軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

218話:命を賭すべきもの

バイクや資材の搬入を済ませ、一良たちは会議室へとやってきた。

ルグロたちは客室で休んでもらっており、この場にはいない。

エイラとマリーもこの場にはおらず、いるのは一良、バレッタ、リーゼ、ジルコニア、ナルソンだ。

皆が席に着くと、さっそくナルソンが話し始めた。

「さっそくですが、お伝えしたいことが2つございます。まず1つ目、クレイラッツについてです」

「クレイラッツ……国民投票の結果が出たんですか?」

「はい。5つある都市のうち、3つの都市の開票結果が昨日伝えられました」

ごくり、と一良たちが固唾を飲んで続きを待つ。

「3都市とも、同盟の維持、アルカディアとともにバルベールと戦うことを選択したようです。どの都市も、8割近い票が同盟維持に投じられました」

おお! と一良が思わず声を上げた。

クレイラッツはバルベール側に付くだろうと一良は考えていたので、かなり驚いていた。

バレッタとリーゼも、顔を見合わせてほっとした笑顔を見せている。

「過半数の都市が同盟維持を支持したため、クレイラッツは我々と共闘することが決定されました。今朝、クレイラッツの首都から急ぎの使者が来まして、数日中に軍司令官が我が領にやってくるとのことです」

「それは朗報ですね! ……でも、どうして彼らはバルベールに付かなかったんですかね? 普通なら、あちらに付いたほうがいいと考えそうですけど」

投票開始時には、彼らはイステール領軍がバルベール軍を打ち破ったことを知らなかったはずだ。

いつでもバルベールはアルカディア国内に侵攻できる状態であり、アルカディアは危機的状況にあると考えていたはずである。

それにも関わらずアルカディアと組んでバルベールに立ち向かうなど、普通に考えれば自殺行為以外の何物でもない。

「おそらくですが、彼らは自らの権利のために命を懸ける決断をしたのかと思います」

「権利……ですか?」

「はい。クレイラッツでは国民が政策への投票権を持ちますが、バルベールに屈して支配されるということは、当然ながらその権利を失うことになります。政治の決定権が、市民の手から離れるということになるのです」

「ああ、確かクレイラッツは、『直接民主制』っていう政治形態なんでしたっけ」

「はい。18歳以上の国民は、貧富の差に関係なく政治に参加する権利を持ちます」

直接民主制とは、市民1人1人が直接政治に参加できる政治方式である。

クレイラッツにおいては、各都市の18歳以上の市民全てに参政権が与えられ、議会にかけられた案件に対して投票権を持つ。

平時における国政の推進者や外交担当官など、軍司令官以外のあらゆる要職に就く者は全てくじで選出され、しかも任期は1年間と限定されている。

そのため、特定の人物に対して利権が集中するということが起こらない。

「その権利のために、国民たちは命を懸けることを選択したってことですか?」

「おそらくは」

政治に参加する権利のために命を懸けると言われても、一良にはいまいちピンとこない。

権利があるに越したことはないだろうが、それを失うくらいならば命を懸けてイチかバチかの戦いに臨むかと言われたら、自分なら首を横に振るだろう。

9割9分負ける戦いだという認識があれば、なおのことそうだ。

ともあれ、クレイラッツが味方に付いてくれることになったのは、間違いなく朗報である。

軍司令官がアルカディアの王都ではなく先にイステール領に来るのは、距離的な問題からだろう。

「そうですか……まあ何にせよ、クレイラッツが味方に付いてくれてよかったです。二正面作戦は避けられそうですね」

「はい。クレイラッツとの国境に配備している兵を引き上げて、バルベールとの戦いに投入することができます」

「でも、クレイラッツはバルベールの攻撃に耐えられますかね?」

「今後の状況にもよります。クレイラッツの隣国、プロティア王国がバルベールに付いた場合、今度はクレイラッツがバルベールとプロティアを相手に二正面作戦を展開しなければならなくなりますので」

