軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第256話「アイドルからの依頼」

#第256話「アイドルからの依頼」

ハンター協会のオフィスで、自衛隊の特殊部隊創設計画について聞かされた。

まだ人員は確定していないものの、すでに実現へ向けて選定に動いているらしい。俺たちがOKしたことで更に本格的に進んでいくことは間違いない。

俺としてもダンジョン氾濫時にどう対応するのか?ちょっとモヤモヤしている部分があったのだがかなり全体像がはっきりしてありがたかった。

俺たちの秘密を知る人が増えることについてはリスクもあるが仕方がないと割り切るしかないだろうな。

そして、こうやって全体像がはっきりしてくると、いやおうにも危機が本当に近いことも思い知らされる。

次にダンジョンの氾濫が起きれば俺たちが現地へ向かうことがすでに確定した――ダンジョンの外で戦うことについての現実味を帯びてきたわけだ。

本当に覚悟を決める必要がある。

続いて提示されたのは報酬の話だった。

「1回の出動で戦闘がなくても500万円以上。戦闘が伴えば3000万円以上を想定している」

金額はとんでもないが……正直、最近はお金に余裕ができてきて、そこまで実感が湧かない。

ただ、大人の世界は“お金で線引きする”のだろう。

プロとして動く以上、対価を受け取るのは当然だ――そう頭では理解している。その一方でお金はもうどうでもいいという気持ちもある。

(自分はまだ“プロ意識”が足りないのかもしれないな……)

今度、エリナさんや黒澤さんにその辺りのプロ意識についての感覚も聞いてみよう。さすがに報酬を出す側の朝倉さんの前で聞くのは、さすがに気まずい。

そうして自衛隊の特殊部隊についての話が終わり、俺たちはオフィスを後にした。やるべきことは変わらない。最短でレベル6へ到達すること。

「やはり早急なレベルアップが急務だな」

ルナが気を引き締めるように言った。俺もひよりも軽く頷いた。

みんなでその辺りのことを話しながらエレベーターを降りると、協会ビルのエントランスは相変わらず賑わっていた。

そして――

「すみません!」

ひょい、と手を振りながら近づいてきた女の子が俺たちを呼び止めた。なんだろう、きらきらした変な服装だ。その後ろには同じ服装の4人もいる。

「私たち、5人組アイドルユニット『トライ・スピア』です!私はリーダーの桐谷ひかりと言います。ご存じですか?」

「あ、ごめんなさい。世間に疎くて……」

トライスピア?それって何なんだ?

そう答えると横でひよりが補足してくれた。

「最近話題の“ダンジョンに入るアイドル”だよ。今はレベル2だったと思う。」

なるほど、頑張ってるんだな。アイドルしながらレベル2になるというのは大変なことだと思う。そう思っていたら再び桐谷さんが話かけてきた。

「皆さん、全員レベル5なんですか?」

俺はちょっと迷いながら答えた。別に俺たちのレベルを伝えても大丈夫だよね。

「そうだよ。今はレベル6を目指しているんだ」

俺が答えた瞬間、桐谷さんの表情がぱっと明るくなった。

「でしたら――ぜひ、私たちに指導してもらえませんか?」

「はっ?」

あまりの急展開に言葉が詰まる。いきなりこの子は何を言い出すのだ?びっくりしていると、そこへ――

「何を言ってるんだ、俺もレベル5だぞ! 教えるならば護衛の俺が最適だろうに!」

また、来たぞ、面倒なやつが割り込んできた。確か御影だっよな。

横には紗月もいて、ため息をついている。こんな奴のお守りも大変だな。

「こんな奴に教えてもらう必要はない!!!」

「いや、そもそも俺たちが教える気はないんだけど……今は忙しいからな」

すると桐谷さんがすがるように言ってきた。

「お願いします! だって、女性のレベル5の方って全く見かけないんです。本当に凄いですよね。私達もできれば女性に教えてもらいたくて――」

ああ、そういうことか。俺はどうでもいいわけね。そう言えば、うちは俺以外は全員女性なんだ。

「でも無理なものは無理だよ。俺たちは上を目指している。人に教える余裕なんてないんだ」

「そ、そこを何とか……! 宜しくお願いします」

と桐谷さんが深々と頭を下げ食い下がってきた。

困ったな。彼女たちも一生懸命なのだろう。ハンターはなんだかんだで男が多い。そして見た目に怖い人が多いから教えてもらうのも大変だろう。

だから女性に教えてもらいたい気持ちはよく分かる。でも、さすがに無理だ。どう断ったものか……。

そこでルナが横から彼女たちに伝えた。

「無理なものは無理だ。君たちもプロで上を目指しているなら分かるだろう?」

「確かに私達はプロです……でも、どういうことですか?」

「何の関係もない、しかも事務所も違う“ぱっと出の新人”が、 『教えてください』と急に来たら――どう思う?」

桐谷さんは少し考え、青ざめ、そして項垂れた。

「……確かに、失礼でした。すみません、おそらく私達も『無理、私達も上を目指している。そんな余裕はない』と断ると思います。同じ事務所ならまだしも全く関係ない子に言われたら……ありえない話ですね」

ルナは続けた。

「分かってくれてありがとう。でも、協会には“教えることが好きなプロ”もいる。そういう人を紹介してもらうといい。受け付けで教えてもらえるからね」

「はい……ありがとうございます。何とか探してみます」

そうして『トライ・スピア』の5人は去っていき、御影と紗月、テレビ局のスタッフも後に続いた。さすがルナだ、短い言葉だけど説得力がある。もしかしたら同じようにお願いされてきたのだろう。

それにしても……アイドルも大変なんだな。アイドルの仕事に加えてダンジョンでの活動。両方やるなんてとんでもなくきついだろう。

俺も低階層でやっていた時はバイトしながらで本当にきつかった。今の彼女たちも同じような状況なんだろう。そういった意味では応援してあげたい気持ちはあるが今はどう考えても無理。

でも、俺たちにできることは一つだ。

――教える余裕なんてない。先に進む、それだけだ。