軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第362話「崩れゆく組織」

#第362話「崩れゆく組織」

Q国のテロ組織による高泉首相誘拐計画はレンたちの活躍により完全な失敗に終わった。

そして、予想外の失敗によりQ国テロ組織の幹部は焦った。

彼らは成功報酬としてQ国から大量の武器供与を受ける約束をしていた。その追加戦力を見込んで周辺地域との紛争を拡大していたのだ。

だが、誘拐失敗により武器は入らないことになった。組織拡大の計画は一瞬で瓦解したのだ。

テロ組織幹部は諦めきれなかった。部下に対して何度も確認したはずの質問を今日も繰り返していた。

「日本に送った七人の部隊とは、まだ連絡が取れないのか?」

「はい……まったく。もう諦めるしかない状況だと思われます。彼らは監禁されているか、もしくは既に死亡している可能性が高いかと」

「現時点で判明している最後の通信は何だった?」

「『無理だ。絶対に日本は敵にしてはいけない。俺たちでは絶対に勝てない』……そう言い残し、悲鳴とともに途絶えました」

それは一人遠くで銃を構えていたスナイパーからの最後の言葉だった。彼は誘拐が失敗したのを目のあたりにしていた。

その状況でスパイナーも焦っていた。

高泉首相の警備はゆるく簡単な仕事だと思っていた。しかし、いつもはこれ以上の警備でも軽く誘拐するクアンが失敗。目の前の光景の意味が分からなかった。

しかも誘拐に失敗して捕まったクアンとレイラを狙った狙撃をも失敗したのだ。絶対の自信を持つ狙撃で失敗するはずがないのに。

しかも、その理由が全く思いつかない。とんでもないことが起きているのは間違いない。分かっていたのはそれだけだ。

ここはもう逃げるしかない。スナイパーはそう判断した。まずは本国と通信を取って失敗したことを伝え、その後は1人で逃げようとした。

しかし「日本を敵にしてはいけない」と伝えることしかできなかった。かなりの距離があったはずなのに、次の瞬間にはすでにそこにはクーがいたのだ。

理解不能な出来事の連続にスナイパーは固まってしまった。

そうして最後に残ったスナイパーも急襲を受け、何が起きたと考える暇もなく意識を失い、捕まってしまったのだ。

当然のことながら、その辺りの詳細はテロ組織の誰もが分からない。分かっているのは「日本を敵に回してはいけない」という最後の連絡のみ。

むなしく、テロ組織幹部のイラつく声だけが響いた。

「……くそっ。どうすればいい!」

焦りは隠せなかった。

武器はもう来ない。資金も尽きかけている。しかも秘密の戦力として組織の資金を稼いでいたクアンは既に失われている。

八方ふさがりの状況だ。更には拡大した戦線は芳しくなく、敵の恨みだけを残した状況。

収穫は現時点で何もない。それどころか、状況は悪化する一方だ。

本来ならQ国から入手する追加支援で押し切るはずだった。その前提が崩れた今、組織は完全に行き詰まっていた。

そして、とうとう後ろ盾であるQ国側から最後通告が届いた。

「高泉首相の誘拐が失敗したと聞いている。その後の状況はどうなった」

「……申し訳ありません。実行部隊からの通信は完全に途絶えています」

「つまり、誘拐遂行はもう不可能ということだな?」

「はい。我々には、もう……追加で送る戦力すらもありません」

受話器の向こうの声は冷たかった。

「ならば仕方がない。国からの援助は打ち切る」

「それでは困ります! せめて武器だけでも——」

「無理だ。成果を出せぬ組織に余剰は割けない。こちらも余裕があるわけではないからな」

通話は一方的に切られた。無理な拡大路線が完全に裏目に出た。資金繰りは破綻し、その後は内部抗争も始まった。

そうしてテロ組織は、崩壊への道を転げ落ちていった。

やはり、日本に手を出したことが間違いだったのだろう。しかもレンが高泉首相の近くにいるという最悪の状況を選んでしまった。

一方で日本にいるレイラとクアンは、そのテロ組織崩壊の事実をまだ知らない。だが仮に知ったとしても、二人の心は特に揺れもしないだろう。

もともと誘拐任務以前から、日本で亡命できればという希望もあったのだ。

現実的には任務は失敗に終わったのだが、その望みだけは形を変えて叶っている。今は特に不自由することなく幸せに暮らせているのだ。

そのため二人にとってはQ国への未練は、もうない。Q国のテロ組織が存続していようが無くなっていようがどうでもいい話だった。

そしてQ国テロ組織の崩壊は、Q国全体にも影を落とした。C国からの追加の武器支給が無くなってしまったからだ。

しかも、さらに悪いことがおきた。

大量の武器を裏で流していたC国の軍部高官の関与が露見し、責任問題に発展。その高官は失脚することとなったのだ。

その問題にQ国が絡んでいたとして、大国であるC国から目を付けられるようになることになった。Q国のような小国にとっては死活問題に発展してしまったのだ。

日本における高泉首相の誘拐計画は失敗した。そして、その一つの失敗は様々な連鎖を生んだ。

こうして誘拐未遂は、ほとんどの人に知られることなく歴史にも残ることは無かったが……世界の力関係に小さくない波紋を広げていた。