軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28話『尾行』

『えっ、同級生と一緒に行動してるの?』

翌日の放課後。

爆弾の解体に勤しむエリシアたちと少し離れて、俺はクリスと『通信紙』で連絡を取っていた。

「ああ。全員それなりに役に立つ。特に《叡智の道》は尋常ではないくらい使える」

『そう。……大国の王様が執着するだけはあるわね』

あの力は敵にすると脅威だ。

霊草エクサの群生地と引き換えにミゼは王国側についたようなものだが、今のところこちらが得をしたような気しかない。

「それで、工作員を手引きした人間について調べることはできたか?」

『ある程度はね』

あまり芳しい成果はないのか、クリスは気落ちした声音で言う。

『結論から伝えると、軍や騎士団に工作員との繋がりはないわ。ここ暫くの金の動きを探ってみたりしたけれど、これといった証拠は見つからなかった』

クリスから受け取った情報を咀嚼しながら考える。

現在、王国の中枢となる組織は、競技祭や会談の準備で厳重な警戒がされているだろう。これを掻い潜って帝国と繋がるのは至難の業と言える。

「なら学園はどうだ?」

『できる限りは調べてみたけれど……こちらは軍や騎士団と比べて政治的な色が少ない分、あまり干渉できなかったわ。ただ、私の勘だと白ね』

「何故、白だと思う」

『だって学園には得がないじゃない』

はっきりとクリスは言い切った。

『競技祭や会談を中止にして、学園側に何の得があるのよ。勇者効果に普通科の設立も相まって、ビルダーズ学園は今、かつてないほど活性化しているわ。その勢いを自ら落とす意味なんてあるとは思えないけれど』

「……そうだな」

クリスの言う通りだ。

何者かが帝国の工作員を手引きしている場合、両者には利害の一致があると思われる。だがクリスの情報によると、少なくとも資金に関する利害関係は結ばれていないようだ。軍や騎士団がその候補から外され、更に学園にも他国と手を取り合うほどの動機はない。

となれば――。

「 組織(・・) による利害ではない、か……」

学生という立場になってからも、俺は複数の組織と戦ってきた。

エリシアの件では、テルガンデ公爵家や正燐騎士団。

ミゼの件では、神聖アルケディア王国や王政国防情報局。

それらと戦った後だからか、俺は少し敵の規模を見誤っていたかもしれない。

「なんとなく、見えてきたな」

『そうね。私も消去法で、なんとなく予想はついたわ』

たとえ目の前の争いが劇的なものだったとしても、その発端は存外、小さなものだったりする。今回はその典型だ。

「おーい、トゥエイトー!!」

爆弾の解体作業を進めていたグランから声が掛かる。

「事が終われば連絡する」

『ええ。今回に関しては、多分 そっち(・・・) の領分だから、任せるわ』

そう言って通信を終え、俺はグランたちがいる倉庫へ向かった。

「どうした、グラン?」

「解体作業、終わったぜ。ミゼがまとめてやってくれた」

そう告げるグランの傍では、ミゼが額の汗を拭っていた。

「が、頑張りました……」

「助かる。これで俺たちが確認できたものは全て解体できたか」

「はい」

競技祭で使用される魔法具はどれもくまなく調べた筈だ。現時点で仕掛けられている爆弾は恐らく全て解体できただろう。

「もう遅い時間だ。今日はこれで解散にしよう」

そう言って、俺たちは帰路に着いた。

学園を出る途中、校舎を一瞥する。先日、ミラに案内された生徒会室の明かりがまだ点いていた。これだけ巨大な学び舎の生徒会だ。競技祭が差し迫っていることもあり多忙なのだろう。

