躯のウリボウはナルソンに頷くような仕草をすると、おん、と小さく鳴いた。

他のウリボウたちがのそのそと料理へと歩み寄り、料理を食べ始める。

料理を口にしたウリボウたちは一瞬固まると、まるで「美味い」とでも言っているかのようにわふわふと声を漏らしながら、猛烈な勢いで貪り食い始めた。

ナルソンたちも、それを見てほっとした様子で席に着き始める。

「あの、お姉さん?」

コルツにじゃれつかれながら彼の頬をペロペロと舐めている黒いウリボウに、一良が歩み寄る。

彼女は顔を動かし、一良に目を向けた。

他のウリボウたちとは違い、その目はとても柔らかく優しげなのが印象的だ。

「俺、これからグリセア村に戻らないといけなくて。その間に、この前みたいに戦死者たちの魂をあの世に送ってあげて欲しいんですが」

黒いウリボウが、まとわりついているコルツに目を向ける。

口は動かしていないのだが、何か話しているようだ。

「カズラ様。お姉ちゃんが、『それなら今やってしまいましょうか』って言ってるよ」

コルツが彼女の言葉を一良に伝える。

「えっ。今ここで、ですか?」

驚く一良に、彼女が頷く。

そして彼女が目を閉じると、砦の死体置き場や北の方角から、大きなどよめきが起こった。

どうやら、やってくれた様子だ。

「えっとね、お姉ちゃんが、『道中心配ですから、村までご一緒します』って言ってる」

コルツが黒いウリボウの言葉を一良に伝える。

すると、少し離れたところで料理を食べていた巨躯のウリボウが黒いウリボウに顔を向けた。

黒いウリボウが口角を上げ、くすっと笑う。

何を話しているのかと小首を傾げる一良。

コルツもいぶかしげな顔をしている。

「お姉ちゃん、抜け駆けするなって言われてるけど……あ、カズラ様に食べ物貰うの? へえ、そんなに美味しかったんだ」

何やらあれこれと話すコルツと2頭のウリボウ。

しばらくそうした後、コルツが一良に目を向けた。

「カズラ様。俺も付いて行っていい? オルマシオール様、2人とも村に行くって言ってるし」

「コルツ君」

すると、一良の隣にいたバレッタがコルツに声をかけた。

「腕の傷、まだ治ってないんだし、砦で待ってたほうがいいよ。あんまり動くと、傷が開いちゃうかもしれないから」

「そうよ、コルツ。今は傷を治すことに専念なさい」

「何かあって、傷が開いたらまたカズラ様にご心配をおかけしてしまうぞ」

バレッタに続き、両親のユマとコーネルもコルツに言う。

黒いウリボウも同意見なのか、コルツに目を向けて何やら言っている様子だ。

コルツは「でも……」と不満そうだったが、彼女に説得されたのか頷いて一良を見た。

「……うん。分かった。俺、留守番してる」

「ごめんね。その間、他のウリボウさんたちと皆が仲良くできるように、お願いしてもいいかな?」

「うん! ……って、他のウリボウたち、まだ一言もしゃべってないみたいなんだけど……」

コルツが言うと、黒いウリボウがコルツを見た。

「あ、そうなんだ。お姉ちゃんたちが特別なんだね」

「コルツ君、ウリボウさんは何て言ってるのかな?」

リーゼがコルツに聞く。

「俺たちとしゃべれるのは、オルマシオール様たちだけなんだって言ってるよ」

「そうなんだ。他のウリボウさんとも話せればよかったのにね」

「うん。俺たちの言葉も分からないんだってさ。でも、身振り手振りで伝わるから、俺の傍でいろいろお手伝いしてくれるように言っておくって、お姉ちゃんが言ってる」

「そっか。なら、安心だね」

そうして多くの人々が見守る中、ウリボウたちの歓迎会はまったりとした雰囲気で進んでいくのだった。