「そうならなければ、耐えられるってことですか?」

「即座に敗北するということはないかと。しかし、やはりどう考えても旗色は悪いので、彼らとの情報交換を密にして連携をとる必要があります」

「ふむ……無線やバイクが役に立ちそうですね」

「そうですな。兵器や技術の供与はさすがに行うわけにはいきませんが、双方で情報を常に共有できていれば、かなりの助けになるでしょう」

「クレイラッツについては分かりました。それで、もう1つの伝えたいことというのは?」

「エルタイル王国方面に展開していたバルベールの2個軍団が、1カ月ほど前から我が国へ向けて移動を開始しているとの情報が入りました」

一良が顔をしかめる。

バルベールが占領した砦の防備を強化しようとすることは想定内だったが、それよりも問題なのはエルタイル王国から離れたという点だ。

エルタイルに睨みを利かせていた軍を動かしたということは、エルタイルはバルベール側に付いたとみて間違いないだろう。

4カ国同盟のうち、1国が敵側に寝返ったことになる。

ちなみに、エルタイル王国とはプロティア王国の東に位置する国だ。

5年前までの戦いでは、距離は離れていたがアルカディアとともにバルベールと戦っていた仲間である。

戦時中は主にプロティア王国と協力し、陸海両方でバルベールと激戦を繰り広げていた。

「それはかなりまずいですね……」

「はい。連鎖的に、プロティアもバルベール側に付く可能性が非常に高くなりました」

「プロティアがどうなりそうかは、まだ分からないんですか?」

「バルベールが接触を図っていることは確実ですが、今のところ大きな動きは見られません。今回のクレイラッツの投票結果をみて、同盟維持に向かってくれればよいのですが」

「ううむ……国内はなんとかなりそうでも、他国がどうなるか分かりませんね。最悪、2カ国対3カ国の戦いになるわけか」

「そうですな。それと、此度の戦いで我が国は名実ともに戦争状態に突入しました。バルベールは砦を奪還するために大兵力を送ってくるでしょう。次の戦いが、我が国にとっての決戦となります」

「決戦……相手方の兵力は、どれくらいになるかは分かりますか?」

「少なく見積もって、砦に来る兵力だけで6個軍団以上。エルタイルとプロティア、それに北方の蛮族に対する備えも手薄にして全力で動員するとなれば、軽くその倍を超える戦力になるかと」

