軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

248話:ニーベルの企み

シルベストリアと別れた一良とバレッタは、砦の南門へとやって来た。

南門は開け放たれており、ルグロが近衛兵や村人たちと待っている。

サイドカーには水と食料も括り付けられており、準備万端の様子だ。

「ルグロ、お待たせ。準備は整った?」

「ああ。そっちは話はまとまったか?」

「うん。ただ、グリセア村を守ることになって――」

一良が顛末を説明すると、村人たちから「おお」と声が上がった。

皆、嬉しそうだ。

「村なのに要塞化してるのか?」

「うん。バレッタさんが、前からいろいろやっててくれてさ。下手な軍団要塞より守りは堅いと思うよ」

「マジか。バレッタ、お前ってすげえんだな」

ルグロに目を向けられ、バレッタが微笑む。

「ありがとうございます。こんなことになるなんて思っていませんでしたけど、役に立ってよかったです」

「カズラからいろいろ聞いたけど、バレッタってめちゃくちゃ頭いいんだってな? 戻ったら、俺にも勉強教えてくれよ。王都の講師より、話してて楽しいだろうしさ」

「は、はい。私でよければ」

「よろしくな! じゃあ、俺はちょっくら行ってくるわ。ルティと子供らには、一良から話しておいてくれな」

「えっ? ルグロから言ってないの?」

一良が言うと、ルグロは苦笑した。

「ああ。言ったら、付いて行くって絶対に言うからな。今回ばっかりは、さすがに連れて行くわけにもいかねえし」

「そっか……うん、分かったよ」

「悪いな。よろしく頼むよ」

ルグロがバイクに跨り、エンジンをかける。

傍にいた近衛兵が1人、サイドカーに乗った。

近衛兵は、イステール領軍の者だ。

「あれ? ルグロが運転していくの?」

「おうよ。こんな楽しい乗り物を好き勝手運転できる機会、逃すわけにはいかないからな!」

「そ、そう。あんまりスピード出しすぎないようにね? 転んだりしたら大変だからさ」

「大丈夫だって。心配すんな」

ルグロがにっと笑顔を一良に向ける。

「あ、そうだ。反乱軍の進路上って、グリセア村以外にも村とか街はあるだろ? そこへの連絡はどうなってんだ?」

「大丈夫だよ。イステリアの守備隊に、付近の村落にも連絡してイステリアに向かうようにって俺が言っておいたから。もう伝えに向かってると思う」

「ならいいんだ。戦争でいつも一番傷つくのは民だからな。しっかり守ってやらねえと。じゃあ、またな!」

ルグロはそう言うと、周囲でバイクに跨る村人や近衛兵たちに目を向けた。

「いよっしゃ! 行くぞ野郎ども! しっかりついて来いよ!」

ルグロがアクセルを捻り、勢いよく走り出して行く。

「うわっ!? で、殿下! 安全運転! 安全運転でお願いします!」

「まかせとけって! はっはー!」

「うひいいい!?」

楽し気なルグロの声と近衛兵の悲鳴混じりの声とともに、バイクの集団が走り去って行く。

「あはは……ルグロ殿下、奔放ですけどいい人ですよね。あの人が次の国王陛下で、私、嬉しいです」

去っていくバイクの集団を見送りながら、バレッタが言う。

「そうですね。皆のことをちゃんと考えてくれてるし、弱者切り捨てみたいな考えはしない人ですし」

「はい。ただ、統治者としてはちょっと向いていないのかも……さっき言ったことと矛盾しちゃいますけど」

バレッタの台詞に、一良が苦笑する。

「はは。バレッタさんも、リーゼみたいなことを言うんですね」

「ナルソン様やエルミア陛下を見ていると、そんな気がしてしまって。ルグロ殿下、王位に就いたら大変だろうなって」

「まあ、確かに。サポート役は必要ですよね。ナルソンさんみたいな、しっかりした人が」

「……カズラさんはこの戦争が終わったら、グリセア村に一緒に戻ってくれるんですよね? 王都へ行ったりはしませんよね?」

バレッタが不安そうな目で、一良を見る。

そんな彼女の頭に、一良はぽんと手を置いた。

「そんな顔しなくても大丈夫ですよ。戦争が終わってすぐっていうのは難しいと思いますけど、村には戻るつもりですから」

そう微笑む一良に、バレッタはほっとした顔になる。

「それより、さっきルグロが勉強を教えてくれって言ってたの、バレッタさんに王都に来いってことなんじゃないですか?」

「えっ!? そうなんですか!?」

「講師がどうのって言ってましたし、そう思えるなって」

「た、確かに……うう、後でお断りしないと」

2人がそんな話をしていると、背後からニィナが駆けてきた。

「カズラ様、ロズルーさんから連絡が来ました。今、ナルソン様が話してます」

「おっ、早かったですね。何て言ってました?」

「えっと、『全速力のラタよりも、私のほうが少し速かった』って言ってましたよ」

「うへ、マジか。ロズルーさん、とんでもないな」

どうやら、ロズルーはラタ(未強化)よりも速いらしい。

