軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 全属性の平民(リシャール視点)

私は少し緊張しながら、王城にある陛下の執務室のドアを潜った。

私はこの国の宰相なので、この部屋に来ることに緊張しているのではない。昨日屋敷に来たレオンという少年について、陛下に話しておかなければいけないので、それについて少し緊張しているのだ。

さて、陛下はどんな反応をされるか……

陛下は、平民でも優秀な人材はどんどん登用するお方だから、レオンを公爵家で面倒を見ることについては異論ないと思うが、全属性のことについてどう反応されるか……

私も昨日見たときには本当に驚いた。実際にこの目で全ての属性魔法を使うところを見ても、まだ信じられないほどだ。

レオンは使徒様ではないと言っていたが、あの平民だとは思えない頭の良さや洗練された立居振る舞い、言葉遣い、全てにおいて使徒様であるという証明だと考えられる。そして、極め付けは全属性だ。

私は、九割以上レオンは使徒様だと思っている。本人には言えないが、レオン様と呼ぶべきだな。

もしかしたら、なんらかの理由で正体を明かしてはならないのかもしれない。それならば気付かぬふりをしつつ、全力でお守りせねばならん。

そのためにも陛下に協力してもらわねば。

「陛下、おはようございます」

「ああ、おはようリシャール」

「本日は、執務の前にお話しするお時間をいただいても良いでしょうか? できれば人払いもしていただきたいのですが」

「良いけど……人払いするほどの話なのか?」

「その方が良いかと思います」

「分かった、じゃあ人払いを頼む」

陛下のお名前はアレクシス・ラースラシア。この国の現国王だ。とても有能で優しさと厳しさを併せ持つ素晴らしいお方だ。

執務室に陛下と私だけになり、ソファーに移動し向かい合って座った。

「それでなんの話だ?」

「はい。レオンという名の平民の少年のことなのですが」

「平民?」

「はい。歳は八歳で、王都の西の外れにある食堂の息子です。最初はフレデリックが偶然知り合い、とても有能な平民だと言われて、昨日公爵家の夕食に招待しました。最初は有能と言ってもたかが知れてると思ったのですが、言葉遣いや立居振る舞いはしっかりと躾けられた貴族の子供と同等レベルで、難しい話も難なく理解しているようでした。それだけでも信じられないと思いますが、さらに全ての属性魔法が使えるのです」

「全ての属性魔法だって!? もしかして……使徒様なのか?」

いつもは余程のことがなければ動じない陛下が、とても驚かれている。それも仕方ないだろう。

「私も使徒様だと思いました。しかし本人は、使徒様ではないと言っています。私は何か理由があり、正体を隠してらっしゃるのではないかと思っていますが、陛下はどう思われますか?」

「話を聞いただけだとわからないが、たしかに全属性が使えて、様々な知識を持っているのは使徒様そのものだ。もし使徒様が正体を隠しておられるのなら、気付かぬふりをしつつお守りした方が良いだろう。平民嫌いの貴族が手を出したら大変だからな」

やはり陛下も私と同じ結論に辿り着くか。

「私も同じ考えでございます」

「それでレオン様はこの後どうするんだ?」

「レオン様本人は王立学校に行きたいと言っております。フレデリックが教材を渡したのですが、読み書きと計算はできるからいらないと言われたようで、歴史だけ勉強するそうです」

「それは……! リシャール、レオン様は使徒様でほぼ間違いないだろう。王になったものしか読めない使徒様の伝記があるのだが、それによると使徒様は、読み書きと計算は完璧だが、歴史は一から学んだと書かれていた」

なんと……そんな伝記があったとは。これはレオン様は使徒様でほぼ決まりだな。

「それは……もうレオン様は使徒様と考えても良いでしょう。しかし私たちが気づいたことは、悟られないようにしなければいけません」

「そうだな、この話はとりあえずここだけで他言無用としよう」

「はっ! レオン様が全属性のことはいかがいたしますか? レオン様本人には、王立学校を卒業するまでは隠すようにと言っておいたのですが」

「とりあえずそれで良いだろう。全属性のことがバレて騒がれるのも、使徒様の本意ではないだろうからな。王立学校を卒業して貴族にすれば、平民嫌いの貴族も手を出せないだろうから、それまでは公爵家で守ってくれるか? もちろん王家も最大限助力しよう」

「もちろんです。王立学校へは公爵家から通わせる予定です。ちょうど息子の長男リュシアンがレオン様と同い年なので、良い友になってくれれば良いと思っているのですが……」

リュシアンは賢い子だし、差別意識もないと聞いているので多分大丈夫だろう。

「それは良い。それならばうちの子供たちもレオン様と同い歳だな。子供たちには、レオン様が全属性のことを教えた方が良いだろうか?」

「いえ、子供たちは賢いと言ってもまだ子供。卒業までは全属性のことは隠し、とても優秀な平民だから仲良くするように伝えておけば十分では?」

「それもそうだな。俺も一度会ってみたいが、厳しいか?」

陛下と会うには、レオン様を王城に連れてこないといけない……それは目立ちすぎるだろう。

「それは少し難しいかと思います。今はまだレオン様を目立たせない方が良いでしょう。レオン様自身は守れても、レオン様の家族を守れない心配があります」

「それもそうだな……しかし、レオン様が王立学校に入学すれば嫌でも目立つぞ。それも勢力のトップであるタウンゼント公爵家の後見付きだ」

それも考えていた問題だ。レオン様を誘き出すために家族を攫うのは十分に考えられる。

万が一レオン様の家族に何かがあって、怒らせてしまったら大変だ。使徒様を怒らせるなんてことはあってはならないからな。

レオン様が使徒様だと公表し、全属性を使ってもらうのが一番良い解決策なんだが、本人が隠しているのでそれは無理だろう。

家族も公爵家で匿った方が良いかもしれないな。

「レオン様の家族に護衛として影をつけるか、本人たちが望めば公爵家で雇うことも考えようと思います」

「ああ、それが良いな。もし護衛をつけることになったら、王家の影も貸し出そう」

「ありがとうございます」

話がひと段落して、私と陛下は、従者が淹れてくれていた少し冷めたお茶を口にした。

「これから忙しくなりそうだな。今の時期に使徒様が現れたのは、魔物の森の広がりと関係があるのだろうか」

「私もそれは考えました。今のような時期に使徒様が現れるなど、神の思し召しとしか思えません」

「なんとか魔物の森の広がりを抑えなければ、あと数十年でこの世界は魔物に支配されてしまうだろう。それを防ぐ希望の光となってくれたらいいが……」

「そのためにも、使徒様は全力でお守りせねばなりません」

「そうだな、特に危ない貴族家をリストアップしておいてくれないか。警戒を強化しよう」

「かしこまりました。明日までには必ず」

そこまで話して私と陛下の秘密の会議は終わった。

私は、使徒様がこの世界を救う救世主となって下さることを、密かにずっと願っていた。

まずは使徒様を、正体には気づいてないふりをしつつ、なんとかお守りしなければならない。

家の者の中に秘密をばらすような者はいないと思うが、もう一度レオン様のことは秘密だと通達しておこう。

明日からまた忙しくなるな。

私は気合を入れて、執務に取り組み始めた。