「……完全武装の職業軍人の集団が、下手すれば12個軍団ですか。桁が違いますね」

「はい。グレゴルン領へも同時に攻撃を仕掛けてくる可能性もあります。底が知れないとはこのことです」

ナルソンが言っている想定兵力は、平時に維持している軍団数から見積もった兵力である。

急場となれば緊急招集を行い、さらに軍団を増設してくることが予想される。

「何にしろ、我々が一塊にならないことには話になりません。その、『地獄の動画』というものについてですが……」

「あ、はい。ちゃんと出来上がってますよ。なかなかの仕上がりです。な、リーゼ?」

一良が話を振ると、リーゼはにっこりと微笑んだ。

「うん。あんなのを見せられたら、バルベールに寝返ろうなんて考える人、誰もいなくなるよ。アロンドみたいな人は、もう出なくなると思う」

「そ、そんなにすごいの? カズラさん、今見せてもらうってことはできますか?」

ジルコニアの申し出に、一良はすぐに頷いた。

「ええ、もちろんいいですよ。バレッタさん、準備を手伝ってもらえます?」

「はい」

「あ、私も手伝うよ。せっかくだし、『巻き上げ式スクリーン』使わない?」

「そうだな、そうするか」

こうして、急遽上映会を開催することになり、一良たちは席を立つのだった。

プロジェクタから光の筋が延び、スクリーンに動画が映し出された。

おどろおどろしい音声とともに流れる映像を、ナルソンとジルコニアは強張った表情でじっと見つめている。

紙のボウルに入ったポップコーンを2人とも手にしているのだが、映像を見始めると同時に食べる手が完全に止まってしまっていた。

「……カズラ殿、これは、作り物なのですよね?」

スクリーンに目を向けたまま、ナルソンが一良に声をかける。

「はい、作り物ですよ。どうです、本物みたいでしょう?」

「本物みたい、というより、本物にしか見えません。実際に人が切り刻まれていますし……怪物だって、どう見ても本物にしか……」

まるで本物の地獄がそこに存在しているかのように感じてしまい、ナルソンの額には汗が浮かんでいた。

作り物の動画、と聞いていたので、舞台でやる演劇のようなものだろうとナルソンは考えていた。

ところが、見せられた映像のクオリティは、予想の遥か上をいっていた。

今ここで一良に、「本物の地獄ですよ」と言われれば、即座に信じてしまうだろう。

「カ、カズラさん、この人、内臓が飛び出てますけど、本当に大丈夫なんですか?」

生きたままゾンビに内臓を食われている男を見ながら、ジルコニアは口に手を当てている。

少し顔色が悪い。

「大丈夫ですよ。それも作り物なんで」

「作り物って……お腹、えぐれちゃってますよ?」

「そういうふうに作ってあるだけです」

「……本物にしか見えないんだけどなぁ」

ぐぐっと顔をスクリーンに寄せ、食われている男を凝視するジルコニア。

お腹の部分が大きくえぐられており、むっしゃむっしゃとゾンビが臓物を貪り食っている。

作り物と言われても『そこにあった腹はどこにいったんだ』といった感想を持ってしまう。

「カズラ殿、この動画を見せる相手なのですが、以前お話ししたように、王族と領主だけでなく外交官や将軍にも見せることができればと思うのですが」

「要職に付いている人には、あらかた見せたいってことですか?」

「はい。アロンドの件がありますので、できればそうさせていただけると」

「まあ、そうなりますよね。そのほうが安心できますし、そうしましょうか」

「ありがとうございます。とりあえずは王族と領主にだけ見せて、その後彼らと相談しながら見せる相手を選定しましょう」

「分かりました。あと、実はこんなものも持ってきてあるんですよね」

一良がバッグから、細長いプラスチックの容器を取り出した。

容器を開け、中から細い棒を人数分取り出す。

「はい、バレッタさん」

「カズラさん、これは?」

バレッタが手にしたそれをしげしげと眺め、何だろう、と小首を傾げる。

「サイリウムっていうやつです。動画を見せた後で1つ持たせてあげれば、部屋に戻って改めて見た時に『夢じゃなかった感』が感じられるかなって。翌朝起きても光ってますし」