身体能力強化済みとはいえ、彼は明らかに他の者よりもいろいろな面で能力が突出しているようだ。

「す、すごいですね。私、バルベール軍の騎兵に追いかけられたことがあるんですけど、全然引き離せなかったですよ」

「えっ、そんなことがあったんですか?」

「はい。ジルコニア様を救出しに行った時に。必死で走ったんですけど、あっという間に距離が詰まっちゃって」

当時の出来事を思い出し、バレッタが表情を曇らせる。

バレッタはあの時ほど、死を間近に感じたことはなかった。

「そうだったんですか……あ、ニィナさん。他の皆は、コルツ君を探し始めてくれてますか?」

「はい。兵士さんたちにも、連絡して回ってます」

「よし、俺たちも探しましょう」

そうして、一良たちはコルツ探しへと向かうのだった。

一方その頃。

グレゴリアの街からイステリアに向けて数キロの地点を、反乱軍の一団が進んでいた。

規模は4万人ほどもいる大軍勢で、9割近くは若い一般市民だ。

装備はあり合わせのものばかりで、剣どころか木の棒といった程度の物しか持っていない者も多数いる。

彼らはダイアスたち首脳陣の公開処刑の熱に浮かされたまま、ニーベルの呼びかけに応じてついてきたのだ。

そのほぼすべてが、日々の生活にも困窮する貧民層だ。

「ニーベル様、すさまじい人数が集まりましたね」

反乱軍の先頭を進む馬車内で、中年男が隣に座るニーベルに話しかける。

彼は軍で中隊長をしていた男だが、何年も前からニーベルの手駒として、軍部内の情報をニーベルに流し続けていた。

グリセア村に援軍を率いて下見に行っていたのも彼である。

「うむ。本当ならば、もっと数が欲しいところだったが……」

顔をしかめて言うニーベルに、中年男が驚いた顔になる。

「これでも足りないのですか? 数が増えすぎると、統制が利かずに混乱のもととなるかと思うのですが」

「確かにそれはある。だがな、モルス。今回の目的を考えてみろ。必要なのは、怒れる大勢の一般市民だろう」

モルスと呼ばれた男に、ニーベルが不敵な笑みを浮かべる。

「重要なのは『熱』なのだ。行く先々の領内の村や街の連中を、この熱で巻き込むのだよ」

「ふむ。このまま、さらに市民の数を増やすので?」

「そうだ。数に任せた暴徒の勢いというのは、すさまじいものがあるぞ」

自信ありげにニーベルが話す。

ニーベルは以前、ダイアスの課した重税と圧政に耐えかねて蜂起した村落の鎮圧を何度か目にしたことがあった。

ダイアスの軍の圧倒的武力の前に、蜂起した者たちはなすすべもなく鎮圧されてしまったのだが、彼らの怒りのエネルギーに、ニーベルは心底驚かされた。

怒りが恐怖に打ち勝った状態の人間というものは、手負いの獣以上に危険な存在だと感じていた。

「鬱積した怒りの爆発力というのはすさまじいぞ。勢いに乗っているうちは、作物を食い荒らす害虫のように止まることを知らんからな」

「しかし、そう上手くいくでしょうか?」

「いくさ。領内の村落は、どこも貧困にあえいでいるからな。我らが呼びかければ、必ず同調するだろう。それに、イステリアさえ手に入れてしまえば、後はどうにでもなる。イステール領のあちこちの村落に連れてきた市民どもを向かわせて、領内を大混乱に 陥(おとしい) れるのだよ」

ニーベルの反乱計画の主目的は、イステール領内を暴徒たちによって荒らして回らせ、徹底的に混乱させるというものだ。

砦に籠る軍勢は、後方からの食糧や物資の支援なしでは戦えない。

反乱軍によって領内が大混乱となれば、王都やフライス領が状況を把握し、それを治めるまでに何カ月もの期間を有するだろう。

ついてくる市民たちを統制する必要性など、ニーベルはまったく考えていなかった。

今までダイアスによって虐げられてきた民たちは、謀反を起こしたイステール領を平定するという大義名分のもと、欲望のままに暴れまわるに違いない。

「砦の軍勢は、バルベール軍と孤立無援の状態で戦わなければならん。バルベール軍にも使者は送っているから、状況を知れば砦に猛攻をかけるだろう。援軍も補給もない砦など、あっという間に陥落するぞ」

「なるほど。それに合わせてグレゴルン領にもバルベール軍が侵入してくれば、戦争は終わったようなものですな」

「そうとも! これでイステリアにリーゼがいれば……くくく」

ニーベルが下卑た笑みを浮かべる。

「リーゼ? イステール家の令嬢ですか?」

「ああ。イステリアの街に入ったら、真っ先にリーゼを探せ。捕らえて私の前に連れてこい。ただし、傷一つ付けてはならんぞ」

「かしこまりました。しかし、イステリアにいるでしょうか?」

「小娘が戦場になど行くものか。街に残っているに決まっているだろう」

ニーベルの顔が、憎しみに歪む。

以前、リーゼに短剣を突き付けられた、喉の傷痕を擦った。

「私を侮辱したからには、ただでは済まさん。気が狂うほどに、その体に思い知らせてやるわ」