軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話

「この味……本当に、予想外なんだけど」

「さっきのキノコは噛むと湿った木みたいだったけど、この木は全然違う。歯ごたえがすごくシャキッとしてて、水分もかなり多い……スイカの皮みたいな感じ……いや、どっちかっていうとサトウキビとかヤシの芯に近いのかも? 食べたことないけど」

「甘さはね、水分が多い分、くどくない甘さっていうか……ちょうどいい感じで、普通に美味しく食べられるくらい」

「数秒噛んでると……口の中に、ふわっとミルクみたいな香りが広がってくる……」

「しかも、噛めば噛むほど、そのミルクっぽい香りがどんどん濃くなって……鼻の奥まで抜けてくるんだよね」

私は自分の腕に鼻を近づけて、くん、と嗅いだ。

「……毛穴からも、その匂いが出てる気がする……」

たぶんこれ、今まで食べた毒物の中でも、かなり美味しいかも。

こんなにたくさんの魔物を引き寄せて、甘さに誘われて死ぬなんて——さすがG172ダンジョンでも屈指の危険植物だよね!

[くそっ! マジでこいつ美味いもん食ってやがる!!]

[誰か毒耐性ポーションくれ!!今すぐ!!]

[配信者、ちょっとゆっくり食べてくれ……あっちの学生、よだれ垂れそうなんだが……]

[草www かわいそうすぎるだろあの学生ww 腹ペコなのに見てるだけとか地獄かよwww]

「えっと、もう一回言っておくけど、これめちゃくちゃ毒あるからね? ほんの一口でもアウトだから、絶対に真似しないでね!」

さっきの毒反転の通知を思い出す。

そこには確か——[赤血球の酸素運搬能力]って書いてあった。

ってことは、この木の致死メカニズムって——

「赤血球が酸素を運べなくなる」ってこと?

この木の毒って、まだ解毒剤がないって聞いたことある。

もし私が“死因”を特定できたら……解毒剤の研究、少しは進んだりするのかな?

……でも、この情報、誰に持っていけばいいんだろう。

知り合いに錬金術師でもいればよかったんだけど。

……あ。

そういえば四階に一人いたっけ。

でもあの人、この前ほぼ一棟まるごと燃やしかけて、今頃賠償金で死にそうになってるはずだし……

赤血球……酸素運搬……

私はノートを取り出して、その単語を書き留める。

ついでに、さっきのキノコの効果も。

あのキノコは、毒が反転した結果——

[詠唱速度上昇]

[草属性親和性上昇]

[精神攻撃耐性上昇]

特に[精神攻撃耐性]が一気に100上がってた。

……ってことは。

元の毒の効果は、その逆?

精神攻撃耐性が100下がって、精神が極端に脆くなる。

ほんの小さな感情でも増幅されて、最後にはオーバーロードで死亡——

……うわ、やだ。

めちゃくちゃ苦しそう。

私はその推測もノートに書き加えた。

「こうやって対処法さえ分かれば……もしかしたら、みんなも普通に食べられるようになるかもね」

ぼそっと呟く。

[そんな簡単な話じゃないって!]

[地球の毒ならまだしも、スペクトル分析である程度は成分分かるけどさ——魔法系ダンジョンの素材なんて分析不可能なんだよ!]

[成分分からない=作用機序分からない=解毒剤作れない、だからな]

[俺、製薬会社いるけどマジでそれ。今ダンジョン解毒薬めっちゃ研究されてるけど、対応できるの全体の十万分の一以下だぞ]

[市販の広域解毒剤って、ダンジョンで見つかった高位の解毒薬を薄めてるだけだって聞いたけど、本当?]

[本当だよ。しかも原液でも対応できる毒は限られてる。砂糖箭毒木レベルは現状無理ゲー]

[クソ企業すぎるだろ……]

「うん、ほんとひどいよね……あ、美味しい」

私はコメントに頷きながら、そのまま飲み込んだ。

すると——少し離れた場所から、引率の先生の絶叫が響く。

「みんな! あの子を見るな!! 絶対に見るな!! あれは悪魔の誘惑だ!!」

「前方にキャンプ地がある! あと少しだ、耐えろ!!」

「誘惑に負けるな!!」

「耐えろ!! 耐えろ!! 耐えろ!!」

先生と生徒たちは、やたら熱血な掛け声を上げながら、全力で走り去っていった。

……まるで伝染病から逃げるみたいに。

「……別に感染しないんだけど」

ぴくっと、私のこめかみが引きつる。

「いや、どうだろうな。蚊に刺されたら、どっちが不幸かちょっと興味あるな」

女剣士が空を見上げてため息をついた。

「……いやそれ絶対私のほうが不幸でしょ!? 血吸われたうえに唾液まで注入されるんだよ!?」

「でもその蚊、もう二度と人の血なんて吸おうと思わなくなるだろうな」

「……」

私は黙って短剣を取り出した。

[ダンジョン資源採集ルール]に従って、砂糖箭毒木の枝を三本切り取り、リュックにしまう。

ふと前を見ると——

森が突然、開けた。

木々に囲まれた広い空き地。

そこには、色とりどりのテントがキノコみたいに並んでいる。

学生や冒険者たちが集まり、行商人の呼び声、焚き火を囲んだ乾杯の音、笑い声、そして剣を交える音まで混ざり合って——

一瞬で、文明の中に戻ってきたみたいだった。

……だけど。

その賑やかな空間の中に、一か所だけ。

明らかに空気が沈んでいる場所があった。

異様なくらい、重たい。

男の人が、白黒の写真を掲げている。

胸元には白い花。

「みんな……彼女と過ごした楽しい日々を、決して忘れてはいけない……」

人混みの中から、すすり泣きが聞こえる。

「水瀬紗和さんの冥福を祈りましょう……」

……

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