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作品タイトル不明

第304話「とりあえずの決定」

#第304話「とりあえずの決定」

他国でレンのような存在がいたとして、その存在がばれた時に日本はどう動くべきか?その高泉首相の質問に再び会議室は静まり返った。

しかし、朝倉は少し考えた上で言葉を発した。

「他国で仮にレンのような存在がバレたとしても……我が国はレンの存在を表に出すべきではないと考えます。その存在が知られたら各国から要請を受けるのは間違いないでしょう。それが我が国にとってプラスになるとは思いづらい」

日本が切り札を晒せば、状況は悪化する可能性が高いと思われた。

レンたちが“協力対象”から世界的な“奪取対象”に変わるだけだからだ。

それが一国だけであればいいが複数の国からの要求になるとやっかい。あの手この手で多数の国から圧力をかけられるとさすがに厳しい。

日本は経済的に世界に頼るところが大きいのだ。特にエネルギー、そして食料を止められたら大変なことになる。

そのような状況は何としても避けたいところだ。

そして朝倉は続けた。

「幸い、現状では日本はダンジョン常時監視制度などのシステムと組織力で被害が軽微という説明ができています。疑いの目は限定的です。そして自衛隊が各国に協力していることで追及も少ない状況です」

「そこはまだ、うまくいっているわけね」と高泉は安堵した。

そうなのだ。

自衛隊が世界各国に協力している状況なので、他国は日本を敵に回すことは得策ではないと判断している。

他にも日本は様々な情報を世界各国に提供している。

そのため多少の疑いがあっても追及は少ないのだ。仮に追及すれば今後の有益な情報を止められるかもしれない。最悪のケースでは自衛隊の派遣をも止められる可能性もあるのだ。安易には動けないのが世界各国の状況だった。

ただし、それも、あくまでも現時点での話ではある。

それも状況によっては長く続かない可能性があるだろう。朝倉は続けた。

「いくつかの国で被害が圧倒的に少ないということで、我々もそのうちの一国として疑われている可能性は十分にあり得ます。特にレンのような存在がいる国は、確信しているかもしれません。私がそうであるように」

それは確かに覚悟しておくべき話であろう。既にいくつかの国にはバレていると考えたほうがいいかもしれない。

もしかしたらすでにスパイが日本に潜入している可能性もありうる。

大泉は朝倉に語りかけた。

「ならば、その被害があまりにも少ないという怪しい国のリストアップを頼む。適当な理由を付けて日本への入国審査を厳しくする」

「分かりました」

一応の対策は取る。

とは言え入国審査を厳しくしたところで完全に防ぐのは困難だろう。その対象国さえ完全に防ぐのは困難。

更に疑いの目を向けてくるのはその対象国だけでもない。他の国も日本の被害が少ない状況を疑っている可能性がある。

それでも何もしないよりはましという判断だった。

「いずれにせよ、今は静観だな。入国の審査を厳しくすること以外は動くに動けない」と大泉防衛大臣。

それはそうだ。下手に大きく動けば逆に怪しまれる可能性すらある。

そのためとりあえずの結論はシンプルだった。

基本的にはまずは要警戒のみ。そして拙速に動かない。すなわち、これまでと方針自体は変わらない。

やることの方向性も変わらない。

常時監視体制のできる限りの強化。とりあえずはダンジョン氾濫をゼロにすることが現時点での理想だ。全てのダンジョンで一階層~三階層を24時間体制で監視することを目指す。

その上で、レンたちには更に強くなってもらう。それによって安全率が高くなるからだ。もちろん、必要に応じてその協力を続ける。

また、先日の北海道の駒ヶ岳ダンジョンのモンスター氾濫鎮圧と同様に自衛隊特殊部隊と協力して迅速な討伐を進める。

そして使役モンスターのFS遷移の研究を続ける。レンのような存在が増えればかなり安心ができるからだ。

もちろん状況によってそれらの方針も変わる。例えば、ダンジョン氾濫が増えるようであれば、レンたちには部隊を分けてもらうことも検討してもらう必要があるかもしれない。

その場合には自衛隊特殊部隊の増員も検討する必要があるだろう。そして追加の訓練も必要になる。

現状ではそこまでの必要はないと考えられるが様々なパターンを想定しておく必要がある。

変化は待ってくれないのだ。予期せぬ事態に備える必要がある。

そして最終的に高泉首相は静かにまとめた。

「つまり——今のところはまだ現状維持。でも準備と警戒は怠らないように。あとは問題が起きたら随時考えていきましょう」

その結論に対して、誰もが異論はなかった。

会議は終わった。だが全員が理解していた。これは、嵐の前の静けさなのかもしれないのだ。

世界的に被害は増えている。しばらくすれば我慢できなくなる国が出てくるだろう。最悪、国家を維持できなくなるケースもあるかもしれない。移民の大発生という事態も起こりうる。

状況によっては世界規模での新たな防衛の形を作っていく可能性もある。

そして日本は、その中心に立たされるのかもしれない。

日本の安定よりも世界的な平和を選択せざるを得ない状況になる可能性は十分にあった。