「……すまない。忘れ物をしたから、先に帰っていてくれ」

学生寮へ向かう途中、俺は足を止めて皆に伝える。

「何を忘れたんだ?」

「教科書だ。多分、今ならギリギリ教室も開いているだろう」

グランたちを説得して、俺は一人で学園へと戻る。

既に夜の帳は下りており、学園は静けさに包まれていた。

「……さて」

校庭に立つ人間は俺一人。

教室へ向かう足を止めた俺は、小さく息を吐いて、校舎の裏へ回ろうとした。

「忘れ物があるんじゃなかったの?」

その時、背後から声が掛かる。

振り返れば、先程別れを告げた筈の少女が腕を組んで立っていた。

「……エリシアか」

「貴方の行動も、少しずつ読めるようになってきたわ」

どうやら俺が何かを企んでいると考え、追ってきたらしい。

「別に後ろめたい理由があって、黙っていたわけじゃないんだがな。……グランとミゼは来ていないのか?」

「ミゼは爆弾の解体で疲れているみたいだから誘わなかったのよ。グランにはミゼを送ってもらっているわ」

つまりエリシアだけが、俺を追ってきたらしい。

「それで、何をするつもりなの?」

「……生徒会を尾行する。もしかするとボロを出すかもしれない」

正直に告げると、エリシアは僅かに目を丸くした。

「俺はこの手の仕事に慣れているから問題ないが、エリシアは……」

「可能な限り手伝うわ。危なくなる前に自分から手を引く」

だから手伝わせてと、エリシアは目で訴えてきた。

説得が通じそうにない。観念して俺は頷いた。疲労したミゼや、隠密行動が苦手そうなグランならともかく、エリシアなら力になってくれるかもしれない。

エリシアと共に、靴箱の陰で待機する。

暫くすると、階段の方から足音が聞こえた。

「出てきたわよ」

二人の人影が靴箱を通り、外へ出た。

その後ろ姿には見覚えがある。

「生徒会長とミラの二人か。……他はいないみたいだな」

素行不良なバレンがいないことは想像していたが、今回、生徒会室から出てきたのはこの二人だけだった。二人を追って外に出た俺は、校舎の方を一瞥する。生徒会室の明かりが消えていた。どうやらこの二人以外の役員は既に帰った後らしい。

「トゥエイト、どこまで追うの?」

「二人がこのまま学生寮の方へ向かうなら止める。そうでないなら、最低でも目的地までは知っておきたい」

小声で会話しながら二人の後を追う。

生徒会長とミラは談笑しながら校門を抜けた。そして、城下町の方へ向かう。

「……寮に戻る道じゃあ、ないわね」

二人は城下町の緩やかな坂を下り、やがて小さな飲食店に入る。

二人は、騎士の装いをした男と相席した。

「あれは……正燐騎士団か」

鎧は外しているが、服に騎士団の徽章をつけている。

「店の中に入った方がいいかしら?」

「いや……流石にこの姿で入ればすぐにバレる」

今の俺たちはビルダーズ学園の制服姿だ。二人には直接見られなくても、誰かが話題に出してそれが二人に伝わるかもしれない。

「以前、エリシアが使っていた方法で盗み聞きしよう」

そう言いながら俺は自分の耳を指さした。

あぁ、と察した様子でエリシアは頷く。

――《 靱身(レイジ) 》。

身体能力を強化するこの魔法で、耳を強化する。

全身を巡る魔力が耳に集中し、聴覚が鋭敏になった。酒場から聞こえる声が一気に騒々しく変化したように感じる。その中から、生徒会長たちの声のみを拾った。

「……警備に関する連絡を、しているみたいね」

エリシアの呟きに、俺は無言で首を縦に振った。

品行方正なミラがいる時点で察していたが、どうやら真面目に活動しているらしい。今回は騎士団と、学園周辺の警備体制について打ち合わせをしているようだ。

「――失礼」

背後から男の声がする。

エリシアが慌てた様子で振り返った。一瞬、鞘に手を伸ばそうとしていたが、ギリギリで我に返ったのは英断だ。ここで剣を抜けば、自分は怪しい者だと告げているようなものである。

「少し話を聞かせてもらいたい」

声を掛けてきたその男は、正燐騎士団の鎧を身につけていた。