軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第389話「裏からの手」

#第389話「裏からの手」

裏組織の中枢では、ある議題が繰り返し議論されていた。それはダンジョンの氾濫を抑えた“秘密の戦力”についてだ。

それが何なのか。そして、それを手に入れることができればどうなるのか。

「もし我々がその戦力を掌握できれば――裏だけではない。表も実質的に支配できる可能性がある」

レベル4モンスターを抑える力はとんでもない。自衛隊以上の力を持つかもしれない。しかし調べても何も分からない。そこで裏組織は情報を整理していった。

まず、北海道駒ヶ岳ダンジョン、八王子の恩方ダンジョン、山梨県の富士山麓にある青木ヶ原樹海ダンジョン。この3つは“秘密の戦力”が氾濫を抑えた可能性が高いと判断されている。

その3つのダンジョンの氾濫においては自衛隊が大きな戦闘をした形跡がほとんどない。大がかりな準備をしていたにも関わらずだ。

おかしな話だ。そのため、世界各国のスパイからもこの3つの氾濫の情報を求める声が多かった。

裏組織が世界各国の要望で高額販売しているレポートにはその辺りの情報が詳細に記載されている。

・自衛隊が出動したのに、現実にはほとんど稼働がないこと

・短時間でダンジョンの氾濫が抑えられていること

・被害が著しく軽微であること

・よって日本には何らかの秘密の戦力があると思われる

そもそも裏組織内ではこのレポートを世界各国に販売することについて多少なりとも揉めた。その秘密の戦力を知る国が増えれば増えるほどその戦力の入手が困難になるという意見もあったのだ。

しかし裏組織はお金を優先した。

他にも理由がある。裏組織が情報を得ようとしても、ほとんど入ってこなかったのだ。調べても何も出てこない。

ならば世界各国のスパイの動きを見て探った方がいいと判断した。お金をもらいながら情報を探るという、一挙両得を狙った形だ。

当然のことながら裏組織は、あらゆるネットワークを使って情報収集を継続している。裏組織と言っても、単なる闇の集団ではない。

表にも深く食い込んでいる。例えば、以下のような組織だ。

★一般企業

★反政府団体

★NPO法人

★財団法人

★弁護士・司法書士ネットワーク

★政治家の支援団体

★医療法人、その他医療関係者

★芸能事務所

★メディア

★海外の協力団体

これらは表面的にはごく普通の企業や団体だ。しかしその内部には、裏組織の人間が経営層や幹部として入り込んでいる。

普段は表の顔で仕事をしているが、“おいしい案件”があれば即座に介入する。表と裏の両面から圧力をかければ、案件を奪うことなど難しくない。

例えば国や地方行政の補助金事業などはおいしいので常に狙っている。NPOなどに丸投げする案件も多い。これらは仕事の成果を形式的な成果報告で済ませられる。調査もろくに入らない。現状は税金の垂れ流しになっているケースも多い。

政治家を介入させれば、その手の案件は身内のNPOで比較的簡単に取れる。

他にも、かつての米騒動も裏組織が絡んでいる。足りなくなるという噂が流れれば、先回りして買い占めた。

もちろん直接介入するようなことはしない。間を入れる。末端は司のように知らないうちに組織に組み込まれた人間、不法滞在の外国人など様々だ。

ちょっとした小遣いを与えて買い集めさせる。

そして、うまくいきそうであれば価格を吊り上げ、関連企業を通じて販売していくのだ。

裏で仕掛け表で回収する。時には逆の場合もある。それが彼らの常套手段だった。昨今ではナフサをはじめとする石油関連商品の買い占めにも手を伸ばしている。

インフルエンサーを使ってものが足りないとSNSや動画で煽らせて、本当に足りなくなりそうであれば買い占めに動く。

市場が多少混乱しようが関係ない。裏組織にとっては儲かればいいだけなのだ。

しかしながら……その巨大なネットワークをもってしても、日本の“秘密の戦力”に関する具体的な情報は、まったく入ってこないのが現状だった。

政治家ルート、政治団体ルート、自衛隊関係者ルート、官僚ルート、各種NPO団体など。

どれを辿っても、核心に触れる情報は皆無。

それも当然。日本の秘密戦力に関する情報は日本でも首相を始めとしたトップクラスの人間しか知らないからだ。大臣クラスでも知っているのは大泉防衛大臣のみ。

いかに裏組織といえども、届かない領域であった。

表から裏からの情報収集、そして世界各国のスパイの動向チェック。様々なルートでも情報が何も入ってこない……。

そう思われた矢先、エリから一つの報告がもたらされた。

「司の知り合い、レンという人間が恩方ダンジョンに入っていったとのことです」

裏組織のトップの人間たちはその情報について考慮した。

司の知り合いがダンジョンに入る。それ自体は、何でもない話だ。司はレベル5のハンターでもある。ハンター仲間がいてダンジョンに入っても何ら不思議ではない。

だが、恩方ダンジョンとなると話は少し変わる。恩方ダンジョンは、先日の氾濫後に政府管理ダンジョンへ指定された。一般人は立ち入り禁止。

許可された者しか入れない。その場所に入れる人物だ。

上位ハンターだから入れるというだけの話かもしれない。もしくは何らかの調査に任命されただけかもしれない。

恩方ダンジョンに入る……それだけでは、まだ何の話にもならない。

しかし裏組織は、少しでも情報が欲しかった。

「念のため、レンという人間について調べろ」

短い指示が飛んだ。その本名、所属、経歴、家族関係、交友関係、資産、仕事など裏組織は調査を開始した。

こうして裏組織は、静かに一人の男――レンの情報収集を開始したのだった。