軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第73話「上層のオフィスで」

#第73話「上層のオフィスで」

朝の陽がガラス越しに差し込む。ダンジョン協会ビル上層階のオフィス。朝倉は湯気の立つマグを指で転がしながら、高階エリナに視線を向けた。

「ひより君の報告によると――またレン君が、おもしろいことを始めたみたいだぞ」

「今度は何? 正直、使役モンスターの話だけでお腹いっぱいなんだけど。それよりもわざわざ私を呼ぶほどの話があるの?」

エリナは椅子の背にもたれ、片眉を上げる。

「あのルナは知っているよな」

「ルナって、ソロで四階層のエースのことでしょう。そりゃ私でも知っているわよ。将来的にどこまでくるのか楽しみな人材ね」

「ああ、彼女は謎に包まれていたが……実家が剣術道場らしい」

「なるほどね。たいしたものだと思っていたけど……家が剣術道場なら納得ね。レベル以上の強さの秘密は剣術にありと」

「で、それがどうレンと結びつくの? まさかレンがルナに弟子入りでも頼んだの?」

「さすが勘がいいな。半分は正解に近い。――その前に、ルナがレンに「クラン結成」を呼び掛けたらしい」

エリナはびっくりして目を大きく見開いた。

「ちょっと待ってよ。あの“ソロのエース”が? レンに? 全く理解できないんだけど?」

エリナは身を乗り出して考察した。

「もしかして、ルナがレンの将来性を嗅ぎ取ったとか?」

「いや、そうでもない。同席したひより君によると二人は“互いの今”をほとんど知らなかったそうだ。昔のオンラインゲーム仲間で、現実で会うのは初。レンは彼女の知名度も知らず、彼女もレンの現状を把握していなかった」

「……すなわち、偶然。ダンジョン外で昔の知り合いが出会っただけ、と」

「経緯としてはな。ただ、ルナには“借り”があったらしい。だからクランに誘った。――どういう借りなのかは教えてもらってないがな」

「で、二人はクランを結成するの?」

「いや、レンは断った。うちとの契約を優先したらしい。クランを結成するとどうしても使役モンスターの秘密がばれるからな。つくづく思う、レンは律儀で素晴らしい人間だ」

「ふーん……なら契約、解除してあげてもいいんじゃない? その二人が組むの、正直めちゃくちゃ面白いわよ」

「いや、今は時期尚早だろう」

朝倉は静かに首を振った。

「今の二人は実力差が大きすぎる。レンはまず実力を上げた方がいい」

「現実にレンはルナの道場に通うことになったらしい。これは正解だろう。同じ土俵に立てる実力になってからのクラン結成の方が二人にとっても有益なはずだ」

「なるほど。将来的には……おもしろい組み合わせになりそうね」

「ああ。条件が揃えば“最強のクラン”が生まれるかもしれんぞ」

朝倉はマグを置いた。

「それまでに、我々も環境を整えたいところだな。訓練枠、保険、救助など……若手が伸びやすい土台を。今のままでは彼らのような若手が伸びない。彼らはたまたまうまくいっているだけだ」

「了解。――なら私もうかうかしてられないわね。レンは私の想像よりも早く上がってくるかもしれない。簡単には抜かれるつもりはないわよ」

「ああ、それとこれまで通りだが定期的なレンの周辺チェックも念入りに頼む。思っていた以上に重要人物になるかもしれない。あくまで“支える側”であることは忘れないで欲しい」

エリナは立ち上がり、タブレットを抱え直した。

「分かっているわ。私もレンの今後の成長速度は興味深いからね。剣術道場に通うことによって彼の成長が加速するかどうか知りたいし、念入りにチェックさせてもらうわ」

「ああ、お願いする」

「話はこれで終わり?」

「ああ、これだけでも十分だろう?」

「そうね。かなりおもしろい話が聞けたわ」

「もちろん、この辺りの話は漏らすなよ」

「当然よ、それぐらいは分かっているわ。こんな話が漏れたら大騒ぎになるもの」

会話はそこで切れた。上層の静けさの中お湯の沸騰する音だけが聞こえる。

レンがどこまで伸びるのか?現時点では何も分からない。しかしながらたった1年で自分の力だけでレベル3に這い上がり更には使役モンスターと共に成長を続けている。

それだけでも十分に注目に値する存在だったのに更に4階層のソロのエース、ルナがサポートする。どのような成長曲線を見せていくのか興味深いところだった。

レンがこのまま単なる興味深い人間で終わるのか?それともとんでもない実力者になるのか?まだ2人には想像もできなかった。