作品タイトル不明
372、使節団会議 後編
軍務大臣は大きな地図を取り出して会議室の机に広げた。そしてコラフェイス公爵領とチェスプリオ公国の国境部分を指し示す。
「今回は我が領を通ってチェスプリオ公国へと入り、それからヴァロワ王国へと向かう。その際に一番の難所となるのがチェスプリオ公国へと抜ける道だ。ルートは三つあり、一つ目が山を越えて行く道、二つ目は山脈の谷間に広がる森を抜ける道、そして三つ目は西に大きく迂回し草原を通る道」
軍務大臣は地図を指し示しながら説明をしてくれる。前に言葉で聞いただけよりも分かりやすいな。でもこうして地図で見てみると……草原を通る道がどれだけ遠回りかが分かる。
「今回はこの三つ目のルートで行こうと思う。かなり遠回りではあるが、使節団として馬車と騎乗で行かなければならないからな。よってこの草原で野営をすることになる可能性もあるので、心に留めておくように。この草原には肉食の獣も多く生息しているので、気を引き締めてほしい」
「はっ!」
肉食の獣もいるのか……確かにいるよね。人間がほとんど入らない場所なら尚更だ。草原で野営をする時だけは、全体にバリアを張ろうかな。
「この草原を抜けてしばらく進むと街道があり、その街道の先にチェスプリオ公国最南端の街がある。しかしその街には寄らずにそのまましばらく進み、チェスプリオ公国の公都まで一気に行く予定だ。……公都では一泊し公家と交流予定ですので、王女殿下と大公様は食事会などに招待されるかと思いますが、そのご準備もお願いいたします」
ここでも食事会か……あんまり食事会とか好きじゃないんだけど、そうも言ってられないし頑張ろう。ロジェ達に正装をいくつも準備してもらわないとダメかな。こうなってくるとアイテムボックス様々だ。
「分かったわ」
「準備しておきます」
「ありがとうございます。……では最後にヴァロワ王国に入ってからについての説明をする。ヴァロワ王国でもすぐに王都まで向かい、王宮の客室に滞在することになる。騎士は騎士団の宿舎を借りることになるかもしれないが、その場合は迷惑をかけないように気をつけること。そして到着してから数日間、騎士達はヴァロワ王国騎士団の訓練に参加する。王女殿下と大公様、文官達はその間に文化交流をお願いいたします」
最初に文化交流なのか……やっぱりすぐ魔物の森に行くわけには行かないんだろう。使節団という立場で行くのだから仕方がないか。
「その数日間が終わると、遂に魔物の森へ向かうことになる。ここではファイヤーリザードを見つけて討伐することと、魔物の森を少しでも多く押し返すことが目標だ。騎士はヴァロワ王国の騎士団と連携してことに当たって欲しい」
「はっ!」
「大公様と神獣様には、ファイヤーリザードをお願いできればと思います」
「もちろんです。ファブリス、ファイヤーリザードを探し出すことってできるよね」
『無論だ。あのようなトカゲは我がすぐに倒してくれる』
ファブリスはドヤ顔で立ち上がってそう宣言した。すると騎士達の羨望の眼差しがファブリスに集まる。ファブリスもカッコつけだな〜。
「ファブリスありがとう。期待してるよ」
『うむ、任せておけ』
ファブリスはカッコよくそう決めてまたクッションに寝そべったけど、さっきまでと違って大きな尻尾がわさぁ、ふさぁ、と揺れている。最後まで決まりきらないところが可愛いんだよね……会議室の全員がファブリスの尻尾に釘付けだ。
「オホンッ、えー、神獣様よろしくお願いいたします。ではこれで道中の説明は終わりとする。帰りは同じルートを帰る予定だ」
軍務大臣がわざとらしく咳払いをして皆の視線をファブリスの尻尾から引き離し、説明の終わりを告げた。
「これからは質疑応答の時間とする。質問のあるものは挙手を」
それからは結局昼食を跨いで会議は午後まで続き、細かい部分を詰めていった。そして先程やっと会議が終わり、俺は大公家の屋敷に戻ってきたところだ。
