軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王太子2

すべてが解決し平和な生活を取り戻したはずなのに、私は再び病に侵された時間に戻されてしまった。

カレンダーを見て今日のセリーナの予定を確認する。

セリーナは隣国に行くことになっている。早朝には公爵邸を出発したはずだ。隣国に高名な医師がいるという噂に縋り、その医師を訪ねることになっていた。

前回はその医師には治せないと断られ、肩を落として帰ってきた。今にも泣きそうな顔で私に謝っていた。その健気で一途な姿に心打たれていたが、嘘だったのだ。一体どんな気持ちで演技をしていたのかと思うと苛立ちが蘇る。

真面目で清廉な女性だと思っていたが、とんでもない悪女だった。

幸い私には過去の記憶がある。セリーナを出し抜くことができる。セリーナが隣国から戻る一週間後までに呪術師を探し出して解呪薬を作らせればいい。セリーナは治っている私を見てどのような反応をするのか、見ものだ。

呪術師さえ見つかれば、その証言を元に公爵家を調べさせ罪を明らかにする。証拠を押さえてしまえば言い逃れはできない。今度は死なせない。罪を生きて償わせる。私の苦しみと同じだけの苦しみを味わわせなければ納得できない。

当然、公爵家の爵位は剥奪し財産没収になる。そして一族は牢の中で残りの人生を送る。公爵令嬢であるセリーナが罪人として暮らすことこそが罰なのだ。

私はすぐに宰相を呼び出した。

「この病は呪いから来ているものではないのか?」

過去を知る者は私だけ。証拠もなくキャンベル公爵を調べることはできない。呪術師を見つけないことにはどうにもならないのだ。

宰相はサッと顔色を悪くさせると頭を下げた。

「殿下は聡明であられる。私が思いつかなかった可能性を指摘され、大変驚いております。さっそくその線で調査をさせます」

思い至らなかった自分を恥じているのだろう。だが呪いでこのような奇病にかかるなど聞いたこともない。私も自分が経験しなければ信じられなかった。

「よろしく頼む」

治癒の力を持つ女を探させようかと迷ったが、呪術師を見つければおのずと公爵家との繋がりも明らかになる。そうすれば女の出番はない。どうせ治癒能力は嘘だったのだから放置していい。

セリーナが出発した翌日に事故に遭ったという知らせが届いた。馬車が崖から落ちたそうだ。セリーナは見つからず安否が不明とのこと。

「崖から? 危険な道を通ったのか? それに前はこんな事故はなかった。もしかして未来が変わっているのか? わからない……」

キャンベル公爵家は騎士を総動員して捜索させている。王家にも協力の依頼が来たが私はそれを拒んだ。セリーナを案じる気持ちもないわけではなかったが、きっとこれは神がセリーナに与えた罰だと思った。それならこのままでいい。アーサーが乗り込んできて騎士の派遣をするべきだと騒いでいたが退けた。

翌日、宰相が調査結果を持ってきた。

「呪術師を見つけました。キャンベル公爵家から依頼されていたと自白しました。公爵とのやり取りの手紙は押収できています。今、キャンベル公爵を捕縛させるために騎士を向かわせました。解呪薬は無事に手に入っています」

さすが宰相だ。証拠も押さえてあるなら公爵も言い逃れができない。

「よくやった。それで解呪薬はどこにある」

「こちらに」

宰相が小瓶を差し出した。

「ああ、これで治るのだな」

私は病が癒え顔が元に戻ることを信じて瓶の蓋を開けた。解呪薬を一息に飲み干した。すぐに効果は出た。膿が止まった。手で顔に触れたが肌は滑らかになっている。私はすぐに鏡で自分の顔を見た。

「こ、これはどういうことだ!」

膿も出ていない。爛れたところも治っている。だがその場所がどす黒く変色していた。

「そんな、まさか……効き目が……」

宰相が青ざめ体をガタガタと震わせている。常に冷静な宰相の取り乱す姿に不安になった。

「呪術師を連れてこい。これだけでは効き目が弱かったに違いない。完全に治せる解呪薬を作らせるのだ」

「そ、それが……呪術師は自害してしまいました」

「なんだと! それでは私の顔は、もう、元に戻らないのか?」

「医者を呼びましょう。治せるものがいるかもしれません」

「無理だ。呪いの奇病を普通の医師が治せるわけがない。そうだ。公爵を連れてこい。他の呪術師を知っているかもしれない」

そのときノックもなく扉が開いた。そこには王弟であり騎士団長であるアーサーが騎士を率いて立っていた。アーサーは前国王が遅くに産ませた王子で、私より五歳年上だ。私はアーサーを兄のように慕っていたし、セリーナと三人で過ごすことも多かった。

「アーサー、どうした? その騎士たちは?」

アーサーは私の顔を見ると不愉快そうにわずかに目を細めた。

「宰相。王太子殿下を呪った容疑、およびキャンベル公爵に冤罪をかけた容疑で捕縛する」

「しょ、証拠はあるのか? 私は知らぬ!」

宰相は顔を真っ赤にして怒りをあらわに怒鳴った。

「お前が殺そうとした呪術師は一命を取り留めた。呪術師は身の危険を感じてお前とやり取りしたすべての手紙を残していた。それもすべて押収してある。さらに呪術とお前を仲介した商人の身柄も抑えてある」

私は焦った。アーサーの言葉を信じることができない。

「どういうことだ? 呪術師を雇ったのはキャンベル公爵ではないのか? 宰相は証拠があると……」

「宰相の用意した証拠は捏造した物だ」

「では、セリーナは? キャンベル公爵に罪は?」

「冤罪だ。私も聞きたいことがある。ウイリアム。セリーナが事故に遭い、公爵家から捜索の協力要請があったのになぜ断わった?」

アーサーの声は低く鋭かった。まるで犯人を尋問するかのように。セリーナが冤罪なら私がしたことは? 無実の人間に罪を着せ断罪しようとしたことになる。しかも私を愛し支えてくれた婚約者を見殺しにしようとした……。それを受け入れたくなくて弱弱しくも反論した。

「本当に冤罪なのか? セリーナは私を裏切っていたのだろう?」

「セリーナは裏切っていない。お前はどうして信じなかったのだ? あそこまで献身的に尽くしてくれた婚約者を」

「………」

アーサーは怒りのこもった冷たい眼差しを向けている。言い返す言葉が見つからない。宰相は本当に嘘を言っていたのか? 私は誰を、何を信じればいい?

アーサーは宰相を捕らえると、何も言わずに部屋を出て行った。