軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第309話「裏が見た“異常戦力”」

#第309話「裏が見た“異常戦力”」

A国のスパイは北海道鹿部町へ入り込み、様々な調査を行い、その異常性を察知していた。

もちろん政府も怪しい入国者の排除やマークは行っていた。

だがインバウンドで旅行者が増えている今、すべてを完全にチェックすることは不可能。その隙を突かれた形だ。

駒ヶ岳ダンジョンの氾濫について日本政府の公式発表は「小規模、鹿部町ですぐに鎮圧された」というものだった。しかしスパイたちが見た鹿部町の状況は全く違う。かなり多くのモンスターが氾濫したのだろうと推測できる状況だった。

現地を見たA国のスパイは違和感を覚えた。

一部はまだ復旧しておらず建物が破壊され、地面は抉れたままだった。破片の散らばっているところもある。確実に多くのモンスターが氾濫したのだろう。

とは言え、被害規模はあまりにも小さい。

そこから導かれる推測は多くの氾濫したモンスターを圧倒的な戦力で制圧したというものだ。どう考えても異常な鎮圧速度。

これは通常の軍事制圧ではない。スパイたちはその異常性を確実に察知し本国に伝えた。

そして、実はスパイもまた油断していた状況だった。彼らにはダンジョン内部の確認から、ずっと司が同行していた。

しかし、そこに意味はほぼない。

本当に同行しているだけの存在、英語が分からずどこか間抜けに見える青年だ。軽く通訳を通じて話はしたがコミュニケーションを取ればとるほどに、ただの間抜けに見える。

最初はレベル5の実力者ということで警戒していたが、その警戒が徐々に無くなっていった。

そして彼らは普通に英語で会話を交わしてしまった。どうせこいつには分からないだろうと思ったのだ。

だが彼らは司の隣にいたエリの存在を見落としていた。

司に合わせ目立たぬよう振る舞っていたが、英語は理解している。そして見えないところで牙を研いでいた。

スパイたちが何をしようとしているのかを司とじゃれあっているふりをしながらチェックしていたのだ。

司があまりにも間抜けだったのでどうでもよくなり、それと共にエリの存在がスパイからは消えてしまっていた。そうしてスパイは情報を調査しながらも情報を漏らしていた。

百戦錬磨のスパイでさえも騙す、司には凄い才能があると言えるのかもしれない。いや、違う。彼の場合は素だ。スパイたちは騙されたのではない。エリの存在を注意しなかったのが問題だったと言えよう。

そういう意味ではどう見ても間抜けにしか見えない司、そしてその陰に隠れて情報を抜き出すエリというのは思いのほか相性が良いコンビだ。

裏組織もそこまでは予想しなかった副産物である。

そうしてスパイたちが見つけた疑念は、エリを通じて裏組織へと伝わっていった。

北海道鹿部町にある駒ヶ岳ダンジョンの氾濫は大規模で、それが異常なスピードで制圧されたというもの。間違いなく通常の制圧ではない。

とんでもない戦力を日本政府が保持している可能性がある。

それが報告の核心だった。

裏組織の上層部は静かにエリの報告を分析した。

さすがに裏組織にはそれなりに情報がある。氾濫モンスターが厄介であることは十分に理解している。自衛隊を始めとして世界各国の軍が対応するレベルの戦力だ。

だが——

それを短時間で、しかも銃火器の痕跡を残さず制圧する戦力が日本に存在するのか?

まず、裏組織の上層部が感じたのは恐怖だ。

裏組織はこれまで、何かあれば鉄砲玉などを盾にして逃げてきた。適当に時間を稼いで繋がりを絶つということを何度か繰り返してきた。時にはその間に入る人間も始末する。そうすれば関係が切れ、絶対にばれないのだ。

だが、圧倒的な戦力の前ではその戦術は通用しない可能性がある。時間を稼げないからだ。

日本国内に逃げ場がなくなる可能性がある。非常にまずい状況になるかもしれない。そんな戦力が本当に日本政府にあるとすれば今まで以上に動きづらくなる。

しかし、逆の発想も浮かぶ。

もしその力を裏組織に取り込めればどうなる?

日本の裏は、ほぼ網羅してきた。

だが組織が巨大化するほど末端まで制御は難しくなる。問題を起こす人間を黙らせるには、圧倒的な力ほど有効なものはない。

裏組織にとって、スパイからもたらされた存在は、恐怖と魅力の両方を持つ存在だった。

そうして、エリからの報告を受け、早速、裏組織も独自調査を決定した。

裏で操っている政府要人、NPOなどの代表、自衛隊などに送り込んでいる人員からの表の情報網。そしてやくざや半グレなどの裏社会の情報網。更には海外ルート。

すべてを使って昨今のダンジョン氾濫や鎮圧に関する情報を集め出した。

一方で、司は何も知らない。

まだいくつかの国からの北海道鹿部町案内の依頼が残っている。しかも報酬金額としてはかなり割のいい仕事だ。

そこにはエリも同行する。隙あらば落としたい。そんなゲスなことばかり考えていた。

そうして世界の水面下では静かに情報戦が始まっていた。様々な組織が動き出していたのだ。

司とレンの運命は再び交差するのか。それとも、そのまま裏に埋もれていくのか。

現時点では、まだ誰にも分からない。