「レオン様、おかえりなさいませ」
「エミール、ただいま」
今日の会議にはロジェとローランが付いてきてくれたので、屋敷に戻ると新しい従者であるエミールが出迎えてくれた。
「そういえば俺の従者と護衛も一緒に行くことになったけど、ロジェとローランだけで良いのかな? 他の皆も?」
上着を脱いでエミールに手渡し、ソファーに腰を下ろしつつロジェにそう問いかけた。
「使徒様であるという威厳のためにもというお話でしたので、人数は多い方が良いかと思います。なので全員連れて行くべきかと」
「やっぱりそうなんだ……じゃあ皆に話をしておいてね。急で準備が大変だと思うけどごめんって添えて」
「かしこまりました」
準備ができるのは明日一日しかない。明日の夕方には王宮に行って、使節団全員の荷物を受け取りアイテムボックスに仕舞う予定だから、夕方までに自分の準備は終えないと。
「明日は朝から準備だね」
食料は王宮で準備してくれるって話だったけど、自分でももっと追加しておきたいから……まずは朝から屋台巡りをしよう。そして食材も大量に買い込まないと。
あとはベッドも既製品のもので良いから買わないとだ。
「まずはレオン様のお召し物を準備いたします」
「よろしくね。全部アイテムボックスに入れていくから容量の心配はしないで、とにかく必要そうなものを端から準備してくれれば良いから。あと皆の荷物もアイテムボックスに入れるから多くても大丈夫だからね」
「ありがとうございます。……あの、一つだけわがままを言っても構いませんでしょうか?」
ロジェが聞きづらそうにそう口にした。ロジェからのお願いなんて、初めてレベルで珍しいことだ。
俺はロジェが頼ってくれたことが嬉しくて、食い気味に返事をする。
「もちろん! なんでも言って、なんでも叶えるよ」
「レオン様……なんでも叶えるのはおやめ下さい」
「でもロジェは変なこと頼まないでしょ。何か欲しいものでもあるの?」
「はい。……アイテムボックスの魔法具を、今回の旅の間だけ貸していただけないかと」
「もちろん貸すよ! というかあげるよ!」
アイテムボックスの魔法具は俺しか魔力を込められないし、途中で魔力を込め直さずに魔力が尽きてしまうと中身が全部なくなるから、あまり広めてこなかった。でもロジェ達ならいつでも俺と一緒にいるんだし、魔力切れの心配なんていらなかったんだ。
もっと早く気づいてあげれば良かった……!
「ありがとうございます。今回の旅の間だけで大丈夫ですので、お借りできればと思います。私達が必要なものを取り出す際、毎回レオン様にお願いするのも申し訳ありませんので」
確かに俺に取り出してもらうのを頼むのって、結構大変なことなのか……今までの予定では俺のアイテムボックスに基本的には全てを収納して、魔法具の方はサブの予定だった。でも基本的には魔法具の方に荷物を入れて、俺が毎晩魔力を込め直すようにしようかな。明日王宮で提案してみよう。
「一人一つ欲しい?」
使節団全体のことは明日考えれば良いことにして、俺は思考をロジェ達の魔法具に戻した。
「いえ、皆で一つで問題ありません」
「従者と護衛でも分けなくて良いの?」
「はい。私達はレオン様の供ですので、基本的に同じ場所におりますから」
「……そっか。じゃあ一つだけ作るね」
一人に一つずつ作ってあげたかったなと思いつつ、押し付けすぎるのも迷惑だろうと思って素直に一つだけを作った。そしてロジェに手渡す。
「はいどうぞ。一週間ぐらいなら魔力は切れないんだけど、一応毎晩魔力を込め直すから持ってきてね」
「かしこまりました。ありがとうございます」
お礼を口にしたロジェの口元が緩んでいる。ここまであからさまに緩んでるのは久しぶりに見た!
ロジェはアイテムボックスが使いたかったのか……これからも何かと理由をつけてロジェに貸し出そう。