「サイリウム……ケミカルライトっていうやつですね」

「そうそう、それです。辞書に載ってました?」

「はい。シュウ酸ジフェニルと過酸化水素の化学反応で光るやつですよね」

「そ、そうなんですね。知りませんでした……はい、リーゼ。ナルソンさんとジルコニアさんも」

リーゼがサイリウムを受け取り、しげしげと眺める。

用意したものは細長い円筒形のもので、丸く折り曲げると反対側につなげて輪っかにできるタイプのものだ。

「これ、光るの?」

「うん。両端持って、こうやって折り曲げるんだ」

一良が、パキッとサイリウムを折り曲げる。

折った中心部分が、じわりと紫色に光り輝いた。

おおっ、と一良以外の全員が声を漏らす。

「綺麗だね! すごい! すごいよこれ!」

リーゼが瞳を輝かせてはしゃいだ声を上げる。

腕時計を見た時よりも、かなり反応がいい。

「まだまだ。もっとすごいぞ」

一良がサイリウムを振り回すと、あっという間に光が全体に広がった。

「すごい……綺麗ですね……」

美しく光り輝くサイリウムに、バレッタがうっとりとした声を漏らす。

「皆さんもやってみてください。両端を持って、こう、パキッと」

一良のジェスチャーに倣い、皆が一斉にサイリウムを折り曲げる。

中心部分がじわりと光り輝き、再び皆が、おおっ、と声を上げた。

赤、緑、青、オレンジと、全員別々の色だ。

バレッタがオレンジ、リーゼが青、ナルソンが緑、ジルコニアが赤である。

以前、ガラスのコップを皆にプレゼントした時と、同じ色の割り当てだ。

ちなみに、お値段は同色4本入りで100円だった。

「はい、皆さん振ってー」

ぶんぶんと一斉にサイリウムが振られ、そのすべてが明るく光り輝いた。

スクリーンに映る動画の光しかなかった薄暗い室内では、それらの輝きはとても幻想的で美しく見える。

「綺麗……カズラ、これ部屋に飾ってもいいかな?」

リーゼが両手にサイリウムを載せ、瞳を輝かせる。

ぼんやりと美しく光るそれは、今まで見たどんな宝石よりもリーゼの目には美しく見えた。

「いいけど、半日くらいしたら光は消えちゃうぞ」

「えっ、そうなの?」

「うん。だから、『光の精霊の加護を与えたもの』とか言って渡そうかなって。光が収まった次の日には回収するけど」

「そっか……はあ、消えちゃうのかぁ」

リーゼが酷く残念そうにため息をつく。

ナルソンは初めてLEDランタンを見た時のように、サイリウムをこねくり回していた。

「ううむ、折り曲げれば光り出し、時間が経てば勝手に消えるのですか……何とも不思議な道具ですな……」

「そうですね。洞窟とか水中を探検する時に、光源として使うこともあるみたいです」

「なるほど……しかし、これはすごい。何というか……ううむ、すごい」

ナルソンはよほど衝撃を受けたのか、すごい、しか言えなくなってしまっている。

今まで持ち込んできた道具は、その見た目からどれも仕掛けになる部分が何となく分かった。

だが、半透明の容器を折り曲げるだけで激しく発光するサイリウムは、ともすれば魔法にも見えるほど衝撃的だった。

「あ、そうだ。ナルソンさんとジルコニアさんには、これも」

一良がバッグから、腕時計のケースを2つ取り出して2人に差し出す。

「腕時計、というものです。ジルコニアさんには村に来た時に選んでもらったんですけど、ナルソンさんのは似合いそうなものを見繕ってきました」

「カズラさん、開けてもいいですか?」

「どうぞどうぞ」

ジルコニアが、いそいそとリボンをほどいて箱を開ける。

現れた黄金色の腕時計を見て、「おー!」と声を上げた。

「すごく綺麗ですね! ありがとうございます、大切にしますね!」

にこっと可愛らしく微笑むジルコニア。

「どういたしまして。着けて見せてもらえますか?」

「はい!」

ジルコニアが腕時計を箱から取り出し、腕に通す。

数秒いじくり、ぱちんと音がして手首にそれは収まった。

ベルトの長さもぴったりのようだ。

真っ白な肌に、淡い金色の腕時計はとても良く似合っていた。

「綺麗です……」

「ですね。良く似合ってます」

「ううむ、なんと美しい……腕に着けることができる時計ですか……」

ナルソンはしげしげと箱の中の腕時計を眺め、感心したように頷いている。

ナルソンに選んだものは、ベゼル(風防の周りに取り付けられるリング状のパーツ)に江戸切子を用いた、チタン製の腕時計だ。

淡い瑠璃色と落ち着いたデザインの、まさに芸術品というべき一品である。

「毎度のようにいろいろといただいてしまって、本当にありがとうございます。何とお礼を言ったらいいか」

「いいんですって。俺からの気持ちですから」

「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

そうこうしている間にも動画は進んでいき、地獄編が終わって天国編となった。

先ほどのグロ動画から打って変わって、軽快な音楽とともにモルディブ観光のプロモーション動画が流れる。

グリセア村で皆に見せた時と同様に、ナルソンとジルコニアが唖然とした顔になった。

「カズラ殿、あの……ここが、天国なのですか?」

「天国です」

「そ、そうですか……ふむ、これが天国なのか……」

想像していたものと違ったのか、ナルソンは微妙な反応だ。

それに対して、ジルコニアは瞳をキラキラと輝かせて映像を食い入るように見つめている。

「綺麗なところですね……! カズラさんは、行ったことがあるのですか?」

「いえ、まだ一度も。行ってみたいな、とは思ってるんですけどね」

「私も行ってみたいです! 何とかなりませんか!?」

「う、うーん……行ける方法があれば連れて行ってあげたいんですけど、まずはあの雑木林を抜けないことには何とも……」

「ああ、そうですよね……いいなぁ。行ってみたいなぁ」

波打ち際でアハハウフフしているカップルの姿を、ジルコニアが羨ましそうに見つめる。

ジルコニアはスタイルがいいので、水着姿は絵になるだろうな、などと一良が考えながら彼女を見ていると、隣のリーゼから何やら鋭い視線を感じたのでスクリーンに目を戻した。

「生前いい行いをしていればここに行ける、と説明するわけですな?」

「はい、そのつもりです」

「ふむ。このような場所で、永遠に自由気ままに暮らしていけるというのは、確かに魅力的ですな」

「魅力的どころの話じゃないわ。こんな綺麗な場所で、何不自由なくずっと生活できるなんて……わぁ、マッサージ気持ちよさそう……」

ナルソンはともかく、ジルコニアにはとても好感触のようだ。

ひょっとすると、こういう場所は男性よりも女性のほうがウケがいいのかもしれない。

「えっと、ナルソンさん、動画はこれで問題なさそうですかね? といっても、これを見せるしかないんですけど」

「はい、大丈夫かと思います。明日には皆到着しますので、着いたらすぐに見せるとしましょう」

「よかった。それじゃ、見せた後でやる会議の予習もしておきましょうかね」

こうして、ナルソンたちへの試写会は無事終了した。

その後は小一時間ほどかけて会議の予習をし、その場は解散となったのだった。