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作品タイトル不明

第310話「特別な戦略的パートナーシップ」

#第310話「特別な戦略的パートナーシップ」

日本には、ダンジョン対策関連を探るために世界各国のスパイが入り込んでいた。インバウンド推進で外国人観光客が多い状況、入国で怪しい人間をはじくことは不可能に近かった。

それを少しでも防ぐためのスパイ防止法案さえも野党の反対で止まっており日本はいまだにスパイ天国と言える状況だ。

そして新たに日本の情報を探るべく動いた国があった。その中の一つがI国。ヨーロッパの大国の一つである。

だがI国についてはスパイとは言えない。

真正面から堂々と入国している。それには理由がある。

I国の首相はロマーニ。日本と同様、初の女性首相が国を率いている国だ。そのロマーニ首相が緊急来日したのだ。

現在、日本とI国の関係は極めて良好と言える。

共に初の女性首相。

かつ有能な首相であった。迅速な政策決定は目を見張るものがある。共にこれまでの政策決定のスピードは何だったのかと思えるほどに次々と政策を打ち出して、可能なものはすぐに動いていく。

それはダンジョン関連の対策も同様だ。次々と打ち出されるダンジョン対策、良いものは継続し、駄目なものはすぐに取りやめる。

もちろんその中には失敗する政策もあるが、それらの批判を気にせずにスピード重視で様々な政策が進んでいった。この辺りは両国共に似たような状況である。

ダンジョン対策関連の情報共有も進み、世界でも数少ない“被害が少ない国”同士だった。

そのロマーニ首相が緊急来日は日本でも大きなニュースとなった。

表向きの目的は——

両国関係の格上げと深化である。

そしてもう一つの目的があった。ダンジョン対策のさらなる情報共有だ。

協力できる部分は協力する。それは建前であり、本音でもある。

ロマーニ首相の来日と共に、ダンジョン関連の調査団も同行していた。

調査団は当然のように北海道鹿部町入りを希望した。

当初、日本は難色を示した。

だが両国の友好な関係を考えれば拒否は困難だ。そもそも、特に友好な関係がなくても特定の地域への移動を拒否することは難しい。

北海道鹿部町入りを打診したのは、I国の日本に対する配慮でもある。こそこそやる方が日本としては嫌だろうという意思伝達でもある。

そのため、最終的にI国の北海道鹿部町入りは条件付きで許可された。

——現地で知り得た情報は外部に漏らさないことというものだ。調査が入れば日本としては完全には隠しきれないと思っている。

外部に漏らさないようにという条件を付けるのが精いっぱいの状況であった。

もちろんI国からの打診は国家間を通じた正式な要請であり、他の世界各国のような裏組織の介入はない。

完全にクリーンな調査ではある。

だが。

クリーンであっても、調査団が見る、その状況が異常なものであるのは変わりない。鹿部町の現場を見れば軍事関連に少しでも詳しい専門家ならばすぐに分かる。

モンスターは間違いなく大量発生していたはずだ。その一方で鎮圧は異常に早かったのであろう。銃撃の痕跡は限定的だ。圧倒的な力による制圧があったのは間違いない、と見て取れる。

I国調査団は言葉を選びながら会議の場で切り込んだ。

さすがに「圧倒的な戦力があったのでは?」と直接聞いたら会議が膠着するのは明白だ。さりげない言葉で探っていった。

「鎮圧の詳細について、もう少し情報共有できないか」

それに対して日本側はこれまでの公式情報を繰り返した。

「自衛隊の防衛が機能した結果です。全ての情報は公開しています」

それは事実ではある。だが核心ではない。

そもそも日本国内でも真実を知るのはごく一部のトップ層のみ。詳細を知らない実務レベルの担当者から引き出せる情報などはそもそも存在しないのだ。

その後、会議は神経戦となった。もちろんダンジョン関連の対策は多岐に渡る。I国としても鹿部町だけに固執するわけにはいかない。

様々なダンジョン対策について議論が交わされた。

・ダンジョンの常時監視制度

・ハンター募集方法

・ハンター育成関連

などだ。

国によっては徴兵制に近いような形で国民を強制的にダンジョンで活動させる動きもあったが両国では採用していない。できるだけ平和的に、そして持続的にダンジョン対策を打てる方法について議論が交わされた。

そうして最終的に両国は新たな枠組みを打ち出した。

——「ダンジョンに対抗する特別な戦略的パートナーシップ」

この発表は世界を駆け巡った。共にダンジョン氾濫の被害が少ない二国の連携だ。すなわち、ダンジョン対策がうまくいっている国同士の連携。

他国は羨望の目で見ていた。日本国民も、そしてI国民も誇らしく感じていた。

だが外から見えるほど、そこまで綺麗な関係でもない。友好国であっても裏では探り合いが続く。

実は……I国にもまたレンのような“切り札”があった。

そうでなければ、日本と同じように被害が軽微で済むはずがないのだ。だからこそ日本には特別な戦力があることについて確信を持っていた。

当然のことながら日本でも同じ推測をしていた。I国にはレンと同じような特別な戦力があるのでは?と上層部は見ていた。

両国の首相は「相手国には何らかの秘密戦力がある」そう確信し裏を探りながら、笑顔で握手を交わしていたわけだ。

世界を牽引する二国。その裏で、静かな情報戦は続いていた。

とは言え、お互いに肝心なことを隠していての協力は両国にとって大きなプラスにはなり得ない。

トップ会談でお互いに情報を出すことも考え